“兼業プレイヤーの支援”を掲げる新たなeスポーツチーム

「JMS Impact Gaming」チームプロデューサー 高橋氏インタビュー

#eスポーツ

年々拡大するゲーム対戦競技「eスポーツ」の分野。市場規模や賞金額の大きさが注目を浴びる一方で、競技寿命の短さや健康問題など選手にとっては過酷な条件と隣り合わせの世界でもあります。

 

そんな中、2021年9月に発足した新たなeスポーツチーム「JMS Impact Gaming」は兼業プレイヤーが活躍できるためのチームとして、多様な契約形態やセカンドキャリアの支援でこれまでプロチームへ参加できなかったプレイヤーへのサポートを打ち出しています。

 

eスポーツチームの新たな形を目指す「JMS Impact Gaming」について、チームを運営するジェイエムエス・ユナイテッド株式会社コンテンツサポート事業本部の高橋 祐一郎さんにその狙いや展望を伺いました。

 

 

──本日はよろしくお願いいたします。

 

高橋 「JMS Impact Gaming」のチームプロデューサーを担当しております高橋と申します。よろしくお願いいたします。

 

──まずチーム始動の経緯から教えていただけますか。

 

高橋 運営元であるジェイエムエス・ユナイテッド株式会社はゲーム関係の事業も行っており、その知名度向上のためのプロジェクトとしてeスポーツチームが立ち上がりました。私が元々格闘ゲームのプレイヤーだったこともあり、格闘ゲームのプレイヤーが所属するチームとして始動した、というのが経緯になります。

 

──高橋さんご自身も大会などに出場されるプレイヤーだったということでしょうか。

 

高橋 はい、実は過去に全国大会で優勝したこともあるんです(笑)。なので知識もあって友人も多い格闘ゲームのジャンルから現在は進めています。

 

──それほどの実績をお持ちとは驚きました。選手としての目線も運営には取り入れられているのでしょうか。

 

高橋 そうですね。現在は格闘ゲームでeスポーツと言えば「ストリートファイター」シリーズなどが代表的でプロ選手も数多く活動していますが、その他のタイトルではあまりプロ活動は盛んではありません。実力的にはプロとしてやっていける腕前を持つプレイヤーも、話を聞いてみると様々な事情から専業プロとしての活動にリスクを感じていて、現在の仕事を辞めてまで取り組むことは難しいと判断しているようでした。確かにプレイヤーの目線から見ると将来的に見通しがつかない分野だと思うので、そこを危惧するのは当然だと思います。

 

△「JMS Impact Gaming」チームプロデューサー 高橋 祐一郎さん

 

──そこで「兼業プレイヤーの活動を支援する」というチームコンセプトに繋がるのでしょうか。

 

高橋 専業でなくても選手活動のための費用や時間を捻出できるように、あるいは自身の配信活動などから収益を得られるようにサポートをしたいと考えました。会社として、チームの活動自体で利益を得ることはあまり考えておらず、活動を通じてゲーム業界に名前が売れることを目的にしている面があるんです。実際にプレイヤーに声を掛けても「すぐにチームがなくなってしまうのではないか」との不安を持っているケースもあったのですが、こうした方針を分かってもらい、事情に沿った様々な契約形態を取れるようにすることで「入りやすい」と感じてもらうよう工夫しました。

 

──発足時点では4名の選手が在籍していますが、このメンバーには高橋さんが声を掛けられたということでしょうか。

 

高橋 そうですね。実は4名のうち2名は以前から当社の格闘ゲームや対戦ゲームの腕前を活せるお仕事をお願いするために声を掛けており、既に入社してくれていたプレイヤーなんです。現在はそうした業務の合間を上手く使って選手活動を行うプランを採用しています。

 

他の2名は、現在、別の会社で働いているプレイヤーで、基本的には兼業がNGという状況でした。なので金銭的な授受を行わず、機材の貸出など環境面での支援をしています。例えるなら、草野球チームの一員として、バスを出したりバットなどの道具を貸し出したりしているイメージだと思っていただければ分かりやすいかもしれません。

 

チームの中には知名度がそれほど高くない選手もいますが実力は間違いない方ばかりで、いずれの選手も私が実際に試合を見て感動した、ある意味ファンだと言っても過言ではないプレイヤーです。あとは品行方正であることも重要視しましたね(笑)。

 

──折角なので、ファンでもある高橋さんから、4名の選手について簡単にご紹介いただけますか?

 

高橋 竹原選手は「ギルティギアシリーズ」をメインでプレイしています。とにかく「上手い!」と思えるようなプレイが魅力の上級者も認める腕前の選手です。話してみると、非常に面白い方で、コミュニティへの貢献に寄与したいという思いが強い方なので彼のプレイだけでなくゲームのために能動的に動く姿にも注目していただきたいです。

 

ナゲ選手も「ギルティギア」のプレイヤーで、ファウストという特殊なキャラクターをトップクラスに使い込む、愛を持った選手です。実績も十分でありながら、過去にはテレビ番組にも出演しており、彼も発信していく意思が強い選手ですので、その不思議なプレイに魅せられて欲しいですね。

 

れお選手に関しては、シンプルに「強い」プレイヤーですね。2Dでキャラクター性の強い格闘ゲームを得意としていて、これまでも様々なタイトルで入賞歴があります。他のプレイヤーから見ても理詰めでしっかりとやっていることが分かるタイプですので、どんなタイトルでも結果を残せる選手だと思います。

 

この中だと一番知名度が低いのが、きしり選手ですが、私個人としては「こんなにゲームが上手い人っているんだ」と思うほど攻略スピードに長けたプレイヤーです。以前「師弟杯」という初心者が1ヶ月間、上級者からコーチングを受けて対戦する大会があったのですが、その大会できしり選手は「トッププレイヤーの師匠が裏で操作しているのでは」と言われるくらいの腕前に到達し、圧勝してしまったんです。実績はまだ少ないのですが、全国でもトップになれる素質だと思いますので、今後という意味ではイチオシです。

 

 

△JMS Impact Gamingの(画像左から)竹原選手、ナゲ選手、れお選手、きしり選手

 

──現時点でも個性豊かなメンバーが揃っていますが、活動方針のようなものはあるのでしょうか。

 

高橋 格闘ゲームは定期的にタイトル変更やバランス調整があるので結果を出し続ける難しさに不安を感じることも多いと思います。サポートによって良い結果を残して頂きたい気持ちもありますが、それだけではなく「今の楽しみ方だけは忘れて欲しくない」という方針があります。なので、チームとしては「使っているキャラが弱くなってしまったので、勝てるキャラに変えてください」という指示はしないと明言しています。

 

他にも、先日発売されたばかりのタイトルで大会が開催されたのですが、選手自身でプレイが納得いく仕上がりになっていない、とのことでしたので出場しない判断を優先しました。会社の立場としては大会で結果を残してもらうことでプロモーションに繋げたいのですが、やはり納得いかない状態で大会に出るのは違うと思いますから。

 

──お話を聞いていて、本当に選手への制約が少ないチームだと感じます。

 

高橋 そうですね。大会に出場する際にはユニフォームを着てくださいというのと、配信の際にスポンサーロゴを表示してください、くらいでしょうか。細かなお願いはありますが、大きなところはそれくらいです。

 

──これだけの環境を用意するのは大変だったのではないでしょうか。

 

高橋 流石に色々なハードルはありましたし、機材などの面で支援してくださるスポンサー様は現在も募集しています。ただ、長い目で見てジェイエムエス・ユナイテッド株式会社、並びにグループに寄与するところがあるとの判断で今の環境が実現しています。チームの活動を通じて、例えばゲーム関係の業務案件の獲得に繋がる可能性もありますし、ゲーム関連の会社としてeスポーツ選手以外からのリクルーティングも期待できます。

 

現在はチーム運営に携わっている専門学生もいて、色々なジャンルから参加できるチームとしてハードルは低くなっていると思います。基本的なベースは「選手個人のコストを減らしつつメリットは減らしたくない」という考え方ですね。

 

──コストと言えば格闘ゲームでは海外の大会も数多くありますが、そちらに参加する場合もサポートが受けられるのでしょうか。

 

高橋 やはり格闘ゲームではラスベガスで毎年開催される「EVO」という世界最大の大会が目標のひとつに挙がりますし、実際に出場経験がある所属選手も居ます。出場する場合は渡航費などをサポートします。

 

──大会への参加や練習で休暇を取る際にも理解が得られやすいのではないでしょうか。

 

高橋 もちろんそこは調整しています。国内の大会は休日が多いのですが、運営を担っているスタッフが柔軟に対応してくれているので非常にありがたいですね。海外の大会に出る場合でも話は通っています。

 

──まさに「事情に合わせて」とのお言葉通りですね。

 

高橋 現在は在籍していませんが、兼業可能な業種の方であれば選手としてのサポートに加え、ゲーマーとしての業務委託として報酬を払うこともできます。条件はありますが、選手専業でやりたい場合も勿論可能です。ひとりひとりに対応できるように、会社で設定をして、それぞれに合った内容を選んで所属して貰っている形ですね。

 

他にも追加のプランを検討しています。格闘ゲームの世界では対戦よりも連携やコンボを考えるのが得意な人も居ますので、そうした人にコーチングやアドバイザーという形で参画してもらう可能性も考えています。また、完全にストリーマーとしての活動も可能ですね。

 

──兼業という観点では、選手のセカンドキャリアについてもサポートできる環境を構築していくことを掲げていらっしゃいます。

 

高橋 自社の選手であればゲームのバランス調整やデバッグなど、腕前や知識を生かせる仕事もあるのでeスポーツの活動をしながら、あるいは引退した後も、そちらを担当してもらうことが可能です。他にもコーチングなどでチームの運営に携わって頂くことで、長くサポートできる体制は作れるのではないかなと考えています。

 

──選手を辞めても会社に残るというのは社会人スポーツのようなイメージですね。発足から約2ヶ月になりますが、現在はチームとしての活動も行っているのでしょうか。

 

高橋 会社で対戦会を開催して、チームに所属してない社員と一緒にプレイするなど、ゲーム部のような立ち位置で動いていることもありますね。加えて、今後はそれぞれのタイトルごとに大会の運営など、イベントもやっていきたいと考えています。「コミュニティを広くしたい、盛り上げたい」という考えの強いプレイヤーばかりですので、そこに向けて会社としても動くことが重要だと思います。

 

──現在は遠隔で活動されている選手もいらっしゃるとのことで、今後は地方のプレイヤーにリーチしていく可能性もあるのでしょうか。

 

高橋 そうですね。現在は竹原選手が大阪を拠点にされていますが、直接会わなければいけないことが少ないご時世もあり、問題なく活動できています。ただ、チームの集合写真だけは合成しなければいけないんですが(笑)。現在も各地方の団体ともやり取りしていますので、関東在住以外のプレイヤーの方にとっても選択肢に入る存在になっていければと思います。

 

──それでは最後に今後の活動への展望をお聞かせください。

 

高橋 格闘ゲーマーは、どうしても新作ゲームが出るとそちらに注力しすぎてしまう傾向があるのですが、まずはチームとしての広報活動など存在を知ってもらうための取り組みに力を入れてきたいです。そして繰り返しになりますが配信やイベントごとなど、コミュニティを拡大するための活動もやっていきたいと考えていますので、是非ご参加いただければと思います。

 

──本日はありがとうございました。

 

高橋 ありがとうございました!

 

JMS Impact Gaming公式HP

公式Twitter

 

掲載日:2021年11月16日

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