2020年から深刻化した世界的な半導体不足は、さまざまな製品の生産に影響を与えています。スマートフォンやゲーム機、自動車の生産遅れを引き起こしたほか、意外なところでは、カーナビや家庭用プリンターなどの生産も遅れ、こうした影響は長ければ2023年まで続くとも言われています。
半導体の不足と同時に、半導体の作り手も不足しています。半導体産業は世界的な成長産業であり、「半導体エンジニア」や「プロセスエンジニア」は慢性的に足りておらず、半導体を製造する企業では人材の育成も急務となりつつあります。
ここでは、半導体不足が起こった原因を解説するとともに、今後の回復の見込みと半導体市場の展望、そして、それらがもたらす影響について詳しくみていきます。
昨今の半導体不足には、大きく3つの原因があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
半導体不足が起こった最初の原因は、半導体需要の大幅な増加です。
かつては、パソコンなどのコンピューター端末を中心に使われてきた半導体ですが、近年は多くの人がスマートフォンを手にするようになり、スマート家電をはじめとする家電・電子機器などにも組み込まれるようになりました。さらに、自動車の運転支援システムや、電気自動車の制御装置にも使われるようになり、2017年からは半導体の需要が増え続ける「スーパーサイクル」に突入したと言われていました。
この需要の急拡大に対し、半導体の生産体制の拡大は間に合っておらず、2019年頃から半導体不足が世界的に問題視され、工業製品の生産に影響が出始めました。
2020年初頭から始まった世界的な新型コロナウイルスの流行は、半導体の生産計画を狂わせました。2019年頃に顕在化した米中摩擦によって世界情勢が不透明になりつつあったことも重なり、半導体を発注する側、生産する側双方が、注文・生産をそれぞれ抑制したのです。
ところが、コロナ禍における巣ごもり需要により、パソコンやゲーム機を中心にいくつかの分野で半導体の需要が伸びる事態になりました。また、感染リスクを減らすため自家用車の購入が増えた国や地域もありました。
そうした消費者の動向を受け、半導体の需要は回復するのですが、これは予想外の動きであり、新型コロナウイルス感染症対策のため、半導体メーカーの職員が思うように出社できないなどの状況もありました。
直ちに生産ラインをフル稼働することは不可能な状況で、各業界で半導体の奪い合いが始まります。しかし、生産ラインは限られており、何かを優先すれば他の何かの生産が遅れるという状況が続きました。そんな中、特に深刻な影響を受けたのは、半導体メーカーと直接交渉する商習慣のなかった自動車メーカーだったと言われています。
そんな半導体業界にさらなるアクシデントが襲いかかります。2020年末から、火災や自然災害による半導体工場の操業停止が相次いだのです。
2020年には旭化成マイクロシステム延岡事業所が、翌2021年にはルネサンスエレクトロニクス那珂工場がそれぞれ火災に見舞われました。そして、ついには世界最大手のファウンドリー(半導体を受託生産する企業)である、台湾のTSMCの生産ラインでも火災が発生します。
また、台湾では深刻な水不足が発生し、生産に大量の水を必要とする半導体にも影響を及ぼしたほか、アメリカテキサス州では大寒波により半導体工場が閉鎖される事態となりました。こうした度重なるアクシデントが半導体業界を襲ったことで、生産体制の回復は予定よりも大幅に遅れていきました。
半導体不足が深刻化した一連の出来事により、半導体業界のサプライチェーンにおける潜在的な問題点があぶり出されました。現在の半導体業界では、世界各地で増産体制を整えるとともに、サプライチェーンマネジメントの見直しを進めています。
しかし、半導体の生産には時間がかかります。半導体の原料であるシリコンやセレンなどの材料を投入してから、半導体が製品として完成するまでには3カ月以上の時間が必要とも言われており、直ちに回復することは難しい状況です。世界中のメーカーやファウンドリーが新工場の建設で生産キャパを増強しようと試みていますが、やはり建設には時間がかかります。
半導体不足は少なくても2021年内は続くとされており、中には、2020年に始まった半導体不足の影響は2023年まで尾を引くと考える向きもあります。徐々に回復していくことは確かですが、需要と供給のバランスが取れるようになるのは、まだ先のことのようです。
生産が需要に追いつくのに時間がかかっているのは、半導体市場が成長し続けていることも理由のひとつです。世界の半導体市場は、2020年には約50兆円規模でしたが、2030年には倍の約100兆円規模に達すると考えられています。そのため、以前と同じ規模まで生産量を戻すだけでは足りないのです。
なぜ、ここまで需要が増えたのでしょうか。例えば、一昔前は半導体をほとんど使っていなかった自動車は、電気自動車(EV)と自動運転の両面で半導体を必要としています。また、スマートシティに代表される、あらゆるものがインターネットに接続されるIoT社会の到来も見込まれており、ここにも大量の半導体が必要です。さらに、AI(人工知能)の需要の拡大も見込まれています。
なお、世界の半導体市場における日本のシェアですが、1988年の約50%をピークに下がり続けています。しかし、キオクシアはフラッシュメモリで、ソニーセミコンダクタソリューションズはイメージセンサーで、ルネサスエレクトロニクスは自動車に使われる半導体で高いシェアを誇っており、今後の成長が強く期待されています。
では、具体的にどのような業界が半導体不足の影響を受けているのでしょうか。半導体不足の影響を受けている業界は主に以下になります。
このラインナップを見るだけでも、半導体不足の影響の大きさが想像できます。スマートフォンやパソコン周辺のみならず、あらゆる業界にまで影響を及ぼしているのは前述の通りです。そうした昨今の状況において、インターネットへの接続が前提とされる製品が増えている、という点においてIT系エンジニアの中でも、組み込みエンジニアが関わる業務領域はとりわけ関係が深いといえるかもしれません。
組み込みエンジニアは、家電など、製品を動かすプログラムである組み込みシステムを開発する業務ですが、半導体不足が話題になる以前から、組込みエンジニアは人材不足と言われていました。その理由は、ハードウェアとソフトウェア両方の知識が必要とされる点にあります。基本的にC言語が不可欠で、電子回路の知識も必要なため、どうしても一定の経験を求められてきているからです。
このように、元より人材自体の希少性に加えて、幅広い業界でのIoTに代表される製品ニーズの高まりは、合わせて組込みエンジニア自体のニーズの高まりといえそうです。これは半導体不足の背景から見えてきたように、世界的な潮流となっています。半導体不足が引き起こす短期的な影響は、組み込みエンジニアが関わるプロダクトのリリースの延期や、そもそものプロジェクト自体の中断など、様々考えられますが、中長期的なスパンで見通すなら、こうした状況が改善すれば、人材の希少性はさらに加速し、必要なスキルも複雑化、高度化していくはずです。伴って今後優秀な組み込みエンジニアへの良いオファーも増えていくことは想定されることでしょう。
半導体不足の原因と、その波及的な影響をテーマに、解説をしてきました。
今後、半導体不足は徐々に解消していくものと考えられますが、それと連動するように深刻なエンジニア不足が起こる可能性が指摘されています。並行して組み込みエンジニアの募集についても増えていくのではないかと考えられます。このことは、現在別の分野で活躍しているエンジニアや、実務未経験のエンジニアの卵が、組み込みエンジニアを目指すなら大きなチャンスとなるはずです。このように世界の動向を踏まえた上で、エンジニアの市場の動きをチェックすると今後につながるチャンスが見つかるかもしれません。