日本企業はDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進が遅れていると言われていますが、その理由として挙げられるのが、DXを担うハイスキル人材「DX推進人材」の不足です。
DX推進人材にはいくつかの定義がありますが、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)はプロダクトマネージャー、ビジネスデザイナー、テックリード、データサイエンティスト/ 先端技術エンジニア、エンジニア / プログラマー、UI / UXデザイナーの6つを「デジタル事業に対応する人材」として、DXを推進する人材に定義しています(※)。DXを実現するためにはこれらの人材をバランス良く揃え、それぞれのスキルを発揮してもらう必要があります。本記事ではDX推進人材の基本的な職種や、従来のIT系人材との違いや身に付けるべきスキルなどをわかりやすく紹介します。キャリアアップやDXに関する情報収集などにお役立てください。
(※)出典:「DX白書2021 日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術」 第3部 日米調査にみる企業変革を推進する人材
出典:IPA「DX白書2021 日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術」
DXの実現に向け、プロジェクトのリーダーとしてチームを導くポジションです。企業によっては(CDO:Chief Digital Officer)の役職が付くこともあります。DXに関するプロジェクトでは、既存のプロダクトマネージャー以上にIT技術やトレンドの深い理解が求められます。具体的には柔軟なプロジェクトマネジメント能力、リソースマネジメント能力、そして現状に満足せず「常に新しいことを実現するために」組織全体をプロジェクトに巻き込んでいくリーダーシップが必要です。
ビジネスデザイナーはIT技術を活用した新しい事業計画の立案を担当します。IT技術だけでなく、ビジネスを深く理解している人材が望ましく、テックリードなどと連携しながらプロダクトマネージャーが提示した計画を具体的なプロジェクトにまとめ上げる役割を担います。IPA「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」(2019年)では最も重要なポジションとされており、人材の争奪戦が激しくなっています。
ビジネスデザイナーがまとめ上げたプロジェクトの基盤になるシステム(ITアーキテクチャ)を設計するポジションです。IPAは「DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材」と定義されており、先端技術が自社のビジネスにどのようなメリットをもたらすのかを理解し、要件に落とし込む能力が求められます。システムの方向性を左右する重要なポジションであるため、ITスキルだけでなく高度な経営リテラシーが必要です。
データサイエンティストはビッグデータの分析や仮説の立案を行い、先端技術エンジニアはAIシステムの実装を担当します。両者はともにデータ解析に精通した職種であり、システムにAI技術の導入やビックデータを扱い、専門家の視点から経営層の意思決定をサポートします。大学や企業の研究機関で統計学やデータ解析を専門的に研究した人材が就くケースも多く、6つの職種の中でも特に専門的な知識・経験が必要になります。
エンジニア / プログラマーは実際にシステムを構築する作業を担います。開発の上流工程(要件定義、設計)から下流工程(プログラミング、テスト)まで全ての工程に携わるだけでなく、運用後のインフラ構築・保守も担当します。
DXのプロジェクトではビジネスデザイナーやテックリードなど幅広い人材が関わるため、それぞれの意図した内容を正確に把握し、仕様書やプログラミングに落とし込む必要があります。そのため技術的な理解だけでなく、コミュニケーション能力やドキュメント制作スキルなども高度なレベルが求められます。
UXとはユーザーエクスペリエンス=サービスを利用する際の体験を指し、ユーザーが心地よくサービスを利用できるような体験をデザインします。UI(ユーザーインターフェース:ユーザーがサービスに触れる操作画面などの総称)のデザイン監修をはじめ、より上流工程であるユーザーのニーズ分析やリサーチなども担当します。特にDXのプロジェクトでは先端技術を利用するケースが多く、操作が煩雑になってしまう恐れがあるため、ユーザーが違和感なく利用できるUI / UXの設計はDXの成功に欠かせない要素です。このような課題を克服するために、UI / UXデザイナーは行動心理学や人間工学、マーケティングなどの知識が必要とされています。
DX推進人材と一般的なIT人材との違いは、DXに求められるスキルを身に付けているかどうかです。エンジニア / プログラマーを例にすれば、一般的なプログラミングの知識に加えて、DXのプロジェクトで使われることが多いAIやRPA、クラウド設計に関する知識が必要です。専門家としてのスキルまでは求められませんが、データサイエンティストやビジネスデザイナーと共通言語で会話ができるレベルの知識があると良いでしょう。具体的には、以下のようなスキルを伸ばしていくことが必要です。
必要なスキルは職種によって変わりますが、いずれもIT技術のトレンドを積極的にフォローする姿勢が必要不可欠です。例えばプログラミング言語のPythonはAI系のプロダクトに使用されることが多く、エンジニアなら直接のスキルアップにつながり、プロダクトマネージャーなど上流工程の職種にとってもデータ分析などの理解を助けてくれます。またアジャイル開発やDevOpsといった新しい開発スタイルへの適応や、外部リソースを上手に活用するプロジェクトマネジメントのノウハウも蓄積する必要があるでしょう。
DXは技術ありきではなく、それによって企業が抱える課題を解決する手段でなければいけません。先端技術をどのように自社のビジネスに活用するかをそれぞれの職種から考えていく姿勢が求められるでしょう。先に紹介したIPAの資料「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」でも「一人一人のスキルシフトやマインドチェンジ」が必要だと指摘しており、そのために全社的なデジタルリテラシーの底上げやリスキリングが重要だと提言しています。
・DXを実現するために欠かせない人材として、6つの「DX推進人材」が定義されている。
・DX推進人材はITスキル / ビジネスマインドの両面で高いパフォーマンスが求められる。特にDXに使用される先端技術を学ぶ必要がある。
・既存IT人材は適切なスキルを学ぶことでDX推進人材へキャリアアップできる。年収アップなどのメリットが期待できるため、情報収集や新規スキルの学習が必要。
今回取り上げたDX推進人材は需要に対して供給量が少なく、人材の争奪戦が発生しています。そのため既存人材のスキルアップが注目されており、政府や企業も積極的にリスキリングを推奨しています。今後もDX推進の流れは加速されることが予想されるため、デジタルクリエイターはスキルアップの準備をしておくことが重要になるでしょう。
以上、DX推進人材についてご紹介しました。本トピックスでは今回ご紹介したDX推進人材について、職種ごとに詳しく解説する記事を連載していきます。「プロダクトマネージャー / ビジネスデザイナー / テックリード編」「エンジニア / プログラマー編」「UX / UXデザイナー編」を順次更新していく予定です。DXに関する情報収集やキャリアアップの参考にしていたければ幸いです。
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