データサイエンスやAI開発の現場でよく比較される「Python」と「R言語」。それぞれのプログラミング言語にはどのような特徴や違いがあるのでしょうか?
このコラムでは、PythonとR言語の比較を通して、それぞれの言語が得意とする分野、できること、メリット・デメリットなどを詳しく解説します。
PythonとR言語の特性を理解し、あなたの目的に合った最適な言語を選ぶ手助けになれば幸いです。
Pythonは、1991年に誕生した比較的新しいプログラミング言語です。さまざまな分野で利用されており、近年、世界中でもっとも人気の高い言語となっています。
Pythonは、シンプルで読みやすい構文を特徴としています。そのため、プログラミング初心者でも理解しやすい言語です。そのことも、世界中にたくさんのユーザーがいる理由の1つとなっているといえるでしょう。
Pythonには豊富なライブラリやフレームワークが用意されており、機械学習やAI開発をはじめ、さまざまな分野で活用されています。適切なライブラリやフレームワークを利用することで、Webアプリケーション開発や、ブロックチェーンの構築、ビッグデータの分析など、非常に幅広い用途で利用できることも特徴です。
R言語は1993年に誕生しました。統計処理言語「S言語」をベースに、統計解析とデータ可視化を主目的として開発されています。オープンソースであり、現在は「R Development Core Team」によりメンテナンスと拡張が続けられています。
R言語には、統計処理やデータ分析のための「パッケージ」が豊富に存在します。パッケージは拡張プログラムであり、これを利用することでカスタマイズや機能の追加が可能です。
R言語は学術研究やビジネスの現場で広く使用されているほか、自然言語処理やテキストマイニングにも対応できます。これらはAIや機械学習に欠かせないものであり、今後さらに活躍の場が広がると予想されます。
Pythonは、そのわかりやすさと汎用性の高さから幅広い分野で活躍しており、例えば次のようなことを得意としています。
Pythonには、AI開発・機械学習に特化したライブラリが用意されています。それらを利用することで、画像認識や自然言語処理などを含むAI開発、機械学習などを、より少ない労力で行うことができます。
Pythonにはデータ分析に関するライブラリも用意されています。それらを使用することで、データの前処理、分析、可視化などが効率的に行えます。
Pythonは、暗号資産(仮想通貨)の基幹技術で、Web3.0に欠かせないブロックチェーンの開発にも利用できます。適したライブラリとフレームワークを利用することで、効率的なブロックチェーン開発が可能です。
Pythonでは、有名な「Django」などのWebフレームワークを用いて、動的なWebサイトやWebサービスの開発も可能となっています。実行速度をそれほど重視せず、簡潔にWebアプリケーションを開発したい場合に向いているといえるでしょう。例として、YouTubeやInstagramなどもPythonを開発に利用しています。
R言語は統計解析とデータ可視化に特化した言語で、次のようなことを得意としています。
R言語は、複雑な統計モデルの構築・解析を、豊富な統計関数やパッケージを用いることで行います。統計解析については、ほぼすべての領域をカバーしており、統計学者やデータサイエンティストにとって欠かせない言語の1つとなっています。
R言語には、ggplot2などの強力な可視化パッケージが用意されており、これらを利用することで、棒グラフや折れ線グラフなどの基本的なグラフから、相関図、ヒートマップなどの高度なグラフまで作成できます。
R言語では、データの読み込みや、クリーニング(欠損値・外れ値処理など)、変換(集計、結合、分割、並び替えなど)など、データ分析に必要な前処理も可能です。柔軟にデータを加工できるため、効率的に処理できます。
R言語では、「Quanteda」などのパッケージを利用することで、人間の言語を機械的に処理する自然言語処理や、テキストマイニング(データマイニングのうち文章を対象としたもの)が可能です。これらは、AI開発や機械学習に欠かせません。
Pythonは汎用性が高く、幅広いユーザーに支持されている言語です。主なメリットとして次のようなものが挙げられます。
Pythonは、シンプルであることを大切にしたプログラム言語です。「Zen(禅) of Python」とよばれる原則があり、そこには、「美しいほうがよい」「暗黙より明示するほうがよい」「複雑よりも単純なほうがよい」などの哲学的な思想が示されています。
Pythonのコミュニティでも、こうした思想は尊重されており、困ったことがあっても、シンプルな解決方法を探すことができるでしょう。こうした特徴から、プログラミング初心者にとっても扱いやすい言語となっています。
Pythonでは、機械学習やデータ分析、Web開発、AI開発、ブロックチェーン開発などに適したライブラリやフレームワークが豊富に提供されています。これらの「開発支援ツール」を用いることで、効率的な開発が可能となります。
Pythonは、現在もっともシェアの高いプログラミング言語であり、世界中に多くのユーザーがいます。日本にも活発なコミュニティがあり、英語が苦手でも情報交換や問題解決がしやすい環境です。
Pythonは、データサイエンスやAI開発だけでなく、Web開発やブロックチェーン開発など、多岐にわたる分野で活用できる言語です。そのため、一度習得すれば様々なニーズに対応でき、仕事を選択する幅が広がります。
R言語は統計解析とデータサイエンスに特化した言語です。主に以下のようなメリットが挙げられます。
R言語は統計解析に特化した言語です。豊富な統計関数やデータセットを集めた「パッケージ」が多数存在しており、複雑な統計モデルの構築、仮説検定、多変量解析などが可能となっています。
データフレームの操作に特化したパッケージ「dplyr」などを使用することで、データの加工や整形などの前処理に対応できます。また、データ可視化パッケージ「ggplot2」などを利用することで、「Microsoft Excel」を上回る、美しいグラフや、インタラクティブな図表などをつくることもできます。
R言語のコミュニティも活発です。Pythonほどユーザーはおらず、英語のコミュニティが中心となるものの、世界中の統計やデータの専門家と、最新の統計手法に関する情報交換が可能です。
Pythonのほとんど唯一かつ最大のデメリットは、実行速度の遅さです。C/C++などのコンパイル言語は実行速度がはやく、例えばC言語はPythonの約10~20倍ほど速いとされています。
そのため、Pythonは大規模な計算処理やリアルタイム処理が必要なプロダクトの開発には向いていません。しかし、ライブラリを効果的に使用したり、ツールを用いて高速化したりすることで、ある程度は緩和できます。
R言語のデメリットとして、次のようなものが挙げられます。
R言語は、統計解析やデータ処理に特化した言語です。そのため、それ以外の用途にはほとんど利用できません。身につけたR言語のスキルを、幅広い分野で活かすことは難しいものと考えられます。
R言語は、Pythonよりも実行速度が遅くなっています。処理する内容にもよりますが、Pythonのほうが大まかに2~10倍ほど実行速度が速いケースが多いようです。
R言語は、関数やデータセットを集めた「パッケージ」を活用することで機能を拡張できる仕組みです。しかし、パッケージのわかりやすい一覧などはなく、多様なパッケージの存在を把握し、どれが必要かを判断する必要があります。そのため、情報収集が欠かせません。
R言語を使いこなすには、R言語そのものを習得したうえで、統計学や数学の基礎知識が必要となります。R言語のソースコードそのものは比較的簡潔ですが、データ分析ツールとして全体で捉えると学習コストは高くなります。
汎用性の面ではPythonがリードしています。Pythonの豊富なライブラリとフレームワークを用いることで、統計解析から機械学習、さらにはアプリケーションの開発まで、あらゆるタスクを効率的にこなせるでしょう。柔軟性と対応力もPythonの魅力です。
一方のR言語は、統計解析とグラフ作成を主目的として開発されており、用途は限られます。例えばWebアプリケーションの構築などはできないため、特定の目的のために習得する言語といえるでしょう。
処理速度は、基本的にR言語よりもPythonのほうが高速です。同じタスクを実行した場合、Pythonのほうが2倍から10倍ほど、処理によってはもっと速いでしょう。
そのため、大量のデータを扱う場合や、限られた時間で結果を求める場面では、R言語よりもPythonの方が効率的に作業を進めることができます。
プログラミングのしやすさでも、Pythonに軍配があがります。R言語も比較的扱いやすい言語とされていますが、活用するには統計学などの知識が必要である点で、Pythonよりもハードルが高くなっています。
汎用スクリプト言語として作られているPythonは、よりソースコードが書きやすく、可読性も高くなっています。また、Pythonはユーザーが非常に多いことから、ライブラリやフレームワークの豊富さで群を抜いており、そういった面でも使いこなすまでのハードルが低くなっているといえるでしょう。
PythonとR言語ともに統計解析を行えます。しかし、R言語は統計解析に特化した言語であり、そのパッケージの豊富さ、正確性でPythonをリードします。データサイエンス領域において、R言語はもっとも優れた言語となっています。
Pythonを扱うエンジニアの主な職種として、次のようなものが挙げられます。
・AIエンジニア
・機械学習エンジニア
・ブロックチェーンエンジニア
・データサイエンティスト
・データアナリスト
・データエンジニア
・Webアプリケーションエンジニア
・バックエンドエンジニア
Pythonは、AI開発や機械学習で広く使われている言語です。AIエンジニア、機械学習エンジニアを目指すのであれば、習得したい言語といえます。
また、Web3.0の要となるブロックチェーンの開発にもPythonが用いられています。ブロックチェーン技術は、暗号資産や、メタバースなどに用いられています。
また、R言語の項目で詳しく解説しますが、データサイエンティスト、データアナリスト、データエンジニアといった統計やデータ分析を専門とする業務でもPythonは用いられています。
そのほか、Webアプリケーションエンジニアや、バックエンドエンジニアなど、Webサービスの開発・運用に欠かせない職種でもPythonは広く利用されています。
R言語を扱うエンジニアの主な職種は次のようなものです。
・データサイエンティスト
・データアナリスト
・データエンジニア
データサイエンティストは、統計学などを用いてデータを分析し、クライアントのビジネスの課題を解決する職種です。データアナリストも似た職種ですが、主に構造化データを扱い、扱うデータ量も多い傾向があります。また、データエンジニアはこうした分析のための土台を作る職種です。
この3つの職種は非常に近い領域であり、データエンジニアとして仕事を開始し、そこからデータアナリスト、データサイエンティストへステップアップするキャリアパスなどが考えられます。
AI開発や機械学習、ビッグデータの解析などを目指す方には、Pythonの学習がおすすめです。
Pythonはユーザーが非常に多く、あらゆるジャンルに対応した豊富なライブラリが用意されていることから、幅広いジャンルで利用されています。たとえば、Webアプリケーション開発にも利用されており、実際に「YouTube」「Instagram」などの開発にも用いられています。
AI開発や機械学習、ビッグデータの取り扱いなど、今後需要が一層高まると考えられるジャンルを得意とする上、一度覚えると幅広いジャンルでスキルを生かせるため、プログラミング初心者が最初に覚えるプログラミング言語としても適しているといえます。
データの可視化・解析など、統計学的な分野で活躍したいと考えているなら、R言語がおすすめです。R言語は統計解析に特化しており、統計学者やデータサイエンティストを目指す人にとって、非常に有用な言語といえるでしょう。
また、機械学習やテキストマイニングといった、データ抽出・探索の分野でも、専用パッケージを利用できるR言語にアドバンテージがあります。また、データの可視化に関しても「Microsoft Excel」以上の能力があり、高度なグラフ作成やデータ整理が可能となります。
PythonとR言語のどちらを選ぶべきか、目的やスキルによって異なります。
Pythonは汎用性が高く、機械学習やWeb開発など幅広い分野で活躍できる言語です。 一方、R言語は統計解析に特化しており、データサイエンス領域では必須といえます。
このコラムで紹介したPythonとR言語それぞれの言語の特性、メリット・デメリットなどを参考に、自身のキャリアパスに最適な言語を選択してください。