「ゲームが好き」で公務員から転職

お仕事紹介インタビュー「eスポーツライター」

#eスポーツ

高額な賞金制大会の存在や、度肝を抜かれるスーパープレイが大きな話題を呼ぶゲーム対戦競技「eスポーツ」の世界。その存在が注目を集めると同時に、その熱量や選手の魅力を発信するメディアの需要も高まりつつあります。

 

発信する立場から見たeスポーツの世界や、コロナの影響によって巻き起こる変化について、ゲームライターとして活動するハル飯田さんにインタビューでお話を聞きました。

 

 

 

eスポーツメディア「GAMEクロス」では「GAMEクロスリポーター」の肩書きで活動し、様々なタイトルの現場を取材しているハル飯田さん。“eスポーツライター”のお仕事とはどのようなものなのでしょうか。

 

──まずは、飯田さんのご経歴を教えてください。

 

ハル飯田さん(以下、飯田) 大学卒業後は、公務員として働いていたんですが、やっぱりゲームが好きだという気持ちが強く、思い切ってフリーライターに転職をしたのが始まりです。当初は実績もなかったので色々な仕事をしていましたが、段々とゲームにまつわる内容の仕事が増えていきました。

 

─eスポーツのライティングを行うようになったのはいつ頃からでしょうか?

 

飯田 ここ数年で日本国内でもeスポーツが話題となり始め、eスポーツを専門に扱うメディアも増えてきました。自分もeスポーツの大会に出場したり、プロリーグでキャスターをやらせていただいたりしていたので、こうした経験が活かせるのではないかと思い、eスポーツの記事募集に応募したのがeスポーツのライティングをするようになったきっかけになります。その後、eスポーツ関連のお仕事が増えたという感じでしょうか。

 

──キャスターとしても活躍されているんですね。こういった幅広い活動が活かされていると感じることはありますか。

 

飯田 スポーツの中にも野球やサッカーなど細分化されたジャンルがあるように、eスポーツもタイトルによって専門性があるのでルールや見どころなど、記事を読めばそのタイトルに詳しい人間が書いたかどうかは分かってしまうと思います。

自分はもともとPCゲームよりコンシューマ機が好きで、パズルゲームやスポーツゲームなど長くシリーズが続いているジャンルをよく遊んできたんです。eスポーツとして昨今よくイメージされるFPSや格闘ゲームも、もちろんプレイしますが、振り返ると、様々なジャンルのゲームをプレイしてきたことが生かされていますし強みになっていますね。

 

──文章を書くことも以前から好きだったのでしょうか。

 

飯田 実は小学校の卒業文集に「将来はゲームの攻略本を作る人になる」と書いていたくらいで、子供の頃からゲームと同じくらい作文は好きでしたね。

 

収入面では決して夢のある業界ではないですが、好きなことでなんとか生活していけるようになったのもそうですし、なによりeスポーツ人気が高まったことで仕事への反響が大きくなっていることの充実感はあります。

 

──生活といえば、普段のスケジュールはどのような感じなのでしょうか。

 

飯田 自分はフリーランスなので、会社員の方と違って非常に自由なスケジュールで動いています。eスポーツならではの部分としては、原稿作成以外の時間にゲームをプレイしたり、大会や配信を視聴したりするのも考え方によっては仕事の一環と言えることでしょうか。イベントの取材や大会の観戦をしていることが多いので、土日が完全なお休みになることが少ないのも特徴かも知れません。

 

──eスポーツとは少し離れますが、時間を自由に使えることのメリットやデメリットもあるのではないでしょうか。

 

飯田 時には海外で開催される大会のタイムテーブルに合わせて生活をすることもあって、非常に不規則ですね。ただ、私は海外のスポーツを観戦するのも好きなので、悪いことばかりではないですね(笑)。

 

時間の使い方で言えば、仕事に取り掛かっていても「事前にどれぐらいかかるか不透明」な難しさはありますね。クライアントさんと調整しながら進めていくので完全なゴールに自分だけでは到達できないこともあり、分量としては早めに仕上がっていても締め切り直前まで納得いくよう調整を続けていることもあります。

 

──現在は月どれくらいのお仕事をこなされているのでしょうか。

 

飯田 多い月だと10本以上の原稿を執筆する時もあります。取材のような事前準備が必要な案件とそうでないもので所要時間は大きく異なるので単純に本数で計算するのは難しいですね。

 

時間的にはもっと詰め込むことも不可能ではないですが、仕事とプライベートの区別が曖昧だからこそ意識的に「完全に趣味でゲームをする時間」だけは確保するようにしています。ゲームの仕事ばかりでゲームがプレイ出来ない状態にはなりたくないんです。やっぱりゲームが好きなので(笑)。

 

──コロナ禍以前とでは取材のスタイルも変わったのではないでしょうか。

 

飯田 めちゃくちゃ変わりましたね。大阪で活動していますが、コロナ以前は東京へ毎月のように出張していたので、思い切って関東圏に引っ越そうかと思っていたくらいでした。それが今は殆どリモートで対応出来てしまうので、大阪在住のまま続けられています。不便なこともあるはずなのですが、ご理解いただけているクライアントさんには感謝しないといけませんね。ただ、オフラインでの大会が減ってしまったことは非常に残念です。

 

▲取材中のハル飯田さん

 

──eスポーツの世界も東京が中心となっているイメージなのですが、大阪のeスポーツ事情についてはどう見ていますか。

 

飯田 確かに圧倒的に東京が中心ではありますが、個人的に「東京に居ないとやっていけない」業界にはならないで欲しいと思っているので、まずは大阪を盛り上げたいですし、少しずつではありますが大会やイベントも増えていると感じますね。

 

色んな大会を見ていても、地方に住んでいて強い選手は沢山いらっしゃるんです。実力があるのに居住地が関東から遠いことで対戦の機会を得られないようでは勿体ないですから、今後も積極的に地方での大会や取り組みは取り上げていきたいです。

 

──オンラインとの相性の良さを考えると、コロナの影響を受けて伸びる業界とも思えるのですが。

 

飯田 ここ2年ほどで本当に劇的に変わったと思います。業界の規模感もそうですし、周囲からの認識も変わりました。ただ、これだけeスポーツが人気になっているからこそ、対戦以外のゲームジャンルにも目を向けることは心掛けています。RPGなどのジャンルもゲーム全体で見ればまだまだ絶対的な人気がありますから。

 

「対戦はしないけれど、ゲームは好き」な人も少なくないので、そうした人にもeスポーツの面白さを知ってもらうためにはどうすれば良いかもよく考えています。例えばスピーディーなクリアを目指すRTA競技も、タイトルに注がれる情熱は対戦系のeスポーツと同じだと思うんです。そうした話題をフックに扱うことも増えましたし、実際に反響も大きいジャンルです。

 

──確かにプレイしたことのあるタイトルのRTAは非常に面白く見られますよね。それもeスポーツ観戦の始まりということですね。

 

飯田 そうなんです。あと意識しているのは「ゲームの上手さ」以外にもフォーカスすることですね。eスポーツ選手にインタビューさせて頂くときには可能な限りパーソナリティも織り交ぜるようにしています。例えば地元が一緒だったり変わった経歴をお持ちだったりする選手は応援したくなるじゃないですか(笑)この辺は自分がスポーツ観戦も好きで、選手の素顔に迫るコラムなどを読んできた経験も影響しているかも知れません。

 

──最近は子供がなりたい職業としても注目されるeスポーツの世界ですが、若いプレイヤーに対して感じることはありますか?

 

飯田 実は「ライターから見た業界について教えて欲しい」という事で、2年間ほどeスポーツを扱う専門学校で講師をやらせて頂いたんですが、その授業では「ゲームが上手いだけでプロになれる時代じゃないよ」とよく言っていました。実力も当然必要なんですが、同じかそれ以上に振る舞いやコミュニケーション能力、発信力が求められるようになっていると思います。実際に取材をしていても、非常に受け答えがスムーズな選手が増えたと感じています。

 

──やはり求められる人材像も変わっているんですね。

 

飯田 あと、中高生の子供たちには「今みんなが遊んでいるゲームって5年前には発売されていなかったものが多いよね。だから5年後の君たちがプロになるタイトルも今は存在してないゲームかも知れないぞ」と繰り返し伝えていました。今遊んでいるタイトルが彼らが社会に出ることには下火になっていることも考えられますから、ひとつのタイトルに固執せずに新しいゲームにも活かせる考え方や伝え方を習得することが大事だと思います。

 

逆を言えば、今あまり活躍できるタイトルがない子供たちが選手になるかも知れないし、話すことが好きだからキャスターを志しても良いですし、プレイ経験を生かせる大会運営の道に進むのも素晴らしいですよね。「絶対にプロになる!」という気持ちは素敵ですが、視野を狭めすぎないようにして欲しいと思います。

 

──確かに新しいゲームが登場する可能性もあれば、オンラインゲームにはサービス終了の可能性もありますね。自分のゲームスキルを磨くトレーニングをしているだけではダメというのが過渡期の難しさでしょうか。

 

飯田 こればかりは全てのタイトルが大規模なeスポーツとしてやっていける訳ではないので、ある程度付き合っていくしかない問題です。ただ、選手の立場では実力をつけて有名になり、タイトルごと応援してもらうことが一番シンプルかつ効果的な取り組みではないでしょうか。

 

ファンの方にライター的な観点からお願い出来るのであれば、記事を読むだけではなくて積極的に拡散したりリアクションしたりして頂けると嬉しいですね。「このタイトルは反響があるからもっと取り上げよう」とそのタイトルを押し上げる力に間違いなくなりますから、よろしくお願いいたします。

 

──今後のeスポーツ界について展望はありますか?

 

飯田 そうですね……。自分がeスポーツを扱うようになったのが4年ほど前なんですが、そこからの変化に着いて行くのが精一杯なので予想は難しいですね(笑)。ひとつ言えるのは、コロナ禍でゲーム・eスポーツ業界への潜在的な関心層が爆発的に増えましたが、これ以上の飛躍的な増加はもう難しいのかなと考えています。ここからはどうしてもプレイヤーやファンを確保するための争いにどのタイトルも巻き込まれていくでしょう。

 

ただ、ユーザーが多くないゲームでも面白い選手や取り組みは絶対に注目されるべきだと思いますし、そういった方たちの情熱に触れるのが好きなので取り上げたいと思っています。是非、情報をお寄せいただきたいです!

 

──ありがとうございます。やはりゲーム全体が好きだという気持ちが伝わりますね。

 

飯田 自分は「どうしてもゲームに関する仕事がやりたい」気持ちひとつでフリーライターになってから有り難いことに色んなお仕事に携わることができていて、受け入れてくださった周囲の方々には感謝の気持ちが強いです。その恩を返していくためにも、ゲームはずっと応援していきたいですね。

 

そのためには色んな視野を持っていることも大事だと思いますので、今後はお仕事の幅を少しずつ広げて行きたいですね。書くだけでなく話すお仕事だったり、eスポーツ以外のジャンルにも足を踏み入れていこうと思っています。プロレス観戦が好きなので、将来はプロレスに関するお仕事が出来たら嬉しいですね。

 

──ライターだけでなく講師やキャスターとしても活動される飯田さんのご活躍を今後も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

 

飯田 ありがとうございました!

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