今後はモバイル分野で台頭する国にも注目

ジャンル・タイトルで異なるeスポーツの“強豪国”事情

#eスポーツ

個人競技やチーム競技に限らずスポーツでは、バスケットボールにおけるアメリカ、ラグビーのニュージーランド、そして柔道の日本など「強豪国」と呼ばれる地域がそのシーンを牽引しています。

 

国ごとの力関係や競技人口の多さを知ることで、その競技が盛んではない地域から台頭するチームやプレイヤーのすごさを感じられたり、技術の発達や戦術の流行によってパワーバランスが移り変わって行く状況が読み取れたりと、新たな視点によって観戦の楽しさが広がります。

 

 

そんな「強豪国」は、もちろんゲーム対戦競技のeスポーツにも存在します。今回はゲームジャンルやタイトルごとによってさまざまな「eスポーツの強豪国」と、その国が強い背景について見ていきましょう。

 

FPS・ MOBAはPCゲーム大国が牽引

まずはeスポーツタイトルの中でも、日本でも高い人を誇るFPSジャンルからメジャータイトルの状況を見ていきましょう。

 

FPSジャンルでは、国内でeスポーツという言葉が人気になる以前の2012年からサービスを開始したPCゲーム『Counter-Strike:Global Offensive (CS:GO)』が長期に渡って人気を集めています。このタイトルではロシアを含む欧州地域が強豪であると言える状況で、実際に公式の世界大会優勝チームも殆どが欧州チームで、次いで南米地域からブラジルチームが背中を追いかける構図になっています。

 

欧州チームが強い背景としては、ヨーロッパでは10年以上前からPCゲーム文化が定着している点が挙げられるでしょう。特に寒さが厳しい豪雪地域では冬の間に屋内で楽しめる娯楽が貴重なためオンラインゲームのプレイ人口が多く、結果として有力な選手を多く生み出していると分析する意見も聞かれます。『CS:GO』とゲーム性の近い『VALORANT』でも欧州勢が結果を残していることから、欧州のFPSはレベルが高いと言って間違いないでしょう。

 

FPS人気が高いのはアメリカなど北米地域も同様ですが、こちらはコンシューマー(家庭用ゲーム機)向けにリリースされてきた『Call of Duty(CoD)』シリーズの人気が高いことが大きな特徴です。現在はPC版の『CoD』もリリースされていますが、2021年までは公式プロリーグにマウス操作での参加が不可能であったほどに「コンシューマーでのFPS」文化が定着しており、『CoD』プロリーグでは、大半を北米地域のプレイヤーが占めています。コンシューマーの領域では圧倒的に強豪国である反面、PCゲームではやや立場を落としていると言えるでしょう。

 

 

そうした背景から欧州を南米・北米が追いかける構図が主流のFPSですが、事情が異なるのが『Overwatch』です。このタイトルはシューティングゲームにキャラクターごとのスキル(能力)を駆使して戦う要素が加えられていますが、そこで爆発的な強さを見せているのが韓国です。

 

その背景として、韓国は『Overwatch』と同じ開発元が手掛けた『StarCraft』というリアルタイムストラテジーゲームが2000年頃から大きな人気を集めており、敵味方のスキルを管理しながら戦うストラテジー的な要素を含むゲーム性を受け入れやすい環境ができあがっていたと考えられています。こうした背景もあり、ゲーム性が似ている『Overwatch』も大きな人気を集め、プレイ人口が増加しました。また、『Overwatch』のエイム操作だけでなくスキルの使い方など、必要な戦略性も『StarCraft』で既に身についていたことから、多数の強豪選手の輩出に繋がったのではないでしょうか。『Overwatch』のプロリーグでは韓国人選手のみで構成されるチームも多く、国別の強さを評価するのであれば「一強」と表現しても過言ではないでしょう。

 

そして、韓国が強いタイトルとして『Overwatch』と同じかそれ以上に思い出されるのが、MOBAジャンルの『League of Legends(LoL)』です。『LoL』は世界で最も人口が多いeスポーツタイトルとも表現されるほどの人気タイトルですが、近年は韓国チームと中国チームが強い存在感を示しており、中でも世界的に有名な「Faker」選手を含む韓国勢の強さが際立っています。

 

MOBAは非常に戦略性が高いジャンルであり、『LoL』は北米からサービスをスタートしたゲームではあるものの、ストラテジー系のゲームの人気が高く、安価でオンラインゲームをプレイできる施設「PCバン」が浸透している韓国の土壌にピッタリなタイトルと言えるでしょう。

 

 

一方で、韓国がMOBAジャンルで絶対的に強い訳ではありません。日本ではあまり馴染みがありませんが『LoL』の元になったとされるゲーム『Dota』は、世界では『LoL』並かそれ以上の人気を誇るタイトルです。大会の賞金額も世界一とされるメジャータイトルですが、ここで強さを見せているのは欧州地域なのです。

 

このように同じジャンル内の人気タイトルを比較すると地域別に「住み分け」のような状況になっていますが、これは自国のチームが強ければ人気が高まり、プレイ人口が増加して有力なプレイヤーが輩出され、国内だけでもレベルの高い環境で練習が可能になり、また自国の強さが担保されていくという連鎖反応が起きていると考えられます。

 

この連鎖反応による人気タイトルの固定に加えて、今ではそれぞれのタイトルで大会やチームなど競技の制度も整備されており、選手の地位も確固たるものが築かれつつあります。そうした環境から敢えて他のジャンルへと挑戦して結果を残すのは容易ではないはずで、国や地域全体で見れば今後もこの住み分け関係が続いていくのではないでしょうか。

 

日本は格闘ゲーム大国 今後はインドがモバイル大国へ?

では日本が強いeスポーツタイトルやジャンルは?となると、やはり格闘ゲームが挙げられます。コンシューマー文化が強く、同時にゲームセンターでの対戦型格闘ゲームが一大ブームを巻き起こした日本は特に『ストリートファイター』シリーズの強豪国であり、世界大会でも日本人選手が上位に複数入賞する光景も珍しくないほど、ハイレベルなプレイヤーが揃っています。

 

とは言え『ストリートファイター』は日本で作られたゲームであり、昔から遊んでいる日本人が強いのは当然だとも感じられるかも知れません。しかし日本生まれのタイトルでもグローバルに受け入れられている作品は多く、同じ格闘ゲームでも『鉄拳』は2019年にそれまで全く認知されていなかったパキスタンの選手が突如として頭角を表し世界大会を席巻するという興味深い出来事もありました。

 

実はパキスタンでも『鉄拳』は人気タイトルで、国内での盛んな競い合いを経てトップクラスの腕前を持つ選手が多数生まれていました。しかしオンラインゲームの文化が無いパキスタンでは家庭やゲームセンターに集まって対戦するのが主流であり、ネットワークを通じて近隣諸国のプレイヤーとマッチングすることもなかったため、海外にパキスタン国内の『鉄拳』知られることはありませんでした。また、ビザの問題もあってなかなか国際大会への出場機会もなかったところを、eスポーツの発展によって選手が大会に参加できる環境が整い始めたので「急にパキスタン人の凄腕のプレイヤーが沢山現れた」ように感じられたのです。

 

その後、パキスタンへの“武者修行”を敢行した日本人選手が世界大会を優勝したことでパキスタン国内のレベルの高さが知れ渡る結果となった『鉄拳』シリーズ。この例は非常に珍しいケースではあるものの、ひとつのタイトルであれば国内でのブームをきっかけに強豪国となり得る可能性があると示すもので、今回紹介したタイトル以外でもさまざまな要因によって勢力図は変化しています。

 

日本で近年爆発的なヒットを記録している『Apex Legends』でも日本チームは世界大会で上位に食い込む活躍を見せており、「バトルロイヤル」ルールのゲームが新興ジャンルであることも手伝って、これまでトップを追いかける立場だったFPSにおいて存在感を強めています。

 

また、PCやコンシューマーのゲーム以外で見れば、ここ数年でインドのモバイルゲーム市場が飛躍的に発展しているという報道もあり、今後に注目したい存在です。日本がバトルロイヤルで世界に名を知らしめるのか、インドがモバイルのeスポーツを席巻するのか、はたまた全く新しいタイトルが流行し、新たな勢力図が描かれるのか。各国の背景を想像しながら、未来のeスポーツ強豪国を探してみるのも面白いのではないでしょうか。

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