2020年のトピックスと言えば、やはり世界的な新型コロナウイルスの流行が一番に挙がります。数多くの業界に打撃を与えた厳しい情勢は、eスポーツ界にとっても例外ではありませんでした。
冬を迎え再び厳しい状況になりつつある感染状況は心配ですが、間もなく2021年がやってくる時期になりました。そこで今回は、さまざまな出来事があった2020年のeスポーツ界を振り返りたいと思います。
2020年。今年は昨年以上にeスポーツの知名度と人気が高まることが予想されてのスタートでした。昨年はアジア競技大会でも種目としてeスポーツが採用されており、東京オリンピックが開催される予定だった2020年はeスポーツ界も国際大会を。そんな機運が高まりつつありました。
しかし、3月頃から始まった世界的な新型コロナウイルスの感染拡大はそうした予想をガラリと覆しました。大規模な外出自粛要請もあり、数多くのeスポーツ大会が中止、あるいは無観客での実施を余儀なくされました。
この時に浮き彫りになったのが、プロeスポーツシーンが如何にオフライン大会へ依存していたかという点です。オンラインによる対戦の気軽さはゲームの大きな魅力としてよく語られる要素ではありますが、オフラインでの大会が難しい状況下では、ほぼ全てのタイトルでプロシーンが休止状態になってしまいました。
これによって深刻な影響を受けたのは、プロゲーミングチームや選手たち。大会と言う活動場所を失ったことはモチベーションや生活面に大きな影響を与え、存続が危ぶまれる状態になり、休止期間中に契約満了を迎え、事実上の引退となった選手も存在します。
今では、子供たちの憧れの職業にも名前が挙がるプロゲーマーですが、一時的な活動停止がこれほどまでに選手を不安定な状況に陥らせたことは、今後に向けて深刻に受け止めなければいけない事実と言えるでしょう。
ただでさえ選手寿命が短いとされるeスポーツの世界。まだまだ他のプロスポーツのように長期的な立場が保障されることは難しいと思われますが、例え大会という場がなくても活動を持続できるような環境づくりが必要であると感じさせるスタートとなりました。
感染状況が徐々に落ち着きを見せた夏頃には競技シーンも次第に再開され始めましたが、有観客・オフラインでの開催にはなかなか踏み切れず、まずはリモートや無観客形式で、以前から予定されていた大会を消化するステップが続きました。
リモートでの大会開催はこれまで構築してきた演出方法や配信技術を再構成する必要があり、やはり殆どの大会で機材や通信のトラブルが散見されました。大会を主催・運営するサイドとしても非常に難しい時期となったことでしょう。
これを機に配信方式を見直すケースや、あるいはオンライン参加しやすいレギュレーションに改正される大会もあり、思わぬタイミングでこれまでのスタイルと向き合うことになりました。
また、選手としても普段と異なる環境でのプレイには戸惑いの声も挙がったものの、観客の声援が如何に自分たちの力になっていたのかを実感する機会となったという意見もありました。もちろんそれはeスポーツを応援するファンにとっても同じこと。久しぶりの大会を喜ぶ気持ちと同じくらい、オフラインでの盛り上がりを恋しく思う声が聞かれました。
とは言え、当面は我慢の時期が続くことが予想されます。幸いなことにeスポーツ大会やゲームコミュニティを発端とするクラスター発生などの報は現時点で聞かれておらず、それどころか無観客でも楽しめる競技シーン作りが予想を遥かに超えるスピードで進んでいます。
オンラインやリモートでの大会開催、そしてその視聴は今後も決して少なくない機会となるはずです。いつか以前のように盛大に楽しめるオフライン大会が復活する時を待ちながらも、今はeスポーツ界全体で「with コロナ」の競技シーンに少しずつ慣れている段階と言えるでしょう。
こうして振り返るとやはり大変なことばかりが思い浮かぶ2020年ですが、ゲーム業界全体としては決して暗いニュースばかりの1年ではありませんでした。
特に大きかったのはゲーム需要の高まり。殆どの方が例年よりも多く自宅での時間を過ごすことになり、ゲーム機やゲームソフトが一時的に品薄状態になっていたというニュースは記憶に新しいところでしょう。やはりゲームの売り上げは一年を通じて非常に好調と言える推移を見せました。
そして11月にはソニーの次世代ハードウェア、PS5が発売となり再び大きな話題になりました。海外で多くのシェアを獲得しているマイクロソフト社のハードウェア、Xboxの次世代機であるXbox series X/Sも登場し、ゲームファンにとっては内容の濃い下半期となりました。
eスポーツという側面から見ても、新しいハードウェアの登場は大きなポイントのひとつとなります。昨今は同一のタイトルが複数のハードを跨いで発売されることも当たり前になっていますが、こうしたハードの転換期には同じタイトル内にPC版・現行機版・次世代機版のユーザーが混在することになり、競技シーンで使用するハードの選定が難しくなりがちです。
しかし、こうした問題も近年どのタイトルでも実装が進んでいる「クロスプレイ」の機能により随分スムーズになりつつあります。「クロスプレイ」では異なるハードウェアのユーザー同士での対戦や協力プレイが可能になり、eスポーツ選手だけでなく一般のユーザーにとってもコミュニティが広がる非常に嬉しい機能です。
ゲーム機とPCとでは主な操作デバイスが異なる点など、まだ完全にフラットな条件とは言えませんが、「どのハードウェアを選んでも大会に出られる」という選択肢の広さは、そのまま競技としての間口の広さに直結します。これから新しく登場するタイトルでは、最早クロスプレイ機能は標準的なものになっていくと予想されます。
こうして2020年を振り返ってみると、当初の予想とは大きく異なる形にはなりましたが、eスポーツ選手のあり方や大会形式、ハードウェアの問題と向き合う時間が生まれた1年となりました。
新型コロナウイルスの影響で多くの機会や楽しみが失われたことは間違いありません。しかし、こうしたネガティブな面を惜しむことよりも、この期間で得られた経験や学びを来年以降に活かしていくことで、まだまだ発展途上のeスポーツ界を良くしていくことが出来るはずです。