日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション:IT技術を活用してビジネスモデルや組織を変革させ、企業価値を向上させる施策)に取り組む事例が増えていますが、依然多くの企業がDXの実現に苦心しています。
そこで参考にしたいのが、海外企業のDXにおける成功事例です。そもそもDXは日本よりも海外企業が先行して取り組んでいる事例が多いため、グローバルな視点から事例をリサーチすれば、日本企業の課題を解決するヒントが見つかるかもしれません。
今回はDXの取り組みを①組織変革②ビジネスモデルの変革③新規サービス創出の3つに分類し、それぞれ異なる業界から事例をご紹介します。
自社のDXをどのように進めれば良いのかリサーチしている方は、ぜひ参考にしてください。
取り組み事例:デジタル人材の採用を強化し、社内文化の変革に挑戦。
大手飲食企業のコカ・コーラのグループ企業、コカ・コーラ・カナダの副社長は、DXに対するアクションとして「採用」と「教育」の重要性を強調しています。DXに不可欠なデジタル人材を採用するために「先端技術を持つ人材に投資を惜しまない」「デジタルマーケティングに必要なスキルセットを社内で定義する」といった取り組みを進めています。
また教育に関しても、アジリティに優れた組織になるためには「学習する組織」になることが必要だと指摘しており、実際に経営層もデジタル人材の意見を積極的に取り入れるよう意識改革を進めています。昨今は日本企業でもリスキリングの重要性が叫ばれていますが、単独の施策ではなく組織レベルで学習のメンタリティを強化することが重要ということでしょう。
取り組み事例:大部分を外注していたソフトウェア開発の内製化に着手。
EV、自動運転車、IoT技術を駆使した「コネクテッドカー」など、IT技術の進歩によって特に大きな影響を受けている自動車業界では、自動車の挙動を制御するソフトウェア開発の重要性が高まっています。ドイツの大手自動車メーカー、フォルクスワーゲンはそれまで外部企業に依存していたソフトウェア部門を自社内に設立しました。これにより、2025年までにソフトウェア開発を60%内製化する戦略を立案しています。また電気自動車(EV)へのシフトを強化するための技術開発職の人員を約2,000人増員するなど、インパクトのある施策を推進しています。自動運転や電気自動車など、業界トレンドに対応するために技術職の意見を取り入れやすい組織体制への移行は、競合他社に差をつけようとするフォルクスワーゲンのチャレンジ精神を見ることができます。
取り組み事例:個人事業者によるタクシー運転サービス
DXの成功事例として真っ先に連想する企業のひとつがUberではないでしょうか。Uberドライバーとユーザーが位置情報を共有してマッチングし、お互いを評価し合うというサービスモデルはタクシー業界のディスラプター(既存のビジネスモデルを破壊するプレイヤー)となり、世界69ヶ国以上で利用されています。
Uberが成功を収めた理由の一つが、タクシー業界に対し、ユーザーが抱いていた不満点に着目した点です。「運転手によって接客品質が異なる」「料金体系が不明瞭」「必要な時に利用できない」などの不満点を「顧客のニーズ」として読み解き、そのギャップを埋めるサービスを設計しました。日本でも都市の交通情報をデータ化し、国土交通省とリアルタイムプライシング(需給バランスに合わせてタクシー料金が変動する仕組み)の実証実験を進めるなど、モビリティサービスとITを掛け合わせた意欲的な事業を推進しています。
取り組み事例:定額の音声配信サービスに広告モデルを導入
スウェーデンの企業スポティファイ・テクノロジーによる定額制音声配信サービスSpotifyもDXの代表的な事例です。音楽の楽しみ方そのものに大きな変化をもたら、1億7,2000万人の有料会員(2021年9月時点 )を獲得しています。
また有料会員以外の収益源として、無料会員向けの広告配信や企業コラボレーションによるPodcast配信など、同一プラットフォーム内で複数の収益源を創出している点にも注目です。これらの事業を可能にした要因は、徹底的なユーザー最適化戦略です。Spotifyはユーザーの利用経歴に合わせておすすめコンテンツを表示するレコメンド性能に注力しており、ユーザーはSpotifyを使えば使うほど利便性が高まる仕組みになっています。つまり、ターゲティング性能が非常に高い広告媒体 として広告主にアピールすることが可能になります。高度なユーザー分析により、音楽配信プラットフォームを広告媒体として成立させた点がSpotifyの成功要因と分析することができるでしょう。
取り組み事例:ミニアプリによるDX支援
中国の巨大企業アリババは電子マネー、ソフトウェア開発など多彩な事業を展開していますが、その中でも大きな存在感を放っているのがキャッシュレスサービスの「アリペイ」です。2020年、新型コロナウイルス感染症を受け、アリババはアリペイ内部に非接触型の決済用ミニアプリ(アプリ内部で動くアプリ)作成を促進するインセンティブプログラムをリリースし、食料品の配達、医学的アドバイス、物流、公共サービスを含む181の非接触型サービス のミニアプリを作成しました。これによりユーザーが物理的な接触を抑えることにつながるだけでなく、アリペイが決済サービスという枠を超え「DXを促進するサービス」として認知されました。日本でもDX推進をサポートする事業が増加していますが、中でもアリババのサービスはDX推進のサポートだけでなく、自社のサービスを利用させるインセンティブを搭載させた点が大きなポイントです。
取り組み事例:ユーザーデータをオンライン・オフライン双方で活用
スポーツ&アパレル企業としてのイメージが強いNikeですが、近年はデータ・ドリブンを駆使したデジタルサービスを導入しています。代表的なサービスが靴のサイズ計測アプリ「Nike Fit」です。スマホで足をスキャンすると、適切なサイズのおすすめスニーカーを提案してくれるサービスです。またコンセプトショップ「NIKE LIVE」は店内の品揃えにNikeの会員データを活用しています。会員のデータから周辺エリアで人気のアイテムをリサーチすることで、ユーザーの趣向が反映されつつもエリアごとに異なる品揃えを実現しています。アパレルやスポーツ関係の商品は「ECでストレスなく購入できる」「店舗で実際の商品を手にして、お気に入りの商品を見つけられる」双方を両立させることが求められます。Nikeはデジタルとリアルの垣根なくデータを活用することで、あらゆるシチュエーションでユーザーの顧客体験を向上させている数少ない事例と言えるでしょう。
以上、3カテゴリで海外企業のDX事例をご紹介しました。
海外は法制度や商習慣など日本とは異なる条件も多いですが、ITトレンドを貪欲に取り込む積極的な姿勢は日本企業のDX戦略を考える上でも大きな示唆を与えてくれます。
自社の課題に応じて、DX推進の参考情報にしていただければ幸いです。
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