原因は歴史的な背景にあり?

なぜ日本でMOBAは「難しい」と感じられるのか

#eスポーツ

eスポーツとして人気のゲームは数ありますが、中でも世界的に競技人口の多いタイトルとして『League of Legends』(以下、『LoL』)の名前を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。

 

2009年にリリースされた『LoL』は全世界プレイヤー数1億人以上とされ、世界で最もプレイヤーの多いゲームとして知られています。2016年には日本版がリリースされ、国内プロリーグもスタートしました。開発・運営元のRiot Gamesは各地のプロリーグだけでなく学生eスポーツやコミュニティ大会の支援にも積極的で、数多くの大会で種目に採用されています。

 

『LoL』のようなゲームジャンルは「MOBA(マルチプレイヤー オンラインバトルアリーナ)」と呼ばれ、戦略性の高い陣取り合戦のようなルールです。MOBAは『LoL』以外にも『Dota2』や『伝説対決-Arena of Valor-』などが世界的に人気のタイトルが多く、高額賞金の大会も数多く開かれています。

 

2021年にリリースされた、人気ゲーム『ポケモン』シリーズのキャラが登場するMOBA『ポケモンユナイト』は、基本無料でスマートフォンでもプレイできるとあって非常に多くのユーザーの目に留まりました。実際にプレイをしてみたり配信を見てみたりしたケースも多かったのではないでしょうか。

 

そんな国際的にも人気の高いゲームジャンルであるMOBAですが、日本ではゲームに詳しくない層にとってはあまり馴染みのあるジャンルではないと言われています。

 

シューティングゲームや格闘ゲームに比べると、MOBAのタイトルで最も浸透していると言える『LoL』でも、日本国内ではプレイヤー数もそこまで多くなく、MOBAは観戦やプレイを通じて「難しい」と感じる意見も多くあります。そのせいで敬遠されていることも考えられます。

では、なぜ、MOBAは日本で「難しい」と受け止められるのでしょうか。

 

不慣れなルール+視覚的に判断しづらい仕組み

 

MOBAを難しいと感じる背景には、日本が昔からゲームが沢山遊ばれてきた国であることが関係しています。ファミリーコンピュータの時代からどのメーカーも「分かりやすい」ゲームを作る工夫を凝らしており、他のメーカーもそのモデルを踏襲することで世界的なヒット作が多数生み出されてきました。

 

『スーパーマリオ』はその代表的な例で、ゲームが始まっても特に操作の説明はありませんが、画面上の右にしか進めない構造になっているので誰もが「右へと進む」目的を理解できるようになっています。そして進めていくにつれ、ジャンプ操作が段差を上るだけでなく、敵を踏みつけて倒したりブロックを叩いてアイテムを獲得したりする目的でも活用できることが分かっていきます。

 

 

ゲーム黎明期から2Dアクションゲームでは「右に向かって進む」形式が多いのは、爆発的なヒットとなった『マリオ』を踏襲することで、新たにゲームの仕組みを説明する手間を省く目的もあると言われています。

 

他のジャンルでも、殆どの対戦格闘ゲームは「画面上の相手の体力ゲージを0にすれば勝ち」であり、パズルゲームの中でも『ぷよぷよ』のような“落ちもの”と呼ばれるタイプは「自分の画面が埋まったら負け」と、ゲームの目的や勝敗条件が簡潔で分かりやすいようにデザインされています。

 

このような工夫は、現在と比べるとハードウェアのスペックも低くソフトウェアの容量も少ない時代からゲームが精力的に開発されてきたことで生まれたものです。複雑なルールや長いチュートリアルを盛り込まずとも楽しめるゲームに触れてきたことで、多くの日本人プレイヤーはさまざまなゲームジャンルのデザインを感覚的に“なんとなく”でも理解し、楽しんできました。

 

対して、MOBAはゲームにオンライン要素が加わりはじめた2000年頃から生まれたジャンルであり、元々は戦略シミュレーションとして「ひとりのキャラクターを操作して相手の本拠地を破壊する」目的のゲームが、マルチプレイヤーによるチーム戦へと進化していったものです。

 

元となった戦略ゲームはRTS(リアルタイムストラテジー)と呼ばれるジャンルですが、これは同時に処理する情報量の多さからPC向けとして数多く開発されてきました。家庭用ゲーム機市場を中心に成長してきた日本ではMOBAも、モデルとなったRTSも浸透していなかったので、初めてプレイしてみても他ジャンルのように“なんとなく”理解するのは簡単ではありません。

 

 

アクションゲームや格闘ゲームと同様に敵プレイヤーキャラの体力を0にすることで一時的に撃破することはできますが、それだけでは勝利にはならず、敵はしばらくすると復活してきます。操作には慣れることができても、対戦ゲームで「敵の本拠地を壊す」という勝利条件には慣れない人も多く、気付けば「敵を倒すこと」が目的になってしまって、勝利に繋がらないプレイをしてしまうのも“MOBA初心者あるある”です。

 

馴染みあるジャンルとMOBAの相違点としては「視覚情報」で有利不利が判断しづらいことも挙げられます。試合が進むにつれてキャラクターの能力が変化していくので、ゲーム開始時と見た目は同じでも実は絶対に勝てない状況になっていることもあるのがMOBAの面白くも難しいポイントです。

 

単純にチーム状況が「今どちらが有利か」も慣れるまでは判別が困難で、プレイを続けていくにつれて段々と分かるようにはなりますが、得点が動く野球やサッカーなどの競技と比べても、初心者が“なんとなく”観戦するハードルが高いと言えます。

 

変化を続ける環境がさらなる難しさに

 

こうした“なんとなく”の理解が難しいMOBAですが、多くのタイトルで似通った部分もあるので、一度しっかり内容を理解しさえすれば基本的な知識をいくつものゲームへと使い回すことができます。となると、ハードルが高いのは最初だけなのでしょうか。

 

実はこれがそうでもないのです。MOBAは操作の精密さや瞬間的な判断も必要にはなりますが、なによりも作戦・戦略が大きく勝敗を左右するゲームです。時には、試合前にお互いが敵に使われたくないキャラクターをゲームから除外して残った中から操作キャラクターを選ぶ「バン&ピック」の段階で大勢が決してしまうとも言わるほどであり、その状況に適した戦略を取ることが非常に重要です。

 

もちろん、どんなゲームでもプレイヤーが研究を重ねることで、定石とされる戦法や最強と呼ばれるキャラが生まれるものです。しかし、MOBAでは多数のキャラクターを登場させ、なおかつこまめに力関係のバランスを調整するアップデートを加えることで、常に環境を変化させ続けることで、特定の戦術やキャラクターばかりの試合になることを回避しているのです。

 

 

冒頭で紹介した『LoL』でも既に150体以上のキャラクターが登場しており、2週間程度のスパンでゲームへの調整が行われています。これによってゲームの面白さが常に新鮮に保たれているのですが、初心者にとってはあまりに覚えることの多いゲームになってしまっており、しかも折角覚えたことも2週間後には状況が変わってしまっている可能性もあるのです。

 

MOBAならどのゲームでもキャラクターの追加やアップデートは必ず行われるものであり、面白さを維持するためにはどうしても初心者に厳しい仕組みになってしまうと言えるでしょう。

 

「知識が必要」と分かれば楽しめる

ここまでの話だけではMOBAをプレイすることを諦めてしまいそうになりますが、決して今から始める初心者が入っていけない世界ではありません。実際に日本でもキャリア僅か数年のプレイヤーが『LoL』のプロチームに採用されるケースもあり、プレイ歴の長さが強さに直結するわけではないのです。

 

キャラクターが多いとは言っても実戦でよく目にするキャラクターはある程度限られており、環境の変化についても現役のプレイヤーなら誰もが研究しているため、そのデータを見れば自分で一から新たなセオリーを考える必要はありません。何より、初心者にも楽しんで欲しいと考えるプレイヤーによって、数多くのアドバイスや指南系の動画や記事が投稿されているので「しっかりとリサーチしてから遊ぶ」ことさえ意識すれば、始めるのに遅いということはありません。

 

2021年にリリースされた『ポケモンユナイト』はMOBAの要素を噛み砕いて『ポケモン』の世界観と上手く融合させており、ゲーム性も簡略化することで手軽にプレイできるようになっています。現在では、『ポケモンユナイト』日本語公式Twitterが『LoL』日本語Twitterの倍以上となる26万人ものフォロワーを獲得していることから、MOBAのゲームルールを浸透させる効果はかなりあったと期待できるのではないでしょうか。

 

もちろん得意不得意はあるジャンルであり、知識だけで必ず上達するものでもありません。それでも日本は2021年の『LoL』世界大会で代表チームが過去最高の成績を収めるなど、少しずつMOBAも浸透し、成果を出しつつあります。興味を持ったなら最初は観戦などから入って、少しでも“なんとなく”楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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