キャリアパス、キャリアの選択肢

多様化するエンジニア Vol.2

#エンジニアブログ

IT技術の著しい発展とともに、エンジニアの職種は多種多様なものになりました。近年では、AIやIoT、クラウドコンピューティングが進歩したことにより、新たな職種も登場しています。

 

前編では「多様化するエンジニア」をテーマに、日本におけるエンジニアの領域とその種類について紹介しました。今回はその後編として、エンジニアのキャリアパス、キャリアの選択肢について詳しく解説していきます。

 

エンジニアがキャリアパスを考えたほうがいい理由

 

キャリアパスとは、ある職位に就くまでに辿ることになる経験や順序のことです。なぜエンジニアはこの「キャリアパス」を考えたほうがいいのでしょうか。

 

1つめの理由は、職種が多いことです。前編の「多様化するエンジニア Vol.1 領域とその種類」で紹介したとおり、エンジニアには多種多様な職種があります。そして今後、IT技術の発展に伴い、さらに増えていく可能性もあります。そのため、キャリアパスを意識していないと、自分が本来就きたい仕事から簡単に遠ざかってしまいます。

 

2つめの理由は、将来も売り手市場とは限らないことです。現在はエンジニアの需要が多く、しっかりしたキャリアプランがなくても仕事を失うことはないかもしれませんが、義務教育でプログラミング教育が必修化されたことで、10年後、20年後にエンジニアを志す人は今より増えると考えられます。そのとき、計画的にキャリアを重ねて、替えの効かない人材になっていなければ、仕事を失う可能性があります。

 

3つめの理由は、エンジニアの業務の特性にあります。エンジニアは業務が忙しく、また、業務をこなすことでスキルアップできる側面もあり、キャリアパスを真剣に考えていない人は少なくありません。ですが、もし希望のポジションに就くチャンスが訪れたとしても、必要なスキルが身についていなければ、そのポジションにそもそも就けませんし、運良く就けても十分な実績が残せません。

 

こうした理由から、エンジニアは今から将来を見据えて、働きたい業界や、最終的にしたい仕事を思い描き、キャリアを積み上げていくことが重要なのです。

 

エンジニアのキャリアパスの多様化

 

近年は、エンジニアのキャリアパスに変化が起きています。ここでは、以前との違いとともに解説していきます。

 

従来のキャリアパスは選択肢が多くなかった

 

1990年代までのエンジニアは、メーカーにプログラマーとして入社し、システムエンジニア、プロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャーと昇進することを目指すのが一般的なコースでした。

 

ですが、2000年代以降は、エンジニアのキャリアパスは多様化の一途を辿っています。Webサービス業界が成長したことや、さまざまな製品にプログラムが必須となったことなどで、エンジニアを必要とする企業が増え、多くの企業を就職先として選べるようになったのです。

 

IT技術の発展により職種が増え、スペシャリストとしての道もできた

 

2010年代以降は、インターネットを利用したサービスの急増、クラウドサービスの台頭などで、ネットワークエンジニアやクラウドエンジニアなどの専門的な職種が生まれました。さらに近年では、AIやIoT技術の発展とともに、先端IT人材といえる「AIエンジニア」や「データサイエンティスト」といった職種が生まれています。

 

新たな職種の登場に伴って人事制度も変化しました。以前は、マネージャーを頂点とした管理職への昇進を一律全員が目指すという道筋しかありませんでしたが、現在は、マネジメント側に回らず、専門的な技術を突き詰めていく「スペシャリスト」としての道も選べるようになっています。

 

エンジニアの代表的なキャリアパス

エンジニアのキャリアパスを具体的に紹介します。ここでは、代表的な6つのキャリアパスについて解説しましょう。

 

プロジェクトマネージャー

ITシステム開発において、プロジェクト全体の進行を管理し、クオリティに対して責任を持つのが「プロジェクトマネージャー」です。メンバーや開発スタッフ、クライアントなどの関係者とコミュニケーションをとりながら、プロジェクト全体を監督する、責任の大きな仕事といえます。

職務内容は、クライアントとの打ち合わせから、プロジェクトの計画策定、開発体制の構築、予算や納期の管理にまで及びます。システムエンジニアとしての経験・知識がベースとなりますが、クライアントとの折衝や、問題発生時の対応も幅広く行うため、さまざまな能力が必要です。

一般的に、システムエンジニアがプロジェクトリーダーを経て、プロジェクトマネージャーになるケースが多いようです。

 

【プロジェクトマネージャーに求められる能力】

  • リーダーとしての資質・能力
  • システムエンジニアとしての開発経験・知識
  • マネジメントスキル
  • プロジェクトにおける損益の管理

 

ITコンサルタント

ITコンサルタントとは、企業などのクライアントが直面している課題に対し、IT技術の観点からコンサルティングを行う仕事です。問題の分析だけでなく、解決策の提案や、実際のシステムの導入まで一貫して請け負います。

このような業務のため、必要な知識の幅が広く、新しい技術やトレンドも把握する必要があります。また、クライアント企業の経営幹部などと折衝をするため、相応のコミュニケーションスキルや、経営に関する知識なども必要になります。

 

ITコンサルタントに求められる能力】

  • コミュニケーションスキル
  • 分析力
  • プレゼンテーション能力
  • 経営に関する知識
  • 最新情報も含めたIT業界に関する知識

 

 

ITアーキテクト

ITアーキテクトは、システムを企画・立案する仕事です。システム開発の全体の方向性や仕組み、運用・保守について提案します。

システムをゼロから企画・提案できるだけの幅広い知識とスキルが求められると同時に、クライアントの要望をとらえたシステム設計・構築が行える柔軟性も必要になります。また、プロジェクトに携わるメンバー誰もが理解できる設計をする力も必要です。

ITアーキテクトに関連した資格として、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提供している国家資格「システムアーキテクト試験(SA)」があります。企業のIT投資は、今後さらに活発になっていくでしょうから、ITアーキテクトのような高度なスキルを持った人材は、ますます求められることになると考えられます。

 

ITアーキテクトに求められる能力】

  • コミュニケーションスキル
  • 課題分析力
  • 最新のクラウド・インフラに関する知識
  • クライアントの要望に応じてシステム全体を設計する能力
  • 設計から運用・保守に至る経験と知識
  • マネジメントスキル

 

ITスペシャリスト

ITスペシャリストは、ITスキルの専門家として、主にプロジェクトの技術面をサポートする職種です。ITスペシャリストと認められるためには、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が定めた、ITSS(ITスキル標準)の6つの専門分野において、レベル3以上のスキルを1つ以上習得することが必要となります。

 

ITスペシャリスト 6カテゴリ】

  • プラットフォーム
  • ネットワーク
  • データベース
  • アプリケーション共通基盤
  • システム管理
  • セキュリティ

 

ITSS(ITスキル標準)は、IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化したもので、エンジニアの能力を測る「ものさし」とされている指標です。そのため、いずれかの分野でレベル3を習得すると、任された範囲の仕事を自ら責任をもって計画・遂行できる技術者とみなされます。

実際の業務では、深い専門知識を活かして、それぞれの分野のスペシャリスト(専門家)として携わることとなります。

 

ITスペシャリストに求められる能力】

  • IT技術に関する深い知識
  • 特定の分野における設計~運用の経験と専門知識

 

フルスタックエンジニア(マルチエンジニア)

フルスタックエンジニアとは、Web開発やシステム開発において、設計・開発から、運用・保守に至るまで、すべての工程を1人で手がけられるエンジニアのことです。マルチエンジニアと呼ばれることもあります。

通常、システム開発は「システムエンジニア」、ネットワーク開発は「ネットワークエンジニア」といったように、それぞれ専門のエンジニアが担当しますが、フルスタックエンジニアはすべてをひとりで行うことができます。

最近では、コスト削減とスピードアップのため、スモールスタートで徐々にシステムやアプリをリリースしていくケースが増えています。ひとりで何でもできるフルスタックエンジニアは、そういった体制への親和性が高く、近年ではベンチャーやスタートアップ企業でも多く採用されています。

 

【フルスタックエンジニアに求められる能力】

  • 複数の分野における設計~運用の経験
  • 複数の分野における深い知識
  • 最新のクラウド・インフラに関する知識

 

CTO(最高技術責任者)

CTOとはChief Technology Officerの略で、日本語では「最高技術責任者」を指します。

日本の企業ではまだ新しい役職でもあり、企業によって経緯や職責は異なりますが、一般的に、その企業に必要な経営戦略を、技術的な観点から提案・遂行していく経営上層部のポジションを指します。

CTOへのキャリアパスは、企業の規模にもよるものの、システムエンジニアからプロジェクトリーダーを介し、プロジェクトマネージャーを経て、CTOに至るケースが一般的と考えられます。

 

CTOに求められる能力】

  • コミュニケーションスキル
  • マネジメントスキル
  • 分析力
  • 経営に関する知識
  • 最新情報も含めたIT業界に関する深い知識

 

エンジニアのキャリア形成における分岐点

 

ここでは、目標とする職種に向かって実際にキャリアを形成していくときに訪れる、代表的な分岐点を解説します。

 

システムエンジニアか、インフラエンジニアか

 

エンジニアは、ソフトウェアをメインに扱う「システムエンジニア」と、ネットワークをメインに扱う「インフラエンジニア」の2つに大きく分かれます。まずは、このどちらでキャリアを構築していくかを明確にすることから始まります。

 

最近は、仮想化技術やクラウドサービスを利用することが多くなっているため、インフラエンジニアもソフトウェアにプログラミング的な知識が必要になっています。反対にシステムエンジニアも、クラウド上でソフトウェアが稼働する時代に合わせて、ネットワークに関する知識が必要になりつつあります。

 

基本的には自身のメインとなる軸を「システムエンジニア」もしくは「インフラエンジニア」に置きながら、技術の進化に合わせて新たな知識・技術を習得していくのが望ましいでしょう。なお、両分野にまたがって、一定以上の知識・技術を身に着けていれば、フルスタックエンジニアとして活躍する道も開けます。

 

マネジメント側に進むか、スペシャリストとして技術を極めるか

 

エンジニアとして成熟し、ステップアップするときに決めなくてはならないのが、昇進してマネジメント側に進むか、スペシャリストとして道を極めるか、ということです。

 

従来のほとんどの業種、企業における「出世」は、マネジメント側に回ることとイコールでした。しかし、人には向き不向きがあり、優秀なプレイヤーがマネージャーとしても優秀とは一概には言えません。エンジニアには「スペシャリスト」として、プレイヤーのままでいる道があり、これは、日本においては貴重です。

 

エンジニアは、年齢を重ねてもプレイヤーとして活躍できる職種です。スペシャリストとして道を極めたいのであれば、自身の分野におけるスキルを向上させていくと共に、就職・転職先の会社に、そのようなポジションが用意されているかを確認しましょう。

 

一方で、マネージャーとしての価値を高めていく場合は、工程を管理しながらプロジェクトを成功に導いていかなくてはなりません。そのため、そういったポジションに就ける企業への就職・転職も視野に入れつつ、マネジメントスキルのアップが必要になります。

 

まとめ

「多様化するエンジニア」をテーマに前後編に分けて、日本におけるエンジニアの職種やキャリアパスを解説してきました。

エンジニアを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。エンジニアのキャリアにはさまざまな選択肢があり、今すでにある職種以外にも、今後さまざまな職種が生まれることでしょう。

それに伴い、新たなキャリアパスが登場することも予想できますが、どのようなエンジニア職であれ、自身の得意分野を極め、市場価値を高めておくことが基本となります。

自らの適性を知り、目標を定め、必要な技能を身につける。そうすることで、エンジニア業界に多少の変革があったとしても、納得のいくキャリアが切り開けるはずです。

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