プロ選手は男性ばかり?

「男女差が少ない」とされるeスポーツの現況と展望

#eスポーツ

ゲームを使用した対戦競技であるeスポーツ。プロ選手の活躍も話題となるこの競技は、他のさまざまなスポーツに比べて「性別による差が小さい」ジャンルだと考えられています。

 

体を激しく動かす運動に比べて、ゲームパッドやマウスで操作するeスポーツは体格や筋力の差が影響しづらいことがその大きな理由とされており、実際に行われている大会でも男子と女子で完全に部門が分かれているケースは全く見られません。

 

しかし、プロに限らずeスポーツの大会を見れば、その参加者の殆どが男性プレイヤーです。中には同じ環境でプロとして活躍する女性選手も存在していますが、決して多くはありません。これはどのような事情によるものなのでしょうか。

 

 

好みの違いや小さな差が、大きな環境の差に

 

まずゲーム全体での男女の違いを見てみましょう。2021年6月に総務省が発表した「通信利用動向調査によると、インターネット利用者のうちオンラインゲームを利用している人の割合は、10代から20代の男性が50%を大きく上回っているのに対して、同年代の女性は40%台に留まっています。つまり、ゲームを日常的にプレイしている絶対的な母数は男性の方が多いと考えられます。

 

さらに、好まれるジャンルにも性別ごとの違いがあります。アジア全体でゲーマーを対象に行われた調査では、女性は男性よりもパズルゲームやシミュレーションゲームを好むという結果も出ており、逆にシューティングゲームやアクションゲームは男性によく好まれています。ハードウェアで見ても、女性プレイヤーはeスポーツの盛んなPCゲームよりも、モバイルゲームをよくプレイしているという調査結果もあります。

 

こうした背景を考えると、eスポーツの大会に出場するプレイヤーに男性の方が多いことはある意味当然と言えるでしょう。しかし、それにしても男女の割合は大きく差が開いている印象で、特にeスポーツのトップ層であるプロシーンでは女性選手が圧倒的に少ないのが現状です。

 

ここで紹介しておきたいのは「老若男女楽しめる」と謳われることも多いeスポーツでも、高いレベルでは年齢による影響が大きいという事実です。僅かな操作のスピードが勝負を分けることから、反射神経や動体視力に優れる10代後半から20代前半がプレイヤーとしての全盛期と考えられており、40代以上でトップシーンで活躍している選手は非常に稀です。

 

もちろんタイトルの特徴や個人によって状況は異なるので年齢差と性別差を同じものと考えることはできませんし、実際に活躍している女性プロ選手も存在しますが、男女における体力差も広い意味では実力に影響してくる可能性も否定できません。

 

こうした僅かな差から「男性プレイヤーが多い環境」が作られると、次第にゲームコミュニティが女性にとって参加しづらいものになっていく可能性があります。複数人でプレイするタイトルでも、男性プレイヤーで構成されたチームやグループへ新たに女性が参加していくのは、コミュニケーションなどあらゆる面でハードルを感じるのではないでしょうか。

 

全体的に男性の方が僅かに多く、僅かに有利とも考えられる。そんな僅かな積み重ねが大きくなり、ゲームの世界では男性プレイヤーが目立つ状況になっています。

 

大会を分けることの効果に期待

 

実はこのような男女の競技人口や競技レベルの違いは、将棋やチェスの世界でも長らく考えられてきた問題です。将棋の長い歴史において一度も女性のプロ棋士が誕生していないことからも、その差は間違いなくあると考えられていますが、確実と言える根拠が示されておらず、先天的な脳の構造も影響しているという見方もあります。

 

 

しかし、アマチュア界でのチェスプレイヤーの実力を数値化した研究によれば、競技を始めたばかりの人の強さも、空間把握力や継続力などの直接ゲームの戦術に関係しない能力も、実は男女であまり突出した差は見られなかったと言います。興味深いのは、女性プレイヤーが多い地域では女性はその後も実力を伸ばしやすく、逆に女性プレイヤーが少ない地域では男性に比べて伸び悩むプレイヤーが多いという傾向が見られたことです。

 

これは「環境が男女差を広げている」ことを示していますが、逆に「女性同士で競い合える環境があれば、能力に差は生まれない」可能性もあると言えるのではないでしょうか。

 

もちろん、現実のスポーツと同様に女性がプロとして活躍を続けていくためには、出産による休養など別の課題を解決しなければなりませんが、今後さらにeスポーツの人気を高めていくためにも、女性が活躍しやすい環境を作っていくことの重要性は高まっています。

 

そのために考えられる手段のひとつが「女性限定大会」の開催であり、既に国内の『ぷよぷよ』や海外での『VALORANT』など、人気タイトルで女性のみ参加できる公式の大会も行われ始めています。将棋の世界でも女流のみが戦う「女流棋士」が誕生してから少しずつそのレベルは上がっており、あと一歩でプロ棋士というところまで進むケースも生まれていますから、競技人口の確保がレベルの向上にも繋がっていることが伺えます。

 

大会を分けることのメリットは他にも考えられます。例えば、バレーボールでは力の強い男子に比べてラリーが続きやすいことから女子競技も観戦人気があります。柔軟さを生かした演技ができるフィギュアスケートも、男女で人気の差はない競技だと言えるでしょう。このように、もしかすると「女子eスポーツ」でも新たな魅力や表現方法が見つかるかも知れません。

 

まだまだ完全に制度が整備されているとは言い切れないeスポーツの世界で、現在も男性に負けじと活躍している女子プロ選手も存在しますが、このまま「男子のやるもの」と狭い見方が定着してしまう前に、男女問わず思いっきり戦って盛り上がれるためのアプローチを、男性も一緒になって考えていきたいものです。

 

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