ゲーム対戦競技「eスポーツ」の世界で主役として活躍する選手たちですが、彼らが所属する「プロゲーミングチーム」には選手たちをサーポートしマネジメントする人たちがいます。普段どのような業務を行い、どのようなスキルが求められるのか。
今回はそうした裏側についてお聞きするため、複数のタイトルでプロ選手が活躍するマルチゲーミングチーム「FAV gaming」のチーム運営に携わる堀米 一基(ほりごめ かずき)氏に、インタビュー取材でお話を伺いました。
──本日はよろしくお願いいたします。
堀米 一基氏(以下、堀米) FAV gamingで現場責任者を務めております、堀米と申します。よろしくお願いいたします。
──堀米さんは「KADOKAWA Game Linkage FAV gamingセクション セクションマネージャー」を務めていらっしゃいますが、これはどのような組織で、堀米さんはどのような立場でいらっしゃいますか。
堀米 昨今はプロゲーミングチームを会社化し、その社長職がゼネラルマネージャー(GM)を務める体制を敷いているチームが多いと思います。ですが、FAV gamingはKADOKAWAのグループ会社であるKADOKAWA Game Linkageという会社が運営を行っておりまして、出版などのメディア事業と並ぶかたちで「FAV gamingの運営」業務があるという形です。タイトルやジャンルごとに複数の部門があります。簡単に言えば「組織のひとつの部署としてFAV gamingがある」仕組みで、私はそこの課長職になりますね。
──ありがとうございます。課長職とのことですが、日常の業務はどのような内容になるのでしょうか。
堀米 他のチームで言うGMに近しい業務かと思います。チームの日々の活動状況のチェックであったり、選手の統括や管理ですね。また、新しく選手を迎え入れる際の面談などチームが動いて行くための心臓的な役割かなと。
──部門を展開しているタイトルについて、やはりある程度の知見はお持ちなのでしょうか。
堀米 一通りプレイ経験はありますが、選手のスカウティングなどより深い見識が必要な判断については、各部門に配置しているコーチやアナリストといった選手に近い目線からの意見を吸い上げながら、総合的に判断しています。
──では、平素の仕事内容についてはeスポーツチームだからと言っても特別変わったことがある訳ではないのですね。
堀米 そうですね、普通の管理職です。ただ、ゲームの知識があるに越したことはないですね。やはり選手に近い目線で話せるというのは、信頼関係を構築する上で重要だと考えています。
──続いて各部門に配置されているチームスタッフさんについても、その業務内容をお教えいただけますか。
堀米 部門の担当マネージャーを務める社員がいますが、規模によっては複数の部門を兼任することもありますね。さらにその下に専任のマネージャーが配置されているような形で、現場のコーチと同様に社外の人間が担当していることもあります。
──やはり各部門のマネージャーになると、そのタイトルについてより詳しく知っている必要があるのでしょうか。
堀米 そこに関しては、知識がないと成立しないですね。もちろんマネージャーとしてコミュニケーション能力などマネジメントに関わる能力も必要なので、マルチプレイヤーが適している役割だと感じます。
──ありがとうございます。FAV gamingではオリジナルグッズの販売やイベント展開など、選手が試合に出場する以外でも様々な取り組みを展開されていますが、こうした企画や制作については社内で行われているのでしょうか。
堀米 企画や構成については社内で行っていまして、各部門を担当する社員が「その部門の露出を最大化するため、コミュニティにおける認知を拡大するため」に企画を練っています。そこからグッズやイラストの制作、イベントの運営などはほぼ外部委託になりますね。
──では、チームに関わられている人数というのは実はそこまで多くないのですね。
堀米 そうですね。KADOKAWA Game Linkage全体では200名以上が働いていますが、チーム運営に直接関与している人間は外部委託を含めても10数名といった規模でしょうか。
──堀米さんの立場から見て、チームスタッフやマネージャーに必要なスキルとはどのようなものなのでしょうか。
堀米 ひとことで言ってしまうと「マネジメント能力」に尽きますね。各部門のマネージャーのミッションは2つあって、「どうやって選手たちを人気者にしていくのか」というプロモーションと「どうやって国内トップ、そして世界を狙っていくか」というチームの強化の部分です。実現のためにはPDCAサイクルを回して、しっかりコミュニケーションを取っていくことが必要になるかなと思います。
──やはりここでも他の仕事と変わりないスキルが求められるのですね。ゲーム特有の面では、近年は外国籍の選手が国内のチームに在籍するケースも多くなっていますよね。
堀米 そうですね。FAV gamingでも『Apex Legends』部門では選手とコーチ全員が韓国人というチーム構成にチャレンジしています。日本人選手なら直接意思疎通をして読み取れるものがありますが、文面や通訳者を介してのやり取りでは、どうしても選手が心の底でどう思っているかというのは読み取りづらいです。マネジメントの難易度が高いというのは正直なところですね。
△試合に臨むFAV gamingの選手たち
──では、今後は「外国語が話せる」ことはeスポーツの世界で大きなスキルになりますね。
堀米 多言語が話せるというのは本当にストロングポイントになると思います。選手だけでなく、海外リーグに出場する際の運営とのやり取りも英語が必要になるんです。英語、韓国語、今後を見据えると中国語の需要も高まると考えられますね。
──現在は複数のタイトルで選手をマネジメントされていますが、例えばこの「部門数」を増やすとなると、どのような手続きや判断が必要になるのでしょうか。
堀米 まず前提としてランニングコストがかかる場合もありますから、社長の決裁を得る必要があります。そこは、一組織として他業種となんら変わりないですね。
どのタイトルを選ぶかという選定については、そのタイトルの状況を見極めることが必要です。やはりタイトルごとに独自のコミュニティがあって、リーチできる人数も全然違いますよね。チームのマネタイズを考えるとBtoBの協賛が一番大きいと思うので、協賛企業に広告価値を提供するためにはトラフィックを稼がないといけないんです。メディアにおけるPVと一緒ですし、これは他のチームさんも考えることは変わらないと思います。
──ちなみに、堀米さんは現在の役割に就かれる以前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
堀米 広告代理店で今とは全く畑が違う仕事をしていました。今の会社には、実はeスポーツを担当するためではなく、web媒体の編集者として入社したんです。
──それは意外な経歴です。
堀米 僕がもともと得意としていたゲームがあって、そのタイトルの大会でゲームメディアのインタビューを受けたことから会社との縁が生まれたんです。ちょうど「違う仕事を見つけたい」と思っていた時期だったこともあり、その縁を深める形で編集者として採用されました。その後に「eスポーツのチームを持たないか」というお誘いがIPホルダーさんからありまして、会社としてeスポーツチームにチャレンジすることになり、私は「監督」という立場でチームに参加しました。
──編集者のお仕事をされていた時期もあったんですよね?
堀米 そうですね。監督は編集者と兼任で務めていました。そこから「FAV gaming セクション」の部署が出来た段階で現在の役割専任になっています。
△監督として選手と共に記念撮影する堀米氏(左から3人目)
──では、堀米さんとしても現在の役割は入社時点ではあまり想像されていなかったんですね。
堀米 そうですね。戸惑いながら手探りで進めてきましたが、現在は部署として事業の拡大を目指して展開していますし、チームとしても国内トップからグローバルに名を連ねる存在を目指して邁進しております。
──チームの立ち上げから現在までで、何か変化を感じられることはありますか。
堀米 もう丸4年eスポーツに携わっていることになりますが、認知が増えてきたなという実感はあります。SNSでもeスポーツ関連のワードがトレンド入りすることが週に何回もあって、これは可視化されている変化かなと思います。
──そんな変化を迎えているeスポーツ界の今後について、堀米さんは何か展望はお持ちでしょうか。
堀米 eスポーツ市場全体を見るとユーザーは増えているものの、B to Cでのお金を落とすスキームが成立しているビジネスが皆無に等しいというのが今のeスポーツ業界だと思います。市場を発展させていくために、IPホルダーさんや他の競合相手となるチームさんと協力し、僕たちだけではできないことでも実現して市場のスケールを拡大していきたいです。曲がりなりにも業界を牽引している立場だと思っているので、そういうのも背負っていかなければいけないかな、と思っている次第です。
──大変なことも多かったかと思われますが、チーム運営でやりがいや楽しさを感じる瞬間はどんな時でしょうか。
堀米 一番はチームが勝つときですね。僕らはサラリーマンなので基本的には土日は休日なのですが、eスポーツの試合も土日での開催が多く、チームが負けるとその休日がブルーになってしまうことが往々にしてありますし、逆もまた然りですよね。スポーツチームを持っているオーナーさんってこういう気持ちなのかなって想像します。やっぱり、チームの一番のファンってスタッフだと思うので。
あと、これは自分が監督をやっていた頃なんですが、チームが初めて世界大会への出場が叶った時のことは本当に思い出深いです。大会で舞台に上がった時の光景は、今でも忘れられないですね!
──ありがとうございます。最後にFAV gamingならではという理念や方針があれば教えていただきたいです。
堀米 やるやらないの基準を「面白いか面白くないか」で考えるようにしています。チームスローガンに「Fun And Victory(楽しく、そして勝つ!)を掲げて4年間やってきていまして、それは変わっていません。
現在は競技的な側面がピックアップされることも多いですが、元々ゲームとは娯楽として作られていて、楽しむものであると思っています。ゲームの持つ本質的なところを忘れずに「楽しんで勝とうよ」というのは選手にも伝えていますし、僕らとしても「この企画楽しいよね、このイベント楽しそうだよね」と思えるものがないと、きっとユーザーさんにも楽しんでいただけないだろうなと。
──そんなFAV gamingが生み出す今後の展開とチームの活躍に期待しています。本日はありがとうございました。
堀米 ありがとうございました。