日本人から『TFT』世界王者も輩出

頭脳勝負のeスポーツ「オートチェス」ジャンルの人気高まる

#eスポーツ

ゲーム対戦競技「eスポーツ」は体格や運動能力などフィジカル面の影響が少ない競技であり、時に将棋やチェスなど思考力で競う「マインドスポーツ」に例えられることがあります。

 

確かにゲームを遊ぶだけなら高い運動能力は必要ありません。しかし、シューティングゲームや格闘ゲームのようなジャンルで上達を目指す場合には、細かな操作技術や反射神経は必ず求められるもので、全てのeスポーツタイトルを一律にマインドスポーツと捉えることはできません。

 

ゲームの中にも、思考力を競う、マインドスポーツと言えるジャンルも存在しており、デジタルカードゲームや麻雀ゲームなど、現実のボードゲームを元にしたアナログ版のゲームはマインドスポーツに該当するでしょう。

 

そんなマインドスポーツの中にもeスポーツ競技として、近年はアナログ版が存在しない“ゲームならでは”のジャンルも発展しています。今回はその中から、日本でも人気を集めつつある「オートチェス」ジャンルについて紹介いたします。

 

『Dota2』のMODから生まれた戦略勝負のジャンル

 

「オートチェス」ジャンルの起源とされるのは、世界的人気を誇るMOBAタイトル『Dota2』において、2019年に開発されたMOD(※)『Dota Auto Chess』です。名前の通り、駒を盤面に配置するチェスのような戦術性と自動で対戦が進行するため、複雑な操作を必要としないゲーム性が特徴です。

 

※第三者が開発したゲーム改造データ。自由な遊び方が可能になる一方で不正につながる可能性もあり、MODの使用を制限・禁止しているタイトルも多い。

 

このMODが大きな人気を博したことから、遂には単独でゲーム化され、類似の作品も開発されるようになったことで「オートチェス」というジャンルが確立され、特定の作品名を使用しない呼称として「オートバトラー」も用いられています。そういう意味ではeスポーツの中でもかなり歴史が浅く、最新のジャンルのひとつと言っても過言ではないかもしれません。

 

 

細かなルールはゲームによって異なりますが、「オートチェス」ジャンルのゲームは、試合ごとに変化する盤面とリソースの管理、そして複数人の同時対戦による駆け引きが全体に共通する特徴です。

 

まず重要なのは、チェスとは違い、使用できる駒が毎回一定ではない点です。試合中にランダムに提示される駒の中からコストを支払って自分の手持ちに加える駒を選択する必要があり、入手できた駒によって戦術を変えたり、自分の得意な戦術や狙いやすい駒を集める工夫をしたりと、臨機応変なプレイスタイルが求められます。

 

駒にはそれぞれ個性的な能力が割り振られており、高価な駒ほど性能も高くなっています。だからと言って、高い駒ばかり集めるゲームかといえばそうではなく、特定の駒同士を配置することで能力がアップする「シナジー」や、同じ駒を何枚も集めると合体して能力アップする「アップグレード」という要素があるので、色々な駒を上手く組み合わせた構成を考えなければいけません。

 

そうして自分の準備した構成と他のプレイヤーの構成とが自動で対戦し、敗北したプレイヤーはライフポイントが削られ、この繰り返しでライフポイントが0になってしまったプレイヤーは脱落となります。ただ「オートチェス」は複数人による総当たり形式の対戦ルールが基本であり、例えば『Dota Auto Chess』には8人のプレイヤーが参加しており各ラウンドでは1vs1の対戦が4組行われるので、7種類の対戦相手を想定して盤面を構成しなければならないのです。

 

選択できる駒も決まった個数のプールからランダムに提示されるため、他のプレイヤーが集めている駒は出現しづらくなり、強いと評価されている駒は争奪戦になります。その争奪戦を制して強力な駒構成を完成させても相性や配置、アップグレード状況などによって他の構成に逆転されてしまう可能性もあり、さまざまな勝ち方が存在しているのも大きな特徴です。

 

こうした「入手できる駒」と「他のプレイヤーの選択」という毎回変化する要素が「オートチェス」ジャンルの魅力であり、他にも効率的なコストの集め方や駒を強化するアイテムなど、無数の戦略的要素が詰め込まれている奥深さが人気の要因となっています。

 

アナログ版のゲームと違い、アップデートによって出現する駒の内容や強さが変化していくので飽きが来ず、それでいて必要な操作は駒の入手や配置程度と非常にシンプルなため、マインドスポーツと同様に運動能力を問わずに楽しめる競技と言えるでしょう。

 

Riot Gamesの『TFT』では日本人選手が世界一に

 

『Dota Auto Chess』の流行以降、同様の作品が数多くリリースされてきましたが、日本で特に知名度とプレイ人口を獲得しているのが『チームファイトタクティクス(TFT)』です。『TFT』はRiot Gamesが2019年に開発・リリースした作品で、同社の『リーグオブレジェンド(LoL)』のキャラクターが駒として登場することで、『LoL』ユーザーに広く親しまれています。

 

『LoL』の人気が高い地域では『TFT』も多くプレイされる傾向にあり、特に中国は2位に大きな差をつけるほどの『TFT』プレイ人口を誇っていると公式にも発表されるほどのブームを起こしました。プレイ人口が多く大会なども盛んな地域では戦術の研究が進むスピードも非常に早く、中国は『TFT』の公式大会で数多くの優勝者を輩出する競合国として知られています。

 

そんな『TFT』シーンでは日本勢の健闘も目立っており、早い段階から『TFT』の世界大会で上位入賞者を輩出。そして2023年11月に行われた世界大会では、なんと日本人プレイヤーのtitle選手が優勝を果たしています。

 

title選手は2022年の世界大会でも決勝に進出したものの、惜しくも準優勝で大会を終えており、1年越しに雪辱を晴らすと共に日本人初優勝の快挙を成し遂げました。

 

「オートチェス」ジャンルの作品は、操作技術による差が生まれづらい反面、勝率を高めるためにはゲームの仕様を理解し、戦術やセオリーを研究するなど“座学”の必要性が高いジャンルです。日本のプレイヤーは海外選手のプレイ映像を元に戦術分析を行うなど積極的に海外のメタを取り入れ、中国や韓国などPCゲーム大国にも負けない好成績を収め続けています。

 

「オートチェス」ジャンルのゲームは、ゲームのアップデートによりゲーム内容が変化するタイミングで知識の更新が必要になることもあり、知識さえ身につければ年齢に関わらずトッププレイヤーと競い合えるという点では、新規参入が容易なeスポーツジャンルのひとつと言えるでしょう。スマートフォン向けアプリでもプレイできる作品も多く、高スペックなPCを必要としないのもハードルの低さに繋がっています。

 

麻雀のプロリーグである「Mリーグ」の人気が高まったり、トランプゲームのポーカーでプロとして活躍するプレイヤーが注目されたりと、マインドスポーツ全体での機運の高まりも感じられる昨今。コアなジャンルでは少し操作のハードルが高いと感じる方も、「オートチェス」ジャンルの作品でeスポーツの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

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