近年、あらゆる業界でDX(デジタル・トランスフォーメーション:IT技術を活用してビジネスモデルや組織を変革させ、企業価値を向上させる施策)が進んでいます。
今回はDXの取り組みを①組織変革②ビジネスモデルの変革③新規サービス創出の3つに分類し、それぞれ異なる業界から事例をご紹介します。
自社のDXをどのように進めれば良いのかリサーチしている方は、ぜひ参考にしてください。
取り組み事例:CDO主導のスマートネットワーク化、人材育成プログラムの推進
まずご紹介する例が、食品業界の大手企業、味の素です。2017年以降の企業価値(株価)低迷を機に大胆な組織変革をはじめているDXの注目企業です。
「食と健康の課題解決企業」を掲げたパーパス経営を目指し、CDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)主導で社内体制の抜本的な改革を行いました。組織変革のフェーズでは既存の体制を維持したい側と変革を進めたい側の議論が絶えない中、CDOや社長が「DX or DIE(変革か死か)」という覚悟で変革の必要性をアピールし、DXの機運を醸成していったと語っています。日本企業にありがちな硬直的なマインドを打破していく役割を、CDOが積極的に担った点が変革の成功ポイントです。
縦割り型の組織体制を改善するために行った施策が、組織のスマートネットワーク化です。「固定化された組織や個人を解き放つ」というイメージのもと、部門をまたいでデータを活用できる組織を目指しています。
また人材育成の面でもリスキリング(既存人材がIT技術など新しいスキルを学習して市場価値を高めること)施策として、デジタル人材を育成する社内教育制度「DXビジネス人財育成プログラム」を開始しました。100人程度の想定を大きく上回る1000人以上が応募するなど、大きな反響を呼んでいます。
このような取り組みを下地に、AIを活用したスムーズな物流プロジェクト、そのフードテック企業の協同による新ビジネス創出など先進的なプロジェクトを推進。2020年の株価が大きく上昇するなど、DXのフロントランナーとして存在感を発揮しています。
取り組み事例:CEO/CDXO直下にDX推進組織を新設
デザイン経営やジョブ型雇用(職務内容を明確に定義し、必要なスキルを有する人材を雇用する制度)などを大胆に取り入れている企業が富士通です。2020年には「IT企業からDX企業へ」のスローガンを掲げた全社プロジェクト「フジトラ」を始動させ、CEO/CDXO(Chief Digital Transformation Officer:最高デジタル変革責任者 )直下にDX推進組織「CDXO Division」を設置しました。この組織にはデザイナー、アジャイルコーチ、営業、SEなどの多様な職種から選抜した人材が所属しており、デザイン思考を社内に浸透させる役割を担っています。このような専門部署を新設する場合、部門間の連携が取れず失敗してしまう恐れがあります。これに対し富士通ではDXの責任者「DX Officer」を各現場に配置し、経営層・現場を問わずグループを横断する仕組みづくりを進めています。デザイン思考のスキルを活用したDXの取り組みが評価され、経産省・東京証券取引所が選定する「DX銘柄2020」に選出されました。
「ビジネスモデル変革」は既存事業で培ったノウハウをITと掛け合わせ、時代に即したビジネスモデルへと発展させている取り組みです。いずれの事例も収益ルートを拡大しつつ、ITを活用したエンタメ性や利便性などの価値をユーザーに届けています。
取り組み事例:IoT技術の活用
「タイトーオンラインクレーン」は、ゲームアミューズメント施設「タイトーステーション」を全国に約150店舗を展開するタイトー(株式会社タイトー)が運営するオンラインゲームです。プライズ(景品)をクレーンでキャッチして手元に落とすおなじみのゲームをPCやスマホでプレイでき、獲得したプライズは自宅へ配送されます。日本中どこからでもクレーンゲームを楽しめる利便性と、実際の筐体を操作するリアルさがユーザーの支持を集めています。また2020年以降は緊急事態宣言発令に伴う「巣ごもり需要」を掴み、タイトーのプレスリリースによると「2020年4月の売上はサービス開始後最大の売上となり、3月の売上と比較すると25%の伸長率 」というヒットを記録しています。地上波テレビ放送 含む各種メディアにも取り上げられるなど、PR効果も発揮しています。
クレーンゲームの運営実績と、オンラインで筐体を操作するIoT技術を組み合わせたタイトーオンラインクレーン。ゲームセンターという「場所」にとらわれない新たな収益ルートを獲得しています。
取り組み事例:リアル店舗とのデータ連携
商業施設などのリアル店舗を運営する業界でもDXの動きが活性化しています。三井不動産(三井不動産株式会社)が取り組むのは、リアル店舗とWebが一体化したプラットフォームづくりです。カギとなるのが、2017年に開設したECサイト「&mall」です。リアル店舗との&mallの在庫情報を一元化することで、ライブ動画からそのまま商品を購入できるライブコマースや、&mallで購入した商品の受け取りや試着が可能なサービス「&mall DESK」などをスタート。ユーザーの支持を集め2020年11月に会員数が200万人 を突破しました。
今回は商業施設の事例を紹介しましたが、三井不動産はそれ以外にもオフィス、ホテル・リゾート、街づくりなど全事業でDXを推進しています。いずれの施策でも自社の資産を活かしながら、あくまで消費者主体のDXを推進している点が成長の要因と分析できるでしょう。
DXによってユーザーのデータを獲得・分析すれば、ユーザーの隠れた不満や新しいニーズが見つかるかもしれません。すでにDXに取り組む企業からは、これまでに培ったノウハウとIT技術を掛け合わせた画期的なサービスが登場しています。
取り組み事例:クラウド、IoT技術の活用
デンソー(株式会社デンソー)mobi-Crewsは営業車など社有車を保有する法人向けに、車両管理からドライバーの安全運転までをサポートするクラウド型社有車管理システムです。通常の業務効率化システムと異なり、車載通信端末による運転データの収集・分析までもが行えます。例えばヒヤリ・ハットの発生地点を集計したマップ作成や、ドライバーごとに燃費効率などの評価を見える化し、安全運転教育に活かすことができます。クラウドやIoT技術による「高精度なデータに基づいた安全運転指導」という価値をユーザーに提供しています。
取り組み事例:画像解析やAR技術の導入
「先端技術経営改革部」「DX戦略推進センター」「デジタル事業創造部」の3部門によってDXを推進させ、業界から注目されているのが花王(花王株式会社)です。大きな成功を納めている取り組みのひとつが、花王独自のWebサービス「肌id」。ユーザーがスマホで顔の写真を撮影すると、肌の状態が解析され、アプリがおすすめの商品を提案してくれるサービスです。またAR技術を活用し、ヘアカラーのシミュレーションができる「ブローネLumiést(ルミエスト)」など、先進的な技術を美容ニーズに上手く落とし込んだ開発で知られています。美容製品は色や質感、使用感などの繊細なニュアンスを伝える必要があるため、対面接客が重要視されていました。花王がリリースしたサービスは「自分の肌に合った化粧品が知りたい」「ネットで評判のヘアカラーやメイクが自分に合うか試したい」といったユーザー心理に応えている点がポイントです。画像解析やパーソナライズ技術、ARなどを活用することでユーザーニーズに応えた、美容業界におけるDXの先進的事例といえるでしょう。
取り組み事例:スマートデバイスによるサブスクリプション
最後にご紹介するのが、眼鏡を中心としたアイウェアを展開するJINS(株式会社ジンズホールディングス)の事例です。スマート眼鏡「JINS MEME」は眼鏡型のウェアラブル端末です。心身の状態をモニターするセンサーを搭載しており、専用アプリと連携することができます。JINSでは初となるサブスクリプション方式を導入し、新しい収益ルートを開拓しています。まだ始まったばかりのサービスですが、アイウェア市場の革新的な製品として今後注目が集まりそうです。
以上、3カテゴリで日本企業のDX事例をご紹介しました。
自社の課題に応じて、DX推進の参考情報にしていただければ幸いです。
本サイトではこのほかにもDXに関するお役立ち情報を発信しています。
ぜひ下記記事などもご覧ください。
【DXに効果的なUI / UXとは? デジタル人材を活かす開発のポイント4選】
【DXに欠かせないデジタル人材とは?職種・用語をわかりやすく解説】