近年、NFTやメタバースといった概念が注目され、「Web3.0」や「ウェブスリー」という言葉を耳にする機会が増えました。NFTやメタバースは、暗号資産(仮想通貨)などと共に、Web3.0(もしくはWeb3)と呼ばれる次世代のインターネット環境を構成する技術のひとつです。
Web3.0は、暗号資産で一躍脚光を浴びたブロックチェーン(分散型台帳技術)を用いて、巨大企業による寡占が続くインターネットの現状を打破することを目的としています。ここでは、今もっとも注目されるデジタル技術である「Web3.0」について、詳しく掘り下げて解説します。
Web3.0(もしくはWeb3)とは、ブロックチェーン技術により実現可能となった、次世代のインターネット環境のことを指します。
これまで、インターネットで取引を行ったり、コミュニケーションを取ったりするためには、GoogleやApple、Facebook(現Meta)やAmazonなどの巨大企業に個人情報を預ける必要がありました。こうした仕組みは中央集権的ともいわれ、個人情報の取り扱いや、利益の独占が問題視されています。
Web3.0は、こうした従来の体制とは異なり、個人情報を企業のサービスに登録したり、特定のサーバーを介して通信したりといったことが基本的に不要となります。その仕組みや成り立ちから「分散型インターネット」とも呼ばれ、巨大企業による独占からの脱却を目指していま
まずは、Web3.0にいたるまでのインターネットの変遷からみていきましょう。
Web1.0とは、1995年にWindows95が発売され、インターネットが普及し始めたばかりの頃を指します。一般家庭では、インターネットに接続するために、通信速度の遅いダイヤルアップ回線やISDNを用いており、Webサイトはシンプルなhtmlで組まれたテキスト主体のものが主流でした。
この当時のインターネットは、企業が発信した情報をユーザーが受け取る、一方通行のコミュニケーションが主体でした。一部のユーザーが個人のホームページを作成するケースはありましたが、専門的な知識が必要であり、発信する人は少数でした。この頃に日本で多く利用されたサービスとして、「Yahoo! JAPAN」や「MSNサーチ」などがあります。
Web2.0は、現在(2022年8月)主流のインターネットのあり方です。Facebook(2004年)、YouTube(2005年)、Twitter(2006年)などの登場により、2005年前後から本格的な双方向インターネット=Web2.0の時代が訪れたとされています。
日本に目を移すと、2001年からサービスをスタートした「Yahoo!BB」の積極的なプロモーションにより、ADSLによる定額かつ高速なインターネットの普及が進みました。さらに、Facebookが誕生したのと同じ2004年に、国産SNSの走りといえる「mixi(ミクシィ)」が誕生したことで、双方向の発信が広く認知されました。
ADSLや光回線の普及によって、定額での通信が可能になったことから、個人がインターネットを利用する時間も飛躍的に長くなりました。個人が簡単に発信できるSNSやブログサービスが登場したことで、インターネットは「見るだけ」から「発信できる場」として認識されるようになり、さらに2007年(日本では2008年)のiPhone発売で、Instagram(2010年)などへの写真の投稿も一般的になりました。
一方、こうした状況はマイナスの側面も生み出します。SNSを行ったり、ECサイトで買い物をしたりするには、GoogleやApple、各SNSや各ECサイトへの個人情報の登録が必須となり、その結果、世界中の人々の個人情報が巨大企業に預けられることになりました。
Web2.0では、さまざまなものや情報がインターネットに接続され、利便性は飛躍的に高まりました。しかし、情報漏洩のリスクや個人情報の不正使用の問題は常に隣り合わせでもあり、多くの問題や被害を生み出しています。
「分散型インターネット」とも呼ばれるWeb3.0は、分散型アプリケーションのプラットフォーム「Ethereum(ETH・イーサリアム)」の創設者ギャビン・ウッド氏により、2014年に提唱されました。
ブロックチェーン技術の存在を世に広めた「暗号資産」や、超高額な芸術作品の取引が相次ぎ話題となっている「NFT」、Meta(旧Facebook)が巨額の投資を行ったことで注目されている「メタバース」なども、こうしたWeb3.0を形づくる要素のひとつです。
Web3.0の発想の根底には、個人情報を巨大企業に預けたことで多くの問題を生んだWeb2.0からの脱却があります。Web3.0が実現されれば、巨大企業に頼ることなく、データを個人が管理してインターネットでのやり取りを行う時代がやってくると考えられています。
個人情報の管理に課題のあったWeb2.0の構造を変革し、巨大企業からデータの主権を取り戻すものとして期待されるWeb3.0。注目される理由とメリットはどのようなところにあるのでしょうか。
現在主流のWeb2.0では、メールを見たり、SNSをしたり、ネットショッピングをしたりする際に、必ずサーバーを介します。そのため、多くの企業が利用しているAWSなどの大規模サーバーに障害が起こると、さまざまな企業のウェブサイトやECサイトなどが利用できない状態に陥ります。
しかし、Web3.0では「P2P(ピアツーピア)」と呼ばれる通信を行うため、サーバー障害による通信障害が起きません。P2Pはパソコンやスマートフォンなどの端末同士が直接通信を行うシステムであり、2000年代に日本で一躍有名になったファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」ですでに利用されていた技術でもあります。
P2Pは、Web3.0の根幹となるブロックチェーン技術の根幹であり、切っても切り離せないものです。Web3.0ではP2Pが通信技術のベースとなるため、特定のサーバーに依存せずに済みます。
現在主流のWeb2.0では、サービスを利用する際、サービスを提供する企業へ個人情報を登録する必要があります。また、スマートフォンを利用するためには、基本的にGoogleやAppleへの個人情報の登録が必須ですし、SNSやECサイトを利用する際も個人情報を求められます。
Web2.0では、自身の保有するアカウントは、Google、Apple、Microsoft、SNSやECサイトなど各サービス内に存在します。しかしWeb3.0では、自らのアカウントはあくまで自身の管理下で独立して存在しており、特定のサービスに依存しません。
こうした仕組みが可能になるのは、Web3.0の骨格となるブロックチェーン技術が、暗号資産やNFTに代表されるように所有権を明確にできる技術であるためです。Web3.0では暗号資産の取引や美術品の取引、SNSへの参加などがすべて同じアカウントでできるようになり、「私はあのサービスでフォロワー〇万人いる〇〇(名前)である」といったことも証明できるようになります。
企業が集めた個人情報は、原則として極めて厳重に管理されることになっています。しかし、Google、Amazon、Microsoftなどは、過去に数十万人規模の個人情報を流出させたことがありますし、もっとも多いFacebook(現Meta)では、実に5億人超もの情報を流出させています。
Web3.0が実現されると、企業による管理が存在しなくなるため、個人情報を企業に預ける必要がなくなります。個人情報を預けなければ情報流出もなくなります。
実際には、商品の配送先やインターネット回線の契約に個人情報は必要と考えられるものの、個人情報を登録しないと何もできないといっていいWeb2.0の状況からは大きく変わると考えられます。Web3.0が理想通りに実現すれば、プライバシーやセキュリティは確実に向上するでしょう。
現在のWeb2.0では、SNSなどの発言に企業が設けた一定のルールがあり、ルールから逸脱している場合は投稿が削除されたり、アカウントが凍結されたりといったことが起こります。しかし近年は、本来これらは司法で解決される問題であり、サービスを提供する企業が対応することは言論統制にあたるのではないかとして議論される機会が増えました。
企業がSNSを運営する以上、これは仕方のない側面もあるでしょう。なぜなら、もし運営するSNSで過激な言論が増え、犯罪行為の温床となれば、そのSNSに広告を出稿する企業自体が減ってしまい、SNSを運営する企業そのものの存続に関わるからです。
しかし、Web3.0の概念ではSNSなどのコミュニティを企業が運営するのではなく、利用者が自ら運営・管理することになります。ルールは利用者の合意によって決められるため、一方的な規制はなくなると考えられています。Web3.0のこうした特性は、インターネットの民主化といわれる所以となっています。
今回は、「Web3.0とは何か」をテーマに、誕生の背景や、注目される理由、Web3.0のメリットについて解説しました。
Web3.0は、ブロックチェーンを中核とした技術スタックとして認識されることもありますが、本質的には、巨大企業に個人情報が集中している現状からの脱却をはかり、権力の集中を避けることを目的としたものといえるでしょう。
次回は、Web3.0の具体的な事例の紹介や、注目されている仕組み、Web3.0が抱える課題などを掘り下げて解説します。