「大会配信の面白さを決める仕事」

お仕事紹介インタビュー「オブザーバー」
株式会社JCG 和田谷直輝さん

#eスポーツ

私たちがよく目にするスポーツ中継。画面越しでも楽しく熱中して観戦できるのは、スタジアムの臨場感や選手の技術が伝わってくる巧みなカメラワークによる部分も大きいのではないでしょうか。

 

そんな試合観戦の魅力を高める職人であるカメラマンは、eスポーツの世界でも大会や配信を盛り上げるために活躍しています。彼らは「立会人」や「観察者」を意味する英語から「オブザーバー」と呼ばれ、裏方として数多くの大会を支えています。

 

 

eスポーツ向けタイトルでは第三者が対戦の様子をチェックできる「観戦機能」が搭載されることが多くなりました。「オブザーバー」たちはその技術を駆使して多彩なアングルから映像を収めるだけでなく、スコアや選手名などの追加情報を配信画面に表示するなど、まさにスポーツ中継さながらの取り組みを行っています。

 

華やかな大会中継を支える世界は、どのような努力によって成り立っているのか。今回は大会運営やイベント企画など、多彩なeスポーツ事業を展開している株式会社JCGにて、オブザーバーを担当している和田谷直輝氏にインタビューでお話を伺いました。

 

──本日はよろしくお願いいたします。

 

和田谷直輝氏(以下、和田谷) 株式会社JCG所属の和田谷直輝と申します。よろしくお願いいたします。

 

──まず、和田谷さんの所属されているJCGという会社について教えていただけますか?

 

和田谷 JCGは日本のeスポーツコミュニティを広め、 eスポーツインフラを支えることを目指す企業です。eスポーツ大会の企画・運営以外にも、eスポーツを活かしたプロモーションのコンサルティングや配信スタジオのレンタルなど幅広い分野でeスポーツに携わっています。

 

△和田谷直輝氏

 

──和田谷さんはどのような経緯で入社されたのでしょうか。

 

和田谷 大学卒業後、とあるeスポーツタイトルでセミプロのような立場で選手活動をしていたんですが、そこで出場した大会でJCGのことを知りました。まずはイベントアシスタントというアルバイトとしてオブザーバーに関する知識を学び、新卒として入社後はオブザーバーを専門にやらせていただいています。

 

──eスポーツにおける「オブザーバー」の仕事について詳しく教えていただけますか?

 

和田谷 「ゲーム内でカメラを操作したり、映像を切り替えたりしている人」というイメージが強いかも知れませんが、JCGでは、映像づくりに関する技術を含めた総合的な役割を全てできることが求められます。大会運営以外の時は技術を磨いたり、ゲームの知識を深めたりしています。ゲームの最新アップデートについて確認するのも重要な仕事です。

 

 

──単に大会でゲーム内のカメラを操作するだけではないんですね。

 

和田谷 スポーツ中継では複数のカメラマンが撮影している映像を切り替えて放送しているように、eスポーツでも複数の映像を切り替えたり、カメラマンが画角を決めて撮影している映像を「こうしたら試合の流れが分かりやすいよね」と工夫して映すことで、面白さを表現するのがオブザーバーの仕事だと思っています。

 

──では、大会には複数のオブザーバーが携わることも多いのでしょうか。

 

和田谷 多い時は1試合に8人くらいでしょうか。画面を選び切り替えるスイッチャーや、常に選手と同様の視点で撮影する人、試合全体を俯瞰で撮影する人など、それぞれに役割分担があります。逆にひとりで担当する場合はそれらを全て兼任しなければいけないので大変ですね(笑)。

 

──映像づくりでは、オブザーバー以外の運営チームとも連携が必要になりますよね。

 

和田谷 そうですね。特に運営チームとはよく連携を取っています。オブザーバーは撮影以外では「試合を管理する」役割も担っていて、接続切れなどのトラブルで選手が試合から抜けてしまった場合にはいち早く気付いて報告し、運営チームと対応を協議します。試合画面に表示する情報のデザインについて、運営や制作チームと相談することもあります。

 

あと、実況解説を務めるキャスターさんとは試合前に「どういう画面が実況解説をしやすいか」という打ち合わせもしています。空撮が多い方が良いのか、一人称視点が多い方が良いのかは結構キャスターさんによって違いがありますね。

 

──それを知ると、少し今後の大会への見方が変わりますね。和田谷さんは選手経験をお持ちですが、そうした能力も生きているのではないでしょうか。

 

和田谷 オブザーバーは決してゲームが上手い必要はありませんが、知識はすごく必要になります。選手が試合を組み立てていく戦略について理解していないと、撮りたい場面を逃してしまいかねません。選手がどう試合を運ぼうとしているのかを察する「先読みの力」を大事にしています。

 

──そうなると、ひとりのオブザーバーさんが複数のタイトルを担当するのは大変なことですね。

 

和田谷 難しくはありますが、複数のタイトルに応用できるように何種類かのタイトルについては勉強・練習しています。大会が決まればそのタイトルの最新アップデートで変わった要素についてチェックしますし、終わった後は担当したチームで動画を見直してブラッシュアップをして、また次の同じタイトルの大会に備える、という流れですね。

 

──「オブザーバーの練習」とは、具体的にどんな内容になるのでしょうか。

 

和田谷 社内大会があればオブザーバーとして観戦用カメラ操作の練習をしたり、あとは仕事外でも友達がゲームしていると「ちょっと見せて」と、その試合の観戦者として入らせてもらったりですね。あとは「どういう画面が良いのか」を研究するためにスポーツの試合、自分なら野球とかサッカーの試合を観戦することも多いですね。

 

──そこに加えてタイトルごとの知識も勉強しなければいけないとなると、非常に大変ですね。

 

和田谷 そのあたりは自分がゲーム大好きなのであまり苦ではありませんね。家でもずっとゲームをやっています(笑)。勉強では専用の機材を覚えるのが大変でした。あまり専門的な知識も持っていなかったので、先輩に教えてもらいながら勉強しました。

 

──やはり普段あまり見かけない機材を使用することも多いんでしょうか。

 

和田谷 そうですね。例えば「リプレイ映像を作るための機材」もあるんですが、この仕事を始めるまで全然知りませんでした。そもそも「オブザーバーは1台のPCで試合を見てカメラを動かしている」と想像していたので、ズラ―っと並んだゲーミングPCからの映像を1台のスイッチャーで切り替えていることも最初は衝撃でした。

 

──確かにゲーム内の機能を使うだけならPCが1台あれば事足りますが、大会の配信ともなるとそうはいきませんね。昨今はオンライン大会も増えていますが、オンラインとオフラインでは環境に違いがあるのでしょうか。

 

和田谷 オブザーバーの仕事、という意味ではあまり違いは無いですね。ただ、環境が違うと選手のプレイが普段と変わってくるんですよね。特に重要な大会の決勝戦などは隠してきた戦術がいきなり出てくることもあるので、完全に読むのは難しくとも断片的な情報から何か特別な雰囲気を感じ取った場合は先回りするよう心掛けています。大きな試合ほどオフライン大会が多いので、そうした難しさはあるかも知れません。

 

──選手同士の駆け引きに、オブザーバーも参加しているんですね。

 

和田谷 そうなんです(笑)。

 

──そんな大変なことも多いオブザーバーですが、和田谷さんはどのような部分にやりがいや魅力を感じていますか?

 

和田谷 イベントや大会の配信画面は7割くらいがゲーム画面なので、それを自分が作っていることのやりがいはありますね。アーカイブを見ながら「俺がこれを作ったんだ」という達成感を味わえますし、SNSで大会での好プレイがクリップ(短い映像の切り抜き)として投稿されていると「このシーンを撮影できていたのはめっちゃ良かったな」と振り返って、感慨に浸っています。

 

──良いシーンをしっかり捉えられる喜びがあるんですね。

 

和田谷 そうです。あるタイトルで世界大会への出場権を争う大会があったんですが、その試合で優勝候補のチームが最終局面で負けてしまったんです。その時は彼らが敵に追い詰められていくシーンを一貫して映すことができていて「一番重要な場面を映せた」思い出として残っていますね

 

──しっかり勝因・敗因が伝わるような映像が撮られていることは視聴者にとっても、そして選手にとっても嬉しいことだと思います。そんなオブザーバー職を志す人にアドバイスなどはありますか?

 

和田谷 オブザーバーという仕事に興味を持つキッカケとして「ゲームが好き、人の画面を見ているのが好き」という気持ちはとても大切です。ただ、オブザーバーを仕事にする上ではその気持ち以上に、eスポーツのプロフェッショナルとして様々な知識や創意工夫が求められます。なので、自分がやりたいことだけじゃなくいろんな知識を持ってオブザーバーをやって欲しいです。「自分がオブザーバーを、eスポーツ観戦を変えたい」くらいの気持ちで入ってきていただけると嬉しいですね。

 

──スポーツ中継のような他分野での見せ方に関する知識や、新しい見せ方を生み出すクリエイティブ職ならではの要素が必要なんですね。

 

和田谷 自分の持ち味みたいなものがあるとやっぱり違いますからね。専門の技術的な面は、いざ仕事にするとなってから教わっても十分だと思います。

 

──他のオブザーバーさんと、そうした見せ方や技術について交流することもあるのでしょうか。

 

和田谷 ありますね。一緒にゲームしたりご飯食べに行ったりすることも多いですし、オブザーバー友達が担当している設備環境を見せてもらうこともあります。仲間内で相手の作った画面に注文を付け合ったりしています。「俺の画面を参考にしなよ」みたいな(笑)。

 

──まだまだ私たち知らない、オブザーバーの世界が既に広がっているんですね。本日は興味深いお話をありがとうございました。

 

和田谷 ありがとうございました!

 

JCGコーポレートサイト:https://www.jcg.co.jp/

JCG ポータルサイト:https://www.j-cg.com/

 

■株式会社JCGとは

eスポーツのオンライン大会プラットフォームを提供する国内最大級のeスポーツプロバイダー。年間1,000回以上に及ぶeスポーツのオンライン/オフライン大会を組成・運営し、年間延べ29.2万人が参加している。

企画制作・配信技術・開発・デザインといったプロフェッショナル人材・チームを有し、プロリーグはもちろん、企業対抗戦や社内eスポーツ大会といったイベント制作の支援まで、ワンストップでeスポーツソリューションを提供している。

「信頼・安心・夢中な場を提供する企業であり続ける」という社会的理念のもと、eスポーツ大会・イベントを通じたユーザーコミュニティの形成・活性化をサポートしている。

 

 

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