「DX推進人材」の各職種について、業務の内容やキャリアプランについて紹介している本連載。今回は「UI / UXデザイナー」についてご紹介します。
まず、DX推進人材の定義について簡単におさらいしましょう。DX推進人材とはDXに適したスキルを持ち、企業や自治体のDXプロジェクトを推進する人材を指します。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)による定義では、プロダクトマネージャー、ビジネスデザイナー、テックリード、データサイエンティスト/ 先端技術エンジニア、エンジニア / プログラマー、UI / UXデザイナーの6つを「デジタル事業に対応する人材」として、DXを推進する人材に定義しています(※1)。
(※1 出典:「DX白書2021 日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術」 第3部 日米調査にみる企業変革を推進する人材)
UI / UXデザイナーはWebディレクターがDX推進人材にキャリアアップするための選択肢としても注目を集めています。今回はUI / UXデザイナーの業務内容や、身につけておきたいスキルなどキャリアアップに役立つ情報を基礎からご紹介します。
WebディレクターはWebサイト開発の打ち合わせや、Webデザイナーやエンジニアへの指示(ディレクション)を担当する、いわゆるWebサイト開発の上流工程を担当する役職です。Webデザイナーと兼任するケースも多く、大部分の方はすでにWebデザインについてある程度の知見を持っていることでしょう。
一方、UI / UXデザイナーは2010年代以降に提唱された、比較的新しい職種です。UI / UXデザイナーはUI(ユーザーインターフェース / User Interfaceユーザーがサービスに触れる操作画面などの総称)およびUX(ユーザーエクスペリエンス / User Experience Webサービスを使用したユーザーの体験価値や心理的変化を指す)を設計します。
UIデザイナーが画面のビジュアルやフォント、ボタンなど目に触れる部分のデザイン作業を担当するのに対し、UXデザイナーはサービス全体の戦略面から関わります。具体的にはサービスの目標設計、ペルソナの設定、カスタマージャーニーマップなどに始まり、ユーザーインタビューやエスノグラフィー調査などの業務も含む場合もあります。このように、見た目にわかりやすさを追求するUIデザイナーおよびユーザーの体験を設計するUXデザイナーは、WebディレクターがDX推進人材へのキャリアアップを目指す上で、これまでのスキルを活かすことができる職種と言えるでしょう。ゆくゆくはサービス全体のUX設計をディレクションするUXディレクターとして、更なるキャリアアップを目指すことも可能です。
DXはAIやブロックチェーンなど、先端技術を積極的に取り入れます。しかし、技術的な要件が優先されてしまい、ユーザーにとっての使い心地や操作性がおろそかになってしまっては本末転倒です。プロダクトのポテンシャルを最大限に発揮するためには、ユーザー中心のUX設計や扱いやすいUIが重要です。
プロダクトはリリース後、実際に利用したユーザーの行動データを分析し、内容を改善していきます。つまり、ユーザーが定着するプロダクトほど行動データが集まり、さらなる改善につながる好循環を生み出すことができるということです。ユーザーが使いたくなるプロダクトを作るうえで、UI / UXデザイナーの活躍が求められます。
次に、社内システムのDXを考えてみましょう。その場合、部署全体、あるいは全社レベルのプロジェクトであることも珍しくありません。関係セクションを巻き込んでDXを推進させるためには、少々曖昧な表現ですが「社内的な一体感」「ワクワク感」が重要です。UI / UXデザイナーによる魅力的なデザイン、質の高いユーザー体験で社内の一体感を醸成すれば、プロジェクトの成功を後押しすることができます。
DXに取り入れられることの多い先端技術として、AIやブロックチェーン、機械学習などの基礎知識を学習しておきましょう。実務レベルではAIエンジニアなどの専門職が担当しますが、UI / UXデザイナーとして協業できるレベルの基礎知識を身に付けておいて損はありません。
WebディレクターからUI / UXディレクターを目指す上で難関になるのが、デザインスキルです。魅力的なUIのデザイン力や、適切なUX設計技術を身に付ける必要があります。一般社団法人UXインテリジェンス協会「UX検定」や、人間中心設計推進機構「人間中心設計(HCD)専門家資格認定制度」などの資格や検定でスキルを磨くことがおすすめです。
DXは各種専門スキルを持った人材がチームを組むため、チームメンバーの力を引き出すリーダーシップ性が求められます。IPAの資料(※2)でも、DX推進人材に求める要件として「DX に対応する人材においては、“自ら解決すべき課題を設定する”や“主体性・好奇心” などの適性が重要」と提言しています。社内外の関係者と協業しながらプロジェクトを推進するからこそ、1人ひとりがリーダーシップを発揮することが重要です。
(※2)「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」
アジャイル開発とは、事前に細かく仕様設計を行うウォーターフォール型開発とは異なり、設計〜開発〜検証を同時進行的に行う開発手法です。DXプロジェクトでは先端技術を導入するケースが多く、プロトタイプをベースに検証を繰り返したり、ユーザーテストで
UXを検証したりしながら完成形を目指します。そして、この「プロトタイプによる、短いサイクルでの効果検証」にはUI / UXデザイナーの活躍が欠かせません。
プロトタイプのUI / UXにもある程度の品質が担保されていれば、おのずと検証の質も向上します。このような理由から、アジャイル開発の品質を向上させるために、UI / UXデザイナーもアジャイル開発のノウハウについて学習しておく必要があるでしょう。アジャイル開発の発展形であるLean UXなどと共に押さえておきましょう。
2022年10月に行われた岸田首相の所信表明演説にて、個人のリスキリング(スキルの学び直し)支援に5年で1兆円を投じると表明しました。非IT系人材のIT系スキル獲得を支援する企業も多く、現在売り手市場と言われるIT系人材の優位性も時間の問題になっています。
WebディレクターやUI / UXデザイナー以外の職種を含め、DX時代に対応するためのスキルアップはもはや必須の取り組みになっています。新しいスキルを獲得するためには自主的な学習や検定に挑戦したり、業務で様々なプロジェクトに参画して経験を積んだりすることが必要です。人材価値を上げるためにも、DX推進人材へのキャリアアップにチャレンジしてみましょう。
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