2023年eスポーツシーン振り返り

好調タイトルや競技大会が注目浴びるも、ビジネスは変革期

#eスポーツ

日本でeスポーツという言葉が広まりはじめ「eスポーツ元年」と呼ばれた2018年から5年以上が経ち、文化としての認知・浸透を感じる出来事も増えて来ました。

 

まだまだ若い文化であり移り変わりの激しいeスポーツ業界はコロナ禍という大きな転換期を迎えながらも、急速なオンライン環境の需要を上手く取り込み、日本でも世界でも変化を続けています。

 

そんなeスポーツシーンにおける2023年はどんな1年だったのか。今回は注目タイトルや印象的なできごとから、2023年のeスポーツを振り返ります。

 

 

『スト6』大ヒットで今後の格闘ゲームが続くか

 

今年の国内eスポーツシーンで大きなブームを巻き起こしたタイトルと言えば、間違いなく『ストリートファイター6』の名前が挙がるでしょう。

 

CAPCOMの『ストリートファイター』シリーズは長い歴史を誇る格闘ゲームジャンルにおける代表的なタイトルのひとつであり、前作『ストリートファイターV』も国内外で早い時期からeスポーツ大会が大いに盛り上がるなど、堅実な人気を築いてきました。

 

そんな前作から8年ぶりのナンバリング最新作となった本作では、格闘ゲームの定番ともいえるコマンド入力を省略し、ワンボタンで手軽に技が出せる「モダン操作」が登場したことで大きな話題を呼びました。

 

発表当初は「練習して身につけた技術が不要になってしまうのでは」と既存プレイヤーからの不安の声もありましたが、従来通りの「クラシック操作」が有利になる要素もあり、どちらを選ぶかはプレイヤーの個性が分かれるポイントに。素早く技を出せるメリットを重く見てモダン操作を取り入れるプロ選手も複数現れました。

 

そして、何より大きな効果を発揮したのが初心者・新規プレイヤーの取り込みです。格闘ゲームはお互いが間合いを管理しながら数フレームの隙を狙って攻撃を当てていく繊細な駆け引きが特徴で、攻守が目まぐるしく変わるスピード感も魅力です。

しかし正確にコマンドが入力できなければ技やコンボが出せない従来のシステムでは駆け引きの魅力を味わう前に挫折してしまうプレイヤーも多く、歴史あるジャンルが故にベテランのプレイヤーが中心となっていることもあって「格闘ゲームはハードルが高く、新規参入しづらい」との印象を持たれつつありました。

 

『ストリートファイター6』はモダン操作によって、こうした“最初のハードル”になっていた操作の複雑さを取り払うことに成功しました。また、他のプレイヤーと対戦せずとも楽しめるソロプレイ専用のRPG風モード「ワールドツアー」の実装も含めて、初心者が参入しやすい作品としてのデザインに力が注がれていました。

 

発売直後に他ジャンルのプロゲーマーやストリーマーなど、有名インフルエンサーが対戦するイベント大会も数多く開催され、魅力が発信できたことも初心者の新規参入が増えたきっかけとなったと考えられます。イベントではプロ選手がコーチ役を務めることも多く、彼らの解説する格闘ゲームのシステムや醍醐味が視聴者にも伝わり、加えてプロ選手の知名度向上にも一役買っていたのではないでしょうか。

 

 

これまでコア層からの人気は確立されているものの、閉鎖的でもあると指摘されることもあった格闘ゲームジャンルですが、『ストリートファイター6』の公式プロリーグ「ストリートファイターリーグ」が2022年の『ストリートファイターV』を使用しての開催と比較して2倍以上の視聴者を記録しているというデータもあり、新たなファン層の拡大に成功したと言える状況になりました。

 

とは言え、これはあくまで『ストリートファイター6』ならではのシステムとそれを活用した発信活動の成果も大きく、今後発売される他の格闘ゲームがこれほど広く受け入れられるかはまだまだ不透明な状況です。このブームで格闘ゲームの魅力に触れた人たちを今後も巻き込んでいけるかは、2024年eスポーツシーンの注目ポイントのひとつになりそうです。

 

競技大会での採用目立つも、ビジネス面では陰りも

 

また、2023年は競技大会でのeスポーツ採用が話題になる年でもありました。6月にはオリンピックの公式イベント「オリンピックeスポーツシリーズ」がシンガポールで開催されると、9月には中国・杭州でeスポーツが正式種目となって初めてのアジア競技大会が開催されました。

 

国際オリンピック委員会は10月の総会にて今後も公式なeスポーツイベントを行っていく構想を発表しており、アジア競技大会も2026年の愛知開催でもeスポーツが正式競技に決定済みと、今後もスポーツ競技大会の場でeスポーツを目にする機会は増えていくのではないでしょうか。

 

ただ、そうした明るいニュースが報じられる一方で、規模を縮小するタイトルの存在も目立ち、eスポーツビジネスの課題が浮き彫りになる面もありました。

 

北米地域では2023年の初頭から複数のプロゲーミングチームが赤字を抱えているとの報道がなされ、各チームのオーナーもこれを認めました。その大きな原因とされているのが選手給与の高騰です。

 

ここ数年はeスポーツ人気が過熱の一途を辿り、スター選手や将来を有望視される選手の給与も大幅に上昇しました。しかし、徐々にeスポーツ人気が落ち着きを見せはじめると、スポンサーからチームへの投資額は減少し、高額になった選手の給与は、配信収益や大会の賞金では到底賄えない状況に陥っているのです。

 

もちろんすべてのチームが完全な黒字化だけを目指しているわけではなく、中には広告事業の一環としてチームを保有している企業もあれば、黒字を出している部門で赤字部門を補えるチームもあるでしょう。それでも一部のチーム以外が苦しい運営を強いられる現状は健全とは言い難く、リーグ戦や大会からの撤退を余儀なくされるケースが相次いています。

 

情勢が厳しくなりつつあるのはチームだけでなく、公式にeスポーツシーンを運営するIPホルダー、つまりゲームメーカーも同様です。デジタルカードゲーム『ハースストーン』を提供するBlizzard Entertainmentは、2023年から同タイトルの公式大会削減や一部大会の賞金撤廃など大幅なプログラム縮小を発表。さらに同社の親会社が手掛けるFPS『オーバーウォッチ』の公式リーグ戦「オーバーウォッチリーグ」も現行の公式リーグを廃止して新しい方式の競技シーンへ移行することが決まっており、大規模な大会を運営し続ける難しさを感じさせる状況になっています。

 

ひとくくりに盛り上がりが語られた時期を過ぎ、タイトルや大会、地域ごとに情勢の変化が顕著になりつつあるeスポーツシーン。果たして2024年はどのような環境になっていくのでしょうか。

 

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