巨大市場の動向

中国におけるeスポーツ

#eスポーツ

日本でも近頃良く聞くようになった「eスポーツ」という言葉ですが、世界では何年も前から「今ものすごく成長している熱い分野」として注目されています。

 

2018年現在、北米(アメリカ、カナダ)と中国がeスポーツの市場規模で1位、2位ですが、これらのトップ市場においてさえ今後の発展の余地は大きいと見込まれています。とりわけ中国については、テンセント社の推測によると2017年に7億6,000万ドルの市場だったところ、2020年には15億ドルと実に2倍になると見込まれています。中国の場合、金額よりもむしろeスポーツ参加人口で他地域を圧倒しており、その数2億5,000万人と全世界のeスポーツ人口の64%を占めると推計されています。これらの数字をみると、中国では社会全体でeスポーツが好意的に受け入れられているという印象をもつかもしれません。

 

 

しかし、中国政府がeスポーツに対して全面的に好意的かといえばそうでもなさそうなのです。

 

今年8月から9月にかけて、中国および世界のゲーム業界に衝撃を与えたニュースがいくつか流れました。その一つは、中国政府がゲームの「新規認可を凍結」したというものです。このために中国国内で発売できていないゲームは数千本にのぼるとみられています。凍結は2018年11月現在も続いており、年が明けるまでは続くのではないかと言われています。もう一つは、WeGame(テンセントの運営するゲームプラットフォーム)版の「モンスター・ハンター:ワールド」が発売後一週間で販売停止になったことです。なぜ販売停止になったのか、確実な情報はいまだありませんが、中国では政治的な要因によってたとえ大型タイトルでも販売中止になってしまうリスクがあることを感じさせる出来事でした。

 

このように中国政府がゲームに対して非常に厳しい政策をとる(とれる)背景のひとつは、子供や若者が「ゲームのやりすぎで人生を壊す」ことに対する大人世代の深刻な不安感です。テンセント社は代表作「王者栄耀」について、12歳以下の子供のプレイ時間を1日1時間、それも朝8時から夜9時の間に限り、13歳以上18歳未満の子供も1日に2時間以上はプレイできなくする措置をとらざるを得ませんでした。

 

中国ではゲームに限らず、通常のスポーツに関しても親たちの目は冷ややかなところがあるようです。日本の部活動のようなものは基本的に存在せず、課外活動に時間を費やしているヒマがあれば良い大学に合格するために少しでも勉強せよ、ましてやゲームにおぼれるなんて…という感覚の家庭が日本よりもはるかに多いと考えていいでしょう。そういった親たちの態度が、政府をしてゲーム業界に厳しい態度をとらしめる原動力となっています。

 

一方で、中国政府はやはり自国のゲーム市場の巨大さ、何より若者たちのゲームに対する熱狂を無視するわけにはいかないようです。中国国務院が出している共産党の機関紙のひとつ「経済日報」は、「eスポーツにポジティブな作用を発揮させよう」と題する社説を10月17日に掲載しました。それによると「eスポーツとオンラインゲームはぜんぜん違うもの」だそうです。オンラインゲームについては「勉学や仕事に悪影響を与え、何の生産性もなく、その上ゲーム会社の仕掛ける様々な施策によって浪費させられる」と、例によって大変辛らつなのですが、eスポーツについてはそれがオンラインゲームから発展したものとしながらも、「思考力、反射神経、協調性、強い意志、競争心、危機管理能力、チームワークなどを高め、観衆を楽しませ、啓発する」とべた褒めです。

 

 

オンラインゲームとeスポーツを切り離して考える発想に違和感を覚える人も多いかと思いますが、中国政府がゲームを規制しながらも推進する、そのジレンマがよく現れている文章といえるかもしれません。

 

【参考記事】

官媒发文肯定:电竞在社会发挥正面作用

让电子竞技发挥正面作用

Tencent Report Shows Esports Market Size in China to Reach $1.5B in 2020

China Halts Special Approval Process for New Games

 

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