eスポーツでデジタルデバイドの解消を

日本旅行が高齢者eスポーツ事業開拓へ

#eスポーツ

2022年1月、日本旅行はデジタル教育施設「REDEE(レディー)」とeスポーツ事業に関するコンサルタント契約を締結し、高齢者向けeスポーツ事業の開拓に取り組んでいくと発表しました。

 

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旅行代理店のeスポーツ参入、さらには高齢者層をターゲットとした事業というテーマには業界内外から大きな注目が集まっています。

 

今回は、日本旅行ソリューション事業本部コーポレート事業部の井坂努氏に本取り組みの背景や展望についてインタビューでお話を伺いました。

 

──本日はよろしくお願いいたします。

 

井坂 努氏(以下、井坂) 井坂と申します、よろしくお願いいたします。入社から30年ほど法人向けの営業を担当しておりまして、現在は大阪の西日本営業本部に駐在という形で籍を置いて、REDEEさんとのeスポーツプロジェクトに参加しております。ですので、私自身がゲームに詳しくてプロジェクトに携わっているという訳ではないんです、私の子供は毎日ゲームに夢中になっておりますが(笑)。

 

──日本旅行さんといえば旅行会社のイメージがやはり強いのですが、ソリューション事業にも取り組まれているのですね。

 

井坂 そうなんです。やはり営業先で名刺を見せると最初は「旅行の話かな?」と受け取られることもありますが、日本旅行は旅行業で培ってきたホスピタリティを活用したソリューション事業に取り組んでおります。新型コロナウイルスの影響で世界的に移動が制約され、旅行ビジネスの展開が非常に難しい状況に陥ったことが、この事業が拡大する大きなきっかけのひとつになりました。

 

日本旅行は個人のお客様以外にも法人や自治体、教育関係など垣根なく多方面との取引がありまして、この繋がりを横断的に駆使して「今までお客様だった取引先の方々と一緒に課題解決に取り組んでいく」ことがソリューション事業の目的です。既にワクチンの大規模接種会場の運営など様々な分野で活動しております。

 

──そのソリューション事業の一環として今回eスポーツ分野に着手された、という流れになるのでしょうか。

 

井坂 はい。eスポーツはコロナ禍以前から大きく成長していて、2019年頃から社内でもかなり注目されている業界でした。様々なニュースを調査している中で、大阪の吹田市に誕生したeスポーツ施設「REDEE」に着目したのですが、この施設の運営会社が旅行用品も扱っているレッドホースコーポレーション様で、既に弊社と関係性のある会社だったんです。それなら一緒にできることがあるのでは、と連絡してみたのがeスポーツ分野へ実際に参入することになったきっかけです。

 

──プレスリリースではREDEEとのコンサルタント契約によって高齢者向けeスポーツ事業の共同開発を行っていくとの発表もありました。高齢者向け、というジャンルにはどのような意図があるのでしょうか。

 

井坂 既にeスポーツ業界では若者向けのサービスは飽和状態に近く、後発である私たちが同じように若者をターゲットにしても、出来ることと言えば大会の協賛や交通のお手伝いをするくらいです。実際に関東の日本旅行はJeSU(日本eスポーツ連合)の賛助会員として海外遠征の手配なども行っていたのですが、そこから広がりが待っているとは言い難い状況でした。そこで目を向けたのが高齢者層の持つ課題です。

 

オンラインゲームの利用データを見てみると、30代までのユーザーの多さが顕著で、逆に60代以上は1割にも満たないというのが現状です。ですが日本は人口の1/3が高齢者とも言われる高齢化社会で、フレイル予防や定年後の社会参加、デジタルデバイドなど色々な課題を抱えています。この課題にeスポーツをくっつけることができれば、意外と「eスポーツは高齢者と相反するものではない」と言えるのではないかと考えました。

 

──それがリリースでも発表された「ゲーム・最新テクノロジー体験がシニア世代に与える3つの意義」に繋がるのですね。

 

▲発表とあわせて定義された「3つの意義」

 

井坂 その通りです。例えばゲームで指先を動かしたり声を上げてコミュニケーションしたりすることが脳に良い影響があると考えられますし、ゲームを通じた世代間交流にも繋がります。苦手意識があってスマートフォンの操作が出来ないという方にも、まず簡単なゲームから始めることでデジタル機器へのとっつきやすさを感じてもらえれば、次第に離れて暮らす家族とスマートフォンでビデオ通話ができるようになるかも知れません。

 

──eスポーツを通じて、高齢化問題の解決に向かっていくわけですね。

 

井坂 厚生労働省老健局発表の「介護保険制度の概要」によれば、2000年に介護保険法が施行されてから約20年、65歳以上の被保険者数は約1.6倍に、要介護(要支援)認定者数は約3.1倍に、介護サービス利用者数は約3.3倍にも増加しています。

 

更に20年後の2040年を展望すると、高齢者の人口の伸びは落ち着き、現役世代(担い手)が急減するという新たな局面を迎えると予想されています。国としても2040年へ向けて「誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指す」政策課題の一つとして介護予防、フレイル予防、認知症予防といった「健康寿命延伸プラン」が打ち出されており、まさに国としても急務の課題となっています。

 

──それだけ本取り組みには進めていく意義もあると感じます。昨年末には実証実験も行われたとのことですが、それについても詳しく教えていただけますか。

 

井坂 兵庫県にある有料の高齢者向け居住施設「サンシティパレス塚口」で実際にeスポーツ体験会を行いました。その施設には700名くらいが入居されていて、もともとバス旅行などをお手伝いさせて頂いていた関係性だったんですが、支配人の方とお話してみると「入居される方の世代は少しずつ変わっているのに、レクリエーションは昔から変わっていない」という課題もあったんですね。そこで新しいコンテンツとしてeスポーツを提案させていただいて、去年の12月に1回目の体験会を行いました。

 

当初は60代の方が中心になるだろうと予想していましたが、実際は80代や90代の方が半分くらい来られていて驚きました。最初は「興味はあるけど難しそう」というリアクションだった方も触ってみると楽しんでくださって、体験台に列ができるくらいの盛り上がりになりました。「次はいつやるの」というお声も頂いているようですし、私たちとしても2回目3回目と続けていくことを予定しています。

 

▲実際の体験会の様子

 

──かなり手応えのある内容だったということですね。

 

井坂 そうですね。サンシティパレスさんは全国に複数の施設がありますから、施設ごとの対抗戦をやったり、敬老の日にはお孫さん世代とゲームで交流したりと色々な可能性があると思います。施設内にゲーミングサロンを作っても面白いかなと思います。これをモデルケースに、他にも施設や自治体にどんどん広げていける可能性があると感じています。

 

──そうした需要が増えるとゲームを教える人材が必要になり、ゲームに詳しい若者の雇用創出にも繋がりますね。

 

井坂 それも世代間交流になりますよね。今回はREDEEのアルバイトスタッフである10代20代の方にお手伝いしていただいたんですが、入居者の方からは若い方とコミュニケーションするのが楽しいという意見もありました。ちょうどお孫さんの世代ですし、良い機会になったのではないかなと思います。

 

──今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか。

 

井坂 まず、実証実験は続けてやって行きたいと考えていますし、同時に「脳に良い」という考えのエビデンスとなる研究も進めていくことが必要になります。科学的な根拠を持った取り組みとして他の施設へと導入も広がっていけば、自治体が予算を組んで一部費用を負担するケースも生まれるのではないでしょうか。導入施設が増えて取り組みがもっと拡大すれば、介護用品などのメーカーからスポンサードもいただけて高齢者がチームを組んでeスポーツに挑戦する輪が広がって行く可能性もあると考えています。

 

もうひとつは、やはり旅行会社として大会も出来たら良いですよね。VRのゴルフゲームを使用して「VReスポーツ大会シニア部門」ができたら面白いと思いますし、競技人口が増えたらワールドマスターズゲームの種目にeスポーツが採用される可能性も考えられます。そうした可能性の実現のためにも、まずは賛同いただける方々とのコネクションを広げていくことができればと思っております。

 

──井坂さんも実際に携わられてゲームやeスポーツへの考え方は変化しましたか?

 

井坂 変わりましたね。今は専門学校でeスポーツを扱うカリキュラムもあって、時代が変わってきているのを感じます。教育旅行について現場の方とお話していても、プログラミングが必修科目になった影響もあって変化を感じているという声を耳にしますね。デジタルに強くなっていくことで活かせる職業があるんだなと思いますので、うちの子供がゲームをしていてもあまり小言を言わなくなりました(笑)。

 

──需要の増加によって新たなサービスが必要となる可能性も大いにありますね。

 

井坂 本当にそう思います。例えば、今は「eスポーツに取り組みたい」と考えいても、介護施設のスタッフの方々が自分で必要な機器や環境を調査して揃えていくのは大変です。そこで我々が「高齢者向けeスポーツのサブスク」のような形で、年に数回ゲーム専門のスタッフが施設へゲーム機や新しいソフトを持って行って、設置・操作方法をガイドするサービスも考えられますよね。介護施設のスタッフさんに向けたeスポーツ指導研修や、コールセンター的なビジネス、あるいはマッサージ機能付きゲーミングチェアとか(笑)。今までの倍以上のマーケットが開拓されるのではないかなと思います。

 

──高齢者向けゲーミングデバイスは確かに面白そうですね。今後の取り組みも楽しみにしております。本日はありがとうございました。

 

井坂 ありがとうございました。

 

日本旅行ニュースリリース

【日本旅行 × 日本最大級のデジタル教育施設「REDEE」 e スポーツ事業に関するコンサルタント契約を締結】

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