オンプレミスは残すべき?【クラウド移行の中で起こっていること】

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システムやデータベースをクラウドに移行することは、もはや時代の流れです。以前は懸念があったセキュリティ面においても、クラウドとオンプレミスでの優劣はほとんどなくなっており、クラウド移行の流れは今後さらに加速していくことは間違いありません。

 

しかしその一方で、オンプレミスに回帰する流れも少なからず出てきています。これは、多くの人や企業がクラウドを利用したことで、クラウドとオンプレミス、それぞれの特性が明確になってきたためです。すべてを盲目的にクラウドへ移行するフェーズは、既に終わったのかもしれません。

 

そこで今回は、近年起こっているオンプレミス回帰の流れと、その理由を解説するとともに、オンプレミスでの運用を継続すべきものや、今後のオンプレミスに求められる要素なども詳しくみていきましょう。

 

多くの企業が検討しはじめた「オンプレミス回帰」

 

アメリカのIDGが、企業のITに関する意思決定を行っている551人に対して行った調査によれば、クラウドの導入はすべての業種で3分の2を超えており、IT環境が完全にオンプレミスのみの企業は6%に留まっています。

 

ところが一方で、一度クラウドへIT環境を移行した企業が、オンプレミスに回帰する動きが少なくないことも明らかになりつつあります。

 

TechTargetジャパンが会員を対象に行った、サーバ&ストレージに関するアンケート調査によると、IaaSを利用する組織の4割以上がオンプレミスのインフラにシステムを移行した実績があるか、移行を検討しているとされています。

 

こうしたデータから、企業のIT環境がクラウドサービスへの移行一辺倒ではなくなり、何らかの理由でオンプレミスに回帰していることがわかります。

 

企業が「オンプレミス回帰」を検討する理由

 

 

では、なぜ企業はオンプレミスへの回帰を検討するに至るのでしょうか。ここでは、4つの理由を紹介します。

 

想定外のコストがかかることがわかった

企業が「脱クラウド」を検討する大きな理由のひとつがコストの高さです。代表的な例として挙げられるのが、データの出力にかかる費用です。

 

クラウドサービスでは、安価にデータを取り込めても、出力には高額な料金がかかることが少なくありません。そのため、エッジコンピューティングなどから大量にデータを収集するのに適していても、そのデータを利用するために取り出す際に大きなコストがかかり、これが企業の想定を超えるケースがあります。

 

また、クラウドサービスの利用計画時点では、必要なインスタンス(仮想サーバ)の数やストレージ容量ははっきりとはわからないため、クラウドプロバイダーからの請求書を見て、データベースを一部オンプレミスに戻すことを考える企業が少なくありません。

 

企業固有の事情でセキュリティ対策が難しい

データセンターで利用されている技術と、オンプレミス型プライベートクラウドで利用されている技術を比べたとき、どちらかの安全性が劣るということは基本的にありません。しかし、ユーザー企業の理解が十分でなく不適切な設定が行われたことで、安全性が脅かされることはあります。

 

また、企業固有の事情(守る必要がある法制度・セキュリティ要件など)によっては、クラウドサービスで稼働させることが難しいケースや、データが複雑なためにクラウドでは守り切れないケースもあります。こうした場合、現在の技術では、オンプレミスのほうが優れたセキュリティを実現できます。

 

システム障害が起こっても何もできない

クラウドサービスは、システム障害と無縁ではありません。近年のAWSの大規模な障害も記憶に新しいところですが、クラウドベンダーの努力にも関わらず、完全に停止したり、数日にわたって不具合が解消しないことが実際に起こっています。

 

そして、システム障害が起こったとき、復旧作業に関わることはできず、ただ待つことしかできません。一方、オンプレミスであれば、こうした障害も自社で復旧対応することができますし、再発防止の対策を立て、稼働を安定させることもできます。

 

こうしたことから、システムの可用性(継続して稼働できる度合いや能力)を考え、オンプレミスへの回帰や、クラウドとオンプレミスを組み合わせたハイブリッドクラウド構成を検討する企業が増えています。

 

スキルを持ったIT人材が不足している

前述のセキュリティ面も含めて、クラウドサービスを適切に利用するためには、担当者に相応のスキルが求められます。オンプレミス環境では必要なかった、クラウドサービスに関する知識やスキルを身につける必要があるため、習得のためのコストが必要になります。

 

また、現状、クラウドサービスのスキルのあるIT人材が不足しています。そのため、競争率が高く、すぐに十分な人数を確保できない場合もあります。そのため、パフォーマンスの維持が難しくなり、オンプレミス環境への回帰を検討することになる企業もあります。

 

クラウド移行せずオンプレミスで運用すべきものとは

 

 

では、オンプレミス環境で運用したほうが良いものとは、具体的にどのようなシステムなのでしょうか。3つの例を挙げて解説します。

 

オンプレミスで実行する必要のあるデータベース/アプリケーションと結びついているもの

すでにオンプレミスで運用している資産の中には、クラウドに移すために複雑な作業を必要とするものも存在します。たとえば、オンプレミスで実行する必要のあるアプリケーションと結合されているデータベースや、特定のランタイム及びデータベースに最適化されているアプリケーションがそれに当たります。

 

緊密に結びついたデータベースとアプリケーションがあった場合、どちらか一方をクラウドに移行させることはせず、両方移行、もしくは両方オンプレミス運用を検討したほうが、良い結果に繋がるでしょう。

 

速度が必要とされるデータベース

大量のデータをオンプレミスで扱うアプリケーションは、データの近くに配置し、より高速でデータにアクセスできるようにしたほうが結果は良くなるでしょう。これは、新しい世代のアプリケーションほど重視される性能でもあります。

 

これは「IoT」環境も同様です。IoTデバイスからデータを高速で収集している場合、クラウドに直接データを送信するのでは時間がかかりすぎる可能性があり、オンプレミス環境のデータベース(もしくはエッジクラウド)の使用が合理的と考えられます。

 

レガシーアプリケーション

レガシーアプリケーションも、一般にクラウドとの相性が良くありません。特に、SaaSやPaaSなどのサービスを利用する場合、システム管理者向けの管理・設定項目が省略や抽象化されているケースがあり、運用を難しくする可能性があります。

 

こうしたケースでは、無理にクラウドに移行するメリットはとても小さいと言わざるを得ません。今まで通りオンプレミスで運用を続けたほうが良い結果を得られるでしょう。

 

これからのオンプレミスに求められるもの

 

 

すでにITシステム資産がある企業にとっては、適材適所でオンプレミス環境を残すことが適当です。しかし、何も変えなくて良いわけではありません。いずれ訪れる変化を見据えて、準備をしておくことも大切です。

 

たとえば、クラウドとの親和性は一層重要になるでしょう。今後のオンプレミスは、クラウドと組み合わせてハイブリッドで利用されることが前提となりますから、できるだけシームレスな運用ができるようにしておくことで、将来的な移行もスムーズに対応できます。

 

また、導入や稼働にできるだけ手間がかからない方法を取ることも大切です。IT人材は争奪戦になっており、優秀な人材ほど流動性が高くなり、また獲得が難しくなるでしょう。そのため、属人性を極力排除し、誰にでも運用・管理できるものにしておくことが重要です。

 

まとめ

 

クラウドとオンプレミスの優劣はもはやなくなったと考えてよいでしょう。しかし、向き不向きは依然として存在します。クラウドもオンプレミスも万能ではありませんから、どちらか一方での運用にこだわるのではなく、最適な配置を行うことが肝要です。

 

同時に、今後の大きな流れとしては、クラウド運用の比率が増えるであろうことも忘れてはいけません。今後オンプレミス型システムを導入する場合は、従来の3層アーキテクチャではなく、HCI(ハイパーコンバージド インフラストラクチャ)を導入するなど、来るべき未来へ向けて準備を進めておくことも大切になるでしょう。

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