行政とeスポーツ②

日本の行政とeスポーツの現在

前回、「各国政府はeスポーツをどのように支援しているのか?」という記事で、eスポーツをめぐる各国の取り組みについてご紹介しました。今回は、日本の行政のeスポーツの取り組みについて見ていきましょう。

 

国体で「eスポーツ大会」開催

国体こと国民体育大会は行政主催のスポーツ大会として最大のものですが、2017年の愛媛国体以降、「文化プログラム競技タイトル」としてeスポーツの大会が開催されています。愛媛国体では「パワプロ」こと「実況パワフルプロ野球」が種目となり、愛媛県内の16チームが参加しました。翌2018年の福井国体でもやはり「パワプロ」を種目として、福井県内の14チームが参加しました。

 

そして来年2019年9月に茨城県で開かれる第74回国民体育大会および第19回全国障害者スポーツ大会で行われるeスポーツ大会は、「都道府県対抗戦」としての開催となり、規模が一挙に大きくなることが見込まれています。使用タイトルは「FIFA」シリーズと覇権を争うサッカーゲーム「ウイニングイレブン」です。販売元である株式会社コナミデジタルエンタテインメントの協力のほか、日本サッカー協会も主催者として名を連ねており、自治体、ゲーム/eスポーツ業界と既存スポーツ業界が揃って取り組む大会となるようです。

 

 

この国体は公共団体が主催する国内で初めての全国的なeスポーツ大会になりそうです。また注目すべきは、茨城県が「eスポーツは、障がいや年齢などに関係なくみんなが楽しめる」ということを強調している点です。「多くの人が平等に楽しめるため、多様性に貢献する」というのはeスポーツが行政や教育に関わるうえで重要な視点ですが、この国体が多くの人にそれを認識してもらう良いきっかけとなるかもしれません。

 

自治体ぐるみのeスポーツ振興

金沢市はeスポーツ大会開催のための人材育成やゲーム関連企業の誘致のために市の予算を計上しました。行政として明確に “eスポーツ” に予算を割いた極めて珍しい例と言えるかもしれません。金沢市にはPC周辺機器メーカーとして世界的に有名な株式会社アイ・オー・データ機器の本社はじめ、IT・ゲーム関連の実力企業が集まる街でもあるため、eスポーツによって産業のさらなる振興を狙った面があります。

 

予算がどのように使用されるのか、現段階では定かではありませんが、日本ではまだ “eスポーツの街” として認識されている市町村はない段階です。(海外ではたとえば、Intel Extreme Mastersというeスポーツ大会が毎年開催されるポーランドのカトヴィツェ市が “eスポーツの街” として有名です。)もし将来金沢市が、eスポーツの振興によって他の街に先駆けて “eスポーツの街” として認識されるようになれば、先見の明があったとして評価されることでしょう。

 

eスポーツ選手のビザ発給問題と日本政府の対応

前回の記事でも触れましたが、新しい産業であるeスポーツの世界では選手の国境間の移動が問題になります。これまでも主要な大会にビザ問題で出場できなかったり、危うく出場を逃しかけたりした選手は何人もいます。そのような中、国によっては「eスポーツ選手にアスリートビザを発行する」ための措置を明確にしています。

 

さて、日本において外国人eスポーツ選手のビザ問題がどうなっているかというと、2016年にはじめて、プロゲーミングチーム「DetnatioN Gaming」に所属する韓国人選手にアスリートビザ(興行ビザ)が発行されたことが話題になりました。とはいえ、これでeスポーツ選手へのビザ発行の門戸が広く開かれたわけではなく、やはりケースバイケースでチームと選手双方が厳しく審査される状況は続くでしょう。もちろん、どのような場合でもビザは厳しく審査されるのですが、既存スポーツのような実績があるわけではないeスポーツ業界にとって壁は高いといえます。

 

国として「eスポーツというものをこのようにとらえ、従ってビザの発行はこのように行う」ということが明確になれば、外国の強豪選手を招く動きも盛んになり、eスポーツ業界もさらに盛り上がりますが、現在のところeスポーツに関するそのような基準はない状態です。

 

 

しかし、eスポーツに関して行政として動きがないわけではありません。総務省は2018年3月「eスポーツ産業に関する調査研究 報告書」を発表し、国内外のeスポーツ業界の状況をまとめました。また、経済産業省が2017年2月に出した「オンラインゲームの海外展開強化等に向けた調査事業」は、eスポーツ業界の動向についても多くのページを割いています。行政としてのこれらの情報提供は、今後 “eスポーツとは何か” を明確にし、その上で政策に反映する準備を行っているととらえることができるかもしれません。

 

【参考記事】

ファミコン世代、パワプロ大会挑む

eスポーツを地場産業に 初めて予算計上

茨城県、国体で「eスポーツ大会」開催、都道府県対抗で「ウイニングイレブン」