DX戦略を競合他社は始めてる!
「DX白書2021」に見る取り組み状況と課題

#DX

 

近年、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。数年前は一種の流行語としての印象が強かったものの、2021年以降は状況が一変。新型コロナウイルス感染症の拡大などの社会情勢も後押しになり、DXを経営戦略として掲げる企業が増えています。

 

一方で「とはいえ、うちの業界はまだ本腰を入れて取り組まなくても大丈夫だろう」と考えている方も多いのではないでしょうか。確かに現状の事業モデルで十分に利益が出ていれば、わざわざ大変な企業改革に取り組む必要性も感じられません。

 

しかし各種調査を参照すると、まったくDXに取り組んでいない企業はもはや「少数派」になりつつあります。あなたの企業が既存のやり方に固執しているうちに競合他社は着々とDXを推進し、市場を開拓しているかもしれません。今回は独立行政法人 情報処理推進機構(以下、IPA)が発表した「DX白書2021(※1)」を参考に「実際のところ、どの程度の企業がDXに取り組んでいるのか?」を探ってみたいと思います。

※1 日米の企業を対象に、企業におけるデジタル戦略・技術・人材に関する調査および有識者会議での議論をまとめた資料。

 

日本企業の56%がDXを推進中!

 

 

実は、日本のDXは猛スピードで進んでいる

まずはDXへの取り組み状況を見てみましょう。日本企業でDXに取り組んでいる企業の割合は約56%(p.2)と、半数以上の企業が何らかの形でDXを実施しています。「なんだ、半分以上とはいえ未だ6割以下じゃないか」と感じた方もいるかもしれませんが、実はIPAによる2年前の調査(※2)では、9割以上の企業が「全社戦略に基づいて部門横断的にDXを推進できるレベルに達していない企業」と報告されています。つまり、日本でもここ2年の間でDXが加速度的に推進されている状況がわかります。もしあなたの企業がDXにまったく取り組んでいないのであれば、今から約2年分のギャップを埋める努力が必要になってしまいます。

※2 「刊行にあたって」および 「DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート (2020 年版)」

 

業種別の取り組み状況 4割以下はサービス業のみ

業種別(p.3)を見ると、DXの取り組み状況が最も多い業界(※3)は金融・保険業で69.8%、情報通信業が65%、製造業が58.8%、流通業・小売業が54.1%、サービス業が42.3%となりました。サービス業に関しては業務の特性上の問題か、「取り組んでいない」の回答割合が最も多い45.2%を記録しました。

 

しかし、教育事業などを運営する株式会社ベネッセホールディングスのインタビュー(p.173)では、社長直下の組織としてコンサルティングや データ分析などのスペシャリストが所属するDIP(Digital Innovation Partners)を設け、事業部に派遣してDXプロジェクトを推進するなど先進的な取り組みが紹介されています。このような事例はさまざまな企業で進められています。

 

また、そごう・西武は西武渋谷店でリアルとオンラインの融合をコンセプトにした無人型店舗をオープン。DX推進のスタートアップ、ROUTE06との協業により、店舗とECの在庫情報を一元化する効率的なシステムを構築しています。このような事例はさまざまな企業で進められています。「うちの業界はIT技術なんて関係ない」と考えている間に、他社がDXを猛進しているケースも考えられるのではないでしょうか

※3「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」を合算して算出

 

中小企業でも進むDX

DXに取り組めない理由としてよく挙がるのが人的リソースの不足です。確かにDX白書「DXへの取り組み状況(従業員規模別)」(p.25)を見ても、やはり1,001人以上規模の企業の取り組み率(※4)が最も高く82.2%に昇り、201人以上1,000人以下が63.2%と続きます。とはいえ中小企業が全くDXに取り組んでいないわけではなく、300人以下の企業でも約4割(37.8%)以上が実施しています。組織間の縦割りが厳しい大企業よりも、フットワークの軽い中小企業やベンチャー企業の方が組織改革に取り組みやすい側面もあるでしょう。中小企業がDXにより、競合他社のマーケットシェアを奪う事態も予想されます。

※4「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」を合算して算出

 

アメリカ企業の状況に見る、数年後の日本企業

日本企業のDXが加速しているものの、さらに先行しているのが海外企業です。(p.2)DXに取組んでいる日本企業が約56%であるのに対し、米国では約79%とその差は歴然。また「取組んでいない」と回答した企業も日本企業が33.9%に昇るのに対し、米国14.1%と大きな差がついています(図表11-1)。もはや米国ではDXに対して危機感を抱いていない企業が圧倒的に少数派というわけです。過去の調査を踏まえると、数年のうちに日本も同様の状況になると予測されます。つまりこのまま何も行動しなければ、数年後には絶対的な少数派として市場に取り残されてしまう可能性があるのです。

 

2022年は4割の企業がDXに着手 本格化するIT競争

 

 

ここまでは主にDXに取り組んでいる企業の動きを見ていましたが、注目したいのは「DXに取組んでいない」と回答した44.2%の企業における、今後のDXの取組予定時期について尋ねた結果(p.24)です。そのうち4割にあたる38.1%が「2022年以内にDXに取り組む」と回答し、「2023年〜2024年」と回答した企業も12.9%に昇ります。この調査結果から「2022年以内にDXに取り組む」と回答した企業がDX時代の事業モデルを整えた2023年には様々な業界でゲームチェンジが発生することに加え、DXに必要なデジタル人材やベンダーの争奪戦が発生する事態も予想されます。

 

一方でDXに取り組んでいる企業も多くの課題を抱えています。DXの目標設定に対する成果の状況(※5)に関して「成果が出ている」と回答した日本企業は49.5%にしか満たず「成果が出ていない」「わからない」といった回答が半数以上を占めています(p.5)。またデジタル事業の売上比率を正確に把握できていない企業が22.4%に昇る(p.28)などの不安要素も山積しており、DXの推進やデジタルビジネスの強化をミッションとする専門部署の不足が指摘されています(p.50)。

※5 集計対象は、DXへの取組状況で「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」と回答した企業。

 

約2年で驚くほどに進展した日本企業のDXをめぐる状況。しかし実際に取り組むとなると社内のリソース不足など様々な課題に直面します。

 

DXの失敗例についてはこちらで取り上げているので、合わせてご覧ください。

 

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