2022年10月。百貨店の大丸・松坂屋やショッピングセンターのPARCO(パルコ)を運営するJ.フロントリテイリング(以下、JFR)株式会社が、eスポーツチーム「SCARZ」を運営する株式会社XENOZを子会社化し、新たにeスポーツ事業への本格参入を発表しました。
数々のタイトルで優れた実績を誇る名門チーム「SCARZ」と、長い歴史を誇る百貨店業界で強い存在感を放つJFRグループの組み合わせが何を生み出すのか。
今回はJFRグループから事業ポートフォリオ変革推進部の丸岩昌正さんと徳橋修平さんのおふたりにインタビュー取材を行い、eスポーツ事業への新規参入の背景や狙い、今後の展望などを伺いました。
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──本日はよろしくお願いいたします。
徳橋修平さん(以下、徳橋) よろしくお願いいたします。
丸岩昌正さん(以下、丸岩) よろしくお願いいたします。私たちの所属する「事業ポートフォリオ変革推進部(以下、PF変革推進部)」はM&Aがひとつのミッションになっており、私と徳橋が今回のeスポーツ案件を担当している、という立ち位置になります。
──まず、今回のeスポーツ参入はどのような経緯で生まれたのか教えていただけますか。
丸岩 そのためにはPF変革推進部の説明からさせていただきます。この部署は今年3月に新設されまして、ミッションとしては名前の通りJFRグループの事業ポートフォリオを変革することを担っています。当社は大丸・松坂屋やPARCOというリテイル事業が売上の6から7割を占めているのですが、コロナ禍で非常に苦しい時期を過ごした業界であり、将来的なことを考えてもポートフォリオの構造を変えていかなければいかないという危機感があったことが背景として挙げられます。
そこで「新事業はどこを狙っていくか」と検討に入ったのですが、やはり完全な飛び地へと急に出ていくよりもJFRグループの事業領域や基盤を多少なりとも活かせるところを考え、出てきた候補がエンターテイメントの領域でした。
──確かに、PARCOにはエンターテイメント分野との繋がりがあるイメージも少なくありません。
丸岩 現時点でも渋谷PARCOの上層階にはゲームや漫画といったポップカルチャーの店舗がたくさん入っているので、そのようなイメージもあるかと思いますが、それはあくまで場所を貸している形であり、自分たちでドライバーズシートに座って事業をやっている訳ではありません。かといって今から漫画やゲーム業界に一から入って行くのも難しいです。
そんな中でも将来性が豊かで、なおかつ今からでも中心へと入っていける可能性がある魅力的な業界として話題に上がったのがeスポーツでした。
──最初から「eスポーツ分野に入って行こう」という話が持ち上がった訳ではなく、エンタメ分野の中から絞り込まれたような形だったんですね。
丸岩 そうです。しかも「eスポーツへ参入」とひとことで言っても、様々な事業展開の方法がありますよね。大会を運営することも、スポンサーとなって名前の露出を上げることも、もちろんチームを持つことも考えられます。
そうした検討を始めたタイミングでSCARZに関するお話を頂いたのですが、調べてみると魅力的なチームであることも分かって本格的な検討に入りました。振り返って見るとご縁とタイミングに恵まれたな、という印象ですね。
△試合に臨むSCARZの選手
丸岩 その通りです。私も徳橋もこの案件が始まるまでは、決してゲームやeスポーツに詳しい訳ではなかったので、グループ内でeスポーツに詳しいメンバーにもプロジェクトに入ってもらったんです。その彼も「SCARZはすごく良いチームですよ」と心強い意見をくれました。
業界全体を見渡しても、しっかりした強さを持っていながらそのバックグラウンドに入る余地が残っているチームと言うのは本当に少ないですよね。今回のSCARZとのご縁は千載一遇のチャンスでした。
──ありがとうございます。検討段階ではeスポーツ業界についても様々なことを調査・検討されたかと思うのですが、どのような部分に特に魅力や将来性を感じられたのでしょうか。
徳橋 いくつかポイントがあります。まず「eスポーツは今後伸びる」とよく言われていますが、最近は東南アジア圏での盛り上がりも大きく、日本国内でもテレビ番組などメディア露出も増えてきており、大きな可能性を感じた部分です。
加えて、プロチームの運営も、大会で賞金を獲得するだけではなく、様々な可能性があると考えています。例えば、旅行業界や医療、福祉と掛け合わせて「eスポーツ×〇〇」という新しいエコシステムを生み出していけるポテンシャルもあると考えました。eスポーツは年齢や性別を問わず楽しめるコンテンツであり、SDGsが叫ばれる状況下で、ビジネスだけでなく社会的意義にも貢献できるのも魅力です。調べれば調べるほど、色々な可能性がある分野だなと感じましたね。
──最初にニュースを目にしたときはリテイル事業との関連性がどう生まれるのか、というポイントに思わず注目してしまったのですが、決してすぐにそこへ繋げようという訳ではないのですね。
丸岩 そうですね。もちろんeスポーツはZ世代に人気が高く、YouTubeやTwitchの視聴者数の約半分がZ世代ではないかと言う試算もありますから、若い世代へのアピールという効果は想定されます。百貨店の顧客基盤は40代や50代が中心ですから、これから日本の消費を担っていく20代以下に早い段階でタッチポイントを作れるというのは魅力的です。ただ、短期的に百貨店のビジネスに繋げていくことは考えていません。
──では、今後のeスポーツ分野への参入でどのような展開をお考えになっているのか、現時点でお話いただける範囲で構いませんので是非お聞かせください。
丸岩 今からお話することはあくまで決定事項ではなくアイデア段階であるという事を前提でお聞きいただきたいのですが、本当に色々な整備が出来ると思っています。
まずは今のSCARZが行っている事業をJFRのリソースで支援して、更にレベルアップしていくことです。チームは「試合に出て賞金を稼ぐ」だけでなくイベントの企画なども頻繁に行っているので、その会場としてJFRの施設を使用していくのは分かりやすいシナジーではないでしょうか。200~300人規模の集客ができるスペースであれば、ちょっとしたイベントを開催できますよね。
──それは確かにイメージしやすい形です。
丸岩 チームグッズを扱うショップはもちろん、ネットワークが広がればeスポーツで人気のタイトルを手がけるパブリッシャーさんと連携して、ゲームタイトルのポップアップショップをPARCOに。というのも認知度が上がれば可能性は考えられるのかなと。
徳橋 「JFRにグループインした後、弱くなったね」と言われてしまっては困るので(笑)、SCARZがこれまで以上に強くなって欲しいと願っていますが、「業界全体で成長を目指す」空気を感じるので、今後の取り組みを通じて業界全体にも良い影響を与えていきたいという気持ちもあります。
eスポーツ選手にもファンはついていますが、まだまだ他のスポーツには及びませんので、例えば施設でのイベントで知名度を高めていくような施策も考えられます。特にSCARZにはかっこいい選手も多いと感じますので(笑)。ゆくゆくは、大会を開催できないかとも考えています。
──アイデア段階でも非常に楽しみになってくるお話ですね。他のチームと一緒になって、という動きも考えられるのでしょうか。
徳橋 現時点では考えていませんが、常に新しいチームが出来たりしていることからもまだ柔軟性がある業界なのかなとは感じでいます。私たちもまだ分からないことが多いので、色々な可能性を探っていきたいですね。
──ありがとうございます。丸岩さん徳橋さんは今年になってからeスポーツに携わられたとのことですが、ゲームやeスポーツに対する印象やイメージは何か変化がありましたか?
丸岩 これは会社とは関係ない個人の感覚にはなりますが、やはり変わりましたね。それまでゲームは自分でやるものと考えていたので、子供がYouTubeでゲーム配信を見ているのを「人のゲームを見て楽しいのか?」と疑問に思っていました。ただ、周囲を見渡すと社内にも「自分ではやらないけれど、配信を見ている」人が結構居たりして、確かに私自身もサッカーはやったことないけど試合は見るんです。eスポーツもルールが分からないなりに実際に観戦してみると,感動を与えていることが十分に伝わってきて、これはスポーツのひとつなんだなと理解が進みました。
──徳橋さんはいかがでしょうか。
徳橋 私も「最近よくeスポーツが取り上げられているなぁ」くらいの認識だったのですが、オフラインの会場で大会を観戦した際、リアルスポーツを越える可能性があると強く感じました。
短時間で緊張と興奮を感じられるので「点数が入らなくてつまらないな」ということも少ないですし、チーム競技としての魅力もありますよね。ひとりの選手が目立って相手を切り崩す活躍をしていても、裏では細かい指示やサインプレーがあるじゃないですか。見ている人に与える影響や感動はリアルスポーツに迫るものがありますね。
──SCARZは名門チームですから、ファンの方の熱量も素晴らしいものがあると思います。
丸岩 SCARZは「川崎から世界一へ」というスローガンを掲げていますし、世界で通用するチームになるのを支援できるようにしていきたいと思います。
△SCARZが掲げるビジョン
──ファンにとっても心強いお言葉だと思います。では「川崎から」というのは傘下に入っても変わらずやっていくんですね。
丸岩 ホームタウンとしては変わりませんね。ただ、店舗や施設は色んな所にあるのでよろしくお願いしますとはSCARZにも伝えていますので、今後は各地で色んな取り組みが出来るようご協力お願いしていくつもりです(笑)。
まだ契約を締結したばかりで目に見える動きや変化がスタートするのは来年度以降になると思いますし、どういうことが実現できるかもまだ模索中ではありますが、色々とチャレンジして行きたいと考えています。
──今後に注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。
丸岩・徳橋 ありがとうございました。