チームの戦術を磨く練習試合。eスポーツ用語「スクリム」を解説します

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高いパフォーマンスを発揮するためには、どんな競技でも基礎を磨き上げること、そして実戦形式の練習で経験を積むことが必要になります。

 

eスポーツの世界では、本番を想定して行う練習試合を「スクリム」と呼び、表舞台での試合で結果を残すためには欠かせない貴重な機会となっています。

 

今回はプロシーンで重要な役割を果たす「スクリム」についてご紹介します。

 

 

本番を想定した特別な練習環境

 

アメリカンフットボールやラグビーでは、練習試合や紅白戦を「Scrimmage(スクリメージ)」と呼ぶことがあり、これは「小競り合い」や「ぶつかり合い」を意味する英単語に由来しています。その用語を縮めた「Scrim(スクリム)」がeスポーツの世界でチーム同士の練習試合を指す言葉として使用されるようになりました。

 

プロシーンでのスクリムは非公開かつ実践的な練習の機会として、戦術のテストや新人選手のトライアウトの場として活用されることもあります。スクラムの結果だけで、チーム間のパワーバランスを推し量ることは出来ませんが、チーム強化における重要な意味を持っています。

 

練習機会確保のために、通常の試合とは異なる運用が行われることがあるのもスクリムの特徴です。例えば大会本番で「Bo3(3試合先取)」ルールが採用されている場合、スクリムでは本番で最長となる5試合分を想定したスケジュールが確保され、最初の3試合で3-0となった場合、本番では対戦は終了となりますが、スクリムではそこで打ち切ることなく4試合目と5試合目も実施して練習として活用されるのです。

 

また、序盤であまりにも一方的な展開になってしまった場合には試合を「リメイク(やり直し)」したり、試合の途中でコーチが選手にリアルタイムでアドバイスを送ったりと、質の高い練習試合にするため、本番の試合では不可能なアプローチも活用されています。

 

情報が重要なクローズドな場

 

本番を想定した戦術を実戦でテストするうえでは、チームの情報を秘匿することも非常に重要で、拮抗した実力かつ戦術を知られても問題ない練習相手が理想です。そのためトーナメントで“反対の山”にいるチームなど本番で対戦する可能性が低いチームが相手に選ばれやすく、多少の通信ラグを許容してでも海外チームとのスクリムが組まれることも多くなっています。

 

お互いに次の対戦相手が決まっていれば、スクリム相手に次の本番で「想定される相手の戦術」で戦ってもらい、次に自分たちが相手チームが対策したい戦術を真似てプレイするという“助け合い”の関係も生まれます。

 

アマチュアチームだけでなくプロシーンであってもスクリムはオフィシャルに決められたスケジュールは存在せず、チーム間での合意でスケジュールが組まれていきます。スクリムを募集するためのコミュニティに選手やスタッフが参加して日程を合わせるほか、関係性の深いチーム同士では直接やり取りをして約束を取り付けることもあるそうで、多くのチームとコネクションを持っていることもひとつの強みと言えるでしょう。

 

 

そうして丁寧に相手を選んだからと言って安心とも言い切れず、ゲームによってはオンラインで行われた試合の結果やフレンドの戦績を確認できる機能もあるため、選手が普段から使用しているアカウントからスクリムや個人練習の内容が知られてしまうリスクも存在します。中には自分のアカウントを見られることを想定してフェイクの戦績を残しておくケースもあるとされ、ファンの知られざる舞台裏での情報戦も繰り広げられているのです。

 

広がる「エンタメとしてのスクリム」の魅力

 

このように真剣勝負が行われる競技の世界ではクローズドな練習の場になっている「スクリム」ですが、エンターテイメントでもあるeスポーツの魅力を掘り下げるため「公開スクリム」が行われるケースも少しずつ登場しています。

 

その名の通り通常なら見ることができない練習試合の風景を誰でも見られる形にした公開スクリムは、試合の模様だけでなく試合後にコーチが展開を振り返りながら改善点を伝えていく「フィードバック」の内容まで知ることができ、ファンだけでなくプロを目指すアマチュアプレイヤーにとっても貴重な機会となっています。

 

スクリムの公開は一方のチームの希望だけでは実現せず、対戦相手からの許可も必要になるというハードルはありますが、全てのチームができることではないからこそ希少性も高く、大きな注目を集められます。

 

人気MOBAタイトル『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の競技シーンでは、元プロ選手であり有名配信者の「Caedrel」氏が有名プレイヤーを多数集めたチーム「Los Ratones」を組織。同チームは可能な限りスクリムを公開しながら最終的にトップリーグで勝利を挙げるほどの躍進を果たし、エンターテイメントと競技性を両立させる取り組みとして大きな話題を呼びました。

 

また、配信者らによる大会形式のイベントは多くの場合で本番対戦するチームともスクリムが予定されており、その模様を公開することが定番となっています。これは大会のための即席チームの連携を本番と同じ形式で磨いていく練習であると同時に、視聴者にとってはチーム間の力関係を知る場にもなっています。

 

配信者大会でも手の内を隠してのスクリムとなったり、あるいは他チームのスクリム観戦を禁止したりと情報戦が繰り広げられることもありますが、プロシーンのように何度も対戦経験のあるチームではないからこそ、事前に一度対戦して各チームの状況を把握しておくことで、本番の対戦が一層楽しめるようになるのです。この場合のスクリムは競技シーンで行われるものとは毛色が異なり、エンターテイメントとしての魅力を増大させるため機能していると言えるでしょう。

 

こうしたオープンなケースを含め、スクリムはeスポーツの魅力を深めるために一役買っている重要な練習試合です。プロシーンでは今も私たちの見えないところで日々スクリムが行われ、選手やコーチが新たな戦略の開拓や技術の鍛錬に取り組んでいるのです。

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