世界のデジタル × アート先進事例6選

デジタル田園都市国家構想で文化を発信

#DX

 

岸田政権の注目政策「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル技術で都市と地方の格差の解消を目指す政策です。コワーキングスペースの整備や地方大学・専門学校への支援、スマート農業などさまざまな事業が対象となっており、その予算規模は総額5.7兆円(*)に昇ります。

 

この政策の特長は、対象事業の範囲が広範囲にわたっている点です。IT分野を中心に教育や医療、交通などをIT技術によって新たな産業の創出を狙っていますが、今回取り上げたい分野が「芸術・文化」です。

 

デジタル技術は芸術分野との親和性が高く、最新技術とアートを組み合わせた「デジタルアート」は今や当たり前の存在になりました。またデジタル田園都市国家構想は地方都市に注力しているため、地方に根付いた伝統文化の保護・継承に関する分野にも予算が交付される可能性があります。実際に「デジタル田園都市国家構想実現会議(第2回)関連資料」では「デジタル技術を活用した文化芸術の魅力化・発信」として7つの事業案が含まれています。

 

デジタル田園都市国家構想で注目が集まる「デジタル × アート」事業。今回は先行事例として、デジタルアートや文化保護関連の事例を国内外からピックアップして紹介します。

※2021年補正予算と2022年当初予算合計

 

デジタル × アートの先進事例 エキシビション編

 

名画の世界に没入!体験型のエキシビション

The Lume(アメリカ)

 

一歩足を踏み入れると、そこはゴッホが描いた絵画の世界。このインパクト抜群の映像は、アメリカ・インディアナポリス美術館で開催されたエキシビション「The Lume」です。ゴッホの作品をプロジェクションマッピング技術で部屋中に投画することで、まるでゴッホの作品世界の中に入り込んだような感覚を楽しめる体験型のアートです。普段は美術館に訪れない客層にも強烈なアピールになり、TikTokなどのソーシャルメディアでも拡散されました。デジタル技術で従来とは異なる楽しみ方を提供し、新しいファン層を開拓した「The Lume」は、日本のアート〜伝統文化にも大きなヒントを与えてくれます。

 

日本全国へ展示を配信

 Digital×北斎【破章】 北斎vs廣重 美と技術の継承と革新(日本)

 

NTT東日本株式会社が主催した「Digital × 北斎【破章】 北斎VS廣重 美と技術の継承と革新」は、葛飾北斎、歌川廣重(歌川広重)といった浮世絵の名作をテーマにしたエキシビションです。4面のシアターに浮世絵をプロジェクションマッピングした「イマーシブムービー」、浮世絵作品の上に雨や雪などの効果を映した「ムービングアート」などのデジタルアートを展示しています。また、このエキシビションは「分散型デジタルミュージアム」として企画されている点も特長です。展示作品とゆかりのある日本全国の展示施設にオンライン配信できるほか、インターネットを使えば世界中どこからでもVR空間上のエキシビションを楽しめます。既存の芸術作品をデジタルアート化するだけでなく、新しい鑑賞方法まで提案した「Digital × 北斎」は、まさに文化芸術のDX(デジタル・トランスフォーメーション)と言えるのではないでしょうか。

 

デジタル × アートの先進事例 文化財保護編

 

地域の魅力を世界へ発信

文化財デジタルコンテンツダウンロード機能(日本)

 

デジタル技術は文化財の保護・継承にも活用されています。文化庁が運営する「文化財デジタルコンテンツダウンロード機能」は、日本の国宝や文化財、地域文化を記録したデジタルコンテンツのアーカイブです。3,500以上(※2021年10月時点)の画像や動画、VR映像をダウンロードでき、コンテンツ内容を解説したテキスト情報もダウンロードできます。本サイトのコンテンツは利用規約の範囲内であれば2次利用も許可されているため、ダウンロードしたコンテンツをYoutube動画などに利用できます。近年はYouTuberやインスタグラマーなど、UGC(一般ユーザーが制作したコンテンツ)の影響力が注目されています。伝統文化の保護・継承だけでなく、ユーザーによる発信をサポートできる点も本サイトの特長です。

 

日本の技術で文化の継承をサポート

ASEAN諸国の文化財アーカイブ

ACHDA(ASEAN Cultural Heritage Digital Archive)(日本・ASEAN)

株式会社NTTデータが運営するアーカイブサイト「ACHDA(ASEAN Cultural Heritage Digital Archive)」は、ASEAN諸国の文化遺産約160点をインターネット上で閲覧できるサイトです。貴重な文献等の画像、音声、動画データに加え、仏像などの立体造形物も3Dデータとして記録しています。画像や音声、動画といったフォーマットに加え、3Dスキャン技術を活用することで形状・色・質感を含む高精細3Dデータの公開を可能にしました。これらのデータはweb上で閲覧できるだけでなく、オンラインのキュレーション企画「e-exhibition」として、コロナ禍での新しい美術体験を提供しています。日本の強みである技術力を国際交流に活用したプロジェクトの先進事例です。

 

世界の名画を無料でダウンロード

シカゴ美術館「The Collection」(アメリカ)

 

アメリカ3大美術館のひとつ、シカゴ美術館は収蔵品のデジタルコンテンツを無償で公開しています。世界的に有名な作品からあまり知られていない世界各地の逸品まで、その数はなんと約50,000点以上。ダウンロードページを眺めるだけでもゴッホの「自画像」やアンディ・ウォーホルのポートレイトシリーズ、ジャクソン・ポロックなど、誰もが一度は見たことある名画ばかりです。検索機能も充実しており、人物名や色合い、年代など細かく条件を設定してお気に入りの作品を見つけられます。素晴らしいアートを世の中に伝えるという文化的意義に加えて、収蔵品の幅広さを伝えることで集客効果も期待できます。日本の地方都市にも素晴らしい美術館はたくさん存在しているので、国内はもちろんインバウンド向けの集客施策としても参考になる事例です。

 

デジタル × アートの先進事例 地域連携編

子ども向けデジタルワークショップで楽しく学ぶ

「池袋デジタル寺子屋」「夜空のVR遊園地」(日本)

 

 

最後に自社の事例として、私たち株式会社エクストリームが実施している地域連携プロジェクト「池袋デジタル寺子屋」をご紹介します。「池袋デジタル寺子屋」は地域の子どもたちを対象に、デジタルクリエイティブを楽しく学ぶワークショップです。若い世代がデジタルクリエイティブに興味を抱き、日本のIT業界がさらに発展することを目的に、2018年より開催しています。

 

これまでARや3DCGモデリングなど様々なデジタルクリエイティブを扱ってきましたが、いずれの回もエクストリーム所属のクリエイターやエンジニアがメイン講師を担当しています。多種多様なデジタル人材が所属するエクストリームの特色を活かし、子どもたちにデジタルクリエイティブの楽しさを伝えています。開催場所も主にエクストリーム本社のインキュベーション施設「Co-CORE」や研修室を利用しており、子どもたちは最新の設備を使ってデジタルクリエイティブを学ぶことができます。

 

また、2020年からは同じくエクストリームが特別協賛を務める「池袋西口公園 extremeイルミネーション」内のVRコンテンツ「夜空のVR遊園地」とのコラボレーションを実施しました。イルミネーションを新しい形で楽しめるVRコンテンツ内に「池袋デジタル寺子屋」に参加した子どもたちがデザインしたキャラクターが登場しました。

 

このような取り組みが豊島区の国際アート・カルチャー都市の実現及び池袋西口のまちづくりに貢献したとして、豊島区長より感謝状を授与されました

 

今後もエクストリームは地域連携および未来のデジタルクリエイターを育成する取り組みを推進していきます。

 

5Gの普及で、より注目の分野に?デジタル技術による文化・芸術事業の可能性

 

今回は「デジタル × アート」における近年の事例を紹介しましたが、将来的に注目したいのが5Gによるデジタルアートの発展です。デジタル田園都市国家構想では5Gが推進されており、高速・大容量の通信環境はデジタルアートにも大きな後押しになります。VR、メタバース、NFTなど日々新しいトピックが生まれているデジタルアート分野ですが、デジタル田園都市国家構想によってその動きが加速するかもしれません。

 

まとめ

・デジタル田園都市国家構想により、文化芸術の魅力化・発信の事業に補助金が交付される可能性がある。

・分散型の展示など「文化芸術のDX」が生まれつつある。

・「デジタル × アート」の事業は地方の魅力発信にもつながるため、日本の地方都市にも大きなビジネスチャンスになる

 

 

今後も本トピックスではデジタル田園国家都市構想やDXなど、IT業界のトレンド情報を発信していきます。ぜひ参考にしてください。

 

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