「eスポーツ大会を作る」ために必要なこととは?

ウェルプレイド・ライゼスト株式会社取締役部長・浅野洋将氏インタビュー【前編】

#eスポーツ

2021年2月、ウェルプレイド株式会社と株式会社RIZeSTの合併によってウェルプレイド・ライゼスト株式会社が誕生しました。

以前よりイベントや大会制作を中心にeスポーツ界で活躍してきた両社の合併は業界で大きな話題を呼び、その後もさまざまな角度からeスポーツ界を盛り上げる施策で注目を集め続けています。

 今回はそんなウェルプレイド・ライゼスト社の取締役部長・浅野洋将氏へオンライン取材でお話を伺いました。

 

意外と知られていない「eスポーツの大会制作」という事業の裏側や、広がり続けるeスポーツ界で手がける新事業へのビジョン、そして求める人物像まで。日本のeスポーツ界をリードする「eスポーツの総合商社」に迫ります。

 

──本日はよろしくお願いいたします。

 

 浅野洋将氏(以下、浅野) ウェルプレイド・ライゼスト株式会社取締役部長の浅野と申します。よろしくお願いいたします。

 

△浅野洋将氏

 

──早速ですが、会社の事業について教えていただけますでしょうか。

 

浅野 ウェルプレイド社は合併以前から数えて創業から5年以上経ちますが、その基幹となっているのが「クライアントワーク事業」です。国内外のゲームメーカー様や大会を企画しているオーガナイザー様からの依頼を受け、やりたいことを企画に落とし込みながら大会を実施運営していく。という事業ですね。

 

──いわゆる「eスポーツの大会を作る」という事業ですね。浅野さんはどのような業務を担当されていますか?

 

浅野 僕はクライアントワーク事業と対をなす、大会制作以外の新規事業を扱う「パートナーソリューション事業部」の事業責任者をしています。社内では「PS事業部」と呼ばれていて、例えば「どう活躍すれば、どういう風にお金を稼いだらいいか分からない」という選手やストリーマーを最大限にサポートするマネジメント業務や、昨今だとeスポーツに関連する様々な事業会社さんとアライアンスを組み、パートナーとして新しい事業を作っていく役割を担っています。

 

──まずクライアントワーク事業について詳しくお聞きしたいのですが、具体的に「eスポーツの大会を作る」というお仕事にはどのようなステップがあるのでしょうか。

 

浅野 まず「大会をやりたい」という依頼を受けましたら、クライアントさんと話し合ってその大会の目的や形式、やりたいことを言語化して整理します。そして要件が固まったら大会ルールを整備したり当日の会場を手配したり、大会運営で必要な人員も準備します。大会の模様を配信する場合はその機材の選定やスタッフの手配も含まれますね。この「大会を企画してから当日運営・配信するまでを一括で内製している」ことが弊社の強みになります。

 

以前はオフラインの場に集まって観客の皆さんと一緒に熱狂を生み出す構図が主だったんですが、最近は新型コロナウイルスの影響もありオンラインで完結する大会のスキームが増えています。ただ、eスポーツには元々「オンラインで完結できる」相性の良さもあるので、実況解説だけはスタジオで撮影しながら選手は自宅から参加できるよう機材の手配をして、皆さんも自宅で快適に視聴できる環境を準備している形になります。

 

──オンライン形式ならではの難しさなどはありますか?

 

浅野 これはオフライン大会でも共通して意識していることなんですが、大会を「誰に見て欲しいのか」を考えると、やっぱりそのゲームをやっているユーザーの皆さんがメインになります。彼らに大会を自分事として見てもらうために、選手の表情や大会への意気込み、緊張感が伝わる瞬間などのパーソナルで有機的な情報を配信画面に乗せた選手が輝くような設計を意識しています。

 

オフラインだと試合中に選手の映像を映したりインタビューしたりするのは簡単なのですが、オンラインだとリアルタイムで顔を載せるのも難しいんです。なので事前に選手へ取材して思い入れを聞いたり、大会後に優勝者にインタビューをリモートで行ったりと、「人が参加して人が作っている大会」を打ち出せる工夫に気を遣っています。

 

──大会を観戦していても読み取れる部分ですね。

 

浅野 あと最近では有名ストリーマーや人気のゲーマータレントなど、知名度もゲームへの熱量もある人を巻き込める企画にすることですね。大会を開催するオーガナイザーとしては当然多くの人に見てもらいたいものですが、大会の視聴者数のポテンシャルはそのゲームのユーザー数に基づいて予測されるラインがあります。そこを超えられる施策のひとつがストリーマーを始めとした熱量の高いインフルエンサーの方たちなんです。

 

──企画の段階から意識して盛り込まれているんですね。

 

浅野 そうですね。やはり出演者をアサインする時には「そのゲームをよく分かっている人」を心掛けているので、後から取ってつけると全体がブレてしまうんです。ですから、最近は企画初期のタイミングから「こういう施策をやっていきましょう」と提案することは増えましたね。

 

──では続いてPS事業部についても教えていただけますか?

 

浅野 はじめに、まだ僕がウェルプレイド・ライゼストに入社する前、マネジメント事業がスタートするきっかけとなった「けんつめし」選手の存在から紹介したいと思います。彼は『クラッシュ・ロワイヤル』(以下、『クラロワ』)というゲームのプレイヤーで、我々が委託を受けて作っていた大会の優勝者だったんです。彼はそれ以前からYouTubeに動画をアップする活動なども行っていたんですが、大会での優勝を機にSNSのフォロワーが何千人も増えるほど注目を集めたんですね。

 

そしてある日、彼から弊社の代表に「僕はどうしてもこのゲームでプロとして食べていきたい。今は『クラロワ』のことしか考えられないんです」と連絡があったんです。当時この話を受けた弊社の代表は彼の熱意を受け入れようと、まだマネジメント部門もなかったのですが、契約書を急遽用意して岐阜県までご挨拶に伺って、親御さんに「私たちは怪しいものではありませんので、息子さんを預からせてくれませんか」と説得し、その後けんつめし選手は上京することになります。

 

──お互いにすごい行動力ですね。当時のけんつめし選手はおいくつだったのでしょうか?

 

浅野 18歳でした。ですからマネジメントと言っても、最初は本当に初歩的なサポートから始まりました。実はプロを目指せる実力のあるゲーマーであっても「どうやって食べていけば良いか分からない」「契約書の意味が分からず、不利益な契約を提示されても判断できない」といった、ビジネスリテラシーに紐づいた分野で多くの課題を抱えている人が多いんです。けんつめしについても親のような目線でマネジメントしていましたね。

 

そして段々と活動が軌道に乗ってきたころに丁度『クラロワ』でプロリーグを立ち上げるという話が持ち上がり、プロとしての道が開けたんです。その後も加入するチームや参加する大会へのサポート、確定申告などの事務的な部分についてのアドバイスまで、継続してマネジメントを行っています。

 

──今ではウェルプレイド・ライゼストを代表するeスポーツ選手のひとりですね。

 

浅野 Redbullからスポンサードを受ける「レッドブルアスリート」としての認知も得ていますし、モバイルゲーム初のプロゲーマーとしてYouTubeも20万弱のフォロワーを獲得しており、だいぶ独り立ちしたと感じています。力を注いできたことが最近ようやく芽が出てきた状況なので更にこういう事例を増やしていきたいですし、今後は彼と一緒にゲーマーが世の中に認められる環境を作っていくことが目標になります。

 

△けんつめし選手

 

──現在は数多くの選手やストリーマーとマネジメント契約を結ばれていますね。

 

浅野 中でもキャスターという立場は選手やストリーマーとはまた少し違った存在になりますが、弊社は大会制作を行っているので「案件や企画の初期段階から携わることができる」という他の事務所にはない強みを持っています。大会や案件のキャスターに所属している人間を優先してアサインすることができる、というメリットですね。

 

もちろん人選には「クライアントが何を求めているか」を考慮することが重要なんですが、同じくらい「コミュニティに認められていること」が大事だと考えています。とってつけたようなタレントさんを起用してもユーザーは誰も納得しませんから。

 

──そのジャンルに詳しいか、というのはファンの人が見ればすぐに分かる要素ですね。

 

浅野 そうですよね。弊社には水上侑(みなかみ ゆう)というキャスターが所属しているのですが、彼は元々「ふーひ」という名前でコミュニティ大会でキャスターを務めていたのですが、eスポーツキャスターとしてもっとステップアップしたいという事で弊社所属になった人物です。

 

当初は得意なジャンルはあまり多くなかったのですが、先に挙げたメリットを生かして「このゲームの企画があるなら」とそのゲームについて勉強したり、実際に長時間プレイしてコミュニティの認知を得たりという努力が出来る人間なんです。結果として昨年は結構な数の公式大会やコミュニティ主催のイベントに出演して名前も売れて来ている最中で、彼は「ウェルプレイド・ライゼストの強み」を生かしながら成長しているケースと言えます。

 

──確かにキャスターは選手と違って複数のジャンルを掛け持ちすることも多い印象です。勇気をもって新しいジャンルに取り組める環境と言えますね。

 

浅野 よく「次に来るジャンル」と言われることはあっても、確実にそのタイトルでの仕事があるか分からない状況では時間を割きづらいですよね。もちろんキャスターにとって新しいタイトルにチャレンジしやすいだけでなく、ゲーム内容に詳しい出演者が確保しやすい環境は企画者や視聴者にもメリットと言えますので、まさにeスポーツ大会の制作を担う私たちだからこその強みだと思っています。

 

ここまでは、毎週のように行われるeスポーツ大会を作り上げるという仕事と、その場に立つ人々を取り巻く環境について紹介していただきました。後編では、合併までの経緯から求める人材像まで、更にウェルプレイド・ライゼスト社のディープな話題へ迫ります。

 

ウェルプレイド・ライゼスト株式会社

公式Twitter

 

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