高野之夫豊島区長×佐藤社長

【豊島区・高野之夫区長】『官民連携』で切り拓く池袋の今、そして未来

#インタビュー

駅から出た瞬間、そこは光と音の「劇場都市」

官民連携で切り拓く「世界で一つ」の池袋とは?

 

今、東京・池袋がかつてない変貌期を迎えている。2019年11月、駅東側の区役所跡地に、1300席の劇場や映画館などの8つの劇場を備える複合施設「Hareza(ハレザ)池袋」のうち6つの劇場が先行オープン。西側の池袋西口公園は直径35メートルの巨大建造物「グローバルリング」が目印の野外劇場が新設され、「劇場型公園」に様変わりした。この池袋再生の立役者は、豊島区の高野之夫区長だ。そして今回、グローバルリング周辺をイルミネーションで彩り、池袋の冬に新たな風物詩を生み出したのは、世界で勝負する池袋発のデジタルクリエイタープロダクション「エクストリーム」の佐藤昌平社長。この2人が、イメージを一新させた池袋の今、未来を語った。

 

池袋大変貌の鍵は「文化」と「公園」

 

―池袋は駅周辺の再開発で多種多様な文化施設がオープンし、大きな変貌を遂げています。

高野之夫
1937年、東京都豊島区生まれ。立教大学経済学部卒業後、豊島区議会議員、東京都議会議員を経て、1999年、豊島区長に就任し、現在6期目。財政再建を進め、文化によるまちづくりを推進している。

 

高野之夫区長(以下、高野) 戦後、池袋駅周辺は闇市が広がり、エネルギーがあふれるまちでした。しかし渋谷や新宿に比べて区画整理が遅れ、さらには豊島区の財政が破たん寸前に陥るなど負の連鎖が続き、池袋のイメージは悪くなる一方でした。そうした閉塞状況を立て直したい一心で、区長になった私が目を付けたのが「文化」の力によって、この池袋を再生することでした。
 財政が厳しい場合、通常なら文化施策は真っ先に切り捨ての対象になるでしょうが、私の考えは全く逆。文化があるから人が集まり、まちににぎわいが生まれて、経済も人の心も豊かになっていく循環が生まれるのです。つまり、文化こそが池袋と豊島区の未来を切り拓く鍵。
 そう信じて、当時、区役所に2人しかいなかった文化担当職員を毎年増やし、今では100人体制に増強。さまざまな文化施策を講じてきましたが、特に近年は新規施設のオープンが相次ぎ、私が目指してきた環境が実現してきたと実感しています。

 

佐藤昌平社長(以下、佐藤) 私は2005年、デジタルクリエイタープロダクション「エクストリーム」を池袋で創業し、以来ずっと池袋に本社を構えています。2014年には東証マザーズ上場も果たしました。
 まさに高野区長が再生を手掛けられてきた時代の池袋と、会社も社員も共に成長してきたのです。こうして長年にわたり池袋を拠点としてきた私から見ても、昨今は私たちのように池袋で産声を上げ、発展を遂げているクリエーティブなベンチャーが増えてきていると感じています。
 豊島区が進める文化施策によって池袋のイメージが変わり、その引力によって集まった起業家が会社を興して活躍することで経済が潤う。そうした正のサイクルの波が生まれているのが、今の池袋の実像です。

 

佐藤昌平
1964年、大阪府生まれ。2005年、株式会社エクストリームを東京・池袋で創業。同社はデジタルクリエイタープロダクションとして顧客企業に技術者をユニットで提供するほか、大ヒットゲーム「ラングリッサー」を全世界で展開。2014年東証マザーズ上場。

―目を引くのが、かつてのイメージを払拭した四つの公園です。

高野 豊島区には大きな川も山も畑もない。ただし、幸いにも池袋駅周辺には小さいながら間近に公園があり、これが唯一ともいえる自然に近い資産でした。そこで、私たちはこの公園こそが池袋が生まれ変わる鍵になると考えたのです。
 当時、池袋の公園は怖い、暗い、汚いの「3K」で近寄りがたい場所。まずは南池袋公園に芝生を敷き、しゃれたカフェを併設する空間に再生。さらに、サンシャインシティに隣接する造幣局跡地には、豊島区最大の広さを誇る造幣局地区防災公園を整備中です。

 

佐藤 南池袋公園は私も何度か訪れていますが、かつてのうっそうとした面影はなく、子供連れの若い親たちが、芝生にシートを敷いてくつろぐ姿は、変化する池袋の象徴的な光景でしょう。

 

―そして、再開発した残り二つの中池袋公園、池袋西口公園は、まさに文化政策を推進してきた高野区長の思いが詰まった場所です。

 

高野 旧区役所跡地に再開発し、ハレザ池袋の敷地内にある中池袋公園は、アニメ・マンガのイベントが可能な「聖地」としてリニューアル整備したサブカルチャー型の公園。一方、池袋西口公園には、巨大な建造物「グローバルリング」の下にステージを備えた野外劇場を新設。クラシックコンサートなどを開催できるメインカルチャーの劇場型公園に姿を変えています。こうして、「文化」と「公園」を使って都市を再生していく試みは世界的にも珍しいチャレンジでしょう。

 

 

 

官民連携で「形」に「魂」を入れる

 

―その新生した池袋西口公園のグローバルリング周辺を、佐藤社長率いるエクストリームが、夜の池袋を彩るイルミネーションで装飾します。

佐藤 近年、美しいイルミネーションが街を飾る光景が都内各所で楽しめるようになっています。ですが、池袋にはまだ本格的なイルミネーションスポットがないのが現状。それなら、グローバルリングによって立派な公園に生まれ変わったのを機に、池袋にも夜のランドマークをつくりたい。そんな思いで新しいプロジェクトとして「池袋西口公園extremeイルミネーション2019」を2019年12月18日~2020年1月31日の期間限定で企画したのです。

 

 

高野 自治体は文化施設を整えることはできますが、それをどう使うかのアイデアは民間と共に考えていく必要があります。すなわち、新しく作った「形」(ハード)に民間が「魂」(ソフト)を入れていくのが、今後の課題です。イルミネーションで新たな夜のスポットにする発想は、これこそ民間ならではの施策。さらに、グローバルリングのステージでは、毎週水曜日に実演や映像によるクラシックコンサートが開催される予定で、その他の平日や週末はさまざまな団体がオペラやバレエ、演劇、コンサートなどを開き、文化でにぎわいを見せる拠点になります。こうして官民が連携して文化によるまちづくりを理想とする都市像が、私が区長に就任してから苦節20年を経て、今まさにリアルな形となって目の前に現れてきているのです。

 

 

佐藤 グローバルリングの野外劇場は、オープンスペース。客席に座っている観客だけでなく、通りすがりの人が開催されているコンサートを見たり、聴いたりできることも、屋内の劇場にはない優れたメリットです。加えて、この劇場は池袋駅のすぐ近くに隣接しています。イルミネーションの期間中にコンサートが開かれれば、駅西口の地下からエスカレーターで地上に上がってきた瞬間に音と光に包まれる、そんなかつてない醍醐味を味わえます。それは劇場都市・池袋を象徴する新たな体験になるはずです。

 

―さらに、今回のイルミネーションではAR(拡張現実)を楽しめるイベントも実施しています

 

佐藤 エクストリームは子供がテクノロジーの楽しさを体験できるプログラム「池袋デジタル寺子屋」を2018年から開催していますが、それと連動した企画になります。イルミネーションのシンボルツリー下でスマートフォンをかざすと、池袋デジタル寺子屋の際に子供たちがパソコンで色付けしたキャラクターが画面上に現れる仕掛けです。こうして先端技術の仕組みを身をもって体感し、子供のころからテクノロジーの世界に少しでも興味を持ってもらうことが狙いです。

 

高野 池袋デジタル寺子屋は興味深い。デジタルとアートを掛け合わせ、次の時代を担う子供たちを育てることは、文化都市を目指す池袋を地盤とするテクノロジー企業ならではの取り組みと言えます。

 

佐藤 残念ながら、日本はソフトウエアの世界で米国や中国に大きく後れを取っているのが現実。追い付くには、子供のころからテクノロジーに親しみ、興味をかき立てるような施策が不可欠です。10年、20年かかるかもしれませんが、池袋から世界に通用するようなクリエイターを輩出する未来を目指し、池袋デジタル寺子屋はこれからも毎年継続して、子供たちにデジタルテクノロジーの楽しさを伝えていきます。

 

 

池袋をクリエイターが集まるまちに

―文化都市を目指してきた豊島区の再開発も佳境を迎えています。

高野 豊島区では23のビッグプロジェクトを推進してきましたが、細心の注意を払っているのは、多くの外国人が訪れ、スポーツだけでなく文化の祭典の側面もある東京オリンピック・パラリンピック(東京オリパラ)までに、その大半を完成させることです。機運を盛り上げるため、2019年には、毎年、日中韓の代表都市が選定され、文化の交流やイベントを繰り広げる「東アジア文化都市」に立候補し、一年を通じてアニメ・漫画、舞台芸術、祭事・芸能などを発信するとともに、中韓の都市の文化を日本に紹介してきました。豊島区のような小さな自治体が、国を代表する文化都市に名乗り上げることは「無謀な挑戦」と言われることもありました。しかし私たちは東京オリパラの直前の今こそ、文化都市を世界にアピールするチャンスととらえて挑んだのです。このチャレンジは大成功を収め、豊島区が日本を代表する国際文化都市になる礎をつくったと自負しています。

 

佐藤 豊島区には、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など著名な漫画家が輩出した「ときわ荘」があり、カルチャーやクリエーティブが生まれる可能性をもともと秘めているまちです。そこに、新しい文化施設や国際的な発信力というパワーが加わった意義は非常に大きいです。

 

高野 今回の東アジア文化都市の活動で、改めて気づかされたのは、漫画やアニメ、ゲームは世界共通の文化であること。今後、池袋はそうしたサブカルチャーの中心として発展していくことでしょう。また、グローバルリングやハレザ池袋の劇場を備えたことで、メインカルチャーが盛り上がる素地も整っています。世界中どこを探しても、池袋のようにサブカルチャーとメインカルチャーが融合するまちは、ほとんど見られないでしょう。その多様性こそが池袋の武器。東京オリパラが終わってからが、池袋が発展する本当の勝負が始まると思います。

 

佐藤 東京オリパラで海外にカルチャー都市・池袋の魅力が発信され、豊島区が世界から注目されることで、今後は国内外のクリエイターが集まるムーブメントも巻き起こってくるでしょう。そうなれば、池袋にクリエーティブな企業が次々と生まれ、そのにぎわいに人が集まる好循環が生まれます。私たちエクストリームも、そうしたクリエイターたちを仲間にしたり、協業したりすることで、豊島区のカルチャーをより盛り上げていきたいと考えています。

 

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