レクリエーションから競技の世界へ

高齢者に広まるeスポーツ

#eスポーツ

「若者向け」や「若者に人気」という表現でよく紹介されるゲーム対戦競技“eスポーツ”。

 

ゲーム専用機器におけるユーザー分布など年齢層を示すデータを参照すれば、確かに30代までが全体の過半数を占めている場合が珍しくなく、コンテンツの主なターゲットは若年層であると考えられます。実際にeスポーツ大会でも10代で活躍する選手の姿も目立ちます。

 

ですが、決して門戸が若年層以外に開かれていない訳ではなく、これまであまりイメージがなかった高齢者、つまり65歳以上のシニア層にも広がりつつあるのをご存知でしょうか。

 

自治体による高齢者支援の一環としてシニア向けの「eスポーツ教室」が開催されるケースは日本各地で事例が確認できるほど広まっており、以前ご紹介した2020年9月に神戸市でオープンしたシニア専用のeスポーツ施設「ISR e-Sports」のような常設型の取り組みも生まれています。

 

今回は日本総人口の3割近くを占める“高齢者”とeスポーツの関係性について、その現状を紹介しながら考えてみたいと思います。

 

高齢者向けeスポーツに注目が集まる

高齢者にゲームとeスポーツの認知が広がり始めた要因のひとつに、孫世代にあたる小中学生世代での大きなブームが挙げられます。今では「なりたい職業」としてゲームクリエイターやeスポーツ選手が紹介されることも多く、家族間での話題として親世代や祖父母世代にもゲームタイトルや「eスポーツ」という言葉が知られるようになっています。

 

加えて、ゲームをプレイすることによる「認知機能の向上」効果にも注目が集まっています。海外では「高齢者にゲームをプレイしてもらった後の認知機能テストのスコアがプレイ前よりも向上していた」という研究報告もあり、認知症予防など脳トレに効果的な取り組みとして介護業界にも広まっています。

 

「介護予防総合展に「eスポーツ・健康ゲーム ゾーン」が新設」

 

こうした背景から徐々に「高齢者の方でもゲームを楽しめて、良い効果が生まれるのでは」という考え方が生まれ、同時に高齢者の方にも「今話題になっているゲームをやってみたい」という気持ちが芽生えたことで機会として実現するようになりました。

 

 

国外ではシニア向け大会も開催

以前はあまり聞かれなかったシニア世代のeスポーツが現在はこれほど浸透しつつある現状には驚かされるばかりです。

 

もちろん「eスポーツ」そのものが社会全体に認知され受け入れられつつあることや、コロナ禍で高齢者にも新たなレクリエーションやコミュニケーションの形が求められていたという背景はあると考えられますが、高齢者の方たちにとって「ゲームを真剣にプレイすること」に対する抵抗感やハードルは、一般的にイメージされるほど存在しなかったのではないでしょうか。

 

現在広まりつつある体験会やレクリエーション的な活動から更に踏み込んだ取り組みでは、シニアだけのeスポーツチームや大会もスタートしています。2021年10月に秋田県で結成された平均年齢65歳のeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」はチームの目標の一つに「プロになって収入を得ること」を掲げており、毎週チーム練習を行うなど精力的に活動しています。当然ながら健康促進や世代間交流などの目的も兼ね備えており結果が全てという存在ではありませんが、プロチームに近い形態を採用している点で非常に珍しく今後に注目したいチームです。

 

ただ、eスポーツは直接的な運動能力の差が影響しないとは言え、殆どのジャンルで反射神経が重要になることから操作能力のピークは10代から20代とされています。体力的な問題もあり、年齢制限のない大会でシニア世代が試合を続けていくのはあまり現実的ではありません。日本でも今後さらに「マタギスナイパーズ」を追う存在が誕生していくことで、シニア世代の競技シーンが発展することが期待されます。

 

国外では既にそうした実例もあり、FPSタイトル『Counter-Strike: Global Offensive』では2019年にシニア向けの世界大会が開催されました。世界各国から60代、70代のプレイヤーが集結した大会を制したのはスウェーデンのシニアチーム「Silver Snipers」。同タイトルの世界大会出場経験者がコーチを務めており、その活躍ぶりはeスポーツ界でも話題を呼びました。

 

世代を超えたコラボレーションを

日本でも確実に認知・導入が進んでおり、コロナ禍でのコミュニケーションツールとしても期待を寄せられるシニア世代のeスポーツ。これまでとは違った層の人達が新たに関心を持ってチャレンジしている姿には、いちeスポーツファンとしてシンプルに嬉しさを感じずにはいられませんが、今後のためにもしっかりと制度や環境を整備していくことも必要になってくるでしょう。

 

特にオンラインゲームをプレイする際には対面でのコミュニケーションとは違ったリテラシーが求められるので、そうした経験の少ない高齢者がセキュリティ面のトラブルなどに巻き込まれないように細心の注意が払われるべきです。逆に「eスポーツをやっていたからPCが使えるようになった」「情報セキュリティの意識が高まった」といわれるような環境を作っていければ、ますます多くのユーザーを獲得できる可能性もあるでしょう。

 

今後の成長によっては「高齢者に合わせたeスポーツデバイス」市場が生まれたり、「孫世代と一緒に出場する大会」がスタートしたりと、更に市場が拡大するしていくことも考えられます。これまでとは違った企業からスポンサードを受けられる可能性や、現役選手の引退後のセカンドキャリアとしてシニア世代へのコーチング業が開拓されていく可能性もあるのではないでしょうか。

 

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