コミュニティeスポーツ大会に大きな影響

任天堂が制定した「ゲーム大会」での著作物利用に関するガイドラインを読む

#eスポーツ

2023年11月15日、任天堂による「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」が発効されました。

 

このガイドラインは国内で任天堂から発売されているタイトルを使用して開催されるコミュニティ大会(非営利な小規模な大会)を対象としており、法人や団体が主催する場合は、申請を行い、使用許諾を得ることが必要となります。個人が主催する大会は「このガイドラインを遵守すれば任天堂は著作権侵害の主張を行わない」としています。

 

eスポーツでは公式大会以外にも競技大会が開催されており、企業が主催しプロ選手も出場する大規模な大会もあれば、仲間内での集まりが発展した少人数の大会までその規模感はさまざまです。

 

 

中でも有志が主催するコミュニティ大会はIPホルダーであるゲームメーカーに個別の申請を行わずに開催されることもあり、コミュニティ内で非営利目的に楽しむ分には基本的に黙認と言える状況になっていることが多いです。任天堂のタイトルを使用する場合も、これまでは「法律の範囲内でお楽しみください」との意思表示が行われていました。

 

今回のガイドライン制定によってそうした小規模な大会の主催について明確な基準が示されたことになりますが、新たに定められた条件によって既存の大会が存続できなくなってしまうケースもあり、大きな反響を呼んでいます。

 

今回はガイドラインの内容を確認しながら、個人開催の大会の在り方や、そのタイトルにもたらす影響について考えてみましょう。

 

運営費や著作物の使用に明確なルールを提示

 

ガイドラインでは冒頭で「コミュニティ大会は、営利を目的としない小規模なものである必要があります」と述べられており、小規模の定義についても後の項目で「オンラインで300人以下、またはオフラインで200人以下の出場者がプレイする競技大会」と明記されています。

 

個人主催で300人出場となると稀に見る大規模大会ではありますが、それ以上の人数の大会には個別の許諾は行っておらず、仮に規定を超える大会を開催したい場合はサークルなどの団体として主催を申請するか、複数日程で分割開催するなどして1日あたり出場者数を規定以下に収める手法もガイドライン内で紹介されています。

 

また、大会への参加費等についても定められており、成人の主催者であれば参加費や観戦料を一定額以下で徴収可能となっています。同様に成人の主催者なら所定の条件を満たす景品の提供も認められています。しかし、前述の徴収した参加費や観戦料を景品購入に充てることはできず、運営費用に充てることと定められています。これは法令遵守の観点から、参加費から景品を出すことで賭博とみなされる可能性をケアしたルールであると考えられます。

 

費用に関連しては主催者がスポンサー等の第三者から物やサービス・金銭等の提供を受けることも禁じられていますが、全く利益を生んではならないルールではなく、出場者から事前に同意を得るなどの要件に則った場合に限り、コミュニティ大会に関する動画や静止画等の投稿の収益化が認められています。

 

このようにガイドラインではコミュニティ大会の開催において守らなければならないルールが複数挙げられており、営利目的に関する内容だけでなく個人情報の保護や未成年者に関する保護者の同意を適切に取得することなど、円滑な運営に必要な条項も盛り込まれています。

 

このガイドラインは同日に海外に向けた版も発行されており、細かな金額等の差異はありますが、概ね同一の内容です。これから任天堂のタイトルを使用した個人主催のコミュニティ大会は世界的に統一のルールで進められていくことになります。

 

中止を余儀なくされる大会もあるが、ガイドライン下での発展に期待

 

任天堂が著作権を有するタイトルの中には『大乱闘スマッシュブラザーズ』や『スプラトゥーン』など対戦要素がメインとなっている人気作品も多くありますが、任天堂は賞金制大会の開催など、プロシーン展開を行っておらず、公式大会もカジュアルなルールや年齢制限を設けたカテゴリーでの開催となっていることから、「任天堂はeスポーツに消極的である」とする意見も以前からeスポーツ界では多く聞かれてきました。

 

確かに高額な賞金制大会やプロツアーを開催しているタイトルも珍しくない現状を考えると任天堂の姿勢は積極的とは言い難いかも知れません。しかし、法令や著作権を守った大会の基準を明確に示しながら配信や動画の収益化も認めているという点では、現代のeスポーツプレイヤー・ファンの気持ちに寄り添ったサポートを行っているとも考えられます。

 

ガイドラインでは大会名や告知についても任天堂の著作物の使用に際しては厳しい制限が設けられており、任天堂のタイトルを使用したコミュニティ大会が好ましくない表現に使用されたり、法律や金銭でのトラブルが発生したりといった商品・企業イメージを損なうケースを未然に防ぐ目的が、今回の制定の背景の中で大きな理由なのではないでしょうか。

 

こうしたコミュニティ大会に対するガイドラインや申請許諾制度は任天堂以外のメーカーも既に導入しており、やはりその中でもゲーム名やゲームのキービジュアルなどの著作物の使用は制限されています。eスポーツが広く親しまれるようになった反面、メーカーの目の届かない領域で意図にそぐわない形で著作物が使用されてしまうリスクを回避するためにも、はっきりとしたルールの設定が業界全体で必要になり始めています。

 

ガイドラインが制定されたことで新規大会はもちろん、既存の大会も改めてルールの遵守が求められるようになりますが、これまで参加費を無料にするために運営費をスポンサードされていた主催者からは参加者負担を減らすための工夫も規制されてしまうことへの反発意見も見られるなど、大きな話題を呼びました。

 

他にも中止となった大会の中にはレトロゲームの改造版を使用していたために規約違反となってしまった例もありました。こちらも当時のゲーム機本体やコントローラーが既に製造中止となっているため、PCなど現行の機器でプレイできるよう工夫した結果であり決して改造版を推奨する意図はなかったはずですが、やむを得ない事態となってしまいました。

 

 

ルールの制定や改定によって思わぬ影響を受ける人が生まれることはeスポーツに限らず往々にして起こり得るものですが、あくまで他者の著作物を使用して開催するコミュニティ大会に制限がかかることは運営・参加者としても受け入れなければなりません。

 

それでも決して任天堂のタイトルにおける大会や競技シーンの道が狭まった訳ではなく、申請許諾制度によってこれまで以上に企業や団体による大会が盛り上がる可能性もあれば、ガイドラインに沿った新たな大会が生まれることも大いに考えられます。

 

ガイドラインのQ&Aではあらゆるケースを想定した回答が用意されていることからも、許容する範囲内ではコミュニティ大会を後押しする姿勢が感じられ、今後も必要に応じて順次アップデートされていくのではないでしょうか。

 

任天堂の著作物に限らず、どれだけ大規模な公式大会が開かれているタイトルであっても、誰もが気軽に参加して楽しめるコミュニティ大会の存在はeスポーツの盛り上がりに欠かせない存在です。今では競技シーンのトップで戦っている選手も最初から華々しいデビューを飾った例ばかりではなく、仲間内レベルの小規模なコミュニティ大会での活躍を自信やモチベーションとして腕を磨いてきた経歴の持ち主も少なくありません。

 

今回の件を境に、参加者が楽しめるよう工夫を凝らしながらルールに則った大会を企画してくれるコミュニティ大会の主催者に感謝するとともに、現代のeスポーツ大会において求められる規律について知るためにも一度ガイドラインにしっかりと目を通してみてはいかがでしょうか。

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