「ゲームを愛するお医者さん」が集結⁉ 

ゲームと医療のクロスオーバーを目指す新法人「Dr.GAMES」にインタビュー

#eスポーツ

 

これまでにも掲載してきた、eスポーツに付随するゲーマーの健康に関する問題。eスポーツが盛んになるに連れて重要度が増すこの問題に、共に寄り添いながら解決していくことを目指す団体がスタートしたことをご存知でしょうか。

 

その名も「Dr.GAMES」。2021年4月1日に設立されたばかりの一般社団法人で、医療×ゲームで様々な健康問題・医療課題へとリーチしていくことを目標としています。

 

今回はそんな誕生したばかりの「Dr.GAMES」から、代表理事の近藤慶太氏、理事の阿部智史氏にインタビューを行いました。前例のない団体設立までの経緯や、今後の活動に関する展望など、様々なお話を聞きました。

 

デジタルからアナログまで、多彩なゲームを愛する「Dr.GAMES」

 

──まずは簡単な自己紹介からお願いいたします。

 

近藤 慶太氏(以下、近藤):Dr.GAMESの代表理事を務めております、近藤慶太と申します。千葉県で医師をしておりまして、総合診療と家庭医療が専門です。私はアナログゲームや謎解きゲームを制作したり実際にプレイすることが好きで、Dr.GAMES内でも主にそちらを担当しています。テレビゲームも勿論プレイしておりまして、『FINAL FANTASY』シリーズといったRPGや、学生時代サッカーをやっていたので『ウイニングイレブン』シリーズが好きですね。

 

──ありがとうございます、続いて阿部さんもお願いいたします。

 

阿部 智史氏(以下、阿部):Dr.GAMESの理事を務めております、阿部智史と申します。大学病院の総合内科で診療と教育をしています。専門は内科と家庭医療で、最近は重症コロナ感染症も診ています。元々近藤とは同期の間柄で、ふたりで中心となってDr.GAMESを立ち上げました。私はテレビゲームが大好きで、いわゆるゲーム廃人ですね(笑)。「元」ゲーム廃人と言った方が正しいかもしれません。

 

──かなりゲームをプレイされていた時期がある、ということでしょうか。

 

阿部 高校卒業後の数年間、フリーターをしながら本気でゲームをしていました。まだ「eスポーツ」という言葉も知られていない頃でしたが、オンライン大会に出るなど、ライバルたちと日々切磋琢磨していました。その後、将来が不安になり「勉強して定職に就こう」と考え、医学部に入りました。

 

──それは非常にユニークな経歴ですね。

 

阿部 ありがとうございます(笑)。これだけゲーム界隈が盛り上がっている今となっては、ゲームを頑張り続ける人生を歩むのも楽しそうだったかなあ、と妄想しています。

 

──では、Dr.GAMES立ち上げの経緯を詳しく教えていただけますか?

 

阿部 はい。「Dr.GAMES」は、ゲームに関わる人々を健康にすることを目的とする団体です。私と近藤は得意とするゲームのジャンルは異なりますが、「ゲームと医療を掛け合わせて、人々の健康に寄与する活動をしたい」という共通の思いがありました。

 

──それぞれの「活動したい内容」というのは?

 

阿部 私は無類のテレビゲーム好きで、「ゲームに関わっていたい」という気持ちを常に持っています。また「医師として得た経験や知識を、ゲーマーとして頑張っている人(eスポーツプレイヤー含む)に還元したい」という気持ちもあります。そんな中で「eスポーツ大会の医療監修をして欲しい」とお声掛け頂き、2020年10月に行われた『レインボーシックスシージ』というゲームの全国大会で、感染対策の監修と医療救護を担当したんです。

 

──世界大会出場をかけた国内予選となった、規模の大きな大会ですね。

 

阿部 はい。eスポーツ大会の医療監修というのはあまり開拓されていない分野ですが、実際にやってみると「すごく需要がありそうだ」と感じましたし、運営側からも同様の感想をいただきました。

 

▲大会で医療監修を務めた阿部さん(写真中央)

 

──なるほど。近藤さんの方は如何でしょうか。

 

近藤 私は学生時代に謎解きゲームのイベント制作をしていて、そこで身に付けたスキルを活かしたいと考えていました。医師として働く中で、医療情報は難しいものが多いので、世の中に正しく伝わっていないことも少なくないと感じました。そこで、謎解きゲームの持つ人を楽しませることができる力を使って、正しい情報を分かりやすく楽しく伝えることが出来れば、多くの人の健康に寄与することが出来ると考えるようになりました。

また、日頃の診療の中で思春期・不登校のお子さんと関わる機会があり、彼らがゲーム障害やゲームの過剰使用という状態になっているケースを見てきました。今はゲーム障害が医療の分野でも注目されるトピックになってきているので、そういう人の役にも立ちたいと考えたのも大きな要因です。テレビゲームに詳しい阿部と組めば唯一無二の団体が出来ると感じて、立ち上げに至りました。

 

──そうして生まれたのが「Dr.GAMES」なんですね。今在籍されている皆さんは医療関係のお仕事をされながら活動されているんですね。

 

阿部 そうですね。現在医師が6名、看護師1名、他にも薬剤師の卵や理系のメンバーが在籍しています。専門は内科、総合診療、精神科、外科と幅広く集まっています。

 

──メンバーはどのようにして集められたのでしょうか

 

阿部 近藤と私の同僚・後輩の集まりです。近藤の後輩は謎解き制作のスキルを持っており、私の同僚・後輩はテレビゲームが大好きな医療者です。

 

eスポーツ×医療という活動の具体的な内容は

 

──お医者さんとゲームという組み合わせはあまりイメージが無いのですが、意外と現場では珍しくない趣味なのでしょうか。

 

近藤 珍しくはないです。空いた時間にゲームをしていたり、お子さんとゲームをされたりしている方はいるんじゃないでしょうか。

 

阿部 パソコンなどでコアなゲームを本気でやる人は、多くない印象です。ただスマートフォンのゲームアプリなど、ライトなゲームを不規則な生活の合間に少しずつやっている、という人はかなり多いと思います。

 

──それは意外でした。法人としては4月に設立されたばかりですが、今後の活動に関してビジョンなどあればお聞きしたいです。

 

阿部 まずはeスポーツのオフライン大会の医療監修と救護の活動をしていきます。実際に2020年の大会でも選手やスタッフの体調不良、怪我もありましたし、規模が大きくなればなるほど需要は高まると感じています。新型コロナウイルス感染症の影響もあって大規模なオフライン大会の開催は少なくなっていますが、まずは私たちのような団体があることを活動を通じて周知していきたいと考えています。

 

また、詳しいデータがある訳では無いのですが、会社が健康診断を定期的に行う一般的な社会人に比べると、プロゲーマーは健康管理が不十分になっている印象があります。プロゲーマーの選手生命を少しでも長く延ばせるように健康診断などでサポートしたいと思いますし、最終的にはゲームプレーヤーが気軽に健康相談できる医療の窓口になることを目指しています。

 

──確かに今でも大会での感染症対策などは施されていますが、現場に医師が居てくださることの安心感は特別だと感じます。

 

阿部 大会でもし医療面の問題が起きた時、医療者のアドバイスによる判断の有無によって、見ている人が感じる印象も、批判に晒される度合いも変わってくると思います。私たちは、きちんとした医学的エビデンスに則ったアドバイスをできるように全力を尽くします。

 

──近藤さんは謎解きを中心とする活動ではどのようなビジョンをお持ちでしょうか。

 

近藤 私たちの団体の基本理念は「医療とゲームの掛け合わせで人々の健康に寄与する」としており、そこから大きく離れていなければどんなことにも取り組んでいきたいと考えています。特に私の専門分野である謎解きでは、啓発活動に繋がるコンテンツを作っていきたいと考えていまして、その第一弾として「子宮頸がんワクチン」に関する謎解きゲームを発表しました。

 

▲先日リリースされた「病気が分かる謎解きゲーム」の第1弾。詳しくは公式HP

 

このワクチンは小6から高1の女の子が無料で受けられるのですが、副反応がメディアで大きく取り上げられ、積極的に接種を推奨されず、日本では非常に接種率が低くなってしまっています。ただ、研究の結果で子宮頸がんワクチンは安全に打てることがわかっていて、接種が進んでいる海外では今後「子宮頸がんは無くなる病気だ」と言われています。

 

謎解きは10-40代の方に人気があるので、子宮頸がんワクチンの知識を知って欲しい層とも合致していました。若くして子宮頸がんで子宮を摘出されたり、亡くなられたりという悲しい思いをされる方がいなくなればと思いこのような内容を選びました。もちろん、子宮頸がんワクチンを打って副反応で苦しまれている方がいることも事実なので、接種を強制するわけでなく、知識を知った上で各々が判断する材料になればいいなと考えています。医療知識の中で一般の方に知識が伝わっていないものは他にもあると思うので、今後も謎解きを使って正しい知識を届けていけたらと思います。

 

──まさに「医療とゲームの掛け合わせ」という理念の通りの活動ですね。

 

近藤 あと「ゲームを使った治療」というのも研究が進んでおりまして、例えば、発達障害の方向けに治療・療育用のゲームが海外では認可されています。私たちの専門の総合診療という分野は医療の中でも分野と分野を繋ぐ橋渡し的な役割をすることが多いので、「掛け合わせ」は私たちの得意分野だと感じています。

 

ゲーマーそれぞれの事情に合わせた「ゲームとの付き合い方」がある

 

──ちなみに、皆さんは普段のゲームはどんなものをプレイされていますか?

 

阿部 色々なものを渡り歩いてきたんですが、長く遊んでいるのは『桃鉄』『ぷよぷよ』『ボンバーマン』『ポケモン』などの、2Dのものが多いですね。今のメインは健康を意識した『ドラクエウォーク』です。eスポーツとして競われるタイトルでは『クラッシュロワイヤル』『パズドラ』もプレイしています。

 

──一番やり込んでいた時期は、大会の成績ってどんなものだったんですか?

 

阿部 『ボンバーマンオンライン パネルアタック』の大会で優勝したり、『ドラクエ テリーのワンダーランド』で全国3位になったり、『聖戦ケルベロス』というゲームでは全国1位のギルドマスターを務めながら個人ランキング1位をとりました。『ぷよぷよクエスト』では個人ランキング全国1位を4ヶ月間取り続けていたこともありました。

 

──ものすごい戦績ですね。その4ヶ月連続1位だった時期がフリーターの頃という訳ですね?

 

阿部 『ぷよぷよクエスト』は医学生の頃なんです。睡眠時間を削って、勉強とゲームを両立して頑張りました。やり始めるとこだわっちゃって、日常生活に支障をきたすレベルで没頭しちゃうんです(笑)。でも、ゲームにのめり込む気持ちもわかるので、ゲーム依存の方にも親身に対応して行けると思います。医療から見たゲーム依存の立ち位置って、麻薬やアルコールと似ていて「頑張って絶つ」べきものだとされることが多いんです。実際に依存物質への対処としてはそれが正しいんですが、ゲームは完全に絶つ必要は無いと考えていますし、プラスの面も多いので上手く付き合っていくことが理想だと思います。

 

──そうしたお医者さんの存在は、いちゲーマーとしても有難いと思います。

 

阿部 特にプロゲーマーで健康問題を抱える方は、言ってみれば職業病ですもんね。何らかの対応を模索していくことはできると思います。

 

近藤 今の話を聞いていて思ったのは「ゲームプレイヤーには個別の事情がある」ということですね。例えば海外のチームと練習・対戦するために生活リズムが乱れているゲーマーの人に、それを正しなさいと言っても難しいですし、それぞれの個別の事情に対応した医学的なサポートが出来れば良いと考えています。相手のことをよく知っているからこそできる提案が私たちにはできると思います。チーム単位でサポートするメリットはそういうところにあるかも知れませんし、私たちの団体が大事にしていきたい部分です。

 

 

阿部 「いかにゲームが大切なものか」を理解できるという意味で、医療の界隈では右に出る者はいないと自負しています。

 

──本当に頼もしく感じます。そんなゲーマーの阿部さんから、すぐにでも実践できるゲーマーへのアドバイスって何かあったりしますか?

 

阿部 適度な運動をおすすめします。適度な運動を継続することは、生活習慣病など様々な問題の改善因子になります。これは正確なデータがありませんが、忙しいプロゲーマーの中では運動不足に陥っている人が多い印象です。

 

──確かに、一部のプロゲーマーは既に筋力トレーニングなどを取り入れています。

 

阿部 それがゲーマー全体に広まれば良いなと思います。あと、一人のゲーマーとしては「ゲームを長く楽しむためには健康であること」が必要だと考えています。自分の将来設計は「医者として衰えたら引退して、ゲーム廃人に戻る」つもりなんですが、そのタイミングで不健康だと何の意味もないので、今のうちからしっかり健診を受けて不調を放置せず、生活習慣にも気を付けていくことが大事だと思います。ゲームを長く楽しみたい皆さんにも、是非気を付けていただきたいです。

 

──それは壮大な計画ですね!近藤さんはやはり謎解きゲームをよくプレイされているんでしょうか。

 

近藤 COVID-19の影響もあってイベントには最近はあまり行けてないんですが、最近はオンラインの謎解きをよくやることが多いです。あとアナログゲームもプレイするんですが、うちのクリニックでは発達障害のお子さんのリハビリテーションに活用することもあります。私自身も近所のボードゲームショップに行って、リハビリのセラピストと一緒にプレイしたりして「このゲームはこういった子の療育に活用できないか」という話をよくしていますね。

 

──アナログゲームがリハビリテーションに活きるというのは初耳でした。

 

近藤 発達障害にもそれぞれの特徴がありますし、「ゲーム選び」は重要です。「順番が守れない」「負けると一気に癇癪を起してしまう」など、それぞれの問題に合わせたゲームを選んでいく、DJのような能力が求められるのではないでしょうか。

 

──やはり「その人に合わせた対応」というのがキーワードなんですね。

 

近藤 私たち、総合診療医が大切にしていることの一つに「患者さんの背景まで診る」ということがあります。地域や家族など色んな要素がその人の健康に影響するので、単なる症状を診るだけに留まらないという考え方ですね。

 

──他にはどんなメンバーがDr.GAMESにはいらっしゃるんですか。

 

阿部 他のメンバーでは漫画家として活動している医師もいますね。医者としては月に数回の勤務で、漫画家として4コマ漫画の連載などを頑張っています。ゲームに関わらず漫画を通じて、健康へのアプローチをしていきたいですね。

YouTubeで医療情報を発信しているメンバーもいます。講演など発信力が必要な場面では生かせる能力だと考えています。

 

──すごくバラエティ豊かなメンバーで構成されているように感じるんですが、皆さん同僚と先輩後輩の繋がりなんですね。

 

阿部 そうなんです。やっぱり周りに似たような趣味の人間が集まりますし、それを社会人になっても変わらずに活かしているのがこの「Dr.GAMES」という団体です。医師だけでなく看護師も在籍しているのもポイントです。医師と看護師の目線は違うので、看護師でしか気づけない患者さんの情報も多いです。そうした点も大事にしていきたいと思います。

 

“ゲーム仲間”として気になることを相談できる存在に

 

──今日少しお話を伺っただけでも、医療に関する知らない知識を沢山お聞きすることが出来ました。それでは、最後に今後へ向けておひとりずつコメントをお願いいたします。

 

阿部 我々は「医療情報啓発のための謎解き」「eスポーツ」「依存症対策」の3本柱で活動していきます。依存症と言っても決して「ゲームは悪なので止めなさい!」というネガティブな目線ではなく、あくまで「ゲームは楽しいもの」だとポジティブに捉えている側の人間です。「ゲーム好きが集まって活動する」という根本的なスタンスは崩しませんし、ゲーマーの皆さんにも「なんか同じような趣味の人達が医療にも詳しくなったらしい」くらいの気持ちで捉えて頂きたいです。実際にその通りなんです。ちょっと医療に詳しいゲーマーです。

 

──お医者さんにどこか近づきがたいイメージもあったのですが、やはりゲームという共通点があるだけですごく親しみを感じました。今後の活動でそう感じる方が増えると良いですね。続いて近藤さんもお願いいたします。

 

近藤 私たちの団体は医療のレベルとゲームのレベルをそれなりに高い所で併せ持っているという面では唯一無二だと思いますし、そこが長所だと思っています。ゲームをよく知っているからこそ介入できる問題や、好きだからこそ伝えたい健康問題があります。

ゲーム障害の治療に携わっている人でも「ゲームはよく分からない、やったことがない」というケースは少なくありません。実際にゲームの事を分かっている私たちにしかできないことがあるんだ、という使命感を胸に活動してきたいと思います。

 

──活動の幅も広がっていく予感がします。

 

近藤 医療とゲームを足掛かりに、なんでも掛け合わせでやって行こうと思います。色んな企業さんや学校とかに「Dr.GAMESに相談してみれば良い相手を紹介してくれるな」と思って貰えたら、ハブのような存在になれれば良いかなとも考えていますので、お手伝いできることがあれば是非ご気軽にご連絡ください。

 

──本日は非常に興味深いお話、ありがとうございました。

 

阿部&近藤 ありがとうございました。

 

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