「納得できないバランス調整」はなぜ起こる?

ゲームのバフ・ナーフの考え方

#eスポーツ

ネットワークを通して世界中のプレイヤーと競い合える対戦ゲーム。昨今はほとんどのタイトルが発売後も定期的なアップデートを行っており、新しいコンテンツが追加されたり、キャラクターや武器の性能を変更する“バランス調整”が加えられたりと、常にゲーム内容が変化してプレイヤーを飽きさせない工夫が施されています。

 

ゲーム業界やユーザーの間ではバランス調整による強化を「バフ」、反対に弱体化される調整を「ナーフ」と呼ぶ文化があり、より良い対戦環境を保つためにバフ・ナーフ、そして時にはガラリと性能を変更する「リワーク」が行われることもあります。

 

ただ、こうしたバランス調整を受けて「なぜ?」と感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。あまり強いと思われていなかったキャラクターがナーフされてしまったり、繰り返しバフされるキャラクターがいたり、不思議に感じるバランス調整の原因はどこにあるのでしょうか。

 

 

強いから弱くする、だけではないのがバランス調整

 

バランス調整など、アップデートの内容を決めるのはもちろんゲームの開発会社です。通常、開発チームでは世界中で行われている対戦のデータを収集しており、プレイヤー全体での勝率や使用率が調整の参考にされています。

 

ただ、シンプルに「勝率が〇%を超えているキャラクターは強すぎるので弱体化する」とラインを決めてしまうシステマティックな調整をすればバランスが良くなるかと言えば、そうとも限りません。対戦ゲームではキャラクターごとの対策や相性があり、ユーザーも研究を重ねているので時間と共にキャラクターの評価や流行の戦術は変化していきます。この「メタが回る」と呼ばれる現象が環境にも影響を与えるので、調整が非常に繊細で難しいのです。

例えば、固有のスキルを持ったキャラクターを選択し、自由に武器を選んで戦うFPSゲームがあったとして、現時点で1体だけ勝率の高い「キャラクターA」が存在している場合を考えてみます。

 

本当にAのスキルが強すぎる可能性もありますが、強い武器との相性が良いだけでキャラクター自体の性能は適度なラインかもしれませんし、実はAへの有効な対策が浸透していないだけで時間が経てば勝率が落ち着いていく可能性もあります。

 

そこで安直に「キャラクターA」の性能をナーフしてしまうと、Aの勝率を抑えることはできるはずですが、今度はAとの相性が悪かったキャラクターBの勝率が突出してしまったり、Aが全く使用されないキャラクターになってしまったりと、また異なる調整要因を生んでしまうことにも繋がります。

 

また、極端なナーフによってせっかく練習したキャラクターが弱くなってしまう体験に繋がるのも、開発チームにとって望ましいものではありません。Aのスキルを少しだけナーフするか、対策として有効な武器やキャラクターをバフするか、他の全く異なるキャラクターをバフすることで対抗できる存在にするのかなど、さまざまなバランス調整の手法を検討し、実装へと至っているのです。

 

 

 

他にも「今は遠距離で戦うプレイヤーが多いから、近距離戦に向いている武器を全体的にバフしてこっちも使ってもらおう」「キャラクターCが全く使われていないから性能をバフしよう」など、強い存在を弱くする以外にもバランス調整が担う役割は大きく、開発チームはユーザーにどのような体験をして欲しいかを考えながら長期的なプランを組まなければいけません。

 

このような理由から、プレイヤーが「して欲しい」と感じるアップデートと実際に行われる調整には開きが生まれることが多々あります。バランス調整には時に緊急で行われることもあるものの、基本的には環境の調査から対応策の検討、ベータ版などでの検証を経る必要があるため、リアルタイムでプレイしている人とは時差が生まれてしまい、適切でないと感じられることもあるでしょう。

 

また、近年はeスポーツが盛んになり、平均的なプレイヤーよりハイレベルなプロ選手の対戦が行われています。プロ選手が「上手く使えば非常に強い」と言えるような高難度のキャラクターを使いこなす姿は魅力的ですが、さまざまなキャラクターや戦術が活用されるよう競技シーンの魅力を保つのもバランス調整の役割であり、「競技シーン向け」のバフ・ナーフが一般プレイヤー向けと同時に行われているのも、納得感が薄くなってしまう要因のひとつと言えるかもしれません。

 

頻繁であれば良いとは限らない

 

ゲームの内容を大きく変えることもあるバランス調整ですが、その頻度についてもさまざまな考え方があります。同じ環境、特にゲームバランスに不満がある状態が長く続くのは喜ばしい状況ではありませんが、頻繁に細かな変更が入るゲームは少しの間プレイしなかっただけで環境がガラッと変わってしまい、敷居が高く感じられることもあるでしょう。

 

最近ではCAPCOMの『ストリートファイター6』は、バグ修正等のアップデートは継続しながらも、ゲームバランスの調整については「年1回」の方針と発表し、大きな反響を呼びました。もっと小まめな調整を求める声も挙がってはいますが、大規模な大会期間の途中に性能が変わってしまうことを回避するためなど理由についても説明されており、プレイヤーに理解を求めています。

 

ゲーム内のバランスについては勝率や使用率の統計が一般ユーザーから見られるタイトルもあり、何より自分がプレイして「これは強すぎる」「自分のキャラは弱い」と感じた経験から、調整を求めたくなるのはユーザーとして当然の気持ちです。

 

ただ、非常に大勢のユーザーがプレイする対戦ゲームで誰もが納得するような完璧なバランスを求めるのは非現実的であり、仮に素晴らしいバランスのバージョンが作れたとしても、その後に調整や追加コンテンツが加われば必ず状況は変化していきます。新しい体験やコンテンツを生み出さなければゲームは発展しなくなってしまうので、できるだけ「元のバージョンに戻す」ような調整は避けたいものであり、ゲームの内容は常に変わっていくものなのです。

 

真剣に競技に挑む人から、好きなキャラクターでのプレイを楽しみたいユーザーまで、どんなスタイルでも自由に楽しめる対戦ゲーム。時には自分の好みに合わない環境になってしまうこともあるかもしれませんが、調整の狙いや背景を公開するタイトルも増えているので、開発チームが「調整の調整」に苦心して生まれたバランスを尊重する気持ちも持ち合わせておきたいものです。

 

掲載日:2024年3月21日

関連する記事