北米仕込みの“eスポーツ×教育”を日本へ

「eスポーツ国際教育サミット」開催のNASEF JAPANが担う役割とは

#eスポーツ

対戦競技として人気を集めているeスポーツ。近年は中学・高校でもeスポーツ部の存在が広まり始めており、プログラミング教育にも活用されるなど、教育現場でもゲームに注目が集まっています。

 

そんなゲームを用いた教育について研究する団体が日本にもあるのをご存知でしょうか。特定非営利活動法人「北米教育eスポーツ連盟 日本本部(以下、NASEF JAPAN)」です。

 

2023年3月31日にはeスポーツ部の教育的意義に関する学術研究の発表やSTEAM教育の活用事例の紹介、そしてゲーム依存予防・回復支援など、多岐に渡るプログラムの「第4回 NASEF JAPAN eスポーツ国際教育サミット2023 『未来の可能性を広げよう』」を配信したNASEF JAPANの方に、インタビューでお話を伺いました。

 

──自己紹介をお願い致します。

 

岡田氏(以下、岡田) 岡田と申します。NASEF JAPANでサミットの運営などを担当しております。

 

坪山氏(以下、坪山) NASEF JAPANスカラスティックディレクターの坪山と申します。教育に関する分野の担当で、簡単に言うと3月末時点で426校ある加盟校とNASEF JAPANとの間に入って繋ぐ役割になります。

 

──まず「NASEF JAPAN」という団体について教えていただけますか。

 

 

岡田 5年ほど前から北米でeスポーツと教育に関する研究を進めている「北米教育eスポーツ連盟(NASEF)」がありまして、その本部が持つeスポーツを用いた教育コンテンツや教育プログラム、研究成果などを日本に取り入れるための非営利教育団体が我々「北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)」です。日本とアメリカでは文化が異なる部分もあるので導入にあたってのノウハウは、アレンジも必要になりますし、日本独自の取り組みも行っています。主なターゲットは高校などの教員の方で、先生同士のコミュニティを促進していきたいという目的を持っています。

 

──eスポーツを通じた教育に取り組んでいる、ということですね。

 

岡田 元々、北米にあるNASEF本部が「ゲームを通じて理数系の教育に関心を持ってもらおう」ということからスタートしているんです。日本本部でも、ゲームでプロを目指すだけではなく、eスポーツ・デジタルコンテンツを通じて教育に取り組みたいと、同じ志を持って全国の加盟校と活動しています。

 

──具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか。

 

岡田 昨年行われたものだと、人気ゲームの『マインクラフト』を使って農業・食糧問題に取り組む「NASEF Farmcraft」が挙げられます。ゲームを通じて農業問題への関心を育むだけでなく、北米本部と国務省が主催する取り組みに日本本部からもチームで参加しているので英語に触れる機会にもなっています。

 

また、eスポーツを通じて、社会課題を解決するアイデアを高校生にプレゼンテーションしてもらう「アイデアコンテスト」は、北米仕込みのイベントと言えるのではないでしょうか。

 

「NASEF JAPAN MAJOR」というeスポーツ大会も実施していますが、こちらも、ただ大会をやるだけでなく、生徒さんを現場に呼んで職場体験をしてもらったり、ロゴデザインのコンテストを行ったりと、教育と絡めた取り組みになっています。他にもeスポーツ部活動の運営マニュアルの作成、ゲーム・eスポーツについて調査研究活動など、幅広く活動しています。

 

──3月31日には「4 eスポーツ国際教育サミット2023」が配信されました。ここまで紹介していただいた取り組みを含め、非常に様々なトピックについての研究発表がありましたね。

 

岡田 サミットも、やはり教員・学校関係者の方を対象に「eスポーツってこんな良いことがある」と伝える目的や、既に実践されている取り組み例の発表を通じて、知ってもらいたいという狙いがあります。NASEF JAPANの共同研究の結果発表や、今回はありませんでしたがコンテストの結果発表・表彰の場としても活用しています。

 

一番重要視しているのは、先生たちがひとつでも「私たちの学校でもこの取り組みをやってみたい、取り入れたい」と興味を持てる内容を継続的に発信することですね。「eスポーツでこういうことができるんだな」と思ってもらいたいというのがサミット全体の目的です。動画内でも言及されていますが、今回のサミットは非常に長いので興味のあるコンテンツだけでもまずご覧いただけたらと思います。

 

▲現場でのタツナミシュウイチさんとNASEF STAFF坪山氏とのクロストークの様子)

 

──プロゲーマー育成を目指す専門学校などは増えてきていますが、一般の教育現場にもeスポーツを普及させていくにはこうした取り組みも必要になりますね。

 

坪山 私は元々保健体育の教員だったのですが、やはり現場ではまだeスポーツを使うことに良いイメージが持たれていない感覚はあります。eスポーツといえど「ゲーム」というイメージがあるからでしょう。もちろんゲームには良い面も悪い面もありますが、研究内容を発信して客観的に現場の先生に伝えることで、そこから保護者の方や他の先生方にどちらの面も分かっていただきたい。その場として、サミットのようなものがあるべきかと考えています。

 

──教育現場を知る坪山さんから見ても、eスポーツに関する理解がまだ高まっていない環境で教育コンテンツとして使っていくことには難しさを感じますか?

 

坪山 例えば「eスポーツ部」のある学校も増えていますが、サッカー部や野球部と違って新しく作るのも難しいんです。「ゲームを学校でやらせている」というイメージも強いので、熱意ある生徒がいて先生が設立をお願いしているケースでも周りの理解が得られない時はありますね。

先生自身がゲームをやっていればまだ理解できるかもしれないんですが、私も40代ですのでゲームと言えばスーパーファミコンなどのイメージがなかなか根強くて(笑)。若い教員ほどeスポーツに理解を示しているかなという肌感はあるのですが、なかなか若い先生だけで何か新しく動くのも難しいですよね。

 

岡田 理解度は先生によって大きく異なるというのが現状ですね。熱意と求心力があれば務まるのかも知れませんが、中には頼まれてeスポーツの担当を務めるという先生もいらっしゃるので、難しさはまだまだあります。

 

──そうした教員の方に向けた取り組みに加え、eスポーツイベントの学生ボランティアの募集も行われていますよね。

 

岡田 こちらはeスポーツをキャリア教育に繋げたいというビジョンから行っている取り組みです。色んなイベントに携わってもらって「イベントの開催にはこんな事をやらなきゃいけないんだ、こんな準備が必要なんだ」と体験してもらう狙いがあります。

選手として大会やイベントに参加すると、呼ばれたら試合をして、待機してまた試合をして……の流れで「待っている時間が長いな」なんて気持ちになるんですけど、裏方を体験してもらうと「本当は短くしたいけれどできないんだ」ということが理解できるようになりますよね。

 

──学生のうちから大会の運営について学ぶ機会というのは中々ありませんよね。

 

岡田 最終的には企画や宣伝も含めてイベント全てを学生主導で行ってほしいと考えていますが、最初から全部をお任せするのは難しいので、今回はカメラマンや設営と言った役割をお願いしました。カメラを初めて触る学生さんは持ち方からレクチャーされていましたので大変だったと思いますが、良い経験になったのではないでしょうか(笑)。

次回以降の大会では本当に学生による運営委員会を作るなどしていきたいですし、加えて「こういう大会ならもっと高校生が参加しやすいんじゃないか、先生も見て参考にしやすいんじゃないか」というアイデアも取り入れていきたいです。

 

──eスポーツを通じた経験がプロゲーマーを目指す以外の進路にも生きるようなキャリア教育を目指しているという訳ですね。

 

岡田 さらに権限を委譲していくと大変なことも出てくると思いますが、一緒に乗り越えてひとつの大会を作り上げる経験は今後に生きると考えています。それこそ、就職活動にあたって「こういう経験をしました」と話せるような内容にまで発展できればと思っています。

 

──教育の視点からeスポーツに取り組んでいるNASEF JAPAN、そしてお二方は、コロナ禍を乗り越えたeスポーツ業界の今後について、どのような展望をお持ちでしょうか。

 

岡田 まずNASEF JAPANとして活動方針は変わらず、サミット等を通じて教育現場で使える情報やキャリア教育プログラムを届けていきます。日本ではeスポーツが受け入れられつつあると言えますが、同時にゲーム依存などの懸念点も出てきています。単にeスポーツを推進するだけではなく、客観視した情報なので懸念を必ず払拭できるとは限りませんが、そうしたネガティブな面に関する発信も必要とされるでしょう。

コロナも落ち着きを見せているので、NASEF JAPANの立ち上げ当初に計画していた合宿のような一か所に集まって話し合う形式のプログラムも今後は復活させられると思います。課題の解決について生徒さん自身で考えてもらう、本部仕込みの「プロジェクトベースドラーニング」というものですね。今期はオフラインでの取り組みもやっていきたいです。

 

──坪山さんは、どのような展望をお持ちでしょうか。

 

坪山 やはり先生方の考え方を変えるのが難しいのかなとは思います。eスポーツは運動系の部活動と違って生徒の方が技術的にも情報的にも上だという状況になっていて、必ずしも先生が指導をしなければいけない訳ではないという、部活動の新しい在り方ですよね。教育の改革のひとつにeスポーツ・デジタルコンテンツがなってくれたらいい、というのが私個人の考え方です。

 

元々教員だった私が言うのは変かも知れませんが、従来の教育ではなかなか難しいことも、好きなことを通じてなら入ってくることってありますよね。そして、そうして身につけたものって意外と長期的に覚えていたりするんです(笑)

 

今はオンラインとオフラインのハイブリッド教育が求められている時代で、私も「オンラインで保健体育を教える」ことを求められた時には頭が真っ白になりましたが、そうした経験がeスポーツに触れるきっかけになりました。既に実践されている先生と一緒になって広めていけば、更に生徒の可能性を広げることになると思います。

 

──eスポーツの導入について戸惑いを感じている教員の皆さんには、是非今回の「eスポーツ国際教育サミット」を見ていただきたいですね。

 

岡田 今回のサミットは初めてアーカイブ配信の形式となっており、どなたでもご視聴いただけます。繰り返しになりますが、非常に長いのでまず関心のあるトピックだけでもご覧いただけたらと思います。今後の参考とさせていただきたいので、是非ともアンケートにもご協力ください!

 

──本日はありがとうございました。

 

 

 

NASEF JAPAN 公式サイト:https://nasef.jp/

 

第4回 NASEF JAPAN eスポーツ国際教育サミット2023 「未来の可能性を広げよう」

NASEF JAPAN Channel :https://youtu.be/7FqKnU1c5b0

 

第4回eスポーツ国際教育サミット 開催後アンケート

https://forms.gle/VUvR3f5yeReNd17q8

 

サミット特設サイト:https://nasef.jp/sympo2303/#howto

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