メタバースとは? 事例や今後の可能性を解説します

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アバターを介して仮想空間で活動を行なう「メタバース」の普及が進んでいます。これまでは主にゲームで利用されていたことや、セカンドライフの日本における失敗イメージもあり、メタバースは一部の人だけのものといったイメージもありましたが、最近では、Facebook社が「Meta」と社名を変え、メタバースの普及に力を注いでいることでも注目されました。

 

こうした背景には、新型コロナウイルスの流行により外出自粛が促されたことや、VRゴーグルや5Gなどの技術の発達などがあり、そうした中で、さまざまなメタバースの可能性が模索されています。近年では、ライブイベントやビジネスでの利用が進んでおり、医療などへの転用も現実的になっています。

 

今回は、メタバースが何かをわかりやすく解説するとともに、最新の事例や今後の可能性などを詳しく紹介していきます。

 

メタバースとは?

メタバースとは、人々が自由に交流・活動できる、2次元または3次元の仮想空間のことです。ユーザーは「アバター」と呼ばれるキャラクターを介してその空間に入って活動します。

 

メタバースという言葉は、超越を意味する「メタ(Meta)」と、宇宙を意味する「ユニバース(Universe)」を組み合わせた造語で、ニール・スティーヴンスンのサイバーパンク小説「スノウ・クラッシュ」に登場する仮想空間サービスの名称から名付けられました。

 

最近では、新型コロナウイルスの世界的な流行をきっかけに、あらたな交流の場として利用されるケースが増えたほか、Facebook社が「Meta」に社名を変更し、仮想空間におけるメタバースに注力したことでも注目を集めました。

 

メタバースの定義

メタバースは2003年にリリースされた「セカンドライフ(Second Life)」ですでに登場していましたが、現在でも定義ははっきりしていません。現状、様々なものがメタバースのくくりに含まれており、メタバースを用いた個々のサービスが何を目指しているかによって内容も変わってきます。

 

とはいえ、一定の共通点はあります。それが以下のようなものです。

 

1.他者との交流を目的としている

2.大人数が参加できる

3.参加者が自由に世界を作れる

4.アバターを使用する

 

これらの要素は、前述の「Second Life」や日本で大変な人気を誇るゲーム、「どうぶつの森」や、自由に世界をつくれることで人気の「マインクラフト(Minecraft)」などにも共通するものです。

 

メタバースと聞くと難しいもののように感じるかもしれませんが、こうして身近なサービスを挙げてみると、すでに私たちが利用している身近なものであることに気づきます。

 

必ずしも「メタバース=VR」ではない

メタバースはVRとセットで語られることが多いものの、必ずしも必要ではありません。

 

しかし、VRは今後のメタバースの可能性を大きく広げてくれる技術であることは疑いようのないことです。先述の「セカンドライフ」「どうぶつの森」「マインクラフト」などのサービスは二次元空間ですが、VR技術を組み合わせたメタバース空間であれば、没入感が大幅に増しリアリティを感じられるようになります。

 

また、VRゴーグルから覗き込む世界では、自分が見たい場所をクローズアップして見ることができるため、平面のモニターでははっきりと見えなかった細部なども確認しやすくなります。それにより、VR空間を使った展示会などの可能性も広がると考えられます。

 

メタバースでできること

 

メタバースでできることは、どうぶつの森やマインクラフトのようなゲーム空間をベースにした活動だけではありません。アバターを介して現実に近いかたちで交流できる特性からさまざまな活用がされています。

 

イベントへの開催・参加

メタバースでは、VRを利用した仮想空間でイベントを行なうことや、それらのイベントに参加することができます。

 

例えば、2022年に行われた世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」では、バーチャル空間にある食品や服飾品などのお店で、店員のアバターとコミュニケーションを取りながら実際に買い物することができるほか、音楽ライブも行われました。

 

こうしたイベントはVR機器の利用を前提に作られていることがほとんどですが、VR機器がなくても参加できる会場が用意されているケースもあります。

 

世界や空間の創造・探索

メタバース空間の中では、自分の好きな世界を創造することや、他人がつくった世界を探索することができます。

 

メタバース空間で使うためのアバターや家具、木や土、水などのパーツをつくるには、技術を身につける必要がありますが、最近ではメタバース空間をつくるための機能が搭載されたプラットフォームも登場しており、スタートしやすくなっています。

 

メタバース空間は自由度が高く、現実の街を再現することや、現実世界では実現できないようなカタチ、素材をつくることができます。そういった世界を自分で創造することも楽しいですし、誰かがつくりあげた世界を探索することも楽しいでしょう。

 

NFTの売買・展示

NFTとは、偽造や改ざんが難しいブロックチェーンによって、デジタルデータに所有証明を付ける技術のことです。これによって、本物のデジタルデータであることが証明できるようになり、資産価値を持たせられるようになります。日本語では「代替不可能なトークン(Non-Fungible Token)」とも呼ばれます。

 

メタバースではNFT技術によって本物であることが証明されたデジタル資産を売買できます。例えば、メタバース空間や、特定のゲームで利用できるアイテムを作成し、販売するなどのことが行われています。

 

また、芸術作品のデジタルデータもNFTで販売されており、そうした芸術作品の展示会を開くこともできます。すでに、国内外から数百点のNFT作品を集めたアートフェスティバルなどが開催され、好評を博しています。

 

バーチャルオフィスでの会議・労働

バーチャル会議室でミーティングを行なうことや、バーチャルオフィスで仕事をすることもできます。

 

メタバース空間では、それぞれがアバターとして会議室やオフィスに参加します。TeamsやZoomなどを用いたビデオ会議と比べて、双方向でのコミュニケーションが取りやすく、話したい人にだけ話しかけることもできるのが特徴です。

 

また、メタバース空間ではPCを用いた作業も行えます。対応しているノートPCやキーボード、マウスなどを認識してVR空間に表示してくれる製品もありますし、実際の手元が透けて見える「パススルー」と呼ばれる機能がついたVRヘッドセットもあります。

 

メタバース空間であれば、ディスプレイを何枚も表示させることができるため、自宅にマルチディスプレイ環境を構築する必要がなくなり、狭い部屋でも効率的に仕事ができるなどのメリットがあります。

 

メタバースの事例

メタバースのプラットフォームを利用する人や、メタバースを利用したイベントへの参加者は年々増えていっています。ここでは、代表的なプラットフォームやイベント、ビジネスでの事例を紹介します。

 

VRchat

「VRchat」は、アメリカの企業VRChat Inc.によって運営されるVRプラットフォームです。必要なソフトは無料でダウンロードでき「Meta Quest」シリーズなどのVRヘッドセットで利用することができます。

 

ほかのユーザーとボイスチャットで会話をすることや、ゲームを通じて交流することができるほか、好きな世界を自由に創作してクリエイターとして楽しむこともできます。多いときで42,000人以上のユーザーが同時接続する世界最大級のVRプラットフォームです。

出典:https://hello.vrchat.com/

 

バーチャルマーケット

バーチャルマーケットは、VRベンチャー企業である「HIKKY」が、前述の「VRChat」を用いて2018年より開催しているイベントです。

 

バーチャル空間にあるイベント会場では、アバターやアバターに着せる服などNFTを含む3Dアイテムが売買できるほか、実際に私たちが着る洋服やパソコンなどの売買も行われています。さらに、映画の上映会や音楽ライブなどのイベントなども目玉となっています。

 

開催期間中は24時間イベントが運営されており、時差に関係なく世界中のさまざまな国の人が参加しています。現在は世界最大級のイベントにまで成長しており、出店ブースには大丸松坂屋や阪急百貨店、ビームスやヤマハ発動機などの有名企業も軒を連ねます。

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000199.000034617.html

 

Horizon Workroom

Horizon Workroomは、Meta(旧Facebook社)が運営するビジネス会議用VRシステムです。VRゴーグル「Meta Quest」シリーズを利用することを前提につくられていますが、VRゴーグルがなくても利用できます。

 

ミーティング参加者は会議室にアバターで登場します。好きな場所にホワイトボードを設置したり、参加者が増えるとミーティングスペースが大きくなったりと、メタバース空間ならではの柔軟な機能が用意されています。

 

また、専用アプリをインストールしたPCをHorizon Workroomに持ち込むことも可能です。仮想オフィスでは大画面を並べて作業することも可能なので、現実世界で自分専用のオフィスが用意できなくても、メタバース空間に快適なオフィスを構築することができます。

出典:https://www.meta.com/jp/work/workrooms/

 

REV WORLDS

REV WORLDSは、仮想化された新宿を舞台にしたコミュニケーションプラットフォームで、三越伊勢丹HDが運営しています。

 

仮想の「新宿伊勢丹」を舞台に、ファッションやコスメ、デパ地下の食料品などのショップが出店しており、商品はオンラインショップで購入可能。さらにはバーチャル地下闘技場やファッションショーなどのイベントも行われています。

 

また、VR機器が必要な3D空間ではなく、スマートフォンやタブレットで体験できる空間としていることも特徴です。これにより、伊勢丹のメインの客層である女性も気軽に利用できるようになっています。

出典:https://www.rev-worlds.com/

 

JIMTOF 2022 京セラブース

JIMTOF(日本国際工作機械見本市)は、2年ごとに東京ビッグサイトで開催される世界四大工作機械見本市のひとつ。2022年に行われたJIMTOFで注目を集めたのが京セラが運営したブースです。

 

京セラは、実際の展示ブースを用意した上で、それとよく似せて作ったVRブースをVR Chat上に用意。今までは、工作機械がどのように稼働するかの説明はパネル展示に頼っていましたが、VRでは切削機械を正確に再現した3Dモデルを間近で見ることができるようになっています。

 

しかも、この3DモデルはVR空間で実際に稼働するため、金属の切粉が飛んでくるような近距離で動作を確認でき、切削機械の仕組みや特徴が直感的にわかるようになりました。

出典https://www.kyocera.co.jp/newsroom/topics/2022/002042.html

 

これからのメタバースの可能性

 

すでに多くのサービスが登場しているメタバースですが、まだまだ様々な可能性があると考えられています。今後のメタバースにどのような期待がされているかをみていきます。

 

世界中の人々の交流の場となる

メタバース空間は、世界中の人々の交流の場になり得ます。インターネットにつながった端末があれば、世界中どこにいても同じ空間にアクセスできるため、ライブやイベントなどへの参加はもちろん、ミーティングやバーチャルオフィスなどを用いて同じ空間で仕事をすることもできます。

 

これまでも、同じ映像をライブ配信で見たり、Zoomなどを使って遠く離れた人とミーティングしたりすることができましたが、メタバースは「同じ部屋にいる」感覚が持てるのが特徴で、VR機器を使うことでその感覚はより強くなります。

 

また、メタバース空間であれば、実際には会うことのできない人や、警護が必要な著名人、政治家などと直接コミュニケーションを取ることも容易です。こういった特性から、今後メタバース空間において、今まで物理的もしくは時間的に難しかった交流が盛んに行われるようになる可能性があります。

 

個人のビジネスチャンスが広がる

メタバースが普及することで、個人のビジネスチャンスが広がる可能性があります。

 

メタバース空間では場所と時間の制約が少なくなるため、地方や外国に住んで働いている人や、クリエイターやアーティストにとって、今までより多くのビジネスやビジネスに繋がるイベントに参加できる可能性が高くなります。

 

また、メタバース内で自ら作ったNFTアートやゲームを販売したり、アバターやアバターに着せる洋服を販売することも可能です。これらは今までにない新たなビジネスであり、今後の広がりも期待できます。

 

より自由な働き方ができる

メタバース空間を活用することで、世界中に散らばったメンバーが同じバーチャルオフィス内で働くことも現実的です。

 

メタバース空間では実際のオフィスに近い状況で上司や同僚とコミュニケーションが取れるため、テレワークで起こりがちだったコミュニケーション不足が大幅に解消できるとも考えられています。

 

そうした特性から、都心から離れて緑豊かな環境で働きたい人や、何らかの事情で故郷にとどまる必要のある人はもちろん、世界中に散らばったエンジニアでチームをつくるなど、これまでのテレワークの枠を超えた働き方ができる可能性があります。

 

医療など幅広い分野での活用

メタバースは医療展開も期待されています。例えば、精神医療の分野では、患者が医師に本音を話しづらいケースがあります。これは、Zoomなどのビデオ会議システムでも同様ですが、アバターを用いるメタバースの場合、患者が話しやすくなる傾向があり、より的確な治療が可能になると注目されています。

 

ほかにも活用方法があります。順天堂大学ではIBMと共同で「順天堂バーチャルホスピタル」を運営、研究・開発に取り組んでいます。現状のバーチャルホスピタルは、主に患者が来院する前にバーチャル空間で病院を体験できる環境として提供されていますが、説明が複雑になりがちな治療を疑似体験することや、入院患者の交流への活用も画策されています。

 

また、うつ病治療や発達障害患者のソーシャルトレーニングなどへの転用もはじまっています。これらはまだまだ実証実験の段階にありますが、主に患者のメンタリティにかかわる部分において有効な手段として期待されています。

 

最後に

メタバースは、ユーザーがどこにいるか、何をしている人かに関係なく、さまざまなユーザーが社会生活を送ることのできる仮想世界です。まるでSFの世界の話のようですが、現実に活用されはじめています。

 

先行して普及が進んでいるゲームだけでなく、近年はアートやライブイベント、ビジネスや医療への転用など、新しい可能性が次々に生まれています。今後、VRを活用したメタバースが普及すると、世界中の人々の生活に大きな影響を及ぼす可能性もあり、メタバースの動向から目が離せません。

 

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