生成AIや自動運転、ビッグデータ……加速度的に進化するテクノロジーは、IT企業で働くデジタル人材にも大きな影響を与えています。
これからのデジタル人材は、どのようにテクノロジーと向き合うべきなのか。そのヒントを探るため、株式会社エクストリーム代表取締役社長 CEOの佐藤が、エスディーテック株式会社(以下、エスディーテック様)代表取締役社長 川端 一生様と対談を行いました。
エスディーテック様は、デザインとエンジニアリングが統合された「デザインエンジニアリング」を実践するIT企業です。自動運転AI、高品質なUI開発、VRプロダクトなどの先進的な事業に取り組まれています。佐藤と川端様は20年以上にわたるビジネスパートナーであると同時に、バンド仲間としても交友を深める関係です。
日本のデジタルクリエイティブ業界の変化を見てきた2人による、クリエイティブの未来を語る対談です。
▲エスディーテック株式会社 代表取締役社長 川端 一生 氏
– 川端社長のご経歴を教えていただけますでしょうか。
川端「10代の頃にコンピューターに興味を持ち、卒業後に大手電機メーカーの関連会社に入社しました。入社研修を終えると東京でソフトウェアの開発本部に配属され、当時のAI的存在であるルールベースのシステム開発に携わっていたのですが、ある日突然UI担当に異動になりました」
佐藤「そこでUI開発と出会うわけですか」
川端「そうなんです。異動した当初はやや不満でしたが、すぐにUI開発に熱中しました。『より洗練されたUIがあれば、ユーザーの心理に良い影響を与えるのではないか』と、非常にワクワクしたことを覚えています。今思えば若手のころにUI / UXやAIなど、現在のエスディーテックの事業領域に触れていたことになります」
– お二人の出会いはいつごろでしょうか。
佐藤「確か、1999年あたりですよね。共通の趣味である音楽がきっかけでした(笑)ビジネス上の関わりで言えば、後に当社のIPとなるキャラクター『うみにん』が人気になり始めた頃で、うみにんのIPを使ったデジタルコンテンツが企画できないか、と川端さんに相談しました」
川端「そうでしたね。前職で開発に関わったデスクトップアクセサリーのうみにんバージョンを開発しました。デスクトップに3Dのうみにんが表示されて、ショートカットキーで様々なアクションを実行できるソフトです」
佐藤「かわいらしい3Dグラフィックスがなめらかに動いていて、当時の家庭用PCのスペックでここまでできるのかと驚きました」
川端「ありがとうございます。Windows95が出てきた頃から、 テキストやグラフィックに頼らない、マルチモーダルなUIを作りたいと考えていたんです。それがキャラクター型のUIというアイデアになり、結果的にエクストリームさんとのビジネスに結びつきました」
佐藤「そんな背景があったんですね!1990年代から先進的なUIを構想されていたとは驚きです」
川端「UI開発を模索する中で出会った概念が、デザインエンジニアリングです。デザインエンジニアリングを実現するためにはデザイナーとエンジニアが密接に関わり合う環境を作る必要があると考え、2015年にエスディーテックを設立し、現在に至ります」
– エスディーテック様の強みであるデザインエンジニアリングとは、具体的にどのようなものでしょうか。
川端「元々は工業デザインの領域で発展した概念で、デザイン思考とエンジニアリングの原則を組み合わせたアプローチを意味します。デザイナーがIT技術を、エンジニア(IT技術者)がデザイン理論を学ぶことで、魅力的で使いやすいデジタルクリエイティブの開発を目指すものです」
– デザイナーとエンジニアが密接に協力する必要があるとのことですが、「デザイナーは右脳型、エンジニアは左脳型」という印象を持つ方も多いのではないでしょうか。
川端「それはただの固定概念だと思います。いわゆる芸術表現ならインスピレーション重視の方もいるかもしれませんが、クライアントワークに必要なものは、センスではなくロジックです」
佐藤「それって音楽も同じですよね。例えば現代ポップスにおけるコード進行は理論化されています。優れた音楽プロデューサーはそれを活用することで様々なアーティストにヒット曲を提供しています。ロジックがあるから再現性が生まれ、再現性があるからビジネスとして成立する、という点が共通しているように感じます」
川端「そうそう、インスピレーション頼りでは再現性が生まれません。だからこそデザイナーとエンジニアがお互いの理論を学び合う必要があります。私はデザインエンジニアリングを社員に説明する際に『建築家のように情報を設計しよう』と例えています」
– 建築家に例える狙いは何ですか?
川端「建築家は建物を設計する際、機能性とデザイン性の双方に気を配りますよね。いくら美くしいデザインでも、耐久性など工学的な要素を無視することはできませんし、その逆もまた然りです」
佐藤「なるほど、マイホームを建てる際、技術者にだけ、あるいはデザイナーにだけ依頼する施主はいない、と考えるとわかりやすいですね。とはいえ、いわゆる『デザイナー気質』『エンジニア気質』と呼ばれるような、職業ごとの傾向は存在すると思います。どうやってその壁を乗り越えているのでしょうか?」
川端「結果を言えば、議論は紛糾しますよ(笑)でも、それこそがエスディーテックらしさだと思うんです。弊社はエンジニア、デザイナーが大体半々の割合なので、常にお互いが感化しあっています。エンジニアとデザイナーが協力し、チームで課題を解決する点が、弊社が持つ最大の強みだと思います」
– デザインエンジニアリングのアプローチを通して、高品質なUIを開発されていますが、川端社長が考える、優れたUIの条件とはなんですか?
川端「ユーザーがUIの存在を感じないことですね。マニュアルなしでも使えるUIが理想です」
佐藤「私も同意見で、昔から『ゲーム業界がわかりやすいUIの最先端を走っている』と発信しています。ゲームはすぐにプレイできなければユーザーに飽きられるので、理解しやすいUIデザインが発展してきました。エクストリームでもエンターテイメント業界で培ったUIデザインのノウハウを非エンタメ業界のシステムに応用し、クライアントの生産性向上に貢献しています」
川端「ゲームのUIは本当に優れていますね。1980年代の話ですが、あるテレビゲームの説明書が小さな紙1枚だけだったことに衝撃を受けました。当時のソフトウェアは分厚い説明書が付属しているのが普通でしたから、ゲーム業界がいかに先進的なUIデザインに取り組んでいるかを象徴するエピソードだと思います」
佐藤「ただ、システムの機能が高度になると、シンプルなUIデザインの限界に達することがありますよね。操作性と機能性のバランスはどのように判断されていますか?」
川端「結果的にUIの存在感が薄くなればいいと考えています。お箸を例に考えてみましょう。最初は練習が必要ですが、一度使い方を覚えれば、まるで身体の一部のように扱えますよね。『操作方法を覚える必要があるUI』と『マニュアルがなくても使えるUI』は、対立する概念ではないと思っています」
佐藤「ゲームの例えで言えば、チュートリアルステージをプレイして操作方法を自然に覚える感じですね」
川端「その通りです。ただし、UIはあくまで目的を達成するための手段に過ぎません。旅行の目的地をUXとするなら、『飛行機で行くか船で行くか』をUIと考えることができます。どんな旅行スタイルを選ぶかによって、飛行機で時間を節約するのか、船旅の時間を楽しむのかが異なります。デザイナーは正しい目標を設定し、エンジニアはテクノロジーを活用して付加価値を提供します。その最適なバランスを実現するために、デザインエンジニアリングの視点が不可欠だと考えています」
– 昨今は、生成AIや自動運転などが話題ですが、テクノロジーの進化はIT業界にどのような影響を与えるのでしょうか。
川端「基本的に今までのコンピューティングは、全て人の操作が起点になっています。そこにAIが入ってくると、人のアクションが操作ではなく『問いかけ』になります。スマートスピーカーなどが良い例ですね。なので、今後は人とITのコミュニケーションもしくはコラボレーションに変化するのではないか、と考えています」
佐藤「ただ、我々人間がAIをどこまで信頼しているのか?という課題はありますよね。自動運転が良い例ですが、いくら理論上は安全と言われても、自分の体を預けるとなると……」
川端「その点は我々も頭を悩ませています。とある自動運転のプロジェクトで、被験者の運転の『クセ』を再現した自動走行プログラムをテストしたことがあるのですが、結果はネガティブな反応ばかりでした。自分らしい運転が再現されているのに、自分でコントロールできない点が違和感になるそうです。この結果は盲点でした」
佐藤「再現の精度が高くても、人間の生理が快適に感じるわけではない。まさにUXですね」
川端「そう、UXはあくまで主観なので、そもそもエンジニアリングとあまり相性が良くない領域です。しかし、UXデザインとはユーザーの主観を察する行為であると解釈すれば、日本人の得意分野と考えることもできます」
佐藤「なるほど、いわゆる『おもてなし』の概念でしょうか」
川端「その通りです。外国人の知人から聞いた話なのですが、欧米では自己主張が強い文化圏で育つ人が多いため、UXデザインを勉強する際は、まずユーザーの気持ちを察する考え方に慣れなければいけないそうです。ですが日本人はすでに相手を尊重する文化がインストールされているので、すごくアドバンテージがあると言うんですよ。なので、日本のデジタル人材はAIやUXデザインについて、積極的に学んでほしいと思います」
佐藤「日本人の得意分野と言われると身が引き締まりますね。人生100年時代の昨今、過去のインプットだけで仕事をしていれば、絶対にスキルが枯渇してしまいます。ビジネスパーソンとしてのライフタイムを伸ばすためには、積極的に技術トレンドを追わなければいけません。その意味でも、デザイナーとエンジニアが刺激しあうデザインエンジニアリングにますます魅力を感じます」
川端「デザインエンジニアリングの良い点は、常にデザイナーがテクノロジーの可能性を考えている点です。どんどん新しい知識がインプットされるので、社員のスキル向上にも役立ちます。私が社員に言い続けているのは、人と比較するのではなく、自分と競争しなさいということ。成長していくために何をするべきかを真剣に考えることでスキルが身につき、給与も上がりますよ、と(笑)」
– 最後に、エスディーテック様が目指す今後の展望を教えてください。
川端「目標は、日本を代表するデザインエンジニアリング企業と呼ばれる存在になることです。欧米の著名なデザインコンサルティング企業と肩を並べる存在になるべく、より一層邁進していきます」
佐藤「エスディーテック様にエクストリームのデジタル人材が参画していますが、現在の形を超えて、何か共同プロジェクトなどに取り組みたいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました」
川端「仕事はもちろん、音楽でもまたご一緒させてください。ぜひまたスタジオでセッションしましょう!」
川端様、貴重なお話をありがとうございました。
これからも日本のデジタルクリエイティブをより一層盛り上げられるよう、共にチャレンジしていきます!
エスディーテック株式会社様 公式サイト
※記事中の情報は2023年6月のものです。