2021年8月、13歳のプレイヤーとeスポーツチームの契約が発表されました。そのチームとは、北海道に拠点を置くバスケットボールチーム「レバンガ北海道」が運営し、サッポロビール株式会社がオフィシャルパートナーを務める「レバンガ☆SAPPORO」です。
今回締結されたのは、固定報酬制ではなくユニフォームの支給や遠征費の支援などで継続的な活動をサポートする「オフィシャルeスポーツプレイヤーサポートプログラム」に基づく契約でした。話題を呼んだ契約の背景にはチームとしてどのような意図や狙いがあったのか。レバンガ☆SAPPOROの代表を務める横田陽(よこた あきら)氏にオンラインインタビューでお話を聞きました。
──本日はよろしくお願いいたします。
横田 陽氏(以下、横田) 北海道のプロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」を運営する株式会社レバンガ北海道で、代表の折茂と共に経営責任者をやらせていただいております、横田と申します。よろしくお願いいたします。
──レバンガ北海道さんはeスポーツチームも運営されていますが、そちらは横田さんが代表を務めていらっしゃるんですね。
横田 はい。私が「レバンガ☆SAPPORO」の代表をさせて頂いております。
──プロスポーツチームのレバンガさんがeスポーツチームを保有されるようになった経緯はどのようなものだったのでしょうか?
横田 eスポーツについては元々は5、6年前から興味を持っていて、知り合いに話を聞くなどしていた分野ではあったんです。そこに2018年、サイバーエージェントさんがデジタルカードゲーム『Shadowverse』のプロリーグを立ち上げるというお話があり、チーム運営に興味がないかと声をかけて頂いたのが大きなきっかけでした。
その当時は『Shadowverse』というタイトルのことは全く知らなかったんですが、説明を受けてみると、選手に年俸が支払われプロとして扱われるこれまでにないくらいしっかりしたリーグの構想に驚きました。サイバーエージェントさんの「業界を変えていきたい」という気持ちを感じ、その理念に賛同した部分もあって参入を決意しました。
──そこがひとつのスタートラインだったということですね。
横田 そうです。検討段階の頃から選手たちがどんなモチベーションでゲームをやっているのかを知らなければいけないと考え、ゲームショウやRAGEなどのイベントを見せていただいたのですが、ゲームを真剣にやっている人は皆さん真面目で想像以上にキッチリしているんだなという第一印象を受けました。
同時に、まだeスポーツという言葉も浸透しきっていなかった頃でもあったので、ゲームが上手くても一定の信用や評価が得られておらず、社会的なステータスが著しく低いとも感じました。そこで「我々のようなリアルなスポーツチームが参入することが、彼らの社会的信用をアップさせることに繋がるのではないか」と考えたことも参入の後押しになりました。
──新規参入にあたっては大変なことも多かったのではないでしょうか。
横田 事業を広げていくにあたってリソースを割くのは難しいなとは感じていたんですが、eスポーツチームの運営は本業とあまり相違がないので、そのノウハウを活かせることも大きかったですね。選手の価値を高めるためのマーケティングやブランディングはバスケットボールでもeスポーツでも共通していて、例えばユニフォームのスポンサーを取るためのセールスであればバスケを売るかゲームを売るかの違いなんです。新しく居酒屋やレストランを始めることを考えたらよっぽど参入しやすくて、私たちにとっては断る理由もないような状況でした。
──確かに『Shadowverse』プロリーグにはプロスポーツチームが複数参加されており、「スポーツチームがeスポーツに参入する」ケースが増加するきっかけとなったようにも感じられます。そんな中でもレバンガさんはバスケットボール界からの参入で、これは他のタイトルを見渡しても珍しいケースだと感じます。
横田 野球やサッカーは既に国内でそのスポーツのゲームがメジャーになっていて、NPBさんやJリーグさんがリーグ全体でそうしたeスポーツタイトルへの参入を促している環境もあったので、比較的参入しやすかったのではないかと思います。バスケのゲームももちろん開発・販売はされているのですが、浸透度や国内ユーザーの規模はB.LEAGUEが参加してプロリーグができるような規模にないので、参入障壁は高かったと思います。
ですが、領域を広げるために内的なアセットを活用できる点は相性が良く、本業にも良いシナジーを生むことができています。eスポーツのファン層やユーザー層はリアルなスポーツのファン層とはイコールどころかニアリーでもなく、そうした本来ならあまりリーチできないはずの方に「レバンガってバスケチームを持ってるんだね」と知ってもらえる機会になりました。バスケチームとしての認知度はある程度高いと思っていたんですが、それが実はまだまだだったことに気付かされましたし、ゲーム業界にバスケチームの名前として浸透していることを実感しています。何故他のチームはやらないのかな、と思うくらいですよ。
──eスポーツ界では他にもさまざまな業種の企業がチームを運営していますが、その中でプロスポーツチームであることのメリットや差別化についてはどのようにお考えでしょうか。
横田 選手教育の面では差別化に繋がりますし、お役に立てるのではないかと考えています。参入するにあたってはゲーム業界のルールと言いますか、いわゆるネットリテラシーについて私たちとの感覚の違いをまざまざと実感しましたし、そこに慣れていくことも必要でした。
プレイヤーの皆さんがプロのアスリートとしての教育を受けることでプロスポーツ選手としての振る舞いを身に着けて「何のためにゲームをやっているのか、勝つことで我々は何を届けられるのか」を考えられるようになる。そういう仕組みも積極的に作っていけたら彼らのステータスアップに繋がるのではないかなと考えています。
──ありがとうございます。レバンガさんのチームとしての理念もそうしたところにあるのでしょうか。
横田 私たちはバスケットボールチームとしてもリーグで日本一を目指すだけではなく「我々の活動で北海道から沢山の皆さんに感動を届けて笑顔にしていこう」という目標を掲げています。
世界で活躍する選手を輩出するというビジョンはありますが、eスポーツチームにおいても手段がバスケットボールからコントローラーに変わっただけで、彼らが一生懸命プレイをすることで誰かに感動を届けて笑顔にしていくことは変わりません。そのためには負けるより勝った方が良いよね、つまらないより楽しい方が良いよね、という事実はありますが、まずその上位概念が必要だと思います。
──eスポーツでもスポーツと同じ目標を設定しているのですね。
横田 eスポーツは教育や医療などさまざまな業界とタイアップ出来ているので、そうした裾野を更に拡大していくためにもトップがしっかりしている必要があると思います。子供たちが「あのチームに入りたい」と思えるような、ゴールとなる光が無ければ「一体なんのために競技をやっているんだ」となってしまいますから。
△レバンガ☆SAPPORO 『Shadowverse』部門の選手
そのトップを作っていくのも我々の使命で、憧れられ、目標とされるチームにならないといけません。eスポーツの裾野を広げながらトップとしての「レバンガ☆SAPPORO」を作りあげていくことが必要で、今はまさに色んなミッションを掲げて取り組んでいる最中です。
──そうした取り組みのひとつに、固定報酬は支払われないもののユニフォームの支給や活動費の支援などを行う「オフィシャルeスポーツプレイヤーサポートプログラム」あります。この制度が生まれた背景はどのようなものだったのでしょうか。
横田 まず前提としてあるのは、固定の報酬を払いながらプロの選手を保有するというのは、先に挙げた『Shadowverse』のプロリーグのような場合以外だとハードルが高いことです。関東圏のチームであれば公式リーグ以外にも数多くの大会に出場するなどして活動を維持できるチームもあるのですが、我々はそこまでには至っていないのが現状です。
もうひとつの背景は、eスポーツプレイヤー側のニーズとしても決して「プロ一本でやりたい」人ばかりではないということですね。思っていたよりも「働きながらeスポーツでも大会に出て活躍したい」「プロへの一本化まではイメージしてない」という考えの人が多く、そうした方が経済的な理由で大会への出場を断念せざるを得ない状況を聞いて、そのくらいのサポートなら我々の方で出来るんじゃないかと考えたことですね。
──確かに社会人プレイヤーにとっては遠征での大会出場はハードルが高く、北海道から首都圏への移動を伴うとなると尚更ですよね。
横田 幸いなことにスポンサーさんから提供頂いているユニフォームなどはチームとして支給できますから、社会人の方にも「活動するステージ」を作ってあげることはできるんです。大会で活躍できる環境をサポートした選手が結果を残して日の目を浴びれば「レバンガ☆SAPPORO」の露出に繋がっていきますからスポンサーさんにとってもメリットがあります。このように「専業プロは考えていないが選手活動は続けたい」というニーズに応えるためのレイヤーを整備していって生まれたのが「オフィシャルeスポーツプレイヤー」なんです。
──そのプログラムの対象選手は社会人に限らず、今年8月には13歳の『ぷよぷよ』プレイヤー「かぴ」選手との契約合意に至りました。
横田 かぴ選手はキャリアは当然ながら短いものの将来性が豊富で、彼が小学生の頃から注目していたプレイヤーです。もちろん“13歳のプロゲーマー”という響きにニュースインパクトがあることも理解した上での契約ですが、一方でまだまだ中学生ですから選手としての教育は行っていく必要があるとも考えています。プロと言ってもゲームだけが全てではなく、人からどのように見られるのかを考える必要があるので「好きな事ばかりしてちゃいけないよね」と。
△かぴ選手
クラブの看板を背負うことの意味も重要で、その振る舞いがクラブ全体の価値を毀損する恐れもあることを理解しなければいけません。バスケットボールチームでもU-15(15歳以下)のユースチームを保有しているので、その所属選手にも同じことを伝えています。
──まさにeスポーツ界のユース選手のような位置づけですね。
横田 何よりも、自分の意思以外を理由に競技をやめてほしくないんですよね。親御さんもさまざまな大会に参加させたいはずですが負担もあるでしょうから、そこはサポートしていきたいです。移動費や居住地の関係など、自分たちでコントロールできない外的な要因で続けられなくなる人をサポートしていく。それも我々の役割だと自認しています。
──では、そのような条件に当てはまれば既に部門があるタイトル以外のプレイヤーとも今後契約する可能性があるのでしょうか。
横田 そうですね。ただ前提としてeスポーツタイトルはIPホルダーの動向によっては急にゲームの開発が終わるなどして競技がなくなってしまう可能性もあり、ここがバスケットボールとの決定的な違いです。バスケットボールという競技が世の中から無くなってしまう事はないですからね。
ですからある程度は競技シーンが継続していくことが予想されるタイトルかどうかには注目しています。とは言え、いろんな角度から総合的に判断しているので「これはダメ」という基準はなく、柔軟に考えていきたいとは思っています。私たちとしても「どのゲームにどんな選手がいて、競技シーンがどれくらい発展しているのか」は更に詳しく知って行きたいので、北海道で頑張っているプレイヤーの皆さんは是非アピールしていただけたら嬉しいです。
──北海道のプレイヤーにとっては頑張りがいがある環境ですね。これからのレバンガ☆SAPPOROさんの取り組みにも期待しています。本日はありがとうございました。
横田 ありがとうございました。