ガンホー森下一喜社長 × 佐藤社長

【ガンホー・森下一喜社長】『パズドラ』で仕掛けるeスポーツの全容

#インタビュー

 

5月26日、ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)が主催した年に一度の大イベント「ガンホーフェスティバル2019」は、会場の幕張メッセに非常に多くの来場者を集め、大盛況でした。特に盛り上がったのが、人気タイトル『パズル&ドラゴンズ(以下、パズドラ)』の派生ゲームアプリ『パズドラレーダー』で、プロ選手同士が対戦して頂点を決める「パズドラチャンピオンズカップ2019」。優勝者には1,000万円が贈られる国内屈指の賞金制大会を開催したガンホーは、これまでeスポーツをどのように仕掛け、今後どう進化させようとしているのか――。エクストリーム社長の佐藤昌平が、ガンホー社長、「パズドラ」シリーズ エグゼクティブプロデューサーの森下一喜氏を直撃し、特別対談でその真意に迫ってみました。

 

 

森下一喜氏プロフィール

1973年生まれ。2002年ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社を創業。

「ラグナロクオンライン」を日本でプロデュースし、2012年「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」の企画を手掛け、パズドラシリーズ エグゼクティブプロデューサーを務める。

代表作: 「パズル&ドラゴンズ」シリーズ、「ラグナロクオンライン」、「LET IT DIE」など

 

「恐ろしいことになった」後楽園ホールの大会

佐藤昌平社長(以下、佐藤):ガンホー様はかなり以前からeスポーツに注力し、今では人気タイトル『パズドラ』で抜群の集客力を誇る大会を運営されています。国内のeスポーツが最近になって急速に勢い付いており、ようやく時代が追い付いてきました。

 

 

森下一喜社長(以下、森下):最近の大きな変化は主に二つ。一つが、昨年あたりからようやく「eスポーツ」という言葉が定着してきたことです。そして、もう一つが、私たちが開催する『パズドラ』の大会に協賛するスポンサーが増えたこと。数年前であれば、スポンサー探しに苦労し、営業先でも「eスポーツとは何か」など、ゼロから説明しなければならなかった。それが今ではeスポーツという言葉を知らない人はいないし、逆に大会が開かれることを知って、先方からスポンサーに名乗り出ていただけることも珍しくなくなっています。昨年から今年で潮目がガラッと変わったというのが率直な印象です。

 

佐藤:ガンホー様がオフラインイベントでプレーヤー同士が戦う競技大会を始めたのは、16年前の2003年。『ラグナロクオンライン(以下、ラグナロク)』の大会が最初です。当時はまだeスポーツという言葉が日本で普及していなかった時代。まさにこうした大会を開催し始めた草分け的なゲームメーカーです。

 

森下:純粋に「ゲームの楽しみ方を広げたい」という思いで始めたわけで、運営の大半を担ったのは社員です。実は、現在実施しているガンホーフェスティバルや複数のパズドラの大会も、変わらず多くの社員で運営しており、手弁当感は変わりません(笑)。さて、そうして2003年に大会を開きました。当日、物販のブースは盛況だったのですが、いよいよメインイベントの『ラグナロク』の対戦試合が始まる時間になると、波が引くように来場者が帰り始めてしまったのです。結局、試合の観戦席は人がまばらな状態で、鳴かず飛ばずのスタートでした。

 

佐藤:でも、最初につまずいたのにあきらめず、競技大会を毎年のように開いてきました。

 

 

森下:もう、“意地”だけでやってきたようなものです(笑)。定着させるには、とにかく続けるしかない。そんな思いで、毎年、続けて、続けて…を地道に繰り返してきたのです。すると、年を追うごとに観客も増え、そのうち収容しきれなくなったために会場もパシフィコ横浜や東京ビッグサイトなど、大箱で行うようになりました。今のeスポーツにつながる「ゲームの対戦を観戦する」文化が、徐々に根付いていくのを実感していた時期でした。

 

佐藤:パシフィコ横浜の大会では、熱狂的な盛り上がりだったと聞いています。さらに、大ヒットタイトルとなった『パズドラ』では、リリースした2012年の当初から大会を開催。この決断にも先見の明を感じます。

 

森下:最初の会場は忘れもしない後楽園ホールです。『パズドラ』では初めての大会だったので、どれほどの来場者になるのか、読めない状況でした。しかし、ふたを開けてみると、恐ろしいことになってしまいました…。押し寄せた来場者が会場入口から並び、最寄りの水道橋駅まで達するほどの長蛇の列ができてしまったのです。

 

 

佐藤:『パズドラ』の達人同士の対戦を見たいと思う人の需要は、森下社長の想定を超えていたわけですね。その頃は賞金制の大会ではなく、優勝しても得られるのは「名誉」だけ。それでも名誉のために戦う人たちがいて、その戦いの様子を見守りたいと思う人たちが大勢いる。eスポーツという言葉が日本に上陸する前から、ガンホー様は『ラグナロク』や『パズドラ』によって、既に集客力のある大会を開ける地力を持ったメーカーに、一足早くなっていたというわけです。

 

主役である“選手”にスポットを当てる

佐藤:今やeスポーツはトレンドの一つとなり、その一翼をガンホー様が担っているというのが私の見立てです。

 

森下:いえ、当社の頑張りだけでなく、現在、eスポーツが盛り上がっているのは、ゲームメーカーや様々な団体、企業が積極的に大会を開くなど、草の根的な活動をしてこられた、取り組みが少しずつ実を結んだ結果です。加えて、近年は競技性のある対戦型ゲームの開発に各社が力を注いでいる点も背景の一つです。昔から対戦型ゲームは一部のメーカーが作ってきましたが、その傾向が全体に波及しているのが、今のゲーム業界の特徴です。競技性の高いゲームによって、eスポーツの大会が開きやすくなっていることも、追い風になっています。

 

佐藤:一方、最近では自宅でプレーしている様子を撮影してライブ配信する「ゲーム実況」がトレンド。ゲームファンの間では、上手なゲーマーのプレーをオンラインで観戦することが当たり前になってきています。これも、eスポーツ観戦の高まりを後押ししているでしょう。ところで、「パズドラチャンピオンズカップ2019」を私も視察しましたが、広い会場が数多くの来場者で満席状態。熱気に包まれ、抜群の盛り上がりでした。何か秘訣がありそうです。

 

森下:これは特に昨年から取り組んでいることですが、力を入れているのが「選手にスポットを当てること」です。大会に出場する個々の選手はWebサイトなどで大々的に紹介しています。地方の予選大会まで社員が足を運んで、有名選手が勝ち上がる様子や日常を取材してレポートするなど、スポーツ紙がプロ野球選手やJリーガーの記事を載せるのと同様に、選手の横顔を積極的に紹介しています。そうして、キャラクター性やストーリー性を伝えることで、選手の存在を際立たせ、応援する気持ちを醸成し、それぞれにファンが付くように工夫しているのです。

 

佐藤:つまり、選手のバックグラウンド情報を手厚くアピールすることが、有効なアプローチというわけですね。

 

森下:そうです。バックグラウンド情報があるからこそ、自分好みの選手を探しやすくなり、応援したくなる。eスポーツの主役はあくまでも選手です。その主役たちをどう魅力的に見せることができるかが、盛り上がりを左右するわけです。将来はその中からスター選手が出てきて、超絶なプレーを見たいがためにさらに多くの人たちが会場に足を運ぶ好循環が生まれます。これは、他のスポーツで共通してみられる鉄則であり、それはeスポーツでも同じことなのです。

 

佐藤:ガンホー様は黎明期から長い間大会を運営してきたからこそ、eスポーツを盛り上げるための方法が見出すことができました。選手を主役にする戦略は、非常に重要となる視点だと思います。

 

森下:しかし、この方法が完成形なわけではなく、いまだ発展途上です。今はeスポーツという言葉が先行してしまっていて、進め方や戦略が追い付いていないのが現状でしょう。とにかく大会では主役は選手です。私たちメーカーはあくまでも黒子に徹し、選手をサポートすることが肝心です。

 

例えば、大会に出場する選手は中学生から社会人まで年齢層は実に幅広いのですが、中学生であれば保護者の方に、社会人であれば会社側に理解していただくことが何よりも大切です。そこで、私たちが直接説明に上がることもあります。先日も、社会人選手が出場することをご理解いただくために、私たちが会社の上司の方にお話しする機会をいただいたケースがありました。

 

佐藤:選手をサポートするまさに黒子的な動き。あたかもマネージャーのように、全面的に支援していることがよくわかるエピソードです。

 

eスポーツを興行ビジネスとしてどう成功させるか

佐藤:「パズドラチャンピオンズカップ2019」は優勝賞金1,000万円、賞金総額2,000万円と、高額な賞金が話題になりました。賞金額が上がっていけば、私は将来的に日本でもゲーム一本で食べていける選手が続々と現れてくると思っています。

 

森下:欧米では、年収が億を超え成功しているプロゲーマーが何人もいます。その人たちは、大会で賞金を稼ぐだけでなく、ゲーム実況で広告収入を得たり、プロゲーマー本人にスポンサーが付いたり、ゲームとは全く無関係のジャンルのテレビCMに出演するなど、様々な形で収入を増やしています。音楽CDをリリースする選手もいるほどです。

 

佐藤:いわば、ゲーマーとしてだけではなく、タレントのような立ち位置で稼ぐ人が増えてきているわけです。

 

森下:日本でもそうやって稼ぎ、ゲーム一本で食べていけるプロゲーマーが遅かれ早かれ出てくると私も思います。また、『パズドラ』と同時に他のゲームタイトルの認定プロになるなど、複数のプロライセンスを持つ選手も出てくるはずです。自動車免許で「普通」「中型」「大型」「大型二輪」など、種類別に多くのライセンスを取得していくイメージです。

 

しかし、そうしたプロゲーマーになるためには、血のにじむような努力が必要なことは、他のスポーツと同じです。「大会で優勝して1,000万円を楽に稼げて羨ましい」と思うかもしれませんが、それは決して簡単なことではありません。『パズドラ』でプロのライセンスを持っている人は今12名いますが、私はその人たちと1,000回対戦しても1勝もできないでしょう。単にゲームがうまいだけではプロとして活躍することはできません。大勢の観客の前でプレーする緊張感に耐えられる強靭なメンタルも必要だからです。

 

佐藤:テクニックに加え、タフな心臓を兼ね備えたプレーヤーこそが、プロになることができ、頂点を極められるシビアな世界だと、私も認識しています。

 

さて、『パズドラ』では、ライセンス取得者だけが出場できるチャンピオンズカップに加え、上位がプロのライセンスを取得する権利を得るチャレンジカップ、プロアマ両者が出場するオープンカップを運営。さらに昨年からは認定プロ選手が総当たりで王者を決めるプロリーグもスタート。舞台は着々と整っています。

 

森下:次は、どのようにスター選手を育成していくかが課題です。さらに言えば、eスポーツを興行ビジネスとして、どう成功させていくかも考えていかなければならないでしょう。現状、観戦するための入場料は無料です。しかし、プロ野球でもJリーグや大相撲でもチケットを売って見に来てもらうビジネスとして成立し、そこにファンが付いています。現時点で、私たちは入場料を取ろうとは全く思っていませんが、興行ビジネスとして発展させることを考えた場合、将来的にその議論は避けては通れません。現に米国ではeスポーツで入場料を取る大会もあります。さすがはショービジネスの国です。

 

佐藤:日本でもショーとして見せるためのロイヤリティをどれだけ高められるかが、今後のeスポーツの鍵を握りそうです。ガンホー様でも、これからeスポーツの価値を高めるためにどのような手を打っていくか、私自身楽しみにしています。

 

森下:まずは、『パズドラ』の対戦機能を強化し、より競技性を高めていくことが第一です。その他のタイトルでも競技性の向上を進めていければと思っています。ただし主眼は、あくまでも「ゲームを面白くすること」です。楽しむための競技性が高まり、結果としてeスポーツの大会も盛り上がることにつながればと考えています。

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