eスポーツ・インタビュー

「eスポーツ選手」をファンに届ける 「AXIZ」チームマネージャーのお仕事

#eスポーツ

前回の記事では、アックスエンターテインメント株式会社代表の小林様に、日本テレビがeスポーツチームを運営する目的と、チーム運営の経営面での苦労や未来の展望についてお伺いしました。

 

今回は、そのアックスエンターテインメントのチームマネージャーとして直接選手と向き合い、「試合に勝つ」ために選手を導き、環境を整えている橋本弘美様にお話をお伺いします。それまでのテレビの仕事から一転して、未経験のeスポーツの仕事に取り組まれている橋本さんですが、先日終了した「Shadowverse(シャドウバース)」の公式プロリーグ「RAGE Shadowverse Pro League 19-20 ファーストシーズン」では、部門責任者就任後初シーズンにも関わらず、レギュラーシーズン1位、シーズンファイナル準優勝という目覚ましい成績を残しました。

 

結果を残すeスポーツチームのマネジメントとはいかなるものなのか、さまざまな観点で語っていただきました。

 

 

企画を通して「好きなことを仕事に」

――本日はよろしくお願いいたします。まずは橋本様ご自身について自己紹介をお願いします。

 

橋本弘美氏(以下、橋本):eスポーツチーム「AXIZ(アクシズ)」のチームマネージャーの橋本です。eスポーツに携わる前は、地方の局でカメラアシスタントとして現場でロケをやったり、国会中継の裏側にいたり、電波を送り出す仕事をしたりと、いかにもな「テレビ局の仕事」を何年かやってきました。

 

一方で、プライベートでは根っからのゲーマーで、主に「GUILTY GEAR(ギルティギア)」シリーズなどの格闘ゲーム、それから「ハースストーン」などのカードゲームのプレイヤーとして、ゲームコミュニティに深く関わってきました。ギルティギアではかつて、本気で全国大会を目指してもいたんです。ゲーマーとしての活動もかなり熱心にやっていたので、これを仕事にできないかという思いはずっとありました。

 

そう思っていたときに、日本テレビにNTVIP(前回参照)という新規事業の制度ができて、自分もこの機会にとeスポーツの事業企画を提案しました。するとeスポーツについて提案した日テレの社員が、自分も含めて10数名いたという状況で、その中の何人かがeスポーツの新規事業に参画したというわけです。事業メンバーはやはり私と同じように日テレの社員としてテレビの仕事をしてきた一方で、ゲーマーとして主にプライベートで活躍してきたという人間が何人もいます。その中で、私は格闘ゲームとカードゲームを長くプレイしてきたということで、AXIZとして初めて「公式プロリーグ」に参加したタイトルであるシャドウバースを主に担当するチームマネージャーをやっているというわけです。

 

「チームマネジメント」という未経験の領域

――先日終了した「RAGE Shadowverse Pro League 19-20 ファーストシーズン」では見事レギュラーシーズンでリーグ1位、シーズンファイナルで準優勝という結果を残しました。チームマネジメントに関してやはり手ごたえがあったでしょうか?

 

橋本:ゲームの知識やプレイングにはそこそこ自信があったのですが、チームマネジメントについてはまったく経験がなかったので、苦労することの連続ですね。ずっと現場の技術職だったので、ワードやエクセルでも苦労しています(笑)

 

そして業界としても異業種ということもあり、「文化の違い」に戸惑うこともよくあります。たとえば、スケジュールがなかなか決まらないこと(笑) テレビだとどうしても、多くのことをかなり前からかっちり決めておく必要があるのですが、こちらだと「明日出演できますか」という話が来たりします。

 

あとは、今のeスポーツの選手たちは、若いからというのもありますし、独特の文化をもったコミュニティに普段いるというのもあり、とにかく個性が強い。それ自体は良いことなんですが、やはり人前に出てもらうというのを考えたときに注意してもらわないといけないことは多く、そのあたりの指導には時間をかけています。

 

特に、SNSの使い方ですね。アニメの映像を切り取ったコラ画像をアイコンに使ったり、一般の人の顔が写ってしまっている写真をアップしたり、強い言葉を使ったりはやめてねというのを初期のころからかなりきつめに言っています。eスポーツの現状では、スポンサーについてもらうのも苦労する段階なので、チームのイメージを左右する部分は本当に重要です。

 

「コミュニティ」こそが原点、かつ勝利への道筋

 

――eスポーツのチームマネジメントは、そういった基本的な部分を社会経験のない若者に教えるという側面も大きいようですが、どうやって勝ちにいくかという点ではどうでしょうか。

 

橋本:eスポーツというか、対戦ゲームの世界というのは、非常に濃い「コミュニティ」が形成されていて、一線に立つプロゲーマーたちもeスポーツチームの一員であると同時にあるゲームコミュニティの一員であるという側面が強いんです。

 

アーケードを中心に発達した格闘ゲームの世界だと、アーケードの店舗単位でそういうコミュニティが発展して、渋谷勢とか、新宿勢とか有名な呼び名がいくつかあります。もっぱらオンライン対戦がメインのシャドウバースでも、形式は少し違いますが、やはり似たような濃いコミュニティがいくつもあって、選手たちはそこで育ってきたんです。

 

今でも選手たちはそのコミュニティの仲間と、デッキの考察をしたり、互いのプレイの考察をしたりというのをやっています。マネジメントとしては一応、選手がそういう打ち合わせを誰とやっているのか名前は教えてもらって、大会の会場でその人に会ったら挨拶をさせてもらいますが、とやかく言うことはしないんですね。なぜなら選手にとってコミュニティというのはゲームの実力という点でも、精神的にも重要なバックグラウンドだからです。プロになったからといっていきなり環境を変えてしまうと、プレイへの悪い影響も避けられないだろうなと思いました。今のeスポーツはそういう、独自の文化を草の根的に発展させてきたので、それを無視してしまうとうまくいかないというのが私の意見です。

 

そして選手のリクルーティングという面でも、コミュニティを考察するというのは非常に重要です。コミュニティをちゃんと見ないと、埋もれている強いプレイヤー、ポテンシャルのあるプレイヤーというのは発掘できないんです。私が担当する格闘ゲーム、カードゲーム共に共通する部分だと思います。

 

――「埋もれているプレイヤー」というのはどのようにわかるのでしょうか。大会で結果を出しているということ以外に、どのような点に着目しますか?

 

橋本:結果を出している人が強いというのは誰でもわかりますが、結果を出していなくても強い人というのを見つけるには自分なりの基準を持つ必要があると思っています。単純な勝ち負けではなくて、「こういうところで、このプレイができるなら強い」というふうに見ています。自分なりの仮説でやっていますが、それなりに正しかったということで今シーズンの結果がついてきたと思います。

 

名前は挙げませんが、私と同じ目線で選手を評価しているチームマネージャーなり監督なりがいると思われるチームが「RAGE Shadowverse Pro League」の中にもいらっしゃいます。あの選手をああいう形で発掘できる人がいるのかと、すごく感心しましたね。そのチームは今後AXIZにとって脅威になりそうです。

 

テレビの強みを活かして、ファンと向き合う

――お伺いしてきたとおり、eスポーツ選手というのは独自の文化の中で育まれてきた個性的な人々ですが、AXIZのメンバーはテレビ局のチームということもあって広く露出する機会が多そうです。

 

橋本:そうですね。やはり露出に慣れるというのもプロ選手としては大事なことです。チームのイメージのためというのもありますが、選手の将来を考えたときも、できるだけ多く露出して知名度を上げることで専門学校の先生になったり、講演をしたりというセカンドキャリアにつなげることができます。もちろん、選手の露出がユニフォームについているスポンサーの露出にもつながるというのが、事業として大切なことですね。

 

 

とはいえやはりゲーマーの若者は、そういうのが苦手な傾向にあります。だからというわけではないですが、日本テレビ系で月に1回、深夜に放送しているeスポーツ応援番組「eGG」では先日の回で、選手がファンサービスの仕方をタレントさんに学ぶという企画を放送しました。ゴールデンボンバーの歌広場淳さんに、どう握手したら相手にいい印象を与えられるかとか、あるいは逆に、どうしたら相手のことをちゃんと自分の頭に残して、次会ったときに「あなたのことを覚えてますよ」と言えるかとかを教えてもらえましたね。そういう勉強を番組を通してやれるというのは、ファンサービスを学ぶという点では最高の環境ですね。

 

eスポーツというのはファンあってこそのものです。選手に伝えているのは、人は人生で「ファンです」って握手を求められることはなかなかない。プロゲーマーであるというのはそういう特別な立場で、単にゲームで勝つだけでなく、ファンと交流して、握手して、SNSでも私生活でも立ち振る舞いに気をつけて、そういうものをすべてクリアしてはじめてプロなのだということですね。1年やって、そういう意識は相当育ってきたように思います。

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