1チーム何人が最適?

チーム制eスポーツの人数と「控え不要」な編成事情

#eスポーツ

皆さんは「チーム制eスポーツ」と聞くと、1チーム何名の編成をイメージするでしょうか。

 

近年人気のタイトルを見てみると『Apex Legends』は3人1チーム、『VALORANT』や『League of Legend』なら5人1チームと、3人から5人でのチーム編成で実施されることが多くなっている印象です。

 

チームスポーツでは9人1チームの野球や11人1チームのサッカー、そして15人も必要なラグビーもお馴染みですが、eスポーツでは10人規模のチーム競技は非常に珍しいと言えます。

 

今回はゲームにおける同時対戦人数の変化と、eスポーツにおいて大人数でのチーム対戦が見られない理由や背景、そして可能性について考えてみましょう。

 

 

娯楽と真剣勝負の楽しさが両立する人数バランス

 

ゲームの歴史において多人数対戦が珍しいのは、そもそも多人数でのプレイが可能なまでに、プレイ環境が成長する時間がかかったことが理由のひとつに挙げられます。家庭用ゲーム機はファミコンなど2人同時プレイが最大という性能からスタートし、2000年前後には4人プレイ対応のハードウェアも登場し始めましたが、そこから1台のハードウェアのみでプレイ可能な人数を増やす方向へは進化せず、現在も殆どの家庭用ゲーム機がコントローラー4つまでの接続に対応したスペックとなっています。

 

同時対戦人数を増加させるきっかけとなったのはオンライン対戦機能の発達で、サーバーに同時接続できる人数が増えていくことで対戦可能な人数は大きく進化。2000年代中盤にはFPS『バトルフィールド』シリーズで32vs32の64人対戦モードが実装されると、2010年頃から多人数が入り乱れる大規模対戦が楽しめるタイトルが数多く開発されるようになりました。『バトルフィールド』シリーズの最新作では64vs64の128人対戦モードまで実装されています。

 

ただ、こうした超大規模なゲームモードにはもちろん全力で勝利を目指してプレイするユーザーも存在していますが、真剣勝負というよりもカジュアルに楽しむものとして捉えられがちで、なかなかeスポーツタイトルとして扱われることはありません。

 

スポーツもeスポーツも1チームの人数が増えるほど連携が重要になる反面、どうしても「プレイヤーひとりあたりが勝敗に関与できる割合」は下がっていきます。あまりに人数が増えると真剣に腕前を競い合いたいプレイヤーにとっては、やりがいが少なく感じられてしまったり、実力の近いプレイヤーが揃わず格差のある試合ばかりになってしまったりと、対戦の面白さが損なわれてしまうことも考えられます。

 

スポーツでも人数が上手く揃わないことや勝敗に直結するプレイができない試合はあり得ますが、運動として取り組んでいる人も多いスポーツに対して娯楽としての楽しみが強く求められるゲームではその影響が大きく、必要な人数が多いと十分なプレイヤー数が確保できない“過疎”の原因にもなってしまいます。

 

ゲームにおける対戦人数の重要さが感じられる例としては2016年にリリースされたアクションシューティング『Overwatch』のケースが挙げられます。リリース時点では6人1チームの対戦ゲームでプロリーグも6人で開催されていましたが、2023年の『Overwatch2』への大型アップデートにあたり、5人1チームへと人数が削減されたのです。

 

『Overwatch』はリリース初期こそ「タンク」「ダメージ」「サポート」それぞれの役割から各プレイヤーが自由に選択できる形式でしたが、ゲームが研究されていくにつれて特殊な編成が採用されがちになったことでゲームデザインに沿った試合展開になりやすいよう「それぞれの役割が2人ずつ」でチームを編成するように変更され、そして『2』では「タンク」はチームに1人だけとなりました。

 

変更の大きな理由としては10人対戦になることで12人対戦に比べてシンプルかつ分かりやすいゲーム内容にするためとされていますが、実は以前より「タンク」の役割をプレイしたがるユーザーが少ないことが課題になっており、その問題を解消する狙いもあったと考えられています。

 

『Overwatch』は人数の変更によってキャラクターの性能やゲームのルールも大幅に変更することとなりましたが、それだけのコストをかけてでも「遊ばれやすい人数」に調整することがゲームにとって重要であることが分かる事例と言えるでしょう。

 

また、競技に必要な人数が多すぎることの課題は決してeスポーツだけではなく、スポーツでも15人のチームがそろえづらいことから生まれた「7人制ラグビー」が五輪競技に採用されるなど、少子化が進む中でコンパクト化を推進する競技も珍しくありません。

 

ゲームの世界でも技術的には大規模な対戦は行いやすくなっていくと考えられますが、eスポーツタイトルは今後も5人前後が受け入れられやすい状況が続くのではないでしょうか。

 

控えも不在でeスポーツは最小限人数の編成が続く

 

また、eスポーツで現実のスポーツとでは「ベンチ入り」する選手の人数も異なります。体力的な負荷が少ないeスポーツでは体力の限界を迎えて選手交代をする必要がないため試合途中の交代制度もなく、控えの選手の必要性が低くなっています。

 

 

試合ごとに出場選手を変更することは多くのeスポーツタイトルで認められているルールですが、スポーツではよく見られる「シチュエーションに応じた選手の使い分け」は現在のeスポーツシーンでは殆ど見受けられないのが実情です。試合の途中に交代ができないため特定の技能に長けた選手を一時的に起用する戦術は不可能であり、それならすべての試合に固定メンバーで臨んで連携を高める方がチーム強化に効果的だと考えられているからです。

 

そのため多くのチームが最小限の選手数でチームを構成していますが、長期に渡るリーグ戦などでは体調不良など不測の事態で欠場を余儀なくされる可能性もあり、そうした場合に控え選手を採用していないチームは選手経験のあるコーチや育成組織の選手が代役として出場するケースも見られます。

 

もちろんチームにとっての理想は実力を備えた選手を常にベンチメンバーとして待機させられることですが、トップチームで控えを担える実力の持ち主は他のチームからレギュラーとして勧誘されると予想されます。年に何度あるか分からない出場機会のために待機し続けるのはスポーツ以上に控え選手としての気持ちの持ち方が難しいと想像されるため、現在のeスポーツシーンで能力あるプレイヤーを控えに置いた編成というのはなかなか難しいと言えるでしょう。

 

もし今後、バレーのピンチサーバーのように「試合の特定のタイミングだけ出場し、再びベンチに戻る」ことが可能なルールがeスポーツタイトルにおいて採用されるようなことがあれば、ベンチメンバーならではの存在感を発揮する選手が登場するかもしれません。

 

スポーツにおいても短時間でも活躍できるスペシャリストやベテラン選手は独特の存在感でファンから愛されることも多く、eスポーツ選手の長期に渡るキャリアや魅力発掘のためにも、新たな選手起用制度を検討するeスポーツタイトルがあっても面白いのではないでしょうか。

 

掲載日:2024年8月20日

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