ベトナムは東南アジアでも有数のIT人材大国です。早くから国策としてSTEM科目(科学・技術・工学・数学)の教育に力を入れており、基本的なコンピュータ教育やコーディングについても、小中学校で学びます。オフショア開発などを通して、ベトナム人エンジニアのレベルの高さをすでに実感している人も多いかもしれません。
ここでは、ベトナムがIT人材大国になった理由や、ベトナムのIT人材の特長などを詳しく掘り下げて解説します。
また、エクストリームのグループ会社である、エクストリームベトナムの社員インタビューも行っています。ベトナムのITの現場の様子や、ベトナム人からみた日本人との違いなど、興味深い内容となっていますので、合わせてご覧ください。
まずは、ベトナムがIT人材大国になった理由からみていきます。
ベトナムでは、早くから国策としてIT人材の育成を行ってきました。基本的なコンピュータ教育や、外国人とのコミュニケーションに欠かせない英語の教育は小学3年生から実施するとともに、学校全体をデジタル化し、IT機器を導入するなど、子どもたちがITに親しんで育つ環境もつくってきました。さらに、STEM科目(科学・技術・工学・数学)の強化に力を入れ、中学2年生からはコーディングなどのIT科目も取り入れています。
ベトナムのIT人材プラットフォーム「TopDev」のレポート「Vietnam IT Market Report 2023」によれば、2023年時点での「コンピュータサイエンスおよびIT関連分野で働く技術・デジタル人材」は約53万人となっています。また、同レポートによれば、大学でITやテクノロジーを学び、IT人材として社会に出る人が、毎年5~5.7万人ほどいるとみられています。ベトナムの出生率は比較的高く、今後しばらくの間は同様のペースでエンジニアが増えていく可能性が高いと考えられています
出典:Vietnam IT Market Report 2023|TopDev
ベトナムは、他の多くの国と比べてIT人材の人件費が安くなっています。ベトナム統計総局が2022年に公表したレポートによると、ベトナム人全体の平均月収は660万ドン(約4.1万円)であり、これを単純に12倍すると7,920万ドン(約49万円)となります(1ドン0.0062円で計算)。IT人材はこれよりも高く、日系企業に絞ったデータでは、月給が約540ドル(=1300万ドン。約8.2万円)と倍近くなりますが、それでも多くの国に比べると安価な状況です(JETROのレポートから引用)。
こうした人件費の安さをみるだけでも、ベトナムでのオフショア開発が多く行われてきた理由がわかるはずです。しかも、ベトナムのIT人材は若い人が多く、年々高レベルな人材も増えていることから、オフショア開発を中心に多くの需要があります。
出典:2022年度 海外進出日系企業実態調査 アジア・オセアニア編|JETRO
IT大国ベトナムのIT人材には、どのような特長があるのでしょうか。ここでは、代表的な4つの特長をみていきます。
ベトナムはIT人材が多く、また、今後も増えるペースが比較的早いと考えられています。2023年時点でのベトナムのIT人材は約53万人で、中心となる世代の多くは20~34歳です。また、学生としてIT分野を学んで社会に出るIT人材が年に5~5.7万人ほどいるとみられています。
2022年に調査が行われた世界のITエンジニアについてのレポートをみると、IT技術者の増加数が5万人を超える国は多くありません。アルゼンチン(6.4万人)、イギリス(6.6万人)、オランダ(9.3万人)、フランス(9.4万人)、アメリカ(9.5万人)、日本(10万人)、ブラジル(14.3万人)、中国(18.4万人)などがベトナムを上回りますが、ベトナムのIT人材の増加数が世界でもトップレベルにあることは間違いないといえるでしょう。
出典:2022年度版:データで見る世界のITエンジニアレポートvol.5|ヒューマンリソシア
ベトナムのIT人材は、他国に比べてスキルアップのための勉強時間が長いとされています。2017年に実施された調査では、「業務上必要な内容があれば、業務外(職場以外)でも勉強する」と答えたベトナム人IT人材は56.5%(日本人IT人材は46.5%)、「業務で必要化どうかにかかわらず、自主的に勉強している」と答えたベトナム人IT人材は19.5%(日本人IT人材は12.5%)となりました。この2つを合わせた「勉強をしているIT人材」の割合は、調査の中では中国に次ぐ2位となっています。
特筆すべきは週あたりの勉強時間です。自主的に勉強するIT人材が多いオランダやドイツは、意外なことに週に2.3時間ほどと短く、業務上必要な内容を勉強すると答えたIT人材が多かったベトナムや中国は、週に3.5時間と他のほとんどの国よりも長くなっていました。(もっとも長いのはインドで4時間、日本は調査の中でもっとも短く1.9時間)
ベトナム人IT人材は、職務遂行のためにしっかりと勉強する人が多く、また勉強時間も長いことがわかります。また、自己研鑽(けんさん)のために勉強をするというよりは、仕事のクオリティを高めるために勉強をする、現実的で合理的なスタイルといえるかもしれません。
出典:我が国におけるIT人材の動向|経済産業省・みずほ情報総研
2023年に行われた調査によれば、ベトナムのIT人材からもっとも普及しているプログラミング言語は「JavaScript」で、僅差で「Java」が続きます。他には、PHPやC#も人気です。日本ではPythonとC言語が上位で、そこにC++とJavaが続きます。特にJavaScriptは近年あまり人気がなく、大きく傾向が異なるようです。日本企業がベトナムでのオフショア開発を考える際は、こうした傾向の違いを踏まえると、よりよい人材が集まりやすく、高度な開発が期待できるかもしれません。
なお、ベトナムのIT人材でもっとも人数の多い職種は、バックエンドエンジニア及び、フルスタックエンジニアです。次がフロントエンドエンジニアで、その次にAndroid 及び iOSエンジニアが続きます。
出典:Vietnam IT Market Report 2023|TopDev
ベトナム人のIT人材は長期の雇用を望んでいる人が少ない傾向があります。2017年に行われた調査では、勤務希望年数について、2年未満(14.5%)、2~5年程度(29.5%)、5~10年程度(19.5%)と10年程度までが過半数を占めており、52.5%が終身雇用を望む日本のIT人材とは対照的です。
これは、転職が当たり前というイメージのあるアメリカやドイツ、そして中国などと比べても圧倒的に短く、ベトナム以上に長期雇用を望まない国はインドやシンガポールなど、ごく一部に限られます。これは、ベトナムのIT人材の年齢が全体的に若いことも関係しているかもしれません。こうした傾向から、日本人IT人材よりも、ベトナム人IT人材のほうが、必要に応じた雇用をしやすいとも考えられます。
出典:我が国におけるIT人材の動向|経済産業省・みずほ情報総研
ベトナムは親日国家として知られています。また、地理的にも比較的近く、直行便であれば東京からホーチミンまで6h~7h程度です。これは、日本企業がオフショア開発などでベトナムのチームと協働する際に有利に働くでしょう。
ベトナムが親日国なのにはいくつかの理由がありますが、政治的な関係が良好で、日本のアニメなどの文化もベトナムで受け入れられています。また、ベトナムには多くの日本企業が進出しており、その数は約2,000社とされています。例えば、ベトナムはバイク社会としても知られていますが、シェアのトップは本田技研工業です。
国民性には共通点と、はっきり異なる点があります。例えば働き方の面では、勤勉で真面目に働く人が多い点は日本人と近い部分ですが、サービス残業は好まれません。しかし、残業代が出るのであれば残業は歓迎される傾向にあるようです。
また、北のハノイと南のホーチミンでも異なります。ハノイの人たちは比較的堅実で、ホーチミンの人たちは楽天的といわれています。なので、オフショア先がハノイかホーチミンかでも、雰囲気は少々変わるかもしれません。
ベトナムは2000年前後から、国家をあげてIT人材の育成に努めてきました。それから20年以上が経ち、ベトナムは世界でも有数のIT人材大国として花開きました。近年ではレベルの高い人材も増えており、そのため給与水準もあがりつつありますが、それでもオフショア開発先として有力な国であることは間違いありません。