ICT教育の現状と課題

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小学生から高校生までを対象として、パソコンやタブレット端末などのコンピューターを用いて授業を行う「ICT教育」が注目されています。

 

コロナ禍の影響や、GIGAスクール構想の推進によってICT教育の環境整備は加速しましたが、日本のICT教育の整備が諸外国に比べて大きく遅れていることもあり、まだまだ多くの課題が残されている状況です。

 

ここでは、そもそもICT教育とは?といった基本や、日本のICT教育の現状を説明するとともに、今後解決していく必要のある課題について解説していきます。

 

ICT教育とは

 

まず「ICT」について説明しましょう。

 

ICTとは、「Information and Communication Technology」の頭文字をとったもので、日本語では「情報通信技術」と呼ばれます。日本で以前より親しまれてきた言葉に「IT(Information Technology)=情報技術」がありますが、近年はデジタルデータの通信量が膨大になったことなどから、国際的に「ICT」が使われるようになりました。

 

では、ICT教育とはどのようなものでしょうか。

 

これは、小学生から高校生までを対象に、パソコンやタブレットなどのコンピューター端末を用いて授業を行うことを指します。今までアナログで行っていた教育をデジタル化していくことと考えてよいでしょう。

 

具体的な内容としては、インターネットで生徒が自ら調べて学習することや、デジタル教科書を用いること、また、AI教材を用いてひとりひとりのレベルに合った学習を行うなどの教育が試みられています。また、プログラミング的思考や、情報モラル、情報セキュリティなどへの理解を深めることも重要視されています。

 

日本のICT教育の現状

 

現在、世界中でICT教育が推し進められていますが、そのなかで日本のICT教育は遅れていると言わざるを得ない状況です。いくつかのデータから、現状を具体的にみていきます。

 

学校のICT環境の整備が急務

日本では文部科学省が主導して、ICT教育を推進しています。大元となるのが2013年の「日本再興戦略」です。ここに、2010年代には1人1台のコンピューター等による教育を展開するといった方針が明記され、今日のICT教育の礎となりました。

 

そして、2019年に打ち出した「GIGAスクール構想」においても、1人1台の端末でのICT教育をスタンダードとすることが改めて明記されました。同時に、学校のICT環境の整備状況が危機的であることや、ICTの利活用が世界から遅れていることなども示され、ICT教育の普及が急務であることが改めて明確になりました。

 

 

海外に比べ11台の達成に時間を要した

文部科学省が行った調査(※1)によれば、2020年時点で日本におけるPC1台あたりの生徒数は、。

 

しかし、2023年を目標としていた「1人1台」の達成は、新型コロナウイルスの流行などの後押しを受けて、2021年の段階でほぼ達成されました。現在では約97%の公立小中学校で1人1台の端末利用が可能となっている状況です。

 

なお、同様の調査は海外でも行われています。富士総研が2021年にまとめた報告書によれば、アメリカで2人に1台と、日本よりも早くから環境の整備が進んでいたことがわかります。

 

 

高速無線LANの整備はまだこれから

前述のとおり、公立の小中学校では1人1台の端末がほぼ行き渡りました。しかし、それらの端末でインターネットを利用するためには通信環境の整備も必要であり、特に無線LAN(Wi-Fi)環境の整備はまだこれからといった状況です。

 

文部科学省の調査(※1)によると、2021年3月時点で公立学校の無線LAN整備率は平均78.9%でした。2020年の調査では48.9%にとどまっていたため、2021年に急速に整備が進んだことがわかります。1人1台を実現した場合、すべての端末を有線LANでインターネットに接続することは現実的でなく、無線LANの整備が必須です。

 

また、100Mbps以上の回線速度でのインターネット接続率は平均88.8%となっています。30Mbps以上の回線は98.2%ですが、今後大容量通信が必須となることを考えると100Mbps以上の回線の用意が望ましく、もう一息の強化が必要な状況です。

 

日本におけるICT教育の課題

 

日本のICT教育が世界に追いつくためには、具体的にどのような課題をクリアする必要があるのでしょうか。ここでは代表的な5つの課題をあげて解説します。

 

 

地域・学校による差

現状、ICT教育への取り組みや、必要な環境の整備には、地域や学校による差があります。

 

主な理由として挙げられるのは、地域の自治体によって予算付けの優先順位が異なることです。ICT教育の整備を進めるためには、必要な教育予算を確保する必要がありますが、自治体によってはこれが後回しになってしまうことがあります。

 

また、ICT教育についての裁量が、各学校にゆだねられていることも原因のひとつといえるでしょう。たとえ、コンピューターや無線LAN環境が整備されても、十分活用できるかは学校ごとの取り組みによって異なります。

 

 

教員のITリテラシー不足・教員への負担増

文部科学省が行った調査の結果(※1)では、教員の「ICT活用指導力」の差について指摘しています。この調査は、授業にICTを活用する能力や、児童生徒のICT活用を指導する能力などの4項目にわけて教員の能力調査を行ったものですが、地域によって差があることがわかりました。

 

地域格差はICT教育の環境整備についても同様ですが、地域によって教員のITリテラシーにも差が生まれており、受けられる教育の質が異なる状況です。

 

その一方で、教員への負担が大きすぎることも問題です。教員の業務量は普段から多く、その上でICT教育について理解を深めることや、機器を使いこなすために勉強する時間を十分取ることは困難といえるでしょう。

 

文部科学省の調査(※1)によれば、公立学校の教師の1日の平均勤務時間は、小・中学校ともに11時間を超えます。これらは授業や授業の準備にあてられている時間であるため、教師がICT教育への理解を深めることが簡単ではない状況がみえてきます。

 

(※1)  文部科学省「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」より

 

 

子どもたちの安全性

ICT教育では、インターネットを積極的に活用します。そこで問題になるのが子どもたちの安全性です。子どもがパソコンやタブレットの使い方を覚えれば、教師や保護者の目が届かないところで危険にさらされる可能性があり、犯罪などのトラブルに巻き込まれることもあります。

 

例えば、SNSで知り合った人と実際に会って犯罪に巻き込まれることや、SNSに個人を特定できる情報を投稿してしまうこと、友達や他人にパスワードを教えてしまうことなどが考えられるでしょう。

 

ICT教育には大きなメリットがある反面、危険にさらされるデメリットもあります。そうしたことを理解して、生徒だけでなく、教師や保護者のITリテラシーの向上も重要なテーマとなるでしょう。

 

 

ICT教育への理解の不足

ここまで挙げた3つの課題は、すべてICT教育の重要性や、ICT教育の内容そのものへの理解不足から起こっているものといえます。

 

仮に、すべての自治体の関係者や教育者がICT教育の重要性を理解できれば、通信環境や情報端末の整備のための予算が後回しにされてしまうことも、地域や学校による大きな格差が生まれることもなくなるはずです。

 

また、内容そのものを理解できていない保護者も多くいるのが実情でしょう。ICT教育には、広く報道されたようなプログラミング教育も含まれますが、プログラミングやITリテラシーに関する授業が中心ではありません。

 

例えば、ICTによって実現された新たな教育として「反転学習」があります。簡単にいえば、課題を生徒に与え、自宅学習で考えた結果を次の授業で発表するもので、答えにたどり着くにはさまざまな方法があることや、答えがひとつではないことを学びます。

 

こうした反転学習は2021年4月からすでに始まっていますが、多くの人が知らないのが現状です。ICT教育を受けた子どもたちが親世代になるまでにはまだまだ時間がかかります。ICT教育とはどのようなものか、教育現場でどのような変化が起こっているかを、大人たちも興味を持って知っていく必要があるでしょう。

 

まとめ

ICT教育は、明治維新以来150年ぶりの教育の大改革といわれています。すでに先進的な学校では電子黒板が導入され、生徒は1人1台のコンピューター端末を使って授業を行っており、黒板とノートという従来の風景は一変しました。

 

変わっていくのは授業の風景だけではありません。自分で考えたことをネットワークに接続した自身のコンピューター端末で発表したり、小学生のうちからプログラミング思考を身につけたりするなど、教育そのものにも小さくない変化が訪れています。

 

そうしたICT教育を受けて育った子どもたちが大人になったとき、諸外国に遅れをとってきた日本人のIT・ICTへの理解は飛躍的に高まるはずです。今後、より一層のICT教育環境の整備と、大人たちの理解が必要となるでしょう。

 

 

 

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