“MTG”で世界大会出場!エクストリーム社員インタビュー 小原裕一郎さん

#eスポーツ

無数のカードを使い、柔軟な組み合わせと臨機応変な戦略で戦うカードゲーム。戦略性の高さからマインドスポーツの一種とも称され、近年はデジタルカードゲームがeスポーツジャンルとして人気を集めるなど、幅広い年代から親しまれている競技です。

 

そんなカードゲームのなかでも1993年に発売され「世界初のカードゲーム」としても知られている「マジック:ザ・ギャザリング(MTG)」の世界大会に、なんとエクストリーム社員の小原裕一郎さんが出場を果たしました。

 

「もっともよく遊ばれているTCG」としてギネスにも認定されているカードゲームの世界大会とはどのような舞台なのか。プログラマーだけでなくカードゲーマーとしても活躍する小原さんにインタビューでお話を伺いました。

 

==================

 

——はじめに簡単な自己紹介をお願いします。

 

エクストリームでプログラマーをやっています、小原と申します。MTGは2019年頃からプレイしています。といっても小学校や中学校の頃にも大会に出るくらいには遊んでいたので、全くのゼロから始めたわけではないんです。

 

——世界大会出場の経緯を教えてください。

 

今回出場した世界大会は「プロツアー」と呼ばれるもので、店舗予選、エリア予選と2つの予選を抜けると日韓合同の大きな大会「チャンピオンズカップファイナル」に出場でき、そこで上位10数名が「プロツアー」の出場権利を得られる仕組みになっています。

 

私は2023年6月のチャンピオンズカップファイナルでTOP8に入賞し、7月に行われるプロツアーの権利を獲得しました。ただ、当時は海外に行ったことがなく、パスポートを持っておらず準備が間に合わないということで、ひとつ次の大会へと権利を延期していただいて、2024年2月にアメリカのシカゴで開催されたプロツアーへ出場しました。

 

 

——出場権を延期できる制度があるんですね。

 

そうなんです。ちなみに延期してもらった大会の開催地はバルセロナでした。

 

——MTGは年に何度か国際大会が開かれているということですよね。

 

年に3回のプロツアーと一番大きな「世界選手権」がおよそ3か月ごとに開催されています。例外もありますが、カードの新しいパックが3か月ごとに発売されるので、その周期に合わせて大型の世界大会も開催されているようなイメージです。

 

——子供の頃に遊んでいたカードゲームを大人になってから本格的にプレイして世界大会に出場するというのは長い歴史を感じられるエピソードですね。

 

15年以上のブランクがあったので、プレイを始めた時は以前と主流となる構築などさまざまなセオリーが変わっていて戸惑いましたね。ただ、当時から有名だったプレイヤーがまだ現役でプレイされているのは驚きました。

 

——初参加だった世界大会の内容を振り返っていただけますか。

 

プロツアーは3日間開催され、毎日の対戦結果によって次の日に進めるか敗退かが決まる形式になっています。私の結果は2日目に進出し、参加257選手中128位と、ちょうど真ん中くらいの成績でしたので、初めての参加にしては戦績をあげられたかなと思っています。

 

大会にはいくつか対戦形式があって、自分で用意したデッキを使用する対戦ではあまり成績が振るわなかったのは残念ですが、「ブースタードラフト」というその場で与えられたカードでデッキを組んで対戦する形式はかなり練習して臨んだので、その形式で勝てたのは嬉しかったです。

 

——手ごたえもあり、反省もありという結果でしたか。

 

今回の大会に出場するにあたって、ありがたいことに強いプレイヤーさんが集まるチームに誘っていただき、世界大会に出場する選手同士で構築の調整や練習を重ねて来ました。「ブースタードラフト」ではその成果が発揮できたと思います。

 

反面、持ち込んだデッキでの対戦は結果を出せなかったのは悔やまれますし、実は直前に別の大型大会の出場権も目指して練習していたのですがそちらも勝てず、やはり両方での結果を狙うのは難しいことだったなと反省しています。

 

——初めて海外に行かれたということですが、印象的だったことはありましたか?

 

チームメンバーと夕食に行ったのですが、私がチップの文化を理解していなくて。店員さんとのやり取りはかなり焦りました(笑)。そういう文化の違いを体験できたのは印象的でしたね。

 

あとは会場に向かうUber(タクシー)の運転手さんが翻訳ツールを使ってコミュニケーションを図ってくれて、日本の流行りの曲をかけてくれたのも思い出に残っています。チームで行動していたのもあって、少し修学旅行みたいな気分でした。

 

——大会の中で印象的だったことを教えてください。

 

世界最優秀選手にも選ばれたことのあるデンマークのサイモン・ニールセン選手と対戦できたことは思い出に残っていますね。

 

また、敗退した選手は残りの日程で次のプロツアーの予選を戦うのですが、そこで出会ったプレイヤーと片言の英語でコミュニケーションしたのが一番印象に残っています。「This card, good!」のような英語でも仲良くなれて、お土産としてプレイの際に使用する奇麗なトークンをプレゼントしてくれたんです。お返しできるものがなく、とっさにカバンの中にあったカロリーメイトを「ジャパニーズフードだ!」と渡したら笑ってくれていましたね(笑)。

 

△会場の様子

 

——それは素敵な思い出ですね。

 

試合自体は本当に真剣なんですが、試合前の挨拶や対戦後はとてもフレンドリーで非常に楽しくプレイできました。

 

——率直な疑問なんですが、海外のプレイヤーと対戦する時は言語の壁は問題にならないのでしょうか?

 

主要カードの内容は覚えていますし、対戦の用語は共通しているので問題はなかったですね。試合にはオフィシャルの審判もつきますが、「このカードの効果は『しても良い』だっけ?それとも『しなければならない』だっけ?」と確認するくらいで、言語の違いによるトラブルはありませんでした。

 

——では日本語版のカードを使っていても問題ないんですね。

 

そうなんです。日本語のカードを使っているアメリカ人の選手にも出会いました。

 

 

——社会人として働きながら競技的にカードゲームをプレイするのは非常に大変なのではないでしょうか。

 

大変ですね。ただ日本ではMTGの専業プロは非常に珍しく、条件は殆どの人が同じだと思います。今回は初めてプレイヤーが集まるチームに参加させていただいたのですが、プレイヤー同士で情報を出しあうのは本当に重要だなと感じました。

 

——チームに参加されたのはどのような経緯だったのでしょうか。

 

2023年の6月にプロツアーの権利を獲得したときにSNSを通じて誘っていただいて、ひとつ大会を延期したので2024年の1月から集まって対策を行いました。それまでもコミュニティの仲間とワイワイ遊んではいましたが、プロツアーで勝つという目標を立てて真剣にプレイしたのは初めてでしたし、プロツアーに何度も出られている方も参加する非常に強いチームで活動できて、学びが多かったです。

 

——世界大会と国内大会とでは対策や練習に違いはありますか?

 

MTGはアメリカで発売されたトレーディングカードゲームで海外から情報を得て学ぶことが基本になるので大会による違いはあまりないですね。言語の問題も、今は簡単に翻訳が利用できますし、カード名さえ判別できれば海外大会の結果を見ながら「今はこのデッキが多いのか」と研究することもできます。

 

——特別に練習時間を増やしたりということはされましたか?

 

仕事もあって時間そのものを増やすことはなかなかできないのですが、MTG内での時間の使い方は変えましたね。僕はカードショップへ行って気軽な対戦をするのが好きなんですが、その時間を大会に向けての練習時間に充てるなどしていました。

 

——世界大会ともなると滞在期間も長かったのではないかと思いますが、仕事の方は問題ありませんでしたか?

 

体を慣らすためにも大会の前々日からシカゴに入って、一週間ほど滞在していました。エクストリームにも事前に担当営業さんに話をしたり、プログラマーとして勤務している常駐先にも確認を取りましたが、どちらも快く休暇を了承して送り出していただいたので、本当にありがたかったですね。

 

——カードゲームはマインドスポーツとも呼ばれる高度な頭脳戦のイメージがありますが、その腕を磨いたことで仕事や日常に影響を感じる瞬間などはありますか?

 

うーん、少し数字に強いかなというくらいで、実はあまり感じないですね(笑)。カードは引きによって左右される面があるので、不確定なことに対する考え方は柔軟になっているかもしれません。

 

——ちなみに、小原さんはご自身のプレイヤーとしての長所はどういった部分にあると考えていますか?

 

自分で言うのもなんですが、MTGについては知人が多い方かなと思っていて、関わる人のアドバイスを素直に聞いて試してみるタイプなんです。実際にチームで練習していてもそう言われましたから、かなり周りの助けを受けているなと感じています。

 

——周りの助けを素直に受け入れるのはカードゲームに限らず日常でも重要な能力ですよね。

 

仕事においては決してそういうタイプではないと思うので不思議なのですが、周りからでないと決して出てこない意見や情報もあると思って参考にしています。操作技術が不要で、情報のみでも戦えるカードゲームならではの要素かもしれません。

 

——世界大会に出場して、カードゲームへの向き合い方は変わりましたか。

 

そうですね。それまではあまりやらなかった試合後の振り返りをしたり、エクセルをつけて成績を確認してみたりと、かなり取り組み方は変わりました。意見がぶつかるのが嫌で避けていたのですが、今は信頼できる人とは積極的に攻略の話もするようになりました。

 

——最後に目標を聞かせていただけますか。

 

海外のプレイヤーと真剣に対戦してコミュニケーションできる世界大会の空間が本当に楽しかったので、またプロツアーへ出たいという気持ちが強く、プレイのモチベーションもかなり高くなりました。再び世界大会への出場を目標に、権利を獲得できるよう頑張りたいと思います。

 

──社会人としての大変さもあるかと思いますが、今後の大会での活躍も応援しています。本日はありがとうございました!

 

関連する記事