ビジネスモデルと公平さのバランスが求められる

無料タイトルで気になる「Pay to Win」問題と課金コンテンツの存在

#eスポーツ

ゲームの販売方式が多様化している昨今。ゲーム専用機器以外にモバイルやPCが普及したことでオンラインゲームも一般的になり、基本プレイ無料のタイトルも増えました。今や「ゲームはゲーム機とソフトを買って遊ぶもの」とは一概に言えない時代になっています。

 

中でも、オンラインゲームによくある『基本プレイ無料』タイトルは、誰でも気軽にプレイできるハードルの低さが魅力であり、eスポーツとして人気の対戦型ジャンルでもよく見られます。しかし、ビジネスモデルとして成立させるためには収益を得られる仕組みが当然のことながら必要になります。

 

無料ゲームの収益モデルはいくつかありますが、大型タイトルでよく見られるのはゲーム内アイテムなどの追加コンテンツを販売する「ゲーム内課金」を用いるケースです。近年はオフラインでプレイするゲームであっても発売後にはネットワークを通じたアップデートが当たり前になっており、基本プレイ無料タイトルに限らず継続して開発費を回収する手段としてこの「ゲーム内課金」は広く用いられています。

 

しかしこうした「ゲーム内課金」では「Pay to Win」と呼ばれる要素がユーザーから敬遠され、問題になることがしばしばあります。今回は現代のゲームでこそ話題になる「Pay to Win」について解説いたします。

 

余裕があるユーザーにも好まれない「Pay to Win

 

「Pay to Win」は直訳すると「勝利のために(お金を)払う」となる通り「課金するほど有利になるゲームバランス」を表した言葉で、基本プレイ無料を意味する「Free to Play」をもじってこのような表現が使われるようになったという説もあります。

 

 

ゲームと課金を巡っては、ランダムでアイテムが手に入る販売方式、いわゆる「ガチャ」(海外では「ルートボックス」と呼ばれる)手法などが過去に問題となってきましたが、「Pay to Win」なゲームバランス自体は法律などのルールには全く抵触せず、規制の対象ではありません。

 

法的な問題がないのであれば、課金したユーザーがメリットを受けられるのは当たり前で何もおかしなことはないとも思えますが、そのメリットがゲーム内の優劣にまで影響してしまうとゲームの面白さを損なってしまうので、多くのユーザーには受け入れがたいと考えられています。

 

課金する余裕がない・したくない無課金ユーザーからすれば、課金ユーザーに対して勝ち目のないゲームでは面白味を欠いてしまい、また、メリットが受けられる課金ユーザーも「もっと強いアイテムが販売されたら、さらに課金しなければいけない」と、懸念が生じる上、無課金ユーザーが減少すれば自分が優位に立てる相手がいなくなってしまうので、課金をする意味合いが薄くなってしまいます。

 

つまり、課金額の多寡によってゲームの勝敗が左右されてしまうことは課金ユーザーにとっても決して嬉しいだけの仕組みではなく、ひいては、ユーザー離れを招く原因となり、ゲーム全体の人気に関わる問題になってしまうのです。

 

明確でない基準に「対戦の平等」を加味するとどうなる?

 

こうした背景から敬遠されがちな「Pay to WIN」の仕組みですが、課金で得られるメリットの内容がゲームごとで異なるため、どこからが問題となるかという明確な基準は設定することができません。現時点でも多少なりとも課金による優位性がありながら問題と認識されないゲームもあり、運営するサイドにとっても「ユーザーから不満に思われず、それでいて売上の良い課金コンテンツ」の在り方は今なお探られている段階です。

 

このような環境下で課金コンテンツの代表的な例となっているのが、キャラクターや武器の見た目を変化させる「スキン」です。使用してもゲーム内の性能などは全く変化せず有利不利を生じさせないためユーザーから受け入れられやすく、平等性が担保されています。

 

他にも定番となっているのは、使用することでゲーム内の待ち時間や手間を短縮するなどゲーム進行を補助するアイテムです。無課金のユーザーでも時間さえあれば特に必要ではなく、十分なプレイ時間が確保しづらいユーザーにとっては利便性が高いという仕組みです。

 

つまりは「課金ユーザーと無課金ユーザーがゲーム内で平等であること」がひとつの条件となるわけですが、この「平等」をどう捉えるかは個人差があるため難しく、eスポーツ競技として考えるとなおさらシビアに捉えられかねません。

 

例えば格闘ゲームで有料の追加キャラクターがリリースされた場合、それがあまりにも既存のキャラより飛び抜けて強い性能ならば「『Pay to WIN』だ!」と指摘されてしまうでしょう。しかし性能はそれほど強くなかったとしても、大会に出場してそのキャラクターと対戦する可能性がある人にとって有利不利を生じないと言い切れるでしょうか。

 

格闘ゲームではそれぞれのキャラが使う攻撃技の強さやモーションの研究は非常に重要です。追加キャラクターを購入しなければ研究不足の相手と対戦しなければいけないとなると、eスポーツに真剣に取り組みたいプレイヤーは「不平等を避けるために購入を迫られている」状況と考えることもできるかも知れません。

 

 

また、世界的に人気のMOBA『League of Legends』では現時点で150体以上のキャラクターが登場していますが、ゲームを開始した時点では数体のキャラクターしか使用できず、時間をかけて少しずつ使用可能にしていかなければなりません。しかし、課金をすることでもキャラクターの解放は可能であり、2022年6月にはマイクロソフトの定額サービス「Xbox Game Pass」の加入者がキャラクターの使用権を利用できるようになるとのニュースもありました。

 

もし真剣にゲームの上達を目指したい初心者がいたとして、数キャラクターしか使えないアカウントを何百時間もかけて無課金から利用可能にするよりも、課金をして、最初から多数のキャラが使える状態にしてチャレンジする方が明らかに合理的ではないでしょうか。

 

ユーザーと開発側のバランスを探っていくことが重要に

 

ここで例として挙げた課金コンテンツの在り方は、どちらも従来の考え方からすると「Pay to WIN」には当てはまりませんが、対戦ゲームの上達を目指すうえの平等さでは有利不利を生んでいるとも考えることができます。eスポーツが高い注目を集める時代になり、対戦ゲームにおける課金コンテンツが以前よりも厳しい目で見られるようになった、と言っても良いかも知れません。

 

しかし、最初にも述べたようにゲームが存続していくためには必ず収益が必要です。どれだけ快適でバランスの良いゲームでもサービスが終了してしまってはeスポーツも続けられません。

 

対戦ゲームが注目される環境では少しでもそうした不平等感を埋めようとゲーム運営側からも配慮がなされており、「練習モードでは無課金でも全てのキャラクターが使える」「公式大会への出場者へ全キャラクターが使用可能なアカウントを貸与する」などの措置が講じられるケースも存在します。

 

今後もゲームの醍醐味を損なうほど「Pay to WIN」なシステムが主流になることはないと考えられますが、各ゲーム会社がアイデアを絞って、ゲームの面白さや競技性を保ちつつ、それでいて特別感や優越感を味わえるような、思わず買いたくなる課金コンテンツの手法が生み出されていくことでしょう。

 

基本プレイ無料のタイトルでもeスポーツ大会が増えていく中で、課金コンテンツを各ゲームメーカーがどのように扱って行くのかは、今後注目のポイントになるかも知れません。

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