「ゲームって面白いよな」を繋ぐ“ゆるい”架け橋に

朝日新聞eスポーツメディア「GAMEクロス」の共同編集長・倉田健志氏インタビュー

#eスポーツ

日に日に認知が広まりつつあるeスポーツという文化。しかし、更なる定着・浸透のためには広く魅力を発信するメディアの存在が不可欠です。そんなeスポーツメディアとして2020年3月、朝日新聞社による「GAMEクロス」が誕生しました。

 

「eスポーツが好きになるメディア」を掲げるGAMEクロスで共同編集長を務めるのは、昨年惜しまれつつも閉鎖となったeスポーツメディア「SHIBUYA GAME」でも編集長を務めた倉田健志(くらたつよし)さん。

 

メディアとしての方向性から、eスポーツへの想いまで。新たな出発を迎えた倉田さんにお話を伺いました。

(※本インタビューはリモートにて実施いたしました)

 

 

──本日はよろしくお願いします。

 

倉田健志氏(以下、倉田):よろしくお願いします。

 

──最初に、簡単な自己紹介をお願いいたします。

 

倉田:GAMEクロスの共同編集長をしております、倉田と申します。と言っても朝日新聞社の社員ではなく、合同会社「浦辺制作所」の業務として運営・編集を行っておりまして、こちらは3人の小さな会社ですが共同代表を務めております。

 

──以前、倉田さんは「SHIBUYA GAME」というeスポーツメディアでも編集長を務められていました。どのような経緯でeスポーツメディアに携わるようになったのでしょうか。

 

倉田:大学を卒業してからはwebマーケティング関連の会社に入りまして、ライティングをしながら広告やマーケティングについて学んでいました。その後、自分の知識や学んだノウハウを活かした仕事をしたいと考えて辿り着いたのが「SHIBUYA GAME」でした。

 

きっかけは、中学時代の友達がプロチーム「CYCLOPS Athlete Gaming」でプロゲーマーになっていたことですね。「SHIBUYA GAME」は当時そのチームのスポンサー企業が運営していて、興味を持って閲覧していたらタイミング良く編集者の募集を見つけました。正直その時はeスポーツをよく分かっていなかったのですが、ゲームは好きだったし「英語が読み解けるスキル歓迎」というのもあって、応募して入社に至りました。

 

──「友達がプロゲーマー」という縁でeスポーツの世界に入られたのですね。

 

倉田:そうですね。彼は黒豆という選手名でサッカーゲーム『FIFA』部門のプロとして活躍していますが、中学生の頃から本当にゲームが上手くていつもボコボコにされていました。まだeスポーツという言葉を聞いたこともない当時から「プロゲーマーになれるわ!」なんて話をしていたのですが、気付けば本当にプロになってしまいました。

 

それから色々あって「SHIBUYA GAME」が閉鎖することになり、ライター仲間と現在の「浦辺制作所」を立ち上げました。私は現在「GAMEクロス」に携わっていますが、他のメンバーは記事一本の制作から書籍の企画や編集まで、テキストにまつわるコンテンツならなんでもという感じで動いています。

 

──では続いて「GAMEクロス」について伺っていきたいと思いますが、そもそも朝日新聞社がeスポーツを取り上げることになったキッカケや経緯は何処にあるのでしょう。

 

倉田:まず、メディアをめぐる環境の変化があります。テレビや新聞などのマスメディアだけでなく、TwitterやFacebookのようなSNSでも情報を届けられるようになりました。一方的に情報を「伝える」だけでなく、双方向的に「つなげる」こともメディアの役割になりつつあります。広く情報をカバーするマスメディアがある一方、特定のジャンルや領域を深く垂直に、「バーティカル」に掘り下げる新しいメディアが求められているんです。

 

だから、コンテンツを通じてコミュニティーを作ることを掲げて、朝日新聞社では2018年から「バーティカルメディア」事業がスタートしました。「telling.」(テリング)、ペットの飼い主たちに向けた「sippo」(シッポ)などです。テーマやジャンルごとに深掘りしたメディアをいくつも用意し、「朝日新聞ブランド」と共存できる新しいブランドの構築をめざしていく方針でした。

 

そして、社会や市場のニーズを調査していく中でeスポーツが有力であると判断し、2019年秋から本格的に検討が始まりました。実は他の新聞社さんも、eスポーツ大会を開かれたり、プロゲーミングチームを持ったりしています。

 

eスポーツ市場と新聞社の関わり方という観点では、eスポーツの専門のメディアを新聞社が立ち上げることに大きな意義があると思います。

 

 

──かなりの準備期間を経ての立ち上げだったんですね。

 

倉田:その中でテーマとして、競技シーンにはもちろんのこと「プレイする人間にフォーカスする」というポイントが挙がっていました。そして計画段階でタイミングよく、と言うのもおかしな話なのですが、同様のテーマを持って運営されていた「SHIBUYA GAME」が閉鎖となり、編集長を務めていた私に声がかかったという訳です。そこから半年以上、会議やヒアリングを重ねて、3月25日にローンチに至りました。

 

 

 

 

──ちなみに「GAMEクロス」という命名にはどのような意図が込められているのでしょうか?

 

倉田:分かりやすく「eスポーツ」という言葉を入れることも検討したのですが、今となっては既視感が生じるネーミングですし、何よりも私たちは「ゲームで対戦するのって面白いよな」という事実と、それによって生まれる人と人との交流の魅力を伝えたいというのが根幹にあります。

 

そのためには決して「eスポーツ」という言葉でなくても、ゲームが好きな人に刺されば良いんじゃないかという気持ちで、交流が生まれる場所である“交差点”を意味する言葉を組み合わせて「GAMEクロス」と名づけました。

 

──では、メディアとしてのスタンスや、あるいは他eスポーツメディアとの差別化として意識されている点はありますか?

 

倉田:一番は「ゆるくやりたい」ということで、それが差別化にも繋がると思っています。現状、eスポーツ関連のメディアで発信される情報って大きな大会の速報だったり話題の人物のインタビューだったりと、既に「eスポーツを好きな人に向けたコンテンツ」が多く、そこは飽和しつつあるのかなと感じています。

 

では逆にどの部分が不足しているのか、と考えたときに「ゲームは好きなんだけど、eスポーツのことはあまり知らない」という層に向けた情報があまりないのかなと。

 

それを一番実感した出来事としては、私の知人に何人か『Call of Duty』というFPSタイトルを毎日何時間もプレイしているコアユーザーがいるのですが、そんな人たちでも同タイトルのプロシーンについては全く知らなかったんです。彼にプロの競技シーンを紹介したところ凄く熱中して楽しんでくれたので、やはりそうした潜在的なファン層はまだまだ多いのではないかと思っています。

 

──確かにそのギャップを強く感じる場面はありますね。

 

倉田:自分でゲームの攻略法は調べるし、動画も見る。アップデートの情報も仕入れている。でもそんなゲーム大好きな人たちにも、eスポーツの魅力がまだまだ届いていないんだなと感じました。

 

彼らにゲームをフックに「こんなにゲームを極めた凄い人がいるよ」「面白い大会やってるよ」という情報を届けて、架け橋になれたらな、というのが目標であり、差別化に繋がる要素だと考えています。

 

──そこで必要になるのが「ゆるさ」というテーマに繋がる訳ですね。

 

倉田:例えばプロゲーマーの凄さを伝えるために「一日何時間練習!」「とってもストイック!」と紹介しても、ライトなゲーマーにとってはあまり親しみが沸かないと思います。

 

プロゲーマーであっても根底にゲーム好きという共通の要素があるのは間違いないので、彼らの「ゲームが好き過ぎて」という面白味や共感できる側面を切り取って伝えることで、親しみを感じてもらえたらなと思っています。そういう意味での「ゆるさ」ですね。

 

勿論、アスリート的な魅せ方もアプローチとして重要だと思います。メディアでは結構面白く見えて、でも競技シーンを実際に観戦したら勝負に挑む姿が凄くカッコいい!という体験なんかは、ひとつの理想かなと思います。

 

あとは……インタビュー中心になるよりはコラムも増やしていきたいですね。既にマシーナリーとも子さんというバーチャルYouTuberの方や、ネコヌリさんという50代の方々で構成された『スプラトゥーン2』のチームの皆さんにもコラムを書いて頂いています。「初心者じゃないけど、プロほどの超上級者でもない」という層にも共感できるコンテンツとして、魅力があると感じています。

 

──ちなみに、倉田さんご自身のゲーマー遍歴はどのような感じになるのでしょうか。思い出のゲームがあれば是非教えていただきたいです。

 

倉田:かなり幼い頃からゲーム自体は好きでしたね。今となっては経緯を全く覚えていないのですが、幼いころに通っていた床屋さんの店長から譲ってもらったスーパーファミコンが家にあったので、それで子供の頃はずっと遊んでいましたね。

 

それからずっとアクション系のゲームを遊んでいましたが、中学生の頃に『メダル・オブ・オナー ライジングサン』というFPSが友人たちの間で爆発的にブームになったんですよ。4人対戦が可能だったので、当時はコントローラーを4台接続出来るタップを持っている友人は集まりに必須の存在でしたね(笑)。

 

もう中学校は『メダル・オブ・オナー ライジングサン』で遊んだ記憶しかない位のハマり様で、それ以来FPSジャンルのプレイヤーですね。高校生になるとオンライン対戦もプレイしましたが、何故プレイを続けられたのか分からないくらい延々とやられていました。たまに敵を倒せた時に相手の銃を拾えるのが楽しみでしたね。

 

──私もFPSでオンライン対戦を始めた当初は全く同じでした(笑)。

 

倉田:ですから、ゲーム対戦という文化には割と馴染みはありました。それから社会人になって暫く対戦からは離れていましたが「SHIBUYA GAME」に入って再び触れるようになると「やっぱり面白いな」って。

 

これは以前にも話したことがある内容なのですが、昔は正直言ってリアルなスポーツを観戦する楽しさが分からなかったんです。それが仕事になってeスポーツを取材・観戦するようになると「選手の背景を知って観戦すること」の面白さが分かって、思わず熱狂してしまいました。

 

それ以来、スポーツも本当に楽しんでみられるようになりました。昨年のラグビーW杯も選手や国について調べながら観戦を楽しみましたし、アメリカに留学していた頃にたまに見ていたNHL(アイスホッケー)もまた観るようになりました。eスポーツを通じて「スポーツの面白さ」に気づけたんですね。

 

どうしてもフィジカルスポーツに対して無意識に心のバリアを張っているところもあったんですが、そんな自分にもゲームという共感できるフィルターを通すことで「スポーツマンシップ」という言葉がスッと腑に落ちた感覚です。野球の応援に熱狂する世のお父さんたちや、サッカー選手について熱く語っていた同級生の気持ちがようやく理解できたように思います。

 

──映画もお好きだとお聞きしました。

 

倉田:そうですね、どちらかと言えば趣味の時間はゲームよりも映画に割いているくらいです。ゲームに関しても十分にゲーマーだと自負しておりましたが、プロゲーマーの方々を見るようになると、その熱量を前に自分は「どうも、にわかです」と言わざるを得ない感覚になりますね。ただ仕事にする上では非常に良い距離感かなとも思いますし、逆に映画に関しては少しパーソナルすぎるため、ちょっとビジネスにするのは難しいのかも知れません。

 

ただ自分は『ジャーヘッド』という映画が本当に好きで、好きすぎる余りに原作も原書も読んで自分なりの翻訳を書いて友人に読ませてみたこともありました。その過程が面白くて、文字で伝えることに興味を持ちました。実はそれまでは読書はあまりしてこなかったので、今の職業を志したルーツは意外と映画だったかも知れません。それはそうと『ジャーヘッド』は本当に名作なのでもっと沢山の方に見て欲しいです。

 

──やはり趣味の話となると話題は尽きませんのでまだまだお聞きしたいところではありますが、メディアの話に戻らせて頂きます。ローンチ時期に新型コロナウイルス流行が直撃する形となりましたが、影響のほどは大きかったのではないでしょうか。

 

倉田:大会が中止になったり取材ができなかったりという大変さは当然ながらありますね。ただ「このGAMEクロスというメディアで何ができるか」を考えたときに、ゲームファンの方が「eスポーツ面白いな」と感じて大会やイベントに参加してくれるようになることが、一番のコンバージョンだと思うんです。

 

新型コロナウイルスの影響もあってeスポーツは大いに注目を集めていますが、以前から大きく盛り上がっていた成果もありオンライン上のエンタメとして見やすく洗練されたものになりつつあると思います。最終的にはこの影響を好転させてオフライン大会やイベントへの送客につなげげたい気持ちはありますが、現時点ではオンライン上でのイベント視聴や大会への参加につながればいいのかなと。

 

──事態が収束した後が重要になってきますね。

 

倉田:2018年に「eスポーツ元年」と言われて、業界全体が大きな注目を浴びました。eスポーツ業界の内側から見ているとその効果もあって色々と大きな出来事があったんですが、それはあくまでeスポーツを既に知っている人たちの感覚で、一般の方からしたら特にブレイクスルーには至らなかったと思います。

 

今はすごくeスポーツが注目されていても、新型コロナウイルスが収まってエンタメの選択肢が増えればそちらへ戻ってしまう人も多いのではと、ちょっとネガティブかも知れませんがそう感じています。この機会を一過性のものにしないようeスポーツの魅力をもっと伝えられるように頑張らないと、と思っています。

 

──最後に今後に向けての抱負などあれば、お伝えください。

 

倉田:eスポーツで巻き起こる情熱や感情が動くような出来事について、コラムやインタビューを通じてどんどん伝えられる場所に出来ればと思います。コミュニティ大会など、たとえプロが参加していない場もeスポーツだと捉えているので、プロ・アマ問わずゲーマーの共感をつなげるメディアとして育てていきたいですね。

 

今後もGAMEクロスを見てください。そしてもし「こんな面白いゲーマーがいるよ」「楽しい大会やってるよ」というような情報があれば、是非教えてください!

 

 

──本日はありがとうございました。

 

倉田:ありがとうございました!

 

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