週末になれば必ずと言って良いほど様々なタイトルの大会が行われ、日に日に盛り上がりを見せるゲーム対戦競技の「eスポーツ」。
市場規模も拡大傾向が続いており、10代の若い選手がプロとして競技シーンで活躍するなど、将来性豊かな明るい話題が続きます。
しかし、そんなeスポーツ選手たちの中で昨今「健康」がひとつの問題となっています。
今年6月には、世界的に人気のタイトル『League of Legends』でトッププレイヤーとして活躍してきたUzi選手が23歳の若さで「深刻な健康問題」を理由に引退を発表。以前から2型糖尿病との診断を受けており、治療後も症状が改善しなかったことによる苦渋の決断でした。
今回は、eスポーツの選手に付きまとう健康問題の原因と対策について考えます。
eスポーツ選手が健康に支障をきたす大きな要因のひとつが、長時間の練習による身体的な負担です。
競技シーンで活躍するトッププロ選手ともなれば毎日の練習に何時間も費やしており、重要な大会前には半日以上も続けてトレーニングするというケースも。
プレイしているのはゲームとは言え、姿勢や運動としてはデスクワークに近い状態。手先を酷使することで腱鞘炎を発症するケースや、あるいは椅子に座り続けることで首や肩、腰を痛めることも珍しくありません。
また、プロゲーマーとして活動する多くの選手はゲームプレイの配信も行っています。これはチームや選手本人、そしてゲームタイトルの知名度を高めるという観点で非常に大事な活動ですが、どうしても夜間の方が視聴者が多く集まる傾向にあるため生活リズムが不規則になることも身体的な負担を大きくしています。
この身体的な負担は練習量や選手活動に起因する問題で、完全に解消することは難しいのが現状です。体力や症状にも個人差があるので選手はそれぞれで対策を行う必要に迫られています。
主な対策のひとつがデバイス面。今やゲーマー以外の方にも広く利用されているゲーミングチェアやマウスは出来るだけ体に負担が少ないように設計されており、プロ選手には欠かせないものに。こうしたデバイスが所属チームやスポンサーから支給・レンタルされるケースも多くなっています。
また、一部の選手はジムに通って体づくりを行うをなど普段の生活から積極的に対策を行っていますが、こうしたゲーム外のトレーニングについてはあまりサポートが充実していないのがeスポーツ界の現状です。練習中や試合中に体に異常をきたした場合に労災と認められるような契約をチームと結んでいる選手は珍しいでしょう。
一般的なスポーツ選手のようにジム設備やトレーナーがついてくれたり、福利厚生を充実させたりというサポートが今後は求められるのではないでしょうか。
大きな要因のふたつ目が精神的な負担、つまりストレスによるものです。
eスポーツ選手が感じる精神的負担の多くは、自信のパフォーマンスや試合結果へのプレッシャー。そしてファンからの批判に晒されるストレスです。
これは大変残念な事実ではありますが、どれだけ実績が豊富でプロとして正しい振る舞いの選手でも、公式の舞台ではミスや敗戦をきっかけに批判にさらされることは少なくありません。
一部の心無いファンからの声はどんな競技でも問題視されますが、常にオンラインでの配信やSNSでのコミュニケーションが付きまとうeスポーツでは選手への直接的な攻撃は深刻な問題です。
Uzi選手はデビュー当初こそ15歳の若さで言動が問題視されることもありましたが、世界大会でも好成績を残し、同じポジションをこなす中では世界一とも称された名手。そんな彼でも引退後のインタビューでは周囲からの声がひとつのストレス要因であり、今後のゲームを取り巻く環境で改善されるべきだったとも語っています。
ファン層が若く交流が盛んで、ネットワークによる繋がりで選手を身近に感じられることはeスポーツを応援することの大きな魅力です。ただそれによって選手へのリスペクトを欠いた言動が起こり得るのは弊害と言える問題点で、私たちひとりひとりがリスペクトを持って接することで改善しなければいけません。
ゲームは体力や年齢に関係なく楽しめるインドアな娯楽であり、健康的なイメージとは遠い立ち位置ですが、健康に対する問題を見過ごしていいことにはなりません。
反射神経が要求されることなどから、10代から20代前半が選手の全盛期と言われるeスポーツ界。選手としてのキャリアが短いことは若くて優秀なプレイヤーが出現する以上は仕方のないことかもしれませんが、現役を退く選手が20代にして健康不安を抱えたまま引退を迫られるような状況は選手本人やチーム、そしてファンひとりひとりの意識から改善していく必要があります。
昔はゲームばかりしていないで外で遊ぶように諭されたものですが、今では子供たちが将来のためにゲームを練習する時代が来ています。
安心して「eスポーツ選手」というキャリアを描けるようになるためにも、目につきづらいポイントではありますが健康課題は今後向き合っていくべき課題となりそうです。
掲載日:2020年12月8日