「自分が楽しみ、その熱を伝えたい」

お仕事紹介インタビュー「ゲームキャスター」

#eスポーツ

ゲーム対戦競技「eスポーツ」の世界において選手の活躍を視聴者に伝える重要な役割を担っているのが実況や解説、つまりはキャスターと呼ばれる人々です。試合の雰囲気を盛り上げながら技術の詰まったプレイを即座に解説するキャスター陣の存在は、今やeスポーツ大会には欠かせないものになりつつあります。

 

前回は、お仕事紹介インタビュー「eスポーツライター」と題して、ゲームライターとして活動するハル飯田さんにインタビューを行いましたが、今回は複数のタイトルでeスポーツ大会の実況者として活躍しているゲームキャスターの田中一朗さんにeスポーツを彩るゲームキャスターの仕事についてインタビューでお話を伺いました。

 

──本日はよろしくお願いいたします。

 

田中一朗さん(以下、田中)ゲームキャスターとして活動しています、田中一朗です。よろしくお願いいたします。

 

 

──田中さんの活動を簡単にご紹介いただけますか?

 

田中 最初は『eBASEBALL パワフルプロ野球』(以下、パワプロ)のプロリーグに解説者として参加したところからスタートして、去年から新しいタイトルへのチャレンジとして『VALORANT』や『スプラトゥーン』の大会で実況を務めさせていただいています。まだまだキャスターとしてはひよっこなので、経験を積んでいる段階ですね。

 

──田中さんがゲームやeスポーツに興味を持った経緯はどのようなものだったのでしょうか。

 

田中 初めてゲームを買ってもらったのは幼稚園に通っていた頃だったと思いますが、子供の頃は両親にゲームをプレイして良いのは一日30分までと決められていました(笑)。大学入学を機に上京したことで自由に使える時間が増え、よりゲームに熱中しましたね。

 

丁度eスポーツの存在を知ったのもその頃で、プレイしていたFPSタイトル『Call of Duty』の競技シーンが国内で本格的に始まるタイミングだったんです。真剣にゲームで勝負する大会を見て「面白いな」と興味を持ちましたし、キャスターという職業を知ったのもその大会で実況解説されていたk4senさんや鈴木ノリアキさんが最初ですね。

 

──どのタイミングで「キャスターになろう」と決断されたのでしょうか。

 

田中 僕の場合は分かりやすく、大学卒業のタイミングですね。在学中に『パワプロ』のプロリーグに出演していた時期が就職活動と重なっていて、将来を考えたときに「この経験を生かしたい」と思ったんです。それ以前からキャスターをやりたい気持ちもあったので、就職して離れてしまうより思い切ってこの世界に入ろうと決断しました。

 

──田中さんは現在フリーで活動されているとのことですが、普段はどのような生活スタイルになるのでしょうか。

 

田中 キャスターの仕事がない時は自分でゲームをするだけでなく配信を見て勉強していることが多いですね。eスポーツ大会に限らず、ストリーマーさんやプロプレイヤーの配信など様々なところに学びがあるので、それを見ながら自分の中でイメージトレーニングをしています。単純に配信を見るのが楽しい、という理由もあるんですけど(笑)。本当にゲーム漬けな生活を送っています。あと、僕はまだキャスターの仕事だけで生活できている訳では無いのでアルバイトもしています。

 

──キャスターの仕事がある際はスケジュールも変わってくるのでしょうか。

 

田中 そうですね。大会の場合は数日前には資料が送られてくることが多いので、それを参考に当日に向けての事前準備として自分なりに注目の選手やプレイ傾向をまとめています。単純に実況のスキルを磨くためにアーカイブ映像を見ながら喋ってみる際にも、出場する選手やチームが決まっているのでより具体的な内容での練習になりますね。

 

──キャスターの仕事を受ける際は、どのような経緯で決まることが多いのでしょうか。

 

田中 お声掛けいただく場合も、自ら運営の方にお願いして喋らせていただく場合も両方ありますね。募集に対して応募する形で起用していただいて、その活動を見てお話を頂くケースもあります。

 

──自分から応募する場合は特にタイトルの選定が重要になるかと思いますが、現在担当している『パワプロ』や『VALORANT』、『スプラトゥーン』はどのような理由で選ばれたのですか。

 

田中 一番は「プレイしていて楽しいと思うゲームであること」ですね。自分で楽しいと感じるタイトルでないと、勉強や研究にどうしても義務感が生まれてしまって続けられないと思います。

 

加えて『VALORANT』については本格的なFPSタイトルですので、ここに全力で取り組むことで他のジャンルへ派生できる可能性が高いかなとも考えました。僕はFPSからeスポーツを知ったのでチャレンジしたい気持ちがあったのも大きいです。

 

──自分でプレイすることも考えると同時にメインとして扱えるタイトルの数には限りがあるのではないでしょうか。

 

田中 そうですね。自分でプレイする以外にも、ゲーム内容がアップデートされて環境が変わった際にはSNSなどで情報収集したりユーザーの意見を自分なりに集約したりもしています。やはり間違った情報を口にすることはできませんから、そのあたりにも気を配っています。

 

これらの時間を考えても追加で新しいタイトルに手を付けるほどの余裕はありませんが、自分としてはこれで良いと思っています。まずは今扱っているタイトルの実況に全力を注ぐのが大事だと考えていますから。

 

──他のタイトルでの実況を依頼されることもあるのではないでしょうか。

 

田中 そうしたお誘いをいただくこともあります。ただ、あまり詳しくないタイトルに無理に携わるのは、大会の主役である選手や、僕よりもそのタイトルが好きでキャスターをやりたいと考えている方に失礼になってしまうと思うんです。なので、社内大会やコミュニティ大会などを盛り上げて欲しいというご依頼であればもちろん練習して担当させていただきますが、主戦場にすることは考えていませんね。

 

──田中さんは業界では若手の立ち位置になると思いますが、田中さんの目線から現在のゲームキャスターの世界についてはどう分析されていますか。

 

田中 個人的に、今のキャスターには2種類の道があると思っています。ひとつは僕のようにゲーム好きが高じて、というケース。もうひとつは既にプロのアナウンサーとして活動されている方がeスポーツの世界に入って来られるケースですね。

 

喋る仕事のプロであるアナウンサーさんもゲームが好きでeスポーツのお仕事をされているので、僕のようなケースがどうやって競っていくかは今後自分の中でも課題になってくるのかなと思っています。

 

──確かにアナウンサーの経歴を持つ方が最近は増えている印象を受けます。ですが第一線で活躍されているキャスターの皆さんは決してそうした経歴の方ばかりではありません。今はどのような能力が求められているのでしょうか。

 

田中 言葉がある程度聞き取りやすい前提ではありますが、発音や発声がものすごく綺麗である必要はあまり無いと思っています。それよりも見ている人が盛り上がれるような実況が求められているのかなと思いますし、僕もそうありたいと考えています。

 

視聴者として世界大会の配信を観ていても、日本代表の試合ではキャスターの皆さんが他の試合よりも一層熱がこもっているのを感じて、すごく良いなと思うんです。もちろん特別な試合でなくても、ビックプレーが出たらそのすごさを熱を持って表現できる。その能力があればキャスターは務まると思います。

 

▲eBASEBALL プロリーグで解説を務める田中さん

 

──ありがとうございます。喋るための練習などはされていますか?

 

田中 やってはいますが、毎日少しづつですね。一日にドサッとやるのは続かないですから(笑)。

 

──田中さんはeスポーツ界では本名で活動されていますが、未だにeスポーツ界では少し珍しい印象を受けます。

 

田中 確かにプレイヤネームを使用されている方も多いですが、僕よりも前に本名で活動されている方もいらっしゃいましたし、個人的にプレイヤネームにこだわる必要はないのかなと思ったので本名での活動にしています。運よく本名が覚えやすいのもありますね。ただ、逆にありきたりすぎて「それって本名なんですね!」って驚かれたこともありました(笑)。

 

──確かに以前よりも本名を公表して活動される方も増えています。田中さん個人としてはここ数年の盛り上がりをどう捉えていますか。

 

田中 とにかく大会とその視聴者が多くなったなという実感はあります。やはり家で過ごす時間が増えたことも大きいですし、インフルエンサーさんが参加する形式の大会が増えたことで動画や配信を見るのは好きだけどゲームをしないという人も見てくれるようになったのではないでしょうか。これは間違いなく大きなプラスの変化ですね。

 

──今後こうなっていくのではないか、という個人的な展望はお持ちですか?

 

田中 まだまだ視聴者やファンの数は増やしていけると思います。個人的なところでは、早くオフラインの大会を見たいですね。観客が入った会場の雰囲気はプレイヤーにもいい影響があると思いますし、実況解説にも良い熱を与えてくれると思います。僕もすっかりそんな環境での経験から離れてしまっているので、オフライン大会が復活した際に携われるよう頑張らないといけません。

 

──最後に今後の目標などあれば教えてください。

 

田中 今は『パワプロ』に加えて『VALORANT』と『スプラトゥーン』でキャスターをしておりますので、まずはこれらのタイトルで公式大会に出演することを目標としてやっています。いずれも今注目されていたり新作の発売を控えていたりと話題性もあるタイトルなので、大規模な大会に実況で出られるようになりたい、というのが直近の目標ですね。

 

実はそれとは別に、僕にはeスポーツ人生における大きな目標として「新国立競技場でeスポーツ大会を開催する」というものがあるんです。コロナ禍が収まった後には日本でも大きな競技場で大会が開かれるようになって欲しいですし、いずれは新国立競技場に進出するほどの文化に成長して、会場で試合を楽しめる時が来たら最高ですよね。

 

その大会に僕は実況で出演しているかも知れないし、選手として出場しているかも知れないし、あるいは裏方として携わっている可能性もありますよね。はたまた観客となってその光景を見守るのも良いですよね。そんな未来を実現させるためにも、これからも努力していきたいと思います。

 

──これからの活躍に期待しています。本日はありがとうございました。

 

田中 ありがとうございました!

 

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