2017年12月にタイトーがサービスを開始したオンラインクレーンゲームが大ヒットしています。エクストリームは基本システムやソフトウェアの基礎的な重要部分の開発を担いました。
アミューズメント施設では定番のクレーンゲームをタイトーがオンライン化した背景は何か。ユーザーの間でなぜこれほどまでに支持されているのか――。オンラインクレーンゲームプロジェクトの責任者を務めるタイトーの金山富幸執行役員に、エクストリーム代表取締役社長の佐藤昌平が、ゲーム業界における消費の“空白地帯”を狙いヒットにつなげた秘訣を聞きました。
タイトーのオンラインクレーンプロジェクトの責任者を務める。自社で培ってきたマシン開発、プライズ開発、ネットワークゲーム、プライズゲーム運営のノウハウを活かした、タイトーならではのオンラインクレーンゲームサービスを展開している。
佐藤昌平(以下、佐藤):まず、秘話として触れておきたいのですが、実は、金山さんと私は20年近く前に一緒に仕事をした経験があることです。当時、金山さんはタイトーでプライズ(景品)の責任者を務められており、私がキャラクターの「うみにん」の派生キャラクター「ふじにん」をフジテレビとコラボで作った際、クレーンゲーム機のプライズとしてぬいぐるみの開発とアミューズメント施設での展開を依頼したのが縁でした。
金山富幸執行役員(以下、金山):懐かしいです。今回、オンラインクレーンゲームという当社としては初めての領域に挑戦するにあたって、鍵はシステムの開発をどこにお願いするかということ。各方面に相談していたところ、最適な候補として挙がってきたのがエクストリームだったのです。そのトップが佐藤昌平社長となっていたので、もしかしたらあの時の佐藤さんではないかと。最初の打ち合わせでエクストリームに訪問した時、およそ20年ぶりに再会を果たし、また一緒に仕事ができることになって改めて佐藤さんとは縁が深いことを感じました。
佐藤:その金山さんからオンラインクレーンゲームの開発を依頼された時は、本当に夢がある話だと思いました。オンラインクレーンゲームは、自宅などでパソコンやスマホの画面を見ながら、タイトー様が専用施設に設置した数百台に及ぶクレーンゲームの中から選択した1台を手元のボタンで遠隔操作し、ゲットしたプライズが宅配便で自宅に届くサービス。数多くのアミューズメント施設を運営されているタイトーのクレーンゲーム機の世界観が、オンライン化によって、自宅などにいながらにして体験できるわけですから、これは当社も協力してぜひとも実現したいと考えたわけです。ところで、そもそも、なぜタイトー様はオンラインクレーンゲームへの進出を決断されたのでしょうか。
▲タイトーオンラインクレーン筐体の様子
金山:その話をするには、今のアミューズメント施設ビジネスの現状をお伝えする必要があります。アミューズメント施設のマーケットは、2000年代半ばから約10年間にわたりダウントレンドでした。スマートフォンのゲームが普及したり、家庭用ゲーム機のスペックが上がるなど様々な原因が言われていますが、多種多様なエンターテインメントが続々と登場し、消費者の選択の幅が広がったことが大きく影響していると思います。
しかし、その縮小が3年前に底を打ち、そこからは市場拡大に転じています。特に2018年は前の年を大きく上回る売り上げ規模に伸長。そして、そうした反転の大きな要因となったのが、何を隠そう、クレーンゲームなのです。
佐藤:クレーンゲームは、アミューズメント施設の入口付近に展開されている、まさに「顔」のような存在。筐体の中に入っているプライズの種類やクオリティ、あるいは筐体自体のイノベーションに、伸長の秘訣がありそうです。
金山:その通りです。実は大きく伸びた一つ目の理由はプライズの進化。最近、クレーンゲームの中をのぞくと、これがプライズなのかと度肝を抜かれるような、50cm近くの巨大なぬいぐるみが並べられているのを目にする機会が多いと思います。例えば、グループ会社のスクウェア・エニックスのゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズに登場する「スライム」の超大型のぬいぐるみなど。こうした大型のプライズが手に入るようになり、人気が急上昇したわけです。
佐藤:クオリティ面では、プライズとして提供されるフィギュアの出来栄えが非常に良くなったことに驚いています。タイトーに関して言えば、特に初音ミクなど美少女系のフィギュアは「ここまでやるか」とうなるくらい細部まで色が丁寧に塗られ、精巧度が格段に増しています。
金山:それも重要な点です。加えて、クレーンゲーム機本体の改善もポイント。ゲーム機内の照明が従来の冷陰極管からLED照明にグレードアップし、輝度が高まることによって、まるでショーウィンドウのようにプライズをより魅力的に見せることが可能になっているのです。
佐藤:クレーンゲームは、中のプライズをいかに「ほしい」と思っていただけるかが肝。そのためのプライズの品質、さらには見せ方を向上させることによって、消費者の心にささる娯楽に進化し、売り上げ拡大につながったわけですね。もう一つ、私がリサーチの意味も含めてタイトーのクレーンゲームで遊んだ際に感じるのは、店員の接客がとても優れていること。笑顔で話しかけてくれたり、何度もトライして取れないでいると、プライズの位置を調整してゲットしやすくしてくれるなど、対応が非常にきめ細やかです。
金山:そうして、ハード面もソフト面も総合的に向上しています。一方、今の時代に消費者の心を掴むためには、単に物を提供するだけの「モノ消費」ではなく、体験や経験、楽しい時間を提供する「コト消費」であることが不可欠。その点、クレーンゲームはプライズを目的としながらも、カップルやグループ、親子がワイワイガヤガヤと楽しめる時間を提供。しかも、少額でもプレイできるため、若者でも街中でちょっとした空き時間に遊べる「コト消費」の代表格と言えます。その手軽さにも改めて注目が集まり、近年の伸びにつながっているのだと考えています。
佐藤:ここ数年、こうして盛り上がるクレーンゲームについて、金山さんは“オンライン化”の企画を思い立ちます。経緯を教えてください。
金山:企画を動かし始めたのは、くしくも業界のマーケットが反転した3年前。クレーンゲームは、アミューズメント施設や温泉旅行で宿泊した旅館やホテルで、誰もが一度は遊んだことがあるという意味では国民的な娯楽です。しかし、アクティブユーザー、つまりリアル店舗にたびたび足を運び、クレーンゲームをプレイする方は日本人全体の8%に過ぎないという調査資料もあるようです。残り92%の中には、仕事で忙しかったり、様々な事情で外出が出来ない人もいます。あるいは、タイトーが展開するアミューズメント施設「タイトーステーション」は全国に約150店舗ありますが、物理的な距離の問題で、店舗に足を運べない方々もいます。このようにタイトーステーションのクレーンゲームで遊びたくても遊べないユーザーはたくさんいます。そうした拾いきれていないユーザーのニーズをかなえる手段として、オンラインクレーンゲームは貢献できるのではないかと考えたのが発端です。
佐藤:近年、スマートフォンのスペックが飛躍的に向上し、画面のサイズも大型化。家庭内のWi-Fi環境も整備されてきたことなど、オンラインクレーンゲームを可能にする要素が整っていたことも、プロジェクトを後押ししました。
金山:ただし、課題がなかったわけではありません。一つは、オンライン化によってアミューズメント施設のクレーンゲームと消費が競合関係となり、リアル店舗の売り上げが落ちるのではないかという懸念。先ほど言ったとおり、オンラインクレーンのメインターゲットはタイトーステーションに「行きたくとも行けない」人々です。いわば手付かずの“空白地帯”を狙っているため、リアル店舗の売上に影響しないというのが私の考えでした。この持論をベースに社内を粘り強く説得した結果、何とかゴーサインを得ることができたわけです。
佐藤:システム面でも課題は山積み。特に苦労したのが、パソコンやスマホによる手元の操作と、画面上に見える実際のクレーンの動きにタイムラグが発生しないように調整すること。少しでも時間差が生じると、ユーザーの不満につながり、ゲームの楽しみが削がれてしまうからです。開発の現場ではタイトーから借りた実機を持ち込み、実際にスマホなどで遠隔操作を何度も繰り返しテスト。ネットワークやUI、サーバーの適正化を図るとともに、稼働する様子を映すためのカメラの位置、照明などにもとことんこだわり、いかにユーザーがストレスなくリアルなクレーンゲーム体験ができるかを追求していきました。
ただ、オンラインクレーンゲームはこうしたデジタルの仕組みに加え、物流で実際にプライズを届けるなど、極めてアナログな部分も重要です。そのすべてのプロセスを滞りなく動かし、サービスを成立させるまでの苦労は並大抵ではなかったと思います。
金山:私たちも、エクストリームさんも、どういうプロセスを踏めばよいか頭ではわかっているのです。ですが、それを実際の作業に落とし込み、円滑に具現化するには緻密な設計が必要です。例えば、サイトへの集客をどう図るか、登録していただいた方にどうリピーターになっていただくか。あるいは、施設内に設置されている数百台のクレーンゲーム機の中で、プライズがゲットされたゲーム機をスタッフがどのように認知し、ピックアップして物流に乗せてユーザーのもとに届けるか、プライズの補充はどうするか…など、一つひとつのプロセスをクリアしながら、全体としてサービスが成り立つように構築していったのです。
佐藤:サービス稼働後は、憂慮していたリアル店舗との利害の衝突は起こらず、狙い通り、新規ユーザーを取り込めているとお聞きしています。
金山:それは、主な稼働時間が証明しています。最もアクセスが集中する時間帯が午後10時から午前2時の間。つまり、普段アミューズメント施設に行けない方が、仕事が終わった後に自宅などからアクセスして遊ぶケースが多いことを物語っています。また、先日、昔はよくアミューズメント施設に通っていたのに、ご病気で思うように外出できなくなったという方から、「オンラインクレーンゲームを楽しんでいます。ありがとうございます」と感謝の手紙をいただいた時は、本当にうれしかったですね。
佐藤:人気のプライズは、リアル店舗とオンラインでは同じですか?
金山:人気の高いキャラクターを採用したプライズは、リアル店舗と同様に高い人気をいただいています。
ただ、実は、オンラインクレーンゲームだけで高い人気を頂くプライズが存在します。例えば「一人焼肉セット」。名称通り、自宅で電源につないで一人焼肉を楽しめるプライズです。その他、子供向けのミニカー玩具「トミカ」のグッズもヒットしています。見えてくるのは、ビジネスマンの方が、夜中に一人でオンラインクレーンゲームにアクセスし、自分のため、もしくは子供のためにプライズを一生懸命取ろうと楽しんでいる姿です。もちろん、これらのプライズはオンラインならではのメインユーザー層であるビジネスマンを意識して、投入しています。
佐藤:特定のオンラインクレーンゲームに、現在何人の人が待っているか人数が表示されるようになっている点も面白い。裏を返せば、その人数のユーザーが同じ画面を見て、今操作しているユーザーのプレイを注視しているわけです。多くの他人に見られていることは、オンラインならではの醍醐味でしょう。今後はこうした他人が、プレイ中のユーザーを応援できるような仕組みを取り入れていくことも、一つの考え方です。
金山:そうした新しい機能が追加されれば、さらに新規ユーザーは増えるでしょう。アミューズメント施設の市場規模に関する直近の調査では、売上の過半数をクレーンゲームが占めているというデータが出ています。ただ、オンラインクレーンがまだリーチしてない層が大きいことを考えると、むしろ伸びしろは大きいはずです。
佐藤:世の中的には随分前から「IoT」が注目されてきましたが、言葉だけが独り歩きしてなかなか本格的なサービスが始まらない中、私は、このオンラインクレーンゲームこそが、IoTを実現した好例だと思うのです。こうしてIoTを見事に具現化したオンラインクレーンゲームは、スマホが5G時代を迎えれば、よりリアリティが増すなど、表現の幅はもっと広がることでしょう。また、クレーンゲーム以外にもIoTを組み入れた様々なゲームが登場するかもしれません。エクストリームでも5G時代を見据えたIoT型のゲームのアイデアがたくさんあり、有望なものから実現できればと思います。
金山:タイトーも2019年からのテーマとして「フィジカルエンターテインメント」を掲げています。これは手や足、体を動かして楽しむ遊びをもっと創出していこうという意気込みを表した言葉であり、オンラインクレーンゲームもそのうちの一つ。今後も、このテーマのもと、多種多様なゲームを仕掛けていければと考えています。
■タイトーオンラインクレーン公式サイト