現政権が掲げる経済成長戦略「デジタル田園都市国家構想」が話題です。この政策は都市部に集中している産業や教育施設などをデジタル技術によって変革し「地方の魅力をそのままに、都市に負けない利便性と可能性」を目指す政策です。2022年の参議院選挙における自民党の選挙公約では「デジタル田園都市国家構想」が「新しい資本主義」と並んで、独立した章で扱われており、重要政策に位置付けられていることがわかります。行政サービスから農業まで様々な分野が対象になるため、IT業界で働くデジタルクリエイターにとっては思わぬところでプロジェクトにジョインする可能性が少なくありません。
とはいえ、いきなり国家プロジェクトにジョインすると言われても具体的にイメージできない方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、デジタル田園都市国家構想で実際に提案・採択されている事業案をピックアップしました。デジタル田園都市国家構想を通して、デジタルクリエイターがどのように日本の将来に貢献できるのか。その一端をご紹介します。
デジタル田園都市国家構想では地方都市における交通・物流問題の解決策として、公共交通のスマート化=オンデマンド型交通サービス事業が採択されています。これはタクシーと公共バスの中間のような、いわゆる「相乗り乗車」サービスです。ユーザーはスマートフォンアプリで乗車予約し、行き先を選択。ドライバーが各ユーザーのピックアップに向かいつつ、AIが最適なルートを自動的に計算し、ドライバーをサポートします。「自分で運転するのは不安だけど、バスやタクシーでは時間やお金の都合が合わない」という高齢者のニーズに応えるサービスです。オンデマンド交通はデジタル田園都市国家構想の採択事業以外にも全国各地で実験事業が行われており、今後も増加が想定されます。
ユーザーの乗車予約にリアルタイムで反応し、最適なルートの算出が求められるため、AI技術やGPS、MaaS関連のプロジェクト経験を活かすことができます。また、主なユーザーとして想定される地方在住の高齢者はITリテラシーがあまり高くないことが予想されるため、操作方法を直感的に理解できるUIデザインや親しみやすさを感じさせるUXの設計など、デザイン面もアプリ普及の重要な要素になるのではないでしょうか。
高齢者の運転事故が社会問題になるなか、地方都市では運転しなければ生活が成り立たない現実があります。オンデマンド交通のようなサービスが普及すれば高齢者の運転事故の未然防止と社会貢献に繋がります(実際に上記事業はKPIに「地域住民の運転免許の返納者数」を挙げている点も興味深いポイントです)。高齢者でも気軽に外出し、住民同士で交流できる豊かな地域社会。そんな温かい光景に、あなたのスキルが貢献できるかもしれません。
地震や台風、豪雨などの自然災害による被害を抑えるためには、迅速に防災情報を届けることが重要です。現在は町内放送やハザードマップ、テレビやラジオの緊急放送が普及していますが、より詳細な防災情報を届けるためにIT技術の活用が期待されています。実際にデジタル田園都市国家構想で採択された事業の一つが、河川水位等のモニタリングシステムです。GPSやIoTを活用し、豪雨時の河川の水位といった防災情報をリアルタイムにモニタリングできます。現地に行かなくても状況を把握できるので、例えば水害時に自宅や職場で避難の準備をしながら河川の水位をモニターし、適切な避難行動を取ることができるようになります。気候変動の影響で自然災害の予測が難しくなっている影響か、デジタル田園都市国家構想では防災関連の7事業、約12.4億円が採択(2022年3月時点、デジタル実装タイプの結果)され、開発が進められています。
災害時はネットワークのトラフィックが増えたり、通信インフラそのものが不安定になることが予想されます。そのため安定した通信を支えるインフラエンジニアのスキルが必要不可欠です。
インフラエンジニアの業務は「不具合を起こさないことが当たり前」であるため、モチベーションの維持に苦労している方も少なくありません。ですが、毎日の業務で培ったスキルがいつの日か、たくさんの人命を救うことにつながるかもしれません。この事業ではGPSやIoTを用いたデータ連携が重要なため、ネットワークスペシャリストなどの検定を通じてスキルアップしておくこともおすすめです。
観光に頭を悩ませている地方自治体の多くが、IT技術の活用に突破口を見出しています。デジタル田園都市国家構想の関連資料では、顔認証でルームキーや決済などの手間を削減できる「手ぶら観光」サービスが紹介されています。すでに和歌山県のリゾート地、紀南地域では顔認証を共通IDにした観光サービスが導入されています。このようなサービスでは、国内旅行者はもちろん、日本語が不自由な外国人観光客にも大きなメリットになります。デジタル田園都市国家構想ではそのほかに観光マップアプリ、博物館の展示資料等をデジタル化したデジタルミュージアムなど、全46プロジェクト、約7.9億円(国費)が採択されています。
高品質なパーソナライズサービスを提供するためには、顔認証やAI〜ディープラーニングの技術に対する理解が求められます。また、紹介した観光スポットに思わず行ってみたくなる魅力的なデザインやUIデザイン計も重要になるでしょう。
新型コロナウィルス感染症の流行拡大以降、観光地は厳しい状況にあります。IT技術で観光客一人ひとりに最適な情報を提供できれば、客単価の向上が期待できます。また外国人観光客に高品質なサービスを提供することで「旅行先に日本を選んでよかった!」と満足してくれるでしょう。日本は「観光立国」を目指し、インバウンドを含めた観光産業の活性化に取り組んでいます。あなたのIT技術が地方都市、ひいては日本経済を活性化させるかもしれません。
「デジタル田園都市国家構想」の採択事業は今回ご紹介したものを含め、2022年3月時点で504団体、816の事業が交付対象になっています。内容も行政サービスのデジタル化、スマート農業、テレワーク支援など幅広い事業が採択されているため、インフラエンジニアやUI / UXデザイナーなど、それぞれの職種に活躍のフィールドが広がっています。
デジタル田園都市国家構想は行政や農業、介護など、IT化が進んでいない分野にも積極的に予算が投下されています。つまり、それだけデジタルクリエイターが活躍できるチャンスが広がっているということです。若手〜中堅レベルの人材も積極的に行動すれば、大規模プロジェクトにジョインすることも夢物語ではありません。デジタルクリエイター一人ひとりのスキルが地域経済の活性化、国際交流などの社会貢献につながるかもしれません。
そのためには日々の情報収集やスキルのアップデートが必要です。例えばDX関連のスキルを獲得して「DX推進人材」にキャリアアップすることなどが挙げられるでしょう。ビジネススキルとITスキル、そして世の中の動きをフォローして、デジタル田園都市国家構想に備えておきましょう。
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