「アケコン」が定番ではなくなる日も?

格闘ゲームの操作デバイス事情が進化中

#eスポーツ

数あるeスポーツのジャンルの中でも『ストリートファイター』シリーズや『鉄拳』シリーズなど、日本のゲームメーカーが手掛けるタイトルが人気の格闘ゲーム。

 

国内でもeスポーツが盛んになる以前から大会が開かれるなどジャンル全体での人気が高く、国際大会で活躍するプロ選手も多いため、日本eスポーツシーンにおける“お家芸”競技と言っても過言ではありません。

 

 

そして日本における格闘ゲーム人気の存在を後押ししたのが、ゲームセンターの存在です。今ではPCやコンシューマ機を用いてのオンライン対戦が主流になっていますが、かつてはゲームセンターがプレイヤーの腕前を磨く舞台であり、交流の場でもありました。

 

ゲームセンターでのプレイに慣れ親しんだプレイヤーが、アーケード筐体の操作感を家庭用ゲーム機版でも実現するために用いてきたのが、レバーとボタンの配置を再現した通称「アケコン」と呼ばれる「アーケードコントローラー」であり、格闘ゲームに詳しくない方でも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

 

しかし、昨今はそんな専用デバイスであるアーケードコントローラー以外の選択肢を採るプレイヤーも増えつつあるのです。今回は、格闘ゲームの操作デバイス事情を紹介いたします。

 

家庭用ゲーム機のゲームパッドでもプレイが快適に

 

格闘ゲームをプレイする際に選ばれることが増えているのがゲームパッド、つまりは家庭用ゲーム機に付属する「コントローラー」と一般的に呼ばれているデバイスです。

 

そもそもアーケードコントローラーはアーケード筐体でのプレイに慣れているプレイヤー向けのデバイスであり、家庭用ゲーム機から初めて格闘ゲームを遊ぶプレイヤーは、当然ながらゲームパッドでの操作に慣れることになります。ゲームセンター全盛期に比べるとゲームパッドの性能も飛躍的に向上しており、新規のプレイヤーほどわざわざ高価なアーケードコントローラーを購入するメリットが薄くなってきていると言えるでしょう。

 

加えて、慣れ以外でのアーケードコントローラーのメリットとしては、ゲームパッドよりもレバーが大きいので細かな入力が行いやすく、殆どの種類でボタンが横ならびに配置されていることからボタンの同時推しも容易である点が挙げられます。

 

 

しかし、近年はゲーム内の設定もゲームパッドで快適にプレイできるよう改良されており、例えば「A+Bボタン同時推し」をひとつのボタンに割り振れるなどカスタム性が向上しています。そのため、むしろボタンの数が多いゲームパッドの方がボタン入力のしやすさで勝っているとする見方もあります。

 

スティック操作を取り払った「レバーレス」も登場

 

そして、アーケードコントローラーとゲームパッドに加えて近年新たに注目を集めているのが「レバーレスコントローラー」の存在です。

 

名前の通り、通常であればキャラクターの移動やコマンド入力のために使用するレバーがないタイプのコントローラーで、その代わりに上下左右を入力するためのボタンが配置されています。

 

レバーレスの大きなメリットは入力の素早さにあります。レバーで「右→左」と入力するためには、どうしても一時的にレバーがどちらにも倒れていないニュートラルな状態を経由しなければなりませんが、レバーレスなら右ボタンの次に左ボタンを押すだけで入力できるのです。これは100分の数秒単位の僅かな違いですが、スピーディーな駆け引きが繰り広げられる高レベルのプレイヤーの対戦においては、勝負を分ける差となる可能性もあるのです。

 

方向指定までもボタンで行うことで素早い入力が可能になるレバーレスコントローラーですが、この特徴によって問題となってくるのが「同時押し」です。レバーレスはレバーでは不可能な「右と左を同時に押す」ことができてしまいますが、逆方向が同時に入力された場合の扱いについてはゲームによって異なっており、かならず決まった方向が優先されるものや、どちらも入力していないことになるなど、その仕様は様々です。

 

この仕様を活用することでアーケードコントローラーやゲームパッドでは不可能なテクニックを実現していることが不平等にあたるのではないかとの見方もあり、レバーレスコントローラーが登場した2010年頃から議論が重ねられ、大きな大会ではレバーレスコントローラーの使用が認められなかったケースもありました。

 

しかし『ストリートファイター5』の公式大会「カプコンプロツアー」では一部の機能に制限は課せられるものの、使用可能になるなどルールの整備が行われており、プロ選手による操作研究も進んでいるため、今後は大きなブームを起こすのではないかと期待を集めています。

 

誰でも遊びやすい環境を求めて

 

プレイヤーのシンボル的なアイテムとも言えるアーケードコントローラーですが、近年はその他のデバイスの台頭も目立っている格闘ゲーム界。その背景としては、新規プレイヤーの取り込みを進めたい意図があるのではないかと考えられます。

 

ゲーム性を理解すれば対戦も観戦も非常に魅力的な格闘ゲームですが、駆け引きにおけるコンマ数秒単位での有利不利の概念や複雑なコマンド入力によるコンボといった要素は初心者にはハードルが高く、なかなか新規プレイヤーを取り込めないでいると指摘されることもありました。

 

そのため、昨今は「ひとつのボタンを連打しているだけで基本のコンボが出せる」システムを導入するタイトルが複数見られるなど、対戦の魅力を出来るだけ手軽に味わってもらうための工夫が取り入れられています。

 

今回紹介した操作デバイスについても、ゲームパッドで遊びやすい仕様は家庭用ゲーム機に親しんだプレイヤーを取り込む上で非常に魅力あるシステムです。レバーレスも一見すると性能を突き詰めた仕様に思えますが、実はPCゲームプレイヤーがキーボードのみで操作する場合を想定すると非常に自然なデバイスと言えます。

 

アーケードコントローラーを持っていなくても、スティックでの操作に不慣れでも、大会に出場して真剣勝負を楽しめるようになってきている近年の格闘ゲーム事情。それぞれ異なる特徴を持っているため、プロ選手の中でも主流とするデバイスが分かれます。

 

携帯性や耐久性など比較できる要素は数多くありますが、どのデバイスが完全に優位という結論が出ている訳ではありません。細かな操作が肝心な格闘ゲームでは個人の感覚も重要であり、今やプレイヤーの好みが出る部分になりつつあるのではないでしょうか。

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