「エイム」勝負が五輪競技になる可能性も?

オリンピックに採用されるeスポーツタイトルの条件とは

#eスポーツ

世界中で人気を拡大しているeスポーツ。競技人口も日々増え続けており、可能性がささやかれて来た「eスポーツのオリンピック種目化」も少しずつ現実味を帯びつつあります。

 

オリンピックに関する組織を統括する国際オリンピック委員会(IOC)は、2021年に15項目に及ぶ将来に向けた改革の指針を公開していますが、その中には「仮想スポーツの開発を奨励し、ビデオゲームコミュニティとさらに関わる」という文言も含まれていました。

 

2023年6月にはシンガポールでIOC主催のイベント「オリンピックeスポーツウィーク」が開催され、イベント内では10種目にも及ぶeスポーツ大会も実施。世界的なスポーツの祭典としても若者に人気の高いeスポーツには高い期待を抱いていることが伺えます。

 

 

こうした動きを受けて、日本国内では文部科学省所管の日本スポーツ振興センター(JSC)による選手強化支援の検討を進めているとの報道もあり、eスポーツがオリンピックの正式種目に名を連ねる日も近いのではと考えずにはいられません。

 

すると気になるのは「どのゲームが競技種目になるのか」ですが、これまでも国際的な競技大会にeスポーツが採用されたケースを見ても採用タイトルはその都度変わっており、選定基準はまだ定まっていないように見受けられます。

 

今回は、もし実際にeスポーツがオリンピック種目になるとしたら、どのようなタイトルが適しているのかを考えてみたいと思います。

 

 

競技としての普及度が条件のひとつ

 

近代五輪の規約とも言えるオリンピック憲章によれば、競技として採用される基準はいくつかあり、中でも「男子では4大陸75カ国以上、女子では3大陸40カ国以上、冬季五輪の場合は3大陸25カ国以上で広く行なわれている競技」であることが大きな条件となっています。

 

eスポーツ全体を一競技として捉えれば難しい条件ではないものの、タイトル単位で見れば適合するのは全世界向けにリリースされているグローバルな作品に限られるでしょう。「広く行われている」の文言があるように、数字の規定こそないものの競技人口も重要と考えられ、局地的ではない普及度が求められるようです。

 

この条件だけを考えれば全世界で1億人のプレイ人口を誇るとされる人気MOBAタイトル『League of Legends』や『DOTA2』は十分可能性があると言えますが、次に課題となるのが日程の問題です。

 

約2週間の五輪開催期間で全日程を消化しなければなりませんが、例に挙げたタイトルは1試合1時間近くかかるものも多いなか、2本先取3本先取の長時間対戦が一般的です。eスポーツは施設面では融通が利くものの、あまりに詰め込んだ過密日程は選手の負担になるでしょう。

 

現行のリーグとの折衝も課題で、バスケットボールや野球ではアメリカのプロリーグが絶対的であるがためにオリンピックの優先順位が下がり、トップ選手が派遣されないことも珍しくありません。知名度あるスポーツでもオリンピックの種目から外れたり採用されなかったりするケースもあるように、eスポーツも様々なハードルをクリアできるタイトルが求められるのではないでしょうか。

 

スポーツゲームのメリット・デメリット

 

際に「オリンピックeスポーツウィーク」では日本でもお馴染みの野球ゲーム『パワフルプロ野球』のほか、ダンスゲーム、そしてVRでの卓球ゲームなどが採用されていました。

 

スポーツゲームはeスポーツに詳しくない人にもルールが分かりやすく、従来のオリンピックの視聴者層にも受け入れられやすい点が大きなメリットです。一方で、観戦体験がリアルの競技に視覚的に似てしまうのは当然で、それならばゲームではなく実際の競技を見たいと考える人も少なくないはずです。モチーフのスポーツが浸透していない地域ではゲームのプレイ人口も伸びづらいため、人口分布や強豪国もリアルな競技と代わり映えしない可能性があり、「eスポーツならでは」と感じさせるような差別化を生み出すのは意外と難しいでしょう。

 

本来なら広大な専用競技場を必要とするスポーツでもゲームなら非常にコンパクトなスペースで再現できるのも魅力で、近年の「コンパクト化」を求めるオリンピックの風潮にもフィットしています。

 

eスポーツというフィルターを通すことで、幅広いスポーツにオリンピック競技の可能性が生まれているという見方もあります。現在のオリンピック憲章では動力を用いた競技の参加が認められていないため、種目に選ばれていないモータースポーツも、オリンピック公式のeスポーツイベントでは複数回種目に採用されています。

 

正式種目化とは少し違った方向性になりますが、2024年のパリ五輪では種目から外れる「野球・ソフトボール」競技をゲームで代用するなど、デモンストレーション的な立ち位置で採用される可能性を持っているのもスポーツゲームならではと言えるでしょう。

 

なお、オリンピックでは公式スポンサーの権利を保護するために選手のユニフォームなどへの企業名やロゴの掲出は制限されています。現在リリースされているスポーツゲームの多くは現実のプロ選手やプロリーグを忠実に再現していますが、そのままの映像を使用するのは難しい可能性もあり、特別なモード・表示が求められることになりそうです。

 

射撃になぞらえたエイム競技に注目

 

そんな条件や背景があるeスポーツですが、「オリンピックeスポーツウィーク」では「射撃」競技として人気FPS『FORTNITE』が使用されていたのは、非常に興味深い取り組みでした。

 

この競技には国際オリンピック委員会とゲーム会社に加えて国際射撃連盟も参画し、ゲーム内に射撃競技用のマップを作成。通常のゲームモードのように複数の敵との銃撃合戦で体力を削り合うのではなく、ひとりのプレイヤーが設置された的を正確に狙っていく精密な「エイム」を問う競技として実施され、『FORTNITE』ならではの建築物を操るテクニックやキャラクターコントロールが発揮されるエリアを含め、既定コースをどれだけスピーディーにクリアできるかが競われました。

 

 

エイムはさまざまなゲームで共通する要素であり、運動で例えるなら「足の速さ」や「力の強さ」とも言うべき基本的かつ重要な能力です。今回は『FORTNITE』を用いて競われましたが、エイム勝負なら普段は他のタイトルで活動している選手も適用しやすく、幅広いプレイヤーに門戸が開かれた競技と言えます。

 

さらに、エイムでスコアやスピードを競うシンプルなルールであれば「オリンピック競技専用ソフト」の開発も視野に入ります。もちろん開発にはいずれかのメーカーの力を借りることにはなりますが、既存タイトルを使用する場合と比較してもハードルは低くなるでしょう。

 

あまりにもシンプルさだけを突き詰めると観戦の面白さは少し減ってしまうかも知れませんが、複数のタイトルからトッププレイヤーがチャレンジするようになれば、オールスターゲームのような特別感に繋げられる可能性もあります。

 

あらゆるスポーツのベースに徒競走があるように、オリンピックでのeスポーツの歴史はエイム対決から。という未来もあるのではないでしょうか。

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